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第5話 囚われた感情

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「たっだいまぁ~。」


ここ数日不在だった陸は、遠足という名前の旅行を終えて帰宅するなり、ハイテンションで玄関扉を開ける。正面の壁に描かれたよくわからない絵画以外に、広い玄関ホールに出迎える者はいない。
時刻は夜八時。
寝静まる時間まではまだ数時間の余裕があった。


「なんで誰もいないわけ?」


帰るってメールしといたのにと、ぶつくさ文句を言いながら、陸は旅行カバンをゴロゴロと引きずる。そのまま背後で扉の閉まる音が聞こえると同時に、人影のなかった玄関ホールに明るい声が響いた。


「あっ。陸。」

「早かったですね。」


階段を並んでおりてくる男女に一瞬、陸の目の色が変わる。が、それはすぐに消え、階段を降りてくる戒と優羽を見上げる形で陸は立ち止まった。


「帰るってメールしたじゃん。」


優羽は並んで歩いていた戒を追い越すように階段を駆け降りると、ムスッとふてくされたような顔をする陸に笑顔を向ける。


「遠足、楽しかった?」


笑顔で質問する優羽に、陸も「うん」と笑顔でかえす。


「でも、優羽がいなかったからつまんなかった。」


ほほを少しふくらませながらギュッと抱きついてくる陸は可愛い。
けれどそこは、やはり男の子。
自分より若干背が高いものの、すっぽりと包み込んでくる体型の差は、ドキドキと優羽の心拍を不規則にさせた。


「おっおかえりなさい。」


まだ肝心な言葉を言っていなかったと、優羽はドキドキと鳴る心臓の音を誤魔化すように陸の頭を撫でる。
ふわふわと柔らかい毛がとても気持ちよくて、なんだかいい匂いがした。


「優羽、心臓うるさい。」

「ッ!?」


耳元でクスッと笑った陸に、優羽の顔は音をたてて赤く染まる。
それをしてやったりの表情で眺めながら体を離した陸は、もう一度可愛らしい笑顔で優羽に微笑んだ。


「お土産あるよ。」

「本当っ!?」

「うん。あっ!でも、どれかわかんないや。」


陸が振りかえる先を見つめて、喜んだ表情のまま優羽は絶句した。
山積みとまではいかないまでも、よくわからない荷物がたくさん玄関ホールにごったがえしている。


「え?これ全部、お土産?」

「そうだよ。」

「またですか。断る術なら持っているでしょう?」

「え~。戒だって、人のこと言えないじゃん。」


人並み以上に人目を引く容姿をしているせいかおかげか、彼らが一歩町を出歩けば、おまけやサービスは勝手についてくる。
学校の帰りだろうが、仕事の帰りだろうが、お構いなしの接客に魅壷家の人々は普通なら会得しなくてもかまわない回避術を身に付けているらしかった。けれど、今回はほぼ強制的に参加させられた学校行事。
必然的に人混みが嫌いになったことを理由に、休むことは許されない。


「優羽が喜ぶと思って、最近は全部持ってかえってくるくせに。」

「陸ほどでは、ありませんよ。わたしは余計な物を自ら買い足すなんてしませんから。」


そう。彼らは断る術を持っているはずなのに、最近はその術を封印したらしい。
理由はただひとつ。
優羽の喜ぶ顔が見たいから。
他にも何か言いたげな雰囲気がありそうだが、戒の探るような視線に、陸はあきらかに顔をそらした。


「優羽~。明日、部屋に取りに来てね。」

「えっ?」

「僕、疲れちゃったから今日はもう寝る。」

「ご飯は?」

「食べてきたから平気ぃ。」


あくびをしながらゴロゴロと陸は荷物を玄関先のお土産コーナーに引きずっていく。
その山をどうするのかは知らないが、とにかく今は放置することにしたらしい。


「あとで運んでもらって。」

「わかりました。」


階段を上りながらお願いをした陸の背中に向かって戒がため息を吐く。
誰に運んでもらうのかわからないが、とにかく問題はないらしいので、優羽も深く気に止めずに陸の背中を戒と一緒に見送った。
その姿が踊り場で曲がり二階へと消えていくのを確認してから、戒は困ったように優羽を見る。


「気づかれてしまいましたね。」

「えっ?」

「いいえ。輝も待っていますし、晩御飯の用意をしましょうか。」

「うん。」


つい先程、戒の部屋で惰眠をむさぼっていた優羽は、陸からのメールで目が覚めた戒に起こされた。
起きたばかりでそんなにお腹はすいていなかったが、今から作ればちょうどいい具合にお腹も空くだろうと、戒と話しながら階段を降りていたことを思い出す。
晶はどうやら仕事に行ってしまったようで不在らしいが、輝は仕事部屋にこもっているらしかった。


「では、行きましょう。」

「うん。」


もちろん拒否する理由もなく笑顔でうなずいた優羽に、戒は柔らかな笑みを浮かべてキッチンへと歩き出す。
しかし、楽しそうに隣に寄り添ってきた優羽の横顔を見つめる瞳は、心配そうに揺れていた。
翌朝、しとしとと降りしきる雨の音で優羽は目が覚めた。
朝食にはまだ早いが、用意をすればそうでもない。
珍しく寝覚めがいい朝だと思う。


