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第一章
6-4.これからのこと
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「…ま。本題に話を戻すが」
アマネの思考がよくない方向へ滑りかけているのに気付いたのか、ぱちん、とギルバートが仕切り直すように指を弾く。
「問題は、三日後だ」
竜騎士団──その背後にいる王宮が、正式に交渉の場を設けると言ってきた。
ロアンの言い方こそ穏やかだったが、その裏にある本音は、どう考えても一つだ。本気で話し合いで終わらせる気があるかどうかなんて、誰だって察している。
「王宮は何がなんでもお前を王都に引っ張るつもりだろうな」
ギルバートの言葉に、アマネは思わず身を乗り出す。
「……ルシアンみたいに、ここにいながら、王宮に協力するんじゃだめってこと?」
「……今回ばかりは、そうもいかないだろうね」
淡い希望を込めた問いかけに、ルシアンは少しだけ眼を伏せてから、静かに首を横に振った。
「大魔法使い一人、魔族のトップ一人、そこに、“祝福の治癒師”が一人」
淡々とした列挙なのに、その一つ一つがやけに重く響く。アマネの喉がひくりと無意識に痙攣した。
ギルバートが、ソファの背にもたれたまま、片目だけ細める。
「……これだけ戦力が揃ってりゃ、“国家転覆を企んでるんじゃねえか”って疑われても仕方ねえ布陣だ」
「実際、やろうと思えば国のひとつくらいなら相手にできるからね」
ルシアンはさらっと物騒なことを口にしながら、グラスに水を注ぎ、一口だけ喉を潤す。
「僕の魔法と、ギルが率いる魔族の軍勢。そこに『祝福の治癒師』が加わる。……理屈の上では、戦争もできてしまう。だからこそ、今まで君の存在を“なかったことにする”っていう形で、王都とのバランスを取ってきたんだ」
「そういうこった。お前には、そんな面倒な駆け引きとは無縁で、カウンターでのほほんと受付してて欲しかったってわけ」
「……俺、のほほんとはしてないだろ」
すかさずツッコミを入れると、「そう? 今や立派な人気の看板息子じゃない」と、ルシアンこそのほほんとした声色で言う。
スケールが大きい話だが、実際この六年間、二人の存在の大きさを目の当たりにしているアマネにとって……冗談、と笑い飛ばすには、あまりにも現実味がありすぎる。
数時間前の、近衛騎士がギルバートに向けた言葉が脳裏に蘇る。
『引き渡しを拒めば、お前も国家反逆の共犯として』
その言葉は、脅しでも大袈裟な誇張でもなく、今目の前にある未来として存在するのだと、思い知らされる。
だからこそ今、二人は真剣な顔でこうして向き合って話している。
アマネは、膝の上で握りしめていた自分の手を見つめた。
「……俺のせいで」
ずっと胸の奥に溜まっていた言葉が、ほろりとこぼれ落ちる。
「俺がここにいるせいで、ルシアンも、ギルも、この店も……王都に目をつけられる。そんなの……」
「君のせいじゃない」
ルシアンの声が、静かにそれを遮った。
「アマネ。君の存在が“国にとって厄介”なのは事実だ。でも、それを理由に“君自身が厄災だ”という話にすり替えるのは、あの闇ギルドにいた連中と同じ発想だ」
その言葉に、ひゅっとアマネの喉が鳴る。
金色の目はそんなアマネを逃さないとばかりに、正面からまっすぐ見つめてくる。
「厄災なのは、人を道具としてしか見ないような連中の方だよ」
ギルバートもまた、前のめりに肘を膝へ預けながら、赤い瞳でアマネを見た。
「お前がこの六年間ここにいたから、助かった命も、守れた日常も、腐るほどある」
「……そんなの、」
「初心者パーティにバカ丁寧に説明してガイド渡してたのも、店先の掲示板情報こまめに更新してたのも、全部お前だろうが」
「……」
「それ全部無視して、“自分のせいで厄介ごとが増えたから厄災です”って結論出されたら、流石に腹が立つ」
赤い瞳が、少しだけ細められる。そこに宿るのは鋭さではなく、言い聞かせるような真っ直ぐな光だ。
「リサも生きてる。今日だってそうだ。あいつが今、裏で寝ていられんのは、誰が治したからだ?」
アマネは唇を噛んだ。
「……っでも、俺がいなければ、リサさんは怪我しなくて済んだ」
「それは違う」
即座にルシアンの声がそれを切り捨てる。
「君がいなければ、彼女は今頃死んでいた。ギルも、酒場も、もっとひどいことになっていた」
「それにな」
ギルバートが、片眉を上げた。
「王命だろうがなんだろうが、逆らう力なら、こっちはもう持ってんだよ。厄介ごとはお前のせいで増えたわけじゃねえ。元からだ」
その言葉は、妙なくらいまっすぐだ。
世辞や取り繕いが苦手な男だからこそ、その言葉が飾りではないことはわかる。それが余計にアマネの心を傷ませる。
本当は、嬉しい。
そんなふうに言ってもらえるのは、どうしようもなく、救いだ。
けれど同時に。
(……この人たちは、本気で王宮を敵に回すつもりだ)
そう理解してしまった瞬間、別の重さがのしかかってくる。
王命に牙を剥くということが、どれほどの意味を持つのか。
アマネは、闇ギルドで『国に刃向かった人間たちの末路』を、嫌というほど見てきた。
罪に巻き込まれるのは、本人だけじゃない。
仲間も、店も、下手したら街さえも。まとめて汚れた場所として、扱われる。
目の前で真っ直ぐに、「国を敵に回したっていい」というこの二人に、そんなものを背負わせていいのか。
「……アマネ。君は何も心配しなくていい。自分のことだけを第一に、考えていたらいいよ」
ルシアンはアマネの膝の上で固く握っていた手を、そっと解くように手を重ねた。
力を込め過ぎて白くなっていた拳を、少しずつ緩めさせるように指先を絡めていく。
「三日後の交渉は避けられない。けれどそこで、『王命だから』とか『みんなに迷惑をかけるから』じゃなくて、君自身の意思で、僕たちを……自由を、選んでほしい」
言葉を区切りながら、ゆっくりと続ける。
アマネは、胸の奥の空気を入れ替えるように、深く息を吸った。
頭のどこかでは、奴隷時代に叩き込まれた言葉がまだ反芻している。
──お前は厄災だ。
──周りを不幸にする。
けれど、その声を、今この部屋で響いている別の声が、少しずつ塗り替えていく。
「少なくとも俺は、お前がここからいなくなるより、国一つ敵に回す方が何倍もマシだわ」
「僕も同じだよ。大事に大事にしてきたうちの子が、ろくでもない連中の都合で振り回される方が、よっぽど不幸だ」
さらりと、まるで当たり前のことのように、とんでもないことを言われて、アマネの胸の奥がかすかに火が灯る。
洗脳のように染みついた黒く冷たい言葉に、じわじわとその熱が上から重なっていく。
「……俺たちを信じろ、アマネ」
その言葉に、アマネはすっと瞼を閉じて俯いた。
信じていないわけではない。
むしろ、この世界で本当に信じられる人間は、ルシアンとギルバートだけだ。
アマネがこの三日のうちに、一言でも「逃げたい」と零せば、二人は迷わずアマネを連れて国外へ逃亡を図るかもしれない。
築き上げた地位も名誉も、大切な居場所さえも捨てて。
自己肯定感の低いアマネでも、そこまで想像できるくらいには、この六年間、二人に与えられたものが多すぎる。
ありがたい。
そのことが、アマネには痛いくらいありがたい。
だからこそ、胸のどこかで、静かに別の結論が固まり始める。
(……だったら、俺が行けばいいだけだ)
王都が欲しいのは、自分一人だ。
ルシアンでもギルバートでも、ギルドでもなく、“祝福の治癒師”という札だけだ。
ならば、その札を差し出せばいい。
そうすれば、この場所に向けられた『反逆の疑い』という視線は、きっと薄れる。
それが正しいかどうかなんて、本当はわかっていないしどうでもいい。
大切な居場所ができたからこそ、自分の大切な人が傷つくより、昔と同じ地獄に飛び込む方がよっぽどマシだと思えた。
少し時間をかけてから、アマネはようやく口を開いた。
「……話してくれて、ありがとう。三日後は、ちゃんと逃げずに向き合うから」
その言葉を聞いたルシアンの口元が、ほっとしたように満足げに緩んだ。
「……うん、ぜったいに大丈夫。僕らに、任せてくれたらいいからね」
アマネはそこでようやく、ゆっくりと背もたれに体を預けた。
身体の中の熱は、まだ完全には引いていない。
けれど、さっきまで胸を締めていたどうしようもない不安は、少しだけ形を変え始めていた。
「今夜はもう、休みなさい」
ルシアンが立ち上がり、アマネの頭を軽く撫でる。
「リサのことは、僕とギルで見ておく。君は起きあがろうとしないで」
「……はい」
アマネが小さく頷くと、ギルバートもベッドから腰を上げた。扉の方へ歩きかけて、そのまま出ていくかと思いきや、ふと振り返る。
「アマネ」
「なに」
「『俺のせいで』、って言葉。次言ったらぶっ飛ばすからな」
乱暴な言い方なのに、そこには揺るぎない優しさがあることを、アマネは知っている。
「……気を付ける」
アマネがそう返すと、ギルバートが満足げに片手をひらひらと振り、ルシアンと共に部屋を出ていった。
扉が閉まる。
ようやく静かになった部屋に、ランタンの灯が揺れる。
(三日後、か)
考えるだけで頭が重くなるような気がして、アマネは椅子から立ち上がると、そのままベッドに身を横たえた。
ルシアンとギルバートは、どこまでいってもアマネの味方でいてくれるだろう。
それでも、目を閉じると最初に浮かんだのは、血に濡れたリサの虚な瞳と、無茶苦茶な包帯を巻いたギルバートの顔。
そして──酒場の前でアマネの手を取った、ロアンの温かい手の感触だった。
鼓動の速さを数えるうちに、意識は少しずつ、静かな闇へと沈んでいった。
アマネの思考がよくない方向へ滑りかけているのに気付いたのか、ぱちん、とギルバートが仕切り直すように指を弾く。
「問題は、三日後だ」
竜騎士団──その背後にいる王宮が、正式に交渉の場を設けると言ってきた。
ロアンの言い方こそ穏やかだったが、その裏にある本音は、どう考えても一つだ。本気で話し合いで終わらせる気があるかどうかなんて、誰だって察している。
「王宮は何がなんでもお前を王都に引っ張るつもりだろうな」
ギルバートの言葉に、アマネは思わず身を乗り出す。
「……ルシアンみたいに、ここにいながら、王宮に協力するんじゃだめってこと?」
「……今回ばかりは、そうもいかないだろうね」
淡い希望を込めた問いかけに、ルシアンは少しだけ眼を伏せてから、静かに首を横に振った。
「大魔法使い一人、魔族のトップ一人、そこに、“祝福の治癒師”が一人」
淡々とした列挙なのに、その一つ一つがやけに重く響く。アマネの喉がひくりと無意識に痙攣した。
ギルバートが、ソファの背にもたれたまま、片目だけ細める。
「……これだけ戦力が揃ってりゃ、“国家転覆を企んでるんじゃねえか”って疑われても仕方ねえ布陣だ」
「実際、やろうと思えば国のひとつくらいなら相手にできるからね」
ルシアンはさらっと物騒なことを口にしながら、グラスに水を注ぎ、一口だけ喉を潤す。
「僕の魔法と、ギルが率いる魔族の軍勢。そこに『祝福の治癒師』が加わる。……理屈の上では、戦争もできてしまう。だからこそ、今まで君の存在を“なかったことにする”っていう形で、王都とのバランスを取ってきたんだ」
「そういうこった。お前には、そんな面倒な駆け引きとは無縁で、カウンターでのほほんと受付してて欲しかったってわけ」
「……俺、のほほんとはしてないだろ」
すかさずツッコミを入れると、「そう? 今や立派な人気の看板息子じゃない」と、ルシアンこそのほほんとした声色で言う。
スケールが大きい話だが、実際この六年間、二人の存在の大きさを目の当たりにしているアマネにとって……冗談、と笑い飛ばすには、あまりにも現実味がありすぎる。
数時間前の、近衛騎士がギルバートに向けた言葉が脳裏に蘇る。
『引き渡しを拒めば、お前も国家反逆の共犯として』
その言葉は、脅しでも大袈裟な誇張でもなく、今目の前にある未来として存在するのだと、思い知らされる。
だからこそ今、二人は真剣な顔でこうして向き合って話している。
アマネは、膝の上で握りしめていた自分の手を見つめた。
「……俺のせいで」
ずっと胸の奥に溜まっていた言葉が、ほろりとこぼれ落ちる。
「俺がここにいるせいで、ルシアンも、ギルも、この店も……王都に目をつけられる。そんなの……」
「君のせいじゃない」
ルシアンの声が、静かにそれを遮った。
「アマネ。君の存在が“国にとって厄介”なのは事実だ。でも、それを理由に“君自身が厄災だ”という話にすり替えるのは、あの闇ギルドにいた連中と同じ発想だ」
その言葉に、ひゅっとアマネの喉が鳴る。
金色の目はそんなアマネを逃さないとばかりに、正面からまっすぐ見つめてくる。
「厄災なのは、人を道具としてしか見ないような連中の方だよ」
ギルバートもまた、前のめりに肘を膝へ預けながら、赤い瞳でアマネを見た。
「お前がこの六年間ここにいたから、助かった命も、守れた日常も、腐るほどある」
「……そんなの、」
「初心者パーティにバカ丁寧に説明してガイド渡してたのも、店先の掲示板情報こまめに更新してたのも、全部お前だろうが」
「……」
「それ全部無視して、“自分のせいで厄介ごとが増えたから厄災です”って結論出されたら、流石に腹が立つ」
赤い瞳が、少しだけ細められる。そこに宿るのは鋭さではなく、言い聞かせるような真っ直ぐな光だ。
「リサも生きてる。今日だってそうだ。あいつが今、裏で寝ていられんのは、誰が治したからだ?」
アマネは唇を噛んだ。
「……っでも、俺がいなければ、リサさんは怪我しなくて済んだ」
「それは違う」
即座にルシアンの声がそれを切り捨てる。
「君がいなければ、彼女は今頃死んでいた。ギルも、酒場も、もっとひどいことになっていた」
「それにな」
ギルバートが、片眉を上げた。
「王命だろうがなんだろうが、逆らう力なら、こっちはもう持ってんだよ。厄介ごとはお前のせいで増えたわけじゃねえ。元からだ」
その言葉は、妙なくらいまっすぐだ。
世辞や取り繕いが苦手な男だからこそ、その言葉が飾りではないことはわかる。それが余計にアマネの心を傷ませる。
本当は、嬉しい。
そんなふうに言ってもらえるのは、どうしようもなく、救いだ。
けれど同時に。
(……この人たちは、本気で王宮を敵に回すつもりだ)
そう理解してしまった瞬間、別の重さがのしかかってくる。
王命に牙を剥くということが、どれほどの意味を持つのか。
アマネは、闇ギルドで『国に刃向かった人間たちの末路』を、嫌というほど見てきた。
罪に巻き込まれるのは、本人だけじゃない。
仲間も、店も、下手したら街さえも。まとめて汚れた場所として、扱われる。
目の前で真っ直ぐに、「国を敵に回したっていい」というこの二人に、そんなものを背負わせていいのか。
「……アマネ。君は何も心配しなくていい。自分のことだけを第一に、考えていたらいいよ」
ルシアンはアマネの膝の上で固く握っていた手を、そっと解くように手を重ねた。
力を込め過ぎて白くなっていた拳を、少しずつ緩めさせるように指先を絡めていく。
「三日後の交渉は避けられない。けれどそこで、『王命だから』とか『みんなに迷惑をかけるから』じゃなくて、君自身の意思で、僕たちを……自由を、選んでほしい」
言葉を区切りながら、ゆっくりと続ける。
アマネは、胸の奥の空気を入れ替えるように、深く息を吸った。
頭のどこかでは、奴隷時代に叩き込まれた言葉がまだ反芻している。
──お前は厄災だ。
──周りを不幸にする。
けれど、その声を、今この部屋で響いている別の声が、少しずつ塗り替えていく。
「少なくとも俺は、お前がここからいなくなるより、国一つ敵に回す方が何倍もマシだわ」
「僕も同じだよ。大事に大事にしてきたうちの子が、ろくでもない連中の都合で振り回される方が、よっぽど不幸だ」
さらりと、まるで当たり前のことのように、とんでもないことを言われて、アマネの胸の奥がかすかに火が灯る。
洗脳のように染みついた黒く冷たい言葉に、じわじわとその熱が上から重なっていく。
「……俺たちを信じろ、アマネ」
その言葉に、アマネはすっと瞼を閉じて俯いた。
信じていないわけではない。
むしろ、この世界で本当に信じられる人間は、ルシアンとギルバートだけだ。
アマネがこの三日のうちに、一言でも「逃げたい」と零せば、二人は迷わずアマネを連れて国外へ逃亡を図るかもしれない。
築き上げた地位も名誉も、大切な居場所さえも捨てて。
自己肯定感の低いアマネでも、そこまで想像できるくらいには、この六年間、二人に与えられたものが多すぎる。
ありがたい。
そのことが、アマネには痛いくらいありがたい。
だからこそ、胸のどこかで、静かに別の結論が固まり始める。
(……だったら、俺が行けばいいだけだ)
王都が欲しいのは、自分一人だ。
ルシアンでもギルバートでも、ギルドでもなく、“祝福の治癒師”という札だけだ。
ならば、その札を差し出せばいい。
そうすれば、この場所に向けられた『反逆の疑い』という視線は、きっと薄れる。
それが正しいかどうかなんて、本当はわかっていないしどうでもいい。
大切な居場所ができたからこそ、自分の大切な人が傷つくより、昔と同じ地獄に飛び込む方がよっぽどマシだと思えた。
少し時間をかけてから、アマネはようやく口を開いた。
「……話してくれて、ありがとう。三日後は、ちゃんと逃げずに向き合うから」
その言葉を聞いたルシアンの口元が、ほっとしたように満足げに緩んだ。
「……うん、ぜったいに大丈夫。僕らに、任せてくれたらいいからね」
アマネはそこでようやく、ゆっくりと背もたれに体を預けた。
身体の中の熱は、まだ完全には引いていない。
けれど、さっきまで胸を締めていたどうしようもない不安は、少しだけ形を変え始めていた。
「今夜はもう、休みなさい」
ルシアンが立ち上がり、アマネの頭を軽く撫でる。
「リサのことは、僕とギルで見ておく。君は起きあがろうとしないで」
「……はい」
アマネが小さく頷くと、ギルバートもベッドから腰を上げた。扉の方へ歩きかけて、そのまま出ていくかと思いきや、ふと振り返る。
「アマネ」
「なに」
「『俺のせいで』、って言葉。次言ったらぶっ飛ばすからな」
乱暴な言い方なのに、そこには揺るぎない優しさがあることを、アマネは知っている。
「……気を付ける」
アマネがそう返すと、ギルバートが満足げに片手をひらひらと振り、ルシアンと共に部屋を出ていった。
扉が閉まる。
ようやく静かになった部屋に、ランタンの灯が揺れる。
(三日後、か)
考えるだけで頭が重くなるような気がして、アマネは椅子から立ち上がると、そのままベッドに身を横たえた。
ルシアンとギルバートは、どこまでいってもアマネの味方でいてくれるだろう。
それでも、目を閉じると最初に浮かんだのは、血に濡れたリサの虚な瞳と、無茶苦茶な包帯を巻いたギルバートの顔。
そして──酒場の前でアマネの手を取った、ロアンの温かい手の感触だった。
鼓動の速さを数えるうちに、意識は少しずつ、静かな闇へと沈んでいった。
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