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第3話 秘密の地下室
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穏やかな春の日差しも夏にかけてその熱を増すものの、初夏と呼ぶにはまだ早い昼下がり。
優羽が魅壷家に来て一ヶ月。
あの夜…朝…曖昧にすぎた二日間以降、これといって目につく変化は特になかった。
朝も昼も晩も何事もなく、誰もなにもしてこない。
いや、なにもしないことはなかった。
「もしもし?」
「おや、どこの可愛いお嬢さんが出たのかと思ったよ。」
「お父さ…ンッ!?」
「優羽、いってきます。あまり父さんと長電話しないようにね。」
「あっ。はっはい。いってらっしゃい。」
父親の幸彦は相変わらず不在ながらも、毎日よこす電話で愛を囁いてくるし、長男の晶はすれ違うたびに濃厚なキスをしていく。
でも、強いて言えばそれだけだった。
幸彦は出張に出たきり。晶は病院勤務らしく、不定期に朝早く出ていき夜遅く帰ってくる。
「仲良くやっているようだね。」
安心したよと、幸彦は電話越しに笑うが、優羽には家族と仲良く出来ているかの自信がなかった。
自室にこもりっぱなしの次男の輝は、仕事が大詰めに入っているらしく、食事以外では顔もあわせない。
何の仕事かは、わからないままだ。
三男の戒は、大学の単位取得を早めるらしく図書室と大学に詰め込んでいるし、四男の陸にいたっては、高校が始まったばかりで遊ぶことに忙しいのか、ここ二~三日姿をみていない。
「贈った服は無事に届いたかい?」
「はい。可愛いワンピースだったので、早速着てます。」
「そうか。見れないのが残念だが、気に入ってもらえて嬉しいよ。おや、すまない。これから会議なのでね。また電話するよ。」
「はい。気をつけてくださいね。」
「優羽、愛しているよ。」
「……っ。」
チンっと軽い音をたてて受話器をおいた優羽は、はぁーっと深い息をその場で吐いた。
「もぉ。」
顔が赤くなることを否定はしない。
そのまま顔をあげて、電話のある廊下を見渡せば、どこぞのホテルか旅館のロビーくらいはある玄関付近に設けられたソファーに目がいく。
「はぁ。」
ドカッと、誰も見ていないのをいいことに、優羽はひとりソファーに腰かけた。まぁ簡単にいえば、何もすることがないまま優羽はポツンと一人、この無駄に広い屋敷にいた。だからと言って、暇にしているわけではない。
家族になったのだからと、忙しそうな彼らのために掃除も洗濯も食事の手伝いもすることにした。
自分で決めたのだから、不満はない。
「なんか、金持ちって想像以上に疲れる。」
手伝う気はあるのに、手伝わせてもらえないことも十分理由に当てはまっていたが、なぜか全然汚れない家の中では、ほとんどやること自体がない。
万が一、下手に触った上に割ってしまったら大変なことになりそうな壺や見るからに値段がつけられそうにない絵画があるにはあるが、それらに対して必要以上に手が出せないといったほうが正しかった。
「……ひま。」
そのため、天気のいい日に窓辺のソファーに腰掛けながら優羽がため息を吐くのも仕方がないといえる。
「贅沢な悩みなのかな。」
独り言も増えた気がする。
このままではいけないと、気を取り直してソファーから立ち上がった優羽は、庭に面したテラスへといくことにした。
「いい風。」
やはり外の空気は心地いい。
テラスから見渡せるのは、誰も手入れをしているところを見たことがないのに、雑草の一本も生えていない立派な庭園。咲き乱れる色とりどりの花と、小さな鳥の歌声。
さわさわと髪を撫でる風にゆれて、洋館にふさわしい噴水が、水音を奏でながら流れていく。
「のどかぁ~。」
思わず欠伸がこぼれた。
朝食の片付けをし、洗濯物をほし、一通り屋敷内を散策して汚れがないことを確認して、それだけ。
暇にしているわけではないのに、暇になってしまう。
「みんなが帰ってくるまで、何しよう?」
何かあるかもしれないと、テラスの柵にもたれながら考えてみたが何も浮かばない。
お隣さんは、これまた無駄に遠いし、どんな人が住んでいるのかも知らない。
「とりあえず、お茶で……あれ?」
遥か遠い門扉から、魅壷家の玄関に向かって家族以外の車が走ってくるのが見えた。
珍しいこともあるものだ。
一ヶ月近く来客のないこの家にもついにお客さんが来たのかと、優羽はテラスから身を乗り出してそれを眺めていた。
「誰だろ?」
車から眼鏡をかけた見るからに出来る風な男がおりてくるのが見える。
「あっ…あのっ!?」
優羽の姿に気づくことなく、彼は玄関に向かって階段をのぼりかけた。それと同時に、眼鏡の男に声をかけようと足を踏み出した優羽の口がふさがれる。
「ッ!!?」
「ここにいろ。絶対出てくんじゃねぇぞ。」
思い切り引き寄せられたせいで、心臓が止まるかと思った。
背後から抱きしめてくる相手を確かめようと視線を上げれば、いつの間に自室から出てきたのかわからない輝がそこにいた。
「わかったんだろうな?」
低い口調の輝に、口をふさがれたままの優羽は首をたてにふる。
「おし。」
不敵に笑った輝が優羽の身体を解放する頃には、例の眼鏡の男は玄関の取っ手に手をかけていた。
テラスから降りた輝は、玄関の扉が開けられる前に、その人物を呼び止めることに成功する。
「室伏(ムロフシ)さん。」
「輝さま。珍しいですね。」
「俺だって、一日中こもってるわけじゃねぇよ。」
庭から現れた輝に、室伏と呼ばれた眼鏡の男が振り向いた。
驚いたらしい台詞を口にしたが、はたからみれば、全然動じない顔色に輝の口元が引くつく。
そして、その男の視線がわずかに流れたことに気づいた。
「何か探してんのか?」
「いいえ、まさか。」
類は友を呼ぶというが、彼も相当な容姿の持ち主であることは離れた先から様子をうかがっている優羽にもわかった。
輝にニコリと微笑み返した室伏からは、気品さえ漂っているような気がする。
「これを取りにきたんだろ?」
「はい。社長が最高の出来だとおっしゃっていましたよ。」
「まぁ、俺が作ったんだから当たり前だけどな。」
「でしょうね。」
眼鏡の下に何か裏がありそうな言い回しをする人だと思った。
どことなく冷めた声と、光をうつそうとしない瞳。幸彦同様、高そうなスーツを身につけているが、本来の彼はそういうものを好まないのではないだろうか。
なぜそう思ったのかわからないが、彼のまとう空気は、どこか悲しい。
「──っ!?」
目があった気がした。
離れた場所にいる自分の姿には、たぶん気づかれていないと思う。けれど、そう感じた瞬間、視線に刺されたみたいに、胸がドクドクと脈打つ。
「では、これで失礼いたします。」
「おう。」
何事もなかったかのように、輝に一礼して彼は立ち去っていった。
はぁーっと、優羽は胸を押さえながら深い安堵の息を吐き出す。
「いきやがったか。」
「あの人……誰ですか?」
「室伏涼二|(ムロフシ リョウジ)。親父の右腕だ。」
「右腕?」
「まぁ、秘書みたいなもんだ。」
「……ふぅん。」
彼の乗った車の音が聞こえなくなったのを確認してから顔を出した優羽の質問に、意外にも輝はあっさりと答えてくれた。
「お父さんの仕事って……ぁっ。」
家に戻るのに、玄関ではなくテラスへと上ってきた輝にならって優羽もあとに続く。
「今のあいつには、近づくんじゃねぇぞ。」
「えっ?」
「まぁ、いつかちゃんと紹介してやるよ。」
輝の言っている意味がよくわからない。
時々、何か深い意味があるんじゃないかと思える彼らの言動を感じるが、優羽は聞きそびれた疑問を飲み込んで、振り返った輝に戸惑いながらもうなずいた。
「いい子だな。」
少々乱暴に頭を撫でられるが、大きな掌がとても優しい。
輝に頭を撫でられるのは好き。
わしゃわしゃと髪が乱れるが、それはあとでどうにでもなる。
「あっ!輝さんが部屋から出てくるってことは、仕事が落ち着いたの?」
それなら一人で過ごさなくても済みそうだと、名案を思いついた優羽の嬉しそうな笑みに、輝も笑みをかえした。
「いや、優羽を呼びに来た。」
「えっ?」
「ちょっと手伝え。」
願ってもない申し出だった。
暇をもて余していたところだったからちょうどよかったと、優羽は輝の誘いに快くうなずく。
「するっ。輝さん、何を手伝いますか?」
「輝。」
「え?」
「あと、家族なんだから敬語で話すな。」
輝の言葉に、それもそうだと思う。
でもいきなり家族になったとはいえ、初対面の相手にズケズケとタメ口でしゃべれるほど、すぐに心は開けない。
しかも、敬語にならざるをえない雰囲気を持つ人たちが多くて、そこまで人見知りでなくても、知らないうちにそう喋っていた気がする。
「今日は特別に、俺の仕事部屋にいれてやるよ。」
「えっ!? いいんですかっ?」
敬語について思案していた優羽の顔は、輝の提案にパッと明るい期待をにじませる。
絶対に近付くなと言われていた未知なる空間に、胸が踊らないわけはない。
「変わんねぇな。」
クスクスと小さくつぶやいた輝の声は、すでに屋敷内に入っていった優羽には聞こえない。
浮き足立つ優羽の背後を歩きながら、輝は地下にある自室へと案内することを楽しんでいた。
「どうぞ、お姫さま。」
ドキドキする。
開け放たれた階段から、昼なのに夜の洞穴のようなジメッとした空気が肺に入ってくる。
秘密の地下室の入り口を照らす明かりの先に何があるのか。
冗談めかして手をさしのべてくれる輝に笑いながら優羽は、その場所に足を踏み入れた。
玄関横の部屋へ上る階段の下は、納戸ではなく、地下への入り口になっていた。
存在は知っていたが、降りるのはもちろん初めてで、石造りの階段を歩く音が静かに響く。
「優羽。こけんなよ。」
外の日射しとは違って、中はひんやりと冷たい。廊下の明かりが等間隔に導いてくれるその先に案内してくれた輝は、自室の扉を仰々(ギョウギョウ)しくあけながら、優羽の手を引き寄せた。
真っ暗な部屋。それが、第一印象。
地下の廊下より部屋の位置は少し低くなっているのか、下におりる階段が数段ある。
「はぁい。」
輝の言いつけを素直に聞いた優羽は、気を付けながらそれをおりる。
何も見えない。
目がまだ明かりの届かない地下の一室に対応出来てないようだった。
「あー、優羽。そこで一端止まれ。」
「はい。」
「なんだ?えらく聞き分けいいな。」
「だって、楽しみだったから。」
「ん?」
「て…てっ…輝が仕事部屋に入れて……くれるの……。」
ここが暗闇でよかった。
意識して名前を呼び捨てにしてみたが、思いの外、勇気がいったらしい。
「へぇ。」
輝がどんな顔をしているのか知らないが、ペロッと舌で上唇を舐めるような音がする。
「そうなんだ。」
こういうとき、地下は風がないからいけない。
顔の火照りを冷ましてくれるのは、何もなかった。
「そっそうだよ!」
声が裏返ってしまったのは、もう仕方がない。暗闇ならなんでもありだと、優羽は少し張り上げた声の中で輝の気配を探す。
絶対に行ってはダメだと言われれば、逆に気になって仕方がなかった地下室。ここ一カ月もの間、地下には何があるのだろうと想像していた。
いつか入れてもらえる日が来るのかと待ち望んでいたが、まさかそれが今日突然訪れるなんて思ってもいなかった。
「て…てる?」
さっきまで隣に感じていた輝の気配が消える。
優羽は足を止めたまま、その姿がどこに行ったのかと慣れない目を細めた。
「真っ暗で何も見えないよ?」
「あぁ、いい子だから動くなよ。」
「動いてないよ?」
「んじゃ、お利口さんな優羽ちゃんにこれをあげよう。」
「ッ……なに?」
「いいから、手ぇ出せ。」
首をかしげながら手を差し出せば、金属のようなものが両手首を引っ付ける音がした。
「なっなに?」
「さぁ、なんだと思う?」
「て…手錠?」
両手首にあたる感触に顔をひきつらせる。ただの冗談にしては、結構しっかりとした造りをしていた。
その手錠が意味するものはなんなのか、想像もしたくない。
「ま、簡単なクイズだったな。」
「えっ?ちょっ…なに?」
「いいから、動くなって。」
ぐるぐるとまわりを歩く輝の足音がする。その手には何が握られているのか、こすれあう金属の音にいい予感はしない。
暗闇に慣れかけた目が、右から聞こえたり、左から聞こえたりする音の正体を探るように輝の足元を追いかけていた。
「きゃぁっ!!?」
そろそろ本格的に暗闇に視界が開けてきたと思った瞬間、何の前振りもなく、優羽は輝に目隠しをされる。
「はい、あーんしてみ?」
戸惑いながらも、言われるままに口をひらけば、ボールのようなものを押し込まれて顔の後ろで固定された。
「ふっ…ふぁに…っ!?」
何がどうなったのか、混乱する頭では現状を整理できない。
部屋に電気がついた気がした。それと同時に、本当に手錠によって固定されたらしい優羽の両手は持ち上がっていく。
「ヒャッ!?」
急に怖くなって足を動かして初めて、優羽は自分の体が自由にならないことに気づいた。
「ガチャガチャ暴れんなって。」
「ふぇるッ!?」
「やっぱエロさにかけるか?」
優羽の焦ったように発せられるくぐもった声を無視して、輝は悩むような仕草を見せる。
その間にも自動で鎖が巻き付けられているのか、どんどん自分の意思に反して優羽の身体は形を変えていた。
コワイ
だけど、自分でどうすることも出来ない以上、自由を拘束する金属の鎖に優羽は従うしかない。
「あー。新作の開発だから、気にすんな。」
「ふぁに?」
「だから、暴れんなって……あぁ、わりぃ。」
腰にガチャンと何かが固定される。
思わず、優羽は恐怖に体をびくりと震わせた。
「やっぱデザインが問題か?」
誰に対して投げ掛けられた疑問なのかはわからないが、輝はどこか納得いかない口調で優羽の姿を眺めている。
目隠しをされ、身体の自由を奪われた状態の優羽には部屋の中を知ることは出来なかったが、音だけは聞こえている。
「ふぁっ!?」
さっきから断続的に聞こえていた機械音がふいにやんだ。
音がやむと、わずかな自分の震えに合わせてカタカタと鎖が鳴る。
輝が何をどう思ってこんなことをするのかわからないが、本当にこれが仕事と関係あるのだろうか。
「ふぇ…っる……」
せめてこの口に入れられた小さな卓球玉のようなものだけは取ってほしかった。
口が開いた状態だと、息をするたびに自分の呼吸音が無駄に脳に響き、飲み込めない唾液がこぼれてしまう。
悲惨な姿に泣きたくなってきた。
どうにかしようと顔を上に向かせるが、自分が現状を打開しようと必死になればなるほど、輝が自分の存在を忘れてしまったんじゃないかと思えてくる。
「優羽、ちゃんと立ってろ。」
「ふぁっ!!?」
「しんどいか?」
初めて心配そうに声をかけられて、優羽は首を横にふった。でも出来るなら、この格好から早く解放されたい。
足は指先が地面につくのがやっとで、両手は斜め上につり上げられているし、手錠をはめられた両手を追いかけるように少し前のめりになった上半身と比例して、まるで犬のようにお尻があがっていた。
腰が何か動かないもので固定されているので苦しくはないが、恥ずかしさは半端ではない。
「場所とっちまうからなぁ。製品化はやっぱ無理か。」
「っ…あ……」
「ん?」
困ったように頭をかいた輝は、本当に仕事の手助けに優羽を呼んだらしい。
製品の出来映えを非難したあと、何とか解決策を練ろうと優羽の回りを再度歩く。ところが、優羽の真後ろに立った途端に、輝はピタッと足を止めて、楽しそうに笑みをこぼした。
「なに?優羽、感じてんの?」
「……くっ…」
答える代わりに、加えさせられたボールの隙間からぽたりとヨダレが落ちていく。
全くそんなつもりはないはずなのに、優羽の下着は大きなシミを作っていく。違うと、力なく首を横にふっても説得力の欠片もなかった。
「──ッ!!? ふっ…ぇぅ…っ!?」
「やっぱ、感じてんじゃねぇか。」
ワンピースなんか着るんじゃなかった。
今朝、幸彦から贈られてきた真新しいワンピースを作った人は、着た人がバレーボール選手のようにトスをあげたあとのような格好をすることを想定していなかったのだろう。
おかげで、丸見えになった優羽の下着の脇から輝は意図も容易く指を差し込むことができた。
「親父と晶にヤられてから、体がウズいて仕方ねぇんだろ?」
差し込んだ指を、輝はゆっくりと引き抜く。
それにならって、優羽の蜜は糸を引いて足を濡らした。
「ッ!!?…ちぁ…。」
「嘘つくなって。」
グチュっと鈍い水音が響き、ゆっくりと出し入れされる。
そのたびに優羽の口からは、吐息とヨダレがこぼれ落ちていく。
「指一本じゃ、足んねぇか?」
「……ッ…っぁ…やっ」
「ここが好きだろ。」
「ヒッ…っう…ぁ」
「あぁ、そういや好き者の優羽ちゃんに、ちょうどいいモノがあるぜ。」
優羽は、何も言ってない。
言えないのに、輝は勝手に話を進めていく。
否定をしたくても、口にいれられた物のせいで満足に舌が動かせないのをいいことに、輝は優羽の意思を無視して、その下着をはぎとった。
「──!!?ヒァ…ぁ…ぅあッ!?」
「効くだろ?今いいとこに固定してやる。」
「にゃっ!?──ふっ…ゃッ~うぁ…っ…。」
下着を剥ぎ取るだけじゃなく、下腹部に固定されたそれに、優羽の脚がガクガクと震えはじめる。
つま先立ちの足はほとんど体重を支えきれておらず、乙女の領域を犯す代物を追い出そうと奮闘している。
「落とすんじゃねぇぞ。」
「ヒぐぅッ!?」
最奥まで差し込まれた異物に、優羽の体はエビ反りにのけぞった。
力を込めても込めなくても抜けそうになる異物を落とせばどうなるか、現状から最悪しか導き出せない答えに、優羽の意識は自然と下半身に集中していた。
「あ~あ~。しゃあねぇなぁ。」
「ゴホッ…~っ…て…る」
前にまわってきた輝に、口のものをとってもらった優羽は無意識に酸素を求めて咳き込む。
苦しげな優羽の声が地下室に響く中、その口枷を脇に放り投げた輝は、グイっと優羽のアゴを持ち上げた。
「ッ!?」
目隠しごしに、輝の息づかいを感じる。
咳き込むことに一生懸命だった唇が、再び酸素不足の息苦しさを認識し始めるが、絡めとられる舌に頭がうまく働かない。
それなのに、無遠慮な輝の手は、優羽の胸を下からつかむように持ち上げる。
「メスイヌみてぇだな。」
「……ぁっ…てる…」
「乳首たたせて、気持ちいいだろ?」
「やめッ…やっ…ヤダァァァッ!」
「しっかりイってんじゃねぇか。ほらっ。輝さま辞めてくださいって言ってみ?」
蜜壺に埋め込まれた玩具が卑猥な音をあげながら回転しているが、それを止める術を優羽は持っていない。
輝のいう台詞を言葉に出来るならしたいが、羞恥と混乱に暴れる身体は言うことを聞いてくれない。
そもそも、一度快楽の波を迎え入れてしまった優羽に輝の声は理解できていなかった。
「親父や晶みたいに、気絶するまで犯してやろうか?」
「なんッ…で…しって…ぅ…アッ!?」
「ん?」
「はぁ…っ…ぅあッ、ッ──…ァァァッ……」
声が思ったように続かない。
愛蜜の匂いを放ちながら苦しそうに吐かれる悦な息と規則正しい機械の音が、妙な感覚を植え付けてくる。
「俺ってやっぱ天才だわ。」
ゴクリと喉をならして、満足そうに輝はうなずく。
大人のオモチャに弄ばれる優羽の体は、時々痙攣を起こしながら、絶頂という遊びを何度も繰り返す。
輝の手に愛撫される胸の鼓動は、掴めば壊れてしまいそうなほど早く動いていた。
「優羽。」
「ひっ…も…ッヤメ」
「誰がやめるかよ。」
耳元で囁きながら、ワンピースをはいだ輝の手は止まることを知らない。
外気にさらされて、その快楽を胸の形で主張する優羽の肌を思い切り堪能していく。
「ッヤァ!?」
無機質な機械と違って、生暖かな輝の指先に形を変える胸は優羽の快楽を増幅させていた。
身動きの出来ない体に、確かに与えられる快楽。
絶妙な組み合わせが、優羽の理性をおかしくさせる。
「もう離さねぇ。」
噛みつくような輝のキスは、本能に従って激しく優羽の吐息を犯す。
そうして意識が朦朧とする優羽の背後にまわると、蜜壺に刺さるそれを強く握りしめた。
「ッ!?──…いヤぁ!!」
「イイの間違いじゃねぇのか?」
「ちぁ…うぅ……ヤメ…ッ…て」
握りしめたそれを手動で深く出し入れすれば、優羽の体は容易に反応する。
グチュグチュと蜜をあふれさせ、かろうじて触れるつま先から床にまで愛液が伝っていた。
「だったら、なんて言うか教えてやっただろ?」
わざとらしく最奥をつく輝に、優羽の体は跳ね起きる。
このままではイキ死にしてしまうと、優羽はわずかに残る意識でその言葉を伝えようとした。
「て…るさ…まァっイヤァァァッアッ!?」
「ん? なんか言ったか?」
「ヤァも…いきたくな…ッ」
鳴き叫びながら首を横に振る優羽の背中に、輝は唇を押しあてる。
なぜこんなに可愛いのか、いっそのこと全部食ってやろうかという衝動にかられるが、そういうわけにはいかない。そのかわり、服の上から軽く歯をたてることにした。
「…はぁ…はぁ……ふァッ!!?」
「きっつ。てか、すげぇな。」
前ふりなく一気に玩具を引き抜かれ、かわりに生身の男で貫かれた優羽は、その感触の違いに驚いて悲鳴をあげた。
無機質な機械とは違い、生身のそれは妙に身体の中で主張し、まとわりついてくる。
「自由に動かねぇ体が余計に気持ちいいだろ。」
「ッ~~…ぁ…ヤぁ…ぅあッ──」
「優羽は、変態だな。」
「ッ!!?」
「目隠しされて、縛られたまま犯されてんのに、まだイクのかよ。」
「ちっちが…輝さまっやめ…ヤメ…てくらさっ…あぁ───」
「聞こえねぇなぁ。」
楽しそうに口を歪める輝の顔が見えない。
後ろから容赦なく打ちつけられ喘ぐさまは、動物が交尾をしているみたいで脳が刺激される。
でも間違いなく反応する体が、人間であることを微(カス)かに繋ぎ止めていた。
「ゃっ…ヤらぁ…ぅっ…あッ……イッ!!?」
「一人でイクんじゃねぇよ。」
「アッ…あっ…輝ッヤメッ」
そのあとの記憶は定かではない。
点滅する視界に、何度か意識がとんだ気もするが、逃げられない快楽の恐怖から何度も輝に助けを求めたことだけは覚えている。
助けられた記憶はない。
容赦なく腰を打ち付けるスピードを早めた輝の動きに、優羽は鳴き声をあげながら一際大きく男を締め付けた。
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────────
──────
「わりぃな。」
誰も答えない地下室で、輝は一人息をつく。
あまりに優羽が可愛すぎて抑えがきかなかったことは反省するとして、気絶するまで犯すつもりはもちろんなかった。
「痕はついてねぇな。」
苦笑しながら輝は、気絶した優羽の体を丁寧に解放していく。
手も腰も上質の布を中に当てていたおかげで、優羽の身体には傷ひとつついてはいない。
「次は優しくしてやるよ。」
涙に濡れた目隠しをはがすと、輝は少し申し訳なさそうに優羽のまぶたに口づけをおとす。
そうして、優羽を自分のソファ兼ベッドへと静かに寝かせた。
「やっぱ、まだ早かったか?」
冷静に部屋を見渡して輝は苦笑をもらす。
明かりのついたその部屋は、試作品を含めた全ての商品がおさめられた場所であり、輝の発明室。
「まっ優羽のおかげで、いい商品が出来上がるぜ?」
答えない優羽の頭を優しく撫でた輝は、その横に腰をおろして何やら作業に取りかかろうとした。
その時、ふと思い出したように輝は携帯を取り出すと、数回ボタンを操作して先に電話をかけた。
「あっ、親父?優羽、くったから。」
都合よく電話に出た出張先の幸彦が、輝の突然の報告に、一気に不機嫌になったのが伝わってくる。
そうかと短い答えが帰ってこないのが、何よりの証拠だった。
「で?」
「室伏に優羽は会わせてねぇよ。」
本来の用件を伝えた輝に、幸彦は不機嫌さを隠しもしないままうなずく。
ムスッとすねたような雰囲気は陸がよくする行為だが、元を正せば幸彦が発祥とも言えた。
「警戒はしておくのに越したことはない。」
「あぁ、わかってる。」
「もうしばらく帰れそうにないのでね、くれぐれも頼んだよ。」
「あぁ、わかってる。」
同じ返事を繰り返した輝に満足したのか、幸彦はそれ以上何も言わなかった。
「わかりやすい親父。」
通話の切れた携帯の画面に、輝は一人クスクスと静かに笑いかける。
長年の付き合いだ。
声のトーンや喋り方で、大体の感情や言いたいことはわかっていた。
「まっ、どれだけ大事にしようが渡さねぇけどな。」
寝息に落ち着いたらしい優羽の頬を撫でながら、輝はその顔からソッと笑みを消した。
──────────
────────
──────
最上級のホテルの一室に男女が一組。
眼下を望む夜景に心奪われるはずなのに、この男女は各々別の場所に視線を向けていた。
「…り…じ……さま…ッ……」
「なんです?今忙しいのであとにしなさい。」
ベッドのシーツを乱す女と、着衣ひとつ乱れない秀麗な男。
自分を呼ぶ声に苛立ちを感じながら、男はパソコンのマウスをカチリと動かした。
「さすが輝が作っただけあって売れるのも早いな。」
フッと口角が上がる。
液晶に照らされた部分でしかその顔は見ることができないが、端正な顔立ちに眼鏡の下の冷たい瞳。
情欲にあえぐ女の視線を背後で受けているのに、随分余裕な態度のまま男は女を軽くあしらっていた。
「…っねが…──…します…りッ……」
「仕方ない人ですね。ほら、しばらくこれで遊んでなさい。」
「──あぁッ!!?」
一瞬冷めた視線を女に向けたが、手元のリモコンをひとつ操作しただけで、男はすぐにパソコンへと意識を戻す。
悶えあえぐ女の声をBGMに、男はパソコンの液晶に写し出される資料へ目を通していたが、ふと何かを思い出したように苛立ちをその顔に浮かべた。
「まさか養女とはね。」
そう呟いてから眼鏡をはずして、イスに体をあずける。
脳裏には今日の昼頃に会った少女の顔が浮かんでいた。
まだ咲きかけた花の蕾は、大事に育てられている途中といったところか。あどけなさの残る少女の真っ直ぐな視線が自分を見つめているように感じた。
綺麗とは言えないが、汚したくなる。
無駄に加虐心を呼び起こさせる女。
「あの幸彦様がね。」
何が可笑しいのか男はクックッと喉をならす。
室伏涼二
幸彦の秘書で右腕の男。
普段は物腰柔らかく、仕事も淡々とこなすが、こうして時々見せる野心的な雰囲気はただ者ではない。
「女なんてみんな同じ。」
「ッあぁ……涼二さ…まぁ……ッ…アァァァ……」
「社長がこんなに淫らなんて、あなたの会社の社員が知ったらガッカリしますよ。」
もう一人分の体重が乗ったことで、ベッドのスプリングがわざかにきしむ。
涼二の見下ろす女には彼の言葉が聞こえていないのか、ようやく叶うであろう願いの喜びに、うち震えた声をあげていた。
「そんなに特別なのか?」
自分を見つめる少女が消えない。
"あの"魅壷家の連中が、誰にも知らせることなく養女に迎えた存在。
どこにでもいるような普通の女。
「今のお前には、わからないだろうね。」
馬鹿にしたように笑った幸彦の顔が見えた気がした。
それをどこかぬぐいさるように、涼二は脱ぎ捨てた衣服をベッドの脇にバサッと投げ捨てる。
「社長がいい加減だと社員は、苦労しますよ。」
そのまま苛立ちを腰に含めれば、女は耐えきれずに背中に爪をたてた。
手入れの行き届いた爪が、均整のとれた肌に突き刺さる。
律動に合わせて残る赤い線に、涼二はますます苛立ちをあらわにした。
「所有欲の強い女。」
痛みに顔をしかめることもなく涼二は、女を見下ろす。
その瞳の冷たさが逆に身体の熱をあげたのか、女がゴクリとノドをならしたのがわかった。
「ここまで溺れたなら、もうわが社の敵ではないですね。」
「……ッ!?」
急にやんだ律動に、近年、急成長を見せ始めていたライバル会社の女社長は首をかしげながら物足りなさを訴える。
「事業から手を引きなさい。約束できるなら、ご褒美をあげてもいいですよ。」
どこから取り出したのか、いや、はじめからコレを仕込んでいたに違いない。
ニコリと笑う涼二に突きつけられた眼前の書類に、女は二つ返事でサインをする。それを涼二は自身を埋め込んだまま、冷めた目で見つめていた。
「………。」
一時の感情にまかせて、人生を棒に振る。
女なんて、みんな同じ。
「特別なんて存在しない。」
「…ァア……りょ…ぅじッさ…ま──ハヤ…クぅ~」
「うるさいですよ。」
これくらい社長が自分でやればいいのにと思えば、また怒りが込み上げてくる。
急かす女との関係もこれで最後だと、どこか割り切った感情の中で、消えない少女の面影を抱いている錯覚を覚えた。
女を怒りの発散に使ったあとで、涼二は再びパソコンへと移動し眼鏡をかける。
事切れたように眠る女がサインしたばかりの契約書をしまいながら、明るく照らし出された画面をみて彼は目を細めた。
「……またか。」
呆れたように息を吐きながら、高級な椅子に腰かける。
眼鏡越しに見える視界は良好になるはずなのに、なぜかぼやけていた。
「……はぁ。」
女を抱くとたまに訪れる変化。
けれど、今は視力にかまっている暇はない。目を放した、たった一時間あまりで今日仕入れたばかりの新商品は完売していた。
「輝さまに増産を依頼しないと。」
疲れたように息を吐くと、涼二は輝にメールを作成するためにキーをたたく。
ちょうどその時、電話が音もなく静かに光った。
「社長も相変わらずタイミングがいいですね。」
──なんのことかな?
「まぁいいですが。例の社長、折れましたよ。」
──輝の薬は、絶大だろ?
「そうですね。すでに完売ですよ。」
そうかと電話越しの相手がうなずいたあと、業務的なやり取りをして電話を切る。
輝に送るメールは別に今じゃなくてもいいだろう。
これ以上、この場で仕事をしたくなくて、涼二はパソコンから手を離す。
「まったく。あの親父は。」
はぁーと、ため息を吐かざるをえない。
業界トップクラスの玩具メーカー。長年、取締役兼社長でもある魅壷幸彦の下で働いてきたが、最近の社長はどことなくおかしい。
もうここ一ヶ月、何をするにしても上の空な気がする。いや、仕事は前々からいい加減だった。むしろ仕事が片付くスピードは早くなったといっても過言ではない。
「だからってなんで俺まで。」
休日がない日が一ヶ月も続けば、さすがにブラック会社として訴えたくなってくる。
原因は、おそらく昼間、魅壷家で見た少女だろう。何がそんなに彼らを突き動かすのかわからないが、現にこうして自分は被害を被(コウム)っている。
気の乗らない商談に行かされた挙げ句、新作の出来を確かめてこいときた。
そんなことは自分でやれ。
ノドからでかかった言葉も社長相手には飲み込むしかない。そんなことを考えていると、またあの少女の顔が視界を横切った。
「……イラつく……」
それが何に対してなのかは、わからなかった。
ただ、あの少女を思い出すと沸々と苛立ちが増す。
「優羽……か。」
パソコンの画面には、いつ手にいれたのか、優羽の顔がうつしだされていた。
「彼女に興味はないが──」
しなやかな涼二の指が、画面上の優羽の唇をなぞっていく。
「──彼らがどんな反応を見せるかは、興味がある。」
クックッと、のどをならすその瞳は、暗闇の中で残虐に光りを帯びて優羽を見つめる。
極秘に迎え入れられた秘密の娘。
特別美人でもなく、何か特異があるわけでもない普通の少女。
マスコミや記者が騒ぎ立てないのは、事前に操作していたのだろう。
そこまでして守りたい女は一体どれほどまでの女なのか、興味は確かにわいてくる。
「久しぶりに楽しくなりそうだ。」
パタンと閉じられたパソコンのせいで、部屋は暗くなり静寂に包まれた。
安寧(アンネイ)の睡眠を貪(ムサボ)る女を残したまま、涼二は来たとき同様、キチッとした身なりで部屋をあとにした。
「お待ちしておりました。」
夜明け前の高級ホテルから、何もなかったかのようにひとり出てきた涼二へ、運転手は頭を下げて後部座席の扉をあける。待たせていた車に体をすべりこませると、涼二は何も言わずに携帯を取りだし電話をかけた。
早朝にもかかわらず、素早い反応がかえってくる。
───あなたからなんて珍しいわね。
「あなたの協力をして差し上げようと思いまして。」
──忙しいんじゃなかったの?
「社長はしばらく帰ってこれないですし、わたしの仕事も終わりましたから。」
クスクスと笑う涼二は、携帯を持つ手とは逆の手に持ったものを眼鏡越しにかかげる。
売り切れたはずの媚薬が、車の振動に合わせて揺れていた。
──────To be continue.
優羽が魅壷家に来て一ヶ月。
あの夜…朝…曖昧にすぎた二日間以降、これといって目につく変化は特になかった。
朝も昼も晩も何事もなく、誰もなにもしてこない。
いや、なにもしないことはなかった。
「もしもし?」
「おや、どこの可愛いお嬢さんが出たのかと思ったよ。」
「お父さ…ンッ!?」
「優羽、いってきます。あまり父さんと長電話しないようにね。」
「あっ。はっはい。いってらっしゃい。」
父親の幸彦は相変わらず不在ながらも、毎日よこす電話で愛を囁いてくるし、長男の晶はすれ違うたびに濃厚なキスをしていく。
でも、強いて言えばそれだけだった。
幸彦は出張に出たきり。晶は病院勤務らしく、不定期に朝早く出ていき夜遅く帰ってくる。
「仲良くやっているようだね。」
安心したよと、幸彦は電話越しに笑うが、優羽には家族と仲良く出来ているかの自信がなかった。
自室にこもりっぱなしの次男の輝は、仕事が大詰めに入っているらしく、食事以外では顔もあわせない。
何の仕事かは、わからないままだ。
三男の戒は、大学の単位取得を早めるらしく図書室と大学に詰め込んでいるし、四男の陸にいたっては、高校が始まったばかりで遊ぶことに忙しいのか、ここ二~三日姿をみていない。
「贈った服は無事に届いたかい?」
「はい。可愛いワンピースだったので、早速着てます。」
「そうか。見れないのが残念だが、気に入ってもらえて嬉しいよ。おや、すまない。これから会議なのでね。また電話するよ。」
「はい。気をつけてくださいね。」
「優羽、愛しているよ。」
「……っ。」
チンっと軽い音をたてて受話器をおいた優羽は、はぁーっと深い息をその場で吐いた。
「もぉ。」
顔が赤くなることを否定はしない。
そのまま顔をあげて、電話のある廊下を見渡せば、どこぞのホテルか旅館のロビーくらいはある玄関付近に設けられたソファーに目がいく。
「はぁ。」
ドカッと、誰も見ていないのをいいことに、優羽はひとりソファーに腰かけた。まぁ簡単にいえば、何もすることがないまま優羽はポツンと一人、この無駄に広い屋敷にいた。だからと言って、暇にしているわけではない。
家族になったのだからと、忙しそうな彼らのために掃除も洗濯も食事の手伝いもすることにした。
自分で決めたのだから、不満はない。
「なんか、金持ちって想像以上に疲れる。」
手伝う気はあるのに、手伝わせてもらえないことも十分理由に当てはまっていたが、なぜか全然汚れない家の中では、ほとんどやること自体がない。
万が一、下手に触った上に割ってしまったら大変なことになりそうな壺や見るからに値段がつけられそうにない絵画があるにはあるが、それらに対して必要以上に手が出せないといったほうが正しかった。
「……ひま。」
そのため、天気のいい日に窓辺のソファーに腰掛けながら優羽がため息を吐くのも仕方がないといえる。
「贅沢な悩みなのかな。」
独り言も増えた気がする。
このままではいけないと、気を取り直してソファーから立ち上がった優羽は、庭に面したテラスへといくことにした。
「いい風。」
やはり外の空気は心地いい。
テラスから見渡せるのは、誰も手入れをしているところを見たことがないのに、雑草の一本も生えていない立派な庭園。咲き乱れる色とりどりの花と、小さな鳥の歌声。
さわさわと髪を撫でる風にゆれて、洋館にふさわしい噴水が、水音を奏でながら流れていく。
「のどかぁ~。」
思わず欠伸がこぼれた。
朝食の片付けをし、洗濯物をほし、一通り屋敷内を散策して汚れがないことを確認して、それだけ。
暇にしているわけではないのに、暇になってしまう。
「みんなが帰ってくるまで、何しよう?」
何かあるかもしれないと、テラスの柵にもたれながら考えてみたが何も浮かばない。
お隣さんは、これまた無駄に遠いし、どんな人が住んでいるのかも知らない。
「とりあえず、お茶で……あれ?」
遥か遠い門扉から、魅壷家の玄関に向かって家族以外の車が走ってくるのが見えた。
珍しいこともあるものだ。
一ヶ月近く来客のないこの家にもついにお客さんが来たのかと、優羽はテラスから身を乗り出してそれを眺めていた。
「誰だろ?」
車から眼鏡をかけた見るからに出来る風な男がおりてくるのが見える。
「あっ…あのっ!?」
優羽の姿に気づくことなく、彼は玄関に向かって階段をのぼりかけた。それと同時に、眼鏡の男に声をかけようと足を踏み出した優羽の口がふさがれる。
「ッ!!?」
「ここにいろ。絶対出てくんじゃねぇぞ。」
思い切り引き寄せられたせいで、心臓が止まるかと思った。
背後から抱きしめてくる相手を確かめようと視線を上げれば、いつの間に自室から出てきたのかわからない輝がそこにいた。
「わかったんだろうな?」
低い口調の輝に、口をふさがれたままの優羽は首をたてにふる。
「おし。」
不敵に笑った輝が優羽の身体を解放する頃には、例の眼鏡の男は玄関の取っ手に手をかけていた。
テラスから降りた輝は、玄関の扉が開けられる前に、その人物を呼び止めることに成功する。
「室伏(ムロフシ)さん。」
「輝さま。珍しいですね。」
「俺だって、一日中こもってるわけじゃねぇよ。」
庭から現れた輝に、室伏と呼ばれた眼鏡の男が振り向いた。
驚いたらしい台詞を口にしたが、はたからみれば、全然動じない顔色に輝の口元が引くつく。
そして、その男の視線がわずかに流れたことに気づいた。
「何か探してんのか?」
「いいえ、まさか。」
類は友を呼ぶというが、彼も相当な容姿の持ち主であることは離れた先から様子をうかがっている優羽にもわかった。
輝にニコリと微笑み返した室伏からは、気品さえ漂っているような気がする。
「これを取りにきたんだろ?」
「はい。社長が最高の出来だとおっしゃっていましたよ。」
「まぁ、俺が作ったんだから当たり前だけどな。」
「でしょうね。」
眼鏡の下に何か裏がありそうな言い回しをする人だと思った。
どことなく冷めた声と、光をうつそうとしない瞳。幸彦同様、高そうなスーツを身につけているが、本来の彼はそういうものを好まないのではないだろうか。
なぜそう思ったのかわからないが、彼のまとう空気は、どこか悲しい。
「──っ!?」
目があった気がした。
離れた場所にいる自分の姿には、たぶん気づかれていないと思う。けれど、そう感じた瞬間、視線に刺されたみたいに、胸がドクドクと脈打つ。
「では、これで失礼いたします。」
「おう。」
何事もなかったかのように、輝に一礼して彼は立ち去っていった。
はぁーっと、優羽は胸を押さえながら深い安堵の息を吐き出す。
「いきやがったか。」
「あの人……誰ですか?」
「室伏涼二|(ムロフシ リョウジ)。親父の右腕だ。」
「右腕?」
「まぁ、秘書みたいなもんだ。」
「……ふぅん。」
彼の乗った車の音が聞こえなくなったのを確認してから顔を出した優羽の質問に、意外にも輝はあっさりと答えてくれた。
「お父さんの仕事って……ぁっ。」
家に戻るのに、玄関ではなくテラスへと上ってきた輝にならって優羽もあとに続く。
「今のあいつには、近づくんじゃねぇぞ。」
「えっ?」
「まぁ、いつかちゃんと紹介してやるよ。」
輝の言っている意味がよくわからない。
時々、何か深い意味があるんじゃないかと思える彼らの言動を感じるが、優羽は聞きそびれた疑問を飲み込んで、振り返った輝に戸惑いながらもうなずいた。
「いい子だな。」
少々乱暴に頭を撫でられるが、大きな掌がとても優しい。
輝に頭を撫でられるのは好き。
わしゃわしゃと髪が乱れるが、それはあとでどうにでもなる。
「あっ!輝さんが部屋から出てくるってことは、仕事が落ち着いたの?」
それなら一人で過ごさなくても済みそうだと、名案を思いついた優羽の嬉しそうな笑みに、輝も笑みをかえした。
「いや、優羽を呼びに来た。」
「えっ?」
「ちょっと手伝え。」
願ってもない申し出だった。
暇をもて余していたところだったからちょうどよかったと、優羽は輝の誘いに快くうなずく。
「するっ。輝さん、何を手伝いますか?」
「輝。」
「え?」
「あと、家族なんだから敬語で話すな。」
輝の言葉に、それもそうだと思う。
でもいきなり家族になったとはいえ、初対面の相手にズケズケとタメ口でしゃべれるほど、すぐに心は開けない。
しかも、敬語にならざるをえない雰囲気を持つ人たちが多くて、そこまで人見知りでなくても、知らないうちにそう喋っていた気がする。
「今日は特別に、俺の仕事部屋にいれてやるよ。」
「えっ!? いいんですかっ?」
敬語について思案していた優羽の顔は、輝の提案にパッと明るい期待をにじませる。
絶対に近付くなと言われていた未知なる空間に、胸が踊らないわけはない。
「変わんねぇな。」
クスクスと小さくつぶやいた輝の声は、すでに屋敷内に入っていった優羽には聞こえない。
浮き足立つ優羽の背後を歩きながら、輝は地下にある自室へと案内することを楽しんでいた。
「どうぞ、お姫さま。」
ドキドキする。
開け放たれた階段から、昼なのに夜の洞穴のようなジメッとした空気が肺に入ってくる。
秘密の地下室の入り口を照らす明かりの先に何があるのか。
冗談めかして手をさしのべてくれる輝に笑いながら優羽は、その場所に足を踏み入れた。
玄関横の部屋へ上る階段の下は、納戸ではなく、地下への入り口になっていた。
存在は知っていたが、降りるのはもちろん初めてで、石造りの階段を歩く音が静かに響く。
「優羽。こけんなよ。」
外の日射しとは違って、中はひんやりと冷たい。廊下の明かりが等間隔に導いてくれるその先に案内してくれた輝は、自室の扉を仰々(ギョウギョウ)しくあけながら、優羽の手を引き寄せた。
真っ暗な部屋。それが、第一印象。
地下の廊下より部屋の位置は少し低くなっているのか、下におりる階段が数段ある。
「はぁい。」
輝の言いつけを素直に聞いた優羽は、気を付けながらそれをおりる。
何も見えない。
目がまだ明かりの届かない地下の一室に対応出来てないようだった。
「あー、優羽。そこで一端止まれ。」
「はい。」
「なんだ?えらく聞き分けいいな。」
「だって、楽しみだったから。」
「ん?」
「て…てっ…輝が仕事部屋に入れて……くれるの……。」
ここが暗闇でよかった。
意識して名前を呼び捨てにしてみたが、思いの外、勇気がいったらしい。
「へぇ。」
輝がどんな顔をしているのか知らないが、ペロッと舌で上唇を舐めるような音がする。
「そうなんだ。」
こういうとき、地下は風がないからいけない。
顔の火照りを冷ましてくれるのは、何もなかった。
「そっそうだよ!」
声が裏返ってしまったのは、もう仕方がない。暗闇ならなんでもありだと、優羽は少し張り上げた声の中で輝の気配を探す。
絶対に行ってはダメだと言われれば、逆に気になって仕方がなかった地下室。ここ一カ月もの間、地下には何があるのだろうと想像していた。
いつか入れてもらえる日が来るのかと待ち望んでいたが、まさかそれが今日突然訪れるなんて思ってもいなかった。
「て…てる?」
さっきまで隣に感じていた輝の気配が消える。
優羽は足を止めたまま、その姿がどこに行ったのかと慣れない目を細めた。
「真っ暗で何も見えないよ?」
「あぁ、いい子だから動くなよ。」
「動いてないよ?」
「んじゃ、お利口さんな優羽ちゃんにこれをあげよう。」
「ッ……なに?」
「いいから、手ぇ出せ。」
首をかしげながら手を差し出せば、金属のようなものが両手首を引っ付ける音がした。
「なっなに?」
「さぁ、なんだと思う?」
「て…手錠?」
両手首にあたる感触に顔をひきつらせる。ただの冗談にしては、結構しっかりとした造りをしていた。
その手錠が意味するものはなんなのか、想像もしたくない。
「ま、簡単なクイズだったな。」
「えっ?ちょっ…なに?」
「いいから、動くなって。」
ぐるぐるとまわりを歩く輝の足音がする。その手には何が握られているのか、こすれあう金属の音にいい予感はしない。
暗闇に慣れかけた目が、右から聞こえたり、左から聞こえたりする音の正体を探るように輝の足元を追いかけていた。
「きゃぁっ!!?」
そろそろ本格的に暗闇に視界が開けてきたと思った瞬間、何の前振りもなく、優羽は輝に目隠しをされる。
「はい、あーんしてみ?」
戸惑いながらも、言われるままに口をひらけば、ボールのようなものを押し込まれて顔の後ろで固定された。
「ふっ…ふぁに…っ!?」
何がどうなったのか、混乱する頭では現状を整理できない。
部屋に電気がついた気がした。それと同時に、本当に手錠によって固定されたらしい優羽の両手は持ち上がっていく。
「ヒャッ!?」
急に怖くなって足を動かして初めて、優羽は自分の体が自由にならないことに気づいた。
「ガチャガチャ暴れんなって。」
「ふぇるッ!?」
「やっぱエロさにかけるか?」
優羽の焦ったように発せられるくぐもった声を無視して、輝は悩むような仕草を見せる。
その間にも自動で鎖が巻き付けられているのか、どんどん自分の意思に反して優羽の身体は形を変えていた。
コワイ
だけど、自分でどうすることも出来ない以上、自由を拘束する金属の鎖に優羽は従うしかない。
「あー。新作の開発だから、気にすんな。」
「ふぁに?」
「だから、暴れんなって……あぁ、わりぃ。」
腰にガチャンと何かが固定される。
思わず、優羽は恐怖に体をびくりと震わせた。
「やっぱデザインが問題か?」
誰に対して投げ掛けられた疑問なのかはわからないが、輝はどこか納得いかない口調で優羽の姿を眺めている。
目隠しをされ、身体の自由を奪われた状態の優羽には部屋の中を知ることは出来なかったが、音だけは聞こえている。
「ふぁっ!?」
さっきから断続的に聞こえていた機械音がふいにやんだ。
音がやむと、わずかな自分の震えに合わせてカタカタと鎖が鳴る。
輝が何をどう思ってこんなことをするのかわからないが、本当にこれが仕事と関係あるのだろうか。
「ふぇ…っる……」
せめてこの口に入れられた小さな卓球玉のようなものだけは取ってほしかった。
口が開いた状態だと、息をするたびに自分の呼吸音が無駄に脳に響き、飲み込めない唾液がこぼれてしまう。
悲惨な姿に泣きたくなってきた。
どうにかしようと顔を上に向かせるが、自分が現状を打開しようと必死になればなるほど、輝が自分の存在を忘れてしまったんじゃないかと思えてくる。
「優羽、ちゃんと立ってろ。」
「ふぁっ!!?」
「しんどいか?」
初めて心配そうに声をかけられて、優羽は首を横にふった。でも出来るなら、この格好から早く解放されたい。
足は指先が地面につくのがやっとで、両手は斜め上につり上げられているし、手錠をはめられた両手を追いかけるように少し前のめりになった上半身と比例して、まるで犬のようにお尻があがっていた。
腰が何か動かないもので固定されているので苦しくはないが、恥ずかしさは半端ではない。
「場所とっちまうからなぁ。製品化はやっぱ無理か。」
「っ…あ……」
「ん?」
困ったように頭をかいた輝は、本当に仕事の手助けに優羽を呼んだらしい。
製品の出来映えを非難したあと、何とか解決策を練ろうと優羽の回りを再度歩く。ところが、優羽の真後ろに立った途端に、輝はピタッと足を止めて、楽しそうに笑みをこぼした。
「なに?優羽、感じてんの?」
「……くっ…」
答える代わりに、加えさせられたボールの隙間からぽたりとヨダレが落ちていく。
全くそんなつもりはないはずなのに、優羽の下着は大きなシミを作っていく。違うと、力なく首を横にふっても説得力の欠片もなかった。
「──ッ!!? ふっ…ぇぅ…っ!?」
「やっぱ、感じてんじゃねぇか。」
ワンピースなんか着るんじゃなかった。
今朝、幸彦から贈られてきた真新しいワンピースを作った人は、着た人がバレーボール選手のようにトスをあげたあとのような格好をすることを想定していなかったのだろう。
おかげで、丸見えになった優羽の下着の脇から輝は意図も容易く指を差し込むことができた。
「親父と晶にヤられてから、体がウズいて仕方ねぇんだろ?」
差し込んだ指を、輝はゆっくりと引き抜く。
それにならって、優羽の蜜は糸を引いて足を濡らした。
「ッ!!?…ちぁ…。」
「嘘つくなって。」
グチュっと鈍い水音が響き、ゆっくりと出し入れされる。
そのたびに優羽の口からは、吐息とヨダレがこぼれ落ちていく。
「指一本じゃ、足んねぇか?」
「……ッ…っぁ…やっ」
「ここが好きだろ。」
「ヒッ…っう…ぁ」
「あぁ、そういや好き者の優羽ちゃんに、ちょうどいいモノがあるぜ。」
優羽は、何も言ってない。
言えないのに、輝は勝手に話を進めていく。
否定をしたくても、口にいれられた物のせいで満足に舌が動かせないのをいいことに、輝は優羽の意思を無視して、その下着をはぎとった。
「──!!?ヒァ…ぁ…ぅあッ!?」
「効くだろ?今いいとこに固定してやる。」
「にゃっ!?──ふっ…ゃッ~うぁ…っ…。」
下着を剥ぎ取るだけじゃなく、下腹部に固定されたそれに、優羽の脚がガクガクと震えはじめる。
つま先立ちの足はほとんど体重を支えきれておらず、乙女の領域を犯す代物を追い出そうと奮闘している。
「落とすんじゃねぇぞ。」
「ヒぐぅッ!?」
最奥まで差し込まれた異物に、優羽の体はエビ反りにのけぞった。
力を込めても込めなくても抜けそうになる異物を落とせばどうなるか、現状から最悪しか導き出せない答えに、優羽の意識は自然と下半身に集中していた。
「あ~あ~。しゃあねぇなぁ。」
「ゴホッ…~っ…て…る」
前にまわってきた輝に、口のものをとってもらった優羽は無意識に酸素を求めて咳き込む。
苦しげな優羽の声が地下室に響く中、その口枷を脇に放り投げた輝は、グイっと優羽のアゴを持ち上げた。
「ッ!?」
目隠しごしに、輝の息づかいを感じる。
咳き込むことに一生懸命だった唇が、再び酸素不足の息苦しさを認識し始めるが、絡めとられる舌に頭がうまく働かない。
それなのに、無遠慮な輝の手は、優羽の胸を下からつかむように持ち上げる。
「メスイヌみてぇだな。」
「……ぁっ…てる…」
「乳首たたせて、気持ちいいだろ?」
「やめッ…やっ…ヤダァァァッ!」
「しっかりイってんじゃねぇか。ほらっ。輝さま辞めてくださいって言ってみ?」
蜜壺に埋め込まれた玩具が卑猥な音をあげながら回転しているが、それを止める術を優羽は持っていない。
輝のいう台詞を言葉に出来るならしたいが、羞恥と混乱に暴れる身体は言うことを聞いてくれない。
そもそも、一度快楽の波を迎え入れてしまった優羽に輝の声は理解できていなかった。
「親父や晶みたいに、気絶するまで犯してやろうか?」
「なんッ…で…しって…ぅ…アッ!?」
「ん?」
「はぁ…っ…ぅあッ、ッ──…ァァァッ……」
声が思ったように続かない。
愛蜜の匂いを放ちながら苦しそうに吐かれる悦な息と規則正しい機械の音が、妙な感覚を植え付けてくる。
「俺ってやっぱ天才だわ。」
ゴクリと喉をならして、満足そうに輝はうなずく。
大人のオモチャに弄ばれる優羽の体は、時々痙攣を起こしながら、絶頂という遊びを何度も繰り返す。
輝の手に愛撫される胸の鼓動は、掴めば壊れてしまいそうなほど早く動いていた。
「優羽。」
「ひっ…も…ッヤメ」
「誰がやめるかよ。」
耳元で囁きながら、ワンピースをはいだ輝の手は止まることを知らない。
外気にさらされて、その快楽を胸の形で主張する優羽の肌を思い切り堪能していく。
「ッヤァ!?」
無機質な機械と違って、生暖かな輝の指先に形を変える胸は優羽の快楽を増幅させていた。
身動きの出来ない体に、確かに与えられる快楽。
絶妙な組み合わせが、優羽の理性をおかしくさせる。
「もう離さねぇ。」
噛みつくような輝のキスは、本能に従って激しく優羽の吐息を犯す。
そうして意識が朦朧とする優羽の背後にまわると、蜜壺に刺さるそれを強く握りしめた。
「ッ!?──…いヤぁ!!」
「イイの間違いじゃねぇのか?」
「ちぁ…うぅ……ヤメ…ッ…て」
握りしめたそれを手動で深く出し入れすれば、優羽の体は容易に反応する。
グチュグチュと蜜をあふれさせ、かろうじて触れるつま先から床にまで愛液が伝っていた。
「だったら、なんて言うか教えてやっただろ?」
わざとらしく最奥をつく輝に、優羽の体は跳ね起きる。
このままではイキ死にしてしまうと、優羽はわずかに残る意識でその言葉を伝えようとした。
「て…るさ…まァっイヤァァァッアッ!?」
「ん? なんか言ったか?」
「ヤァも…いきたくな…ッ」
鳴き叫びながら首を横に振る優羽の背中に、輝は唇を押しあてる。
なぜこんなに可愛いのか、いっそのこと全部食ってやろうかという衝動にかられるが、そういうわけにはいかない。そのかわり、服の上から軽く歯をたてることにした。
「…はぁ…はぁ……ふァッ!!?」
「きっつ。てか、すげぇな。」
前ふりなく一気に玩具を引き抜かれ、かわりに生身の男で貫かれた優羽は、その感触の違いに驚いて悲鳴をあげた。
無機質な機械とは違い、生身のそれは妙に身体の中で主張し、まとわりついてくる。
「自由に動かねぇ体が余計に気持ちいいだろ。」
「ッ~~…ぁ…ヤぁ…ぅあッ──」
「優羽は、変態だな。」
「ッ!!?」
「目隠しされて、縛られたまま犯されてんのに、まだイクのかよ。」
「ちっちが…輝さまっやめ…ヤメ…てくらさっ…あぁ───」
「聞こえねぇなぁ。」
楽しそうに口を歪める輝の顔が見えない。
後ろから容赦なく打ちつけられ喘ぐさまは、動物が交尾をしているみたいで脳が刺激される。
でも間違いなく反応する体が、人間であることを微(カス)かに繋ぎ止めていた。
「ゃっ…ヤらぁ…ぅっ…あッ……イッ!!?」
「一人でイクんじゃねぇよ。」
「アッ…あっ…輝ッヤメッ」
そのあとの記憶は定かではない。
点滅する視界に、何度か意識がとんだ気もするが、逃げられない快楽の恐怖から何度も輝に助けを求めたことだけは覚えている。
助けられた記憶はない。
容赦なく腰を打ち付けるスピードを早めた輝の動きに、優羽は鳴き声をあげながら一際大きく男を締め付けた。
──────────
────────
──────
「わりぃな。」
誰も答えない地下室で、輝は一人息をつく。
あまりに優羽が可愛すぎて抑えがきかなかったことは反省するとして、気絶するまで犯すつもりはもちろんなかった。
「痕はついてねぇな。」
苦笑しながら輝は、気絶した優羽の体を丁寧に解放していく。
手も腰も上質の布を中に当てていたおかげで、優羽の身体には傷ひとつついてはいない。
「次は優しくしてやるよ。」
涙に濡れた目隠しをはがすと、輝は少し申し訳なさそうに優羽のまぶたに口づけをおとす。
そうして、優羽を自分のソファ兼ベッドへと静かに寝かせた。
「やっぱ、まだ早かったか?」
冷静に部屋を見渡して輝は苦笑をもらす。
明かりのついたその部屋は、試作品を含めた全ての商品がおさめられた場所であり、輝の発明室。
「まっ優羽のおかげで、いい商品が出来上がるぜ?」
答えない優羽の頭を優しく撫でた輝は、その横に腰をおろして何やら作業に取りかかろうとした。
その時、ふと思い出したように輝は携帯を取り出すと、数回ボタンを操作して先に電話をかけた。
「あっ、親父?優羽、くったから。」
都合よく電話に出た出張先の幸彦が、輝の突然の報告に、一気に不機嫌になったのが伝わってくる。
そうかと短い答えが帰ってこないのが、何よりの証拠だった。
「で?」
「室伏に優羽は会わせてねぇよ。」
本来の用件を伝えた輝に、幸彦は不機嫌さを隠しもしないままうなずく。
ムスッとすねたような雰囲気は陸がよくする行為だが、元を正せば幸彦が発祥とも言えた。
「警戒はしておくのに越したことはない。」
「あぁ、わかってる。」
「もうしばらく帰れそうにないのでね、くれぐれも頼んだよ。」
「あぁ、わかってる。」
同じ返事を繰り返した輝に満足したのか、幸彦はそれ以上何も言わなかった。
「わかりやすい親父。」
通話の切れた携帯の画面に、輝は一人クスクスと静かに笑いかける。
長年の付き合いだ。
声のトーンや喋り方で、大体の感情や言いたいことはわかっていた。
「まっ、どれだけ大事にしようが渡さねぇけどな。」
寝息に落ち着いたらしい優羽の頬を撫でながら、輝はその顔からソッと笑みを消した。
──────────
────────
──────
最上級のホテルの一室に男女が一組。
眼下を望む夜景に心奪われるはずなのに、この男女は各々別の場所に視線を向けていた。
「…り…じ……さま…ッ……」
「なんです?今忙しいのであとにしなさい。」
ベッドのシーツを乱す女と、着衣ひとつ乱れない秀麗な男。
自分を呼ぶ声に苛立ちを感じながら、男はパソコンのマウスをカチリと動かした。
「さすが輝が作っただけあって売れるのも早いな。」
フッと口角が上がる。
液晶に照らされた部分でしかその顔は見ることができないが、端正な顔立ちに眼鏡の下の冷たい瞳。
情欲にあえぐ女の視線を背後で受けているのに、随分余裕な態度のまま男は女を軽くあしらっていた。
「…っねが…──…します…りッ……」
「仕方ない人ですね。ほら、しばらくこれで遊んでなさい。」
「──あぁッ!!?」
一瞬冷めた視線を女に向けたが、手元のリモコンをひとつ操作しただけで、男はすぐにパソコンへと意識を戻す。
悶えあえぐ女の声をBGMに、男はパソコンの液晶に写し出される資料へ目を通していたが、ふと何かを思い出したように苛立ちをその顔に浮かべた。
「まさか養女とはね。」
そう呟いてから眼鏡をはずして、イスに体をあずける。
脳裏には今日の昼頃に会った少女の顔が浮かんでいた。
まだ咲きかけた花の蕾は、大事に育てられている途中といったところか。あどけなさの残る少女の真っ直ぐな視線が自分を見つめているように感じた。
綺麗とは言えないが、汚したくなる。
無駄に加虐心を呼び起こさせる女。
「あの幸彦様がね。」
何が可笑しいのか男はクックッと喉をならす。
室伏涼二
幸彦の秘書で右腕の男。
普段は物腰柔らかく、仕事も淡々とこなすが、こうして時々見せる野心的な雰囲気はただ者ではない。
「女なんてみんな同じ。」
「ッあぁ……涼二さ…まぁ……ッ…アァァァ……」
「社長がこんなに淫らなんて、あなたの会社の社員が知ったらガッカリしますよ。」
もう一人分の体重が乗ったことで、ベッドのスプリングがわざかにきしむ。
涼二の見下ろす女には彼の言葉が聞こえていないのか、ようやく叶うであろう願いの喜びに、うち震えた声をあげていた。
「そんなに特別なのか?」
自分を見つめる少女が消えない。
"あの"魅壷家の連中が、誰にも知らせることなく養女に迎えた存在。
どこにでもいるような普通の女。
「今のお前には、わからないだろうね。」
馬鹿にしたように笑った幸彦の顔が見えた気がした。
それをどこかぬぐいさるように、涼二は脱ぎ捨てた衣服をベッドの脇にバサッと投げ捨てる。
「社長がいい加減だと社員は、苦労しますよ。」
そのまま苛立ちを腰に含めれば、女は耐えきれずに背中に爪をたてた。
手入れの行き届いた爪が、均整のとれた肌に突き刺さる。
律動に合わせて残る赤い線に、涼二はますます苛立ちをあらわにした。
「所有欲の強い女。」
痛みに顔をしかめることもなく涼二は、女を見下ろす。
その瞳の冷たさが逆に身体の熱をあげたのか、女がゴクリとノドをならしたのがわかった。
「ここまで溺れたなら、もうわが社の敵ではないですね。」
「……ッ!?」
急にやんだ律動に、近年、急成長を見せ始めていたライバル会社の女社長は首をかしげながら物足りなさを訴える。
「事業から手を引きなさい。約束できるなら、ご褒美をあげてもいいですよ。」
どこから取り出したのか、いや、はじめからコレを仕込んでいたに違いない。
ニコリと笑う涼二に突きつけられた眼前の書類に、女は二つ返事でサインをする。それを涼二は自身を埋め込んだまま、冷めた目で見つめていた。
「………。」
一時の感情にまかせて、人生を棒に振る。
女なんて、みんな同じ。
「特別なんて存在しない。」
「…ァア……りょ…ぅじッさ…ま──ハヤ…クぅ~」
「うるさいですよ。」
これくらい社長が自分でやればいいのにと思えば、また怒りが込み上げてくる。
急かす女との関係もこれで最後だと、どこか割り切った感情の中で、消えない少女の面影を抱いている錯覚を覚えた。
女を怒りの発散に使ったあとで、涼二は再びパソコンへと移動し眼鏡をかける。
事切れたように眠る女がサインしたばかりの契約書をしまいながら、明るく照らし出された画面をみて彼は目を細めた。
「……またか。」
呆れたように息を吐きながら、高級な椅子に腰かける。
眼鏡越しに見える視界は良好になるはずなのに、なぜかぼやけていた。
「……はぁ。」
女を抱くとたまに訪れる変化。
けれど、今は視力にかまっている暇はない。目を放した、たった一時間あまりで今日仕入れたばかりの新商品は完売していた。
「輝さまに増産を依頼しないと。」
疲れたように息を吐くと、涼二は輝にメールを作成するためにキーをたたく。
ちょうどその時、電話が音もなく静かに光った。
「社長も相変わらずタイミングがいいですね。」
──なんのことかな?
「まぁいいですが。例の社長、折れましたよ。」
──輝の薬は、絶大だろ?
「そうですね。すでに完売ですよ。」
そうかと電話越しの相手がうなずいたあと、業務的なやり取りをして電話を切る。
輝に送るメールは別に今じゃなくてもいいだろう。
これ以上、この場で仕事をしたくなくて、涼二はパソコンから手を離す。
「まったく。あの親父は。」
はぁーと、ため息を吐かざるをえない。
業界トップクラスの玩具メーカー。長年、取締役兼社長でもある魅壷幸彦の下で働いてきたが、最近の社長はどことなくおかしい。
もうここ一ヶ月、何をするにしても上の空な気がする。いや、仕事は前々からいい加減だった。むしろ仕事が片付くスピードは早くなったといっても過言ではない。
「だからってなんで俺まで。」
休日がない日が一ヶ月も続けば、さすがにブラック会社として訴えたくなってくる。
原因は、おそらく昼間、魅壷家で見た少女だろう。何がそんなに彼らを突き動かすのかわからないが、現にこうして自分は被害を被(コウム)っている。
気の乗らない商談に行かされた挙げ句、新作の出来を確かめてこいときた。
そんなことは自分でやれ。
ノドからでかかった言葉も社長相手には飲み込むしかない。そんなことを考えていると、またあの少女の顔が視界を横切った。
「……イラつく……」
それが何に対してなのかは、わからなかった。
ただ、あの少女を思い出すと沸々と苛立ちが増す。
「優羽……か。」
パソコンの画面には、いつ手にいれたのか、優羽の顔がうつしだされていた。
「彼女に興味はないが──」
しなやかな涼二の指が、画面上の優羽の唇をなぞっていく。
「──彼らがどんな反応を見せるかは、興味がある。」
クックッと、のどをならすその瞳は、暗闇の中で残虐に光りを帯びて優羽を見つめる。
極秘に迎え入れられた秘密の娘。
特別美人でもなく、何か特異があるわけでもない普通の少女。
マスコミや記者が騒ぎ立てないのは、事前に操作していたのだろう。
そこまでして守りたい女は一体どれほどまでの女なのか、興味は確かにわいてくる。
「久しぶりに楽しくなりそうだ。」
パタンと閉じられたパソコンのせいで、部屋は暗くなり静寂に包まれた。
安寧(アンネイ)の睡眠を貪(ムサボ)る女を残したまま、涼二は来たとき同様、キチッとした身なりで部屋をあとにした。
「お待ちしておりました。」
夜明け前の高級ホテルから、何もなかったかのようにひとり出てきた涼二へ、運転手は頭を下げて後部座席の扉をあける。待たせていた車に体をすべりこませると、涼二は何も言わずに携帯を取りだし電話をかけた。
早朝にもかかわらず、素早い反応がかえってくる。
───あなたからなんて珍しいわね。
「あなたの協力をして差し上げようと思いまして。」
──忙しいんじゃなかったの?
「社長はしばらく帰ってこれないですし、わたしの仕事も終わりましたから。」
クスクスと笑う涼二は、携帯を持つ手とは逆の手に持ったものを眼鏡越しにかかげる。
売り切れたはずの媚薬が、車の振動に合わせて揺れていた。
──────To be continue.
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