「昨日のせいかも。」


ここ数日。中々寝付けなかった理由が、昨日の戒とのお風呂で改善された。
戒には散々もてあそばれたが、体と一緒に胸のモヤモヤも少し整理出来たようで、いつもならベッドの中で人知れず悩んでいたことも、特に気にもせずに素直に眠れた。
いい眠りが出来ると体調も軽い。
世間は梅雨入りのダルさに顔をしかめているだろうが、優羽は元気にベッドから体を起こす。


「今日の朝ごはん何かなぁ?」


自分以外には誰もいない自室で、優羽は鼻唄混じりに、部屋に備え付けられた洗面に向かっていた。


「晶も輝も仕事だろうし、戒は図書館かな?」


特に代わり映えのない一日だと、優羽は想像しながら顔を洗う。
そうして、一通り朝の洗面を終わらせた優羽は、ベッドと部屋の入り口のちょうど真ん中に位置するテーブルへと視線を走らせた。
誰が置いてくれるのかはわからないが、毎朝必ずそれは届いている。


「お父さんともしばらく会ってないな。」


差出人は魅壷幸彦。
テーブルへと歩いてきた優羽は、その綺麗な四角い箱を開けながら、寂しそうに言葉を落とす。
外の雨にならって、どんよりと気持ちまで沈みそうになっていた。


「でも、今日は陸がいるもん。」


今日はひとりで過ごさなくてもいいかもしれないという淡い期待が、優羽の口調を明るくさせる。


「なかなか会えないのは、仕方ないよね。」


正確には、幸彦とは"あの日"以来会っていない。


「元気そうだけど。」


そう言いながら、優羽は箱を開けると、クスッと笑みをこぼした。
幸彦のセンスはとても良い。
早速着替えようと、優羽は寝間着をスルスルと脱いでいく。


「どうして、いつもワンピースばっかり──…ッ!?」


幸彦からのプレゼントを身に付けようとした瞬間、あきらかに戒がつけたと思われる赤い花が目に飛び込んできた。
散りばめられた所有欲の証は、朝の光で見ると想像以上に赤裸々な毒牙を放っている。


「もぅ。」


幸いにも、幸彦からの贈り物は戒のキスマークを上手く消してくれる造りになっていたので、優羽は恥ずかしさに耐えながらも、無事に朝の着替えを済ませた。


「優羽、おはよっ。」

「あ、陸。おはよう。」

「昨日の約束覚えてる?」

「えっ?」

「僕の部屋にお土産、とりにきてくれるんでしょ?」


階段を下りた先で遭遇した陸に、心配そうな目でのぞきこまれれば、うなずくしかない。


「やったぁ。楽しみに待ってるね。」


やっぱり陸は可愛い。
朝から陸の笑顔に癒されると、優羽は笑いながら陸のあとに続いた。


「優羽、おはよう。」

「おはようございます。今日はお仕事?」

「そう。さっき帰ってきたところなんだけどね、また急患で呼び出しがあった。」

「そう、雨降ってるから気をつけてね。」

「うん、ありがとう。」


珍しく疲れた顔を見せながら頭をなでてくる晶を見上げて、優羽は心配そうに唇をむすぶ。


「心配いりませんよ、晶は慣れてますから。」

「あっ戒。おはよう。」


朝食の席につきながら、戒は優羽の頭に手をやる晶に非難の眼差しを向けた。
それに気付いた晶が少し笑った気がしたが、たぶん気のせいだろう。


「輝は?」


自席に腰掛けながら優羽は、最後の一人がいないことに気づく。


「最後の仕上げだとかで、今日一日は自室にこもりきりだそうですよ。」

「そっか。」

「出来たら後で様子見に行ってくれるかな?」

「うん。」


晶の提案に、優羽は快く返事をした。
確かにただでさえ陰気な地下室なのに、こんな雨の日では調子があがらないだろう。
心配なので、晶に言われなくてもたぶん見に行っていたにちがいない。


「ダメだよ。」


始まった食事の中で、それまで黙っていた陸が真顔で晶を見つめる。


「だって優羽は僕と過ごすからね。」


こういう時はなんていうのだろうか。
それぞれ手の動きがピタッと止まり、ほんの一瞬、静けさだけが空間を支配する。
次に動いたら何かとんでもないことが起こるんじゃないかと思ったが、どうやらそうはなりそうになかった。


「食べ過ぎないようにね。」


ニコッと食事の心配を口にしただけで、晶はそれ以上、陸に何も言わない。


「いってきます。」


足早に朝食をとり終えた晶は、ポンポンと優羽の頭に挨拶をして部屋を出ていった。
珍しくキスをしなかった晶の様子に戸惑いながらも、優羽は無言で食事をし続ける戒に視線を送る。


「っ。」


ニコッと感じた視線を受け流すように目を伏せた戒にやられた。
雰囲気の緩和に救済を求めたのに、これでは秘密の目配せをしあったようにしか見えない。


「ッ!?」


じっと、何かを探るように見つめてくる陸の顔が不機嫌に膨らんでいく。


「優羽、いってきます。」


薄情もの!と叫びたかったが、戒はこの不安定な空間に優羽を置き去りにしたまま出掛けていってしまった。
思わず、喉がなる。
陸の視線をなんとか上手く切り抜けながら、なんともぎこちない朝食を優羽は終える。陸は何か言いたそうだったが、優羽が後片付けを全面に引き受けることで多少気持ちが和らいだのか、自室に戻っていく頃にはすっかりいつも通りに戻っていