8 / 55
足が、遅すぎる
しおりを挟む明らかに自分に近づいて来る他国の家紋の入った馬車。今は、暗くなり貴族街とは言え乗せられたらお終いだ!怖い!!
必死に走っているつもりだけど、前世の若い頃の様に身軽には走れない。
ドレスを着て、ダンスを踊るのは慣れていても走ったりはしないから。
馬車が停まり誰か降りて来た!!嫌だ、怖い!プチパニックになりながらも頑張って走る!それにしても、遅っ。 身体に重しを付けている感覚。
「待って!」
と言いながら追いかけて来る!待ってたまるかーー、逃げるに決まってる!
しかし、悔しいけれど無理かも。遅すぎるよ・・・。雨も降っており足がもつれて転んでしまった。護衛なのか?軽い身のこなしの男性が走り寄って来た。
イヤーーー、売られるー!
その後ろから・・・
「大丈夫?!!」問いかけられた。少年の声の様だ。歳が近そうだ。
寒さと、恐怖で震えて上手く声が出ない。
「そんなに震えて・・」
「売らないで下さい。安くしか、売れません。底値です!」ハアハアと、荒い息を吐きながら変な答えを返してしまった。
「・・・・・そんな心配してたの。」
「お願いです・・・売らないで下さい。王宮にも帰りたくありません。本当に、何もしていないのです」
ガタガタと寒さに震えながらお願いした。 私の多分素敵な異世界生活をお願い奪わないで・・・
「大丈夫、貴女を売ったりしないよ。それに、傷つけることもしない。安心して
私達は、アリアーナ様、貴女の味方だ。」
やはり、私の事を知っていた様だ。王太子や、公爵の手の者でなければ王城に連れ戻される事は無いだろうけれど、不安がなくなるわけでは無い。
「本当に?私を売らない?奴隷商人にも、娼館にも売らない?王城に連れ戻さない?」
バカな事を言っているとは思うけれど、悪役令嬢には悲しい末路しか無くて疲れて寒さに震える私にはそればかりが去来した。
「本当に、貴女が嫌がる事はしないよ。約束する。どうか信じて。暖かな部屋に行こう。」
いつの間にか他の護衛だろう人が少年達に傘を差し掛けていた。私にも・・冷えてすっかり疲れ切った私には、とても魅力的な提案だった。 何ヶ月も、張り詰めて頑張って来たのが無駄になるのでは・・考えると不安だったけれど私は、彼らの手を取った。 だって、何れにせよもう、逃げる事は出来ないのだから。
こうして、他国の、私が知らない家紋の馬車に乗せられ貴族街から出た。まだ、この辺りは貴族御用達の店や宿が集まっている。その中のあまり大きくは無いが、落ち着いた暖かな雰囲気の宿に馬車は入って行った。
既に湯浴みの準備がされており、兎に角寒かった私は遠慮なく入らせて貰った。
あー、温かい。ずっと張り詰めていた上に冷たい雨に打たれ身も心も冷え切っていた私はその心地良さにウトウトしてしまった。イケナイ!寝てはダメだ。
何とか、眠気を振り払いバスルームを出る。
どうやら、私を助けようとしてくれているだろう少年も湯浴みをして来た様だ。
「さあ、座って。乾いた服持っていたんだね。しかも、町娘仕様。」
「はい。あの、湯浴みまでさせて頂きありがとうございます・・・
ただ、どうして助けて頂いたのか。教えて頂けたらと思いまして。あなた様とは初対面と、認識しております故。」
私は、彼の美しいが、何処か懐かしさを感じる顔を見ながら聞いてみた。
「そうだね。君が疑問に思うのは、当然だよね。
確かに、私達は初対面だ。どうして助けたのかとの問いには、アリアーナ様が昔の私の知り合いにとても似ているから、かな。」
「・・・?それだけで私を助けようとなさったのですか?
自分で言うのも何ですが、私は王太子殿下に先程追放されました。それに、実家である公爵家も私を助けてはくれません。援助の手を差し伸べることもしないでしょう。寧ろ、反対の反応を返すかと・・・
せっかくここまでして頂いたのですがご迷惑をおかけしてしまいます。早々に、私の事は追い出すべきかと思います。」
言っていて、改めて自分の置かれた状況を再認識し、言葉にすると悲しいものがあった。
「そんな事は気にしなくて良いよ。安心して・・・僕は、こんな冷たい雨の降る夜に寒空の下貴女を放り出したりしないよ。」
と、優しく微笑む。
その言葉を聞いたら、何だか涙がこぼれてしまった。しかも、止めることが出来ない自分でも咄嗟に出て来てしまったそれに戸惑いを覚えた。前世の時から、男性の前で泣かないと決めていたから。
それでも、冷たい雨の降る寒空の下毎回私は追い出されて来た。捨てられて来た。愛する者によって。
先程も、冤罪までかけられて部屋どころか国外追放までされた。
解放されて嬉しかったけれど、やっぱり哀しかった。お前は要らない子だと全てに拒否されたみたいで、愛されずにいつも捨てられるんだって、哀しかった。
血の繋がった父である公爵でさえ私の事は要らないと利用し、捨てたのだから。
ずっと、ずっと寂しかったのだ。公爵にも王太子殿下にも、本当は愛されたかった。
抱きしめて欲しかった。
愛していると、言って欲しかった。
叶う事は無いと、心に蓋をして来た。愛されたいと思ってしまえば、辛くて耐えられ無いと解っていたから。
初めて会った、この少年は父にも歴代?の婚約者にも捨てられ続けた私を、捨てないと・・まあ、今はと言う事だとしても。放り出さないと言ってくれた。
色々な事で、いっぱいいっぱいだった私の心が、決壊した。
溢れ出したモノは止められなくて、堪えても堪えきれず溢れて来る。そんな私に
「我慢しなくて良いんだよ。沢山泣けば良いよ。全部吐き出せば良いんだよ。」と、優しく背中をトントンと叩き、時に撫でて胸を貸してくれた。
「ごめ、ごめんなさい、初めてお会いしたのに。こんな事して・・・」
「そんな事は気にしないで良いよ。」
と、彼の何処か懐かしい感じと、その優しさに今だけと甘えてしまいいつの間にか眠ってしまっていた。
11
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、どうぞお好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる