条理と戦場のアイソレーション

佐藤茶

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入学編1

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日本のどこかにある山間部。
人里離れた山の奥地にある寝殿造の屋敷に、精悍な顔立ちの軍服を着た若い男性が訪れる。
事前に連絡があったので、誰かは解る。
「来たぞ、織部ヒロ」
縁側で腰掛けていた青年、織部ヒロは立ち上がって男の前まで歩み寄る。
「榎本さん。また貴方ですか。こんな山奥に歩いてくるとか暇人なんですか?」
「忙しい身だが、貴様が相手となれば話は別だ。一応、俺は貴様との連絡役らしいからな」
「そうですか。それで用件はなんですか?」
とっとと帰ってほしい身としては、用件は簡潔明確に言ってくれることを期待している。原稿用紙1枚までは許容範囲だ。
榎本はOD色のショルダーバッグからパンフレットを取り出すと、ヒロに渡す。
「なんですか、これ?」
「新設される学校の説明書だ。どうせ無職なんだから、お前にはそこで教師をやってもらいたい」
「教員免許も無いのに?」
ヒロは手渡された書類を見ながら、榎本に訊ねる。
「それはお前があのドラゴンという連中と戦うために造られたDAIS(Drag=Armed Interface System)の操縦士を育成するために創り上げた学校だ。DAISによる戦闘は現時点でお前が最も詳しいからな。上の意向で私が交渉役で来た」
「これ、高校生くらいの子供に教えるんですよね? しかもちょうど今年から学生を受け入れるのか。俺以外にも適役いるんじゃないですか?」
教える云々は除き、ヒロ以外にもDAISの戦闘を熟知している人間はもう一人くらいいる。各々が自国に帰ったとはいえ、確か一人くらいは日本にいたハズだ。
榎本は思い出したように「ああ」と呟く。
「夜叉姫のことか。彼女はもう一つの学園の教師についてもらうことになっている」
「そうですか。1つ言わせてもらうと、まだ高校生くらいの子供を戦争の道具にしようとか酷じゃありませんか?」
「重々承知している。しかし、新しい秩序に新しい力が必要だ。それが国を守るためとあれば尚更な」
「国を守るって……」
もっともらしい大層な理由だ。その題目を使えば、大抵のことは免罪符になる。
幾度となく聞いてきたその言葉に、ヒロは反吐が出そうなくらい気分が悪くなる。
「そうやって子供に武器を持たせて高みの見物ですか? 3年前の戦いみたいに金だけ出して後は知らぬ存ぜぬで通して終わったら、危険だの何だのって保護と銘打った兵器利用で食い潰す。あんたに言ったって何が変わるって訳じゃないし、これはただの独り言です。あ、教師役はやりますよ。他でもない榎本さんの頼みですから」
「そうか。助かる」
「いえいえ」
ヒロは笑って流す。
「とりあえず、手を合わせても行きますか?」
「失礼する」
ヒロは家の中へ榎本を通し、仏壇が備えられている部屋へ案内する。
仏壇には花が添えられ、遺影が置かれていた。中央とその左に中年くらいの男女が笑顔で写り、右には若い女性の遺影がある。そして、その更に右には幼い少女の笑顔で写る遺影があった。
榎本は仏壇の前で線香を上げて、手を合わせ冥福を祈る。
「そういえば、優子が死んで3年も経つのか」
「姉のことを忘れられないのは解ります。でも、そろそろ前を向いた方がいいんじゃないんでしょうか?」
「それはお前にも言えることじゃないか?」
「もう終わったことなんで折り合いはつけてます。榎本さん、諸々の手続きは任せるので今日はもう帰ってください」
榎本をとっとと追い出したヒロは、玄関の戸を閉めるとその場に座り込む。
体育座りになって虚空を見上げる。
「あーあ、胸糞悪いなー」
その呟きは誰に向かってなのか、それとも別の何かであるかはヒロだけが知る。
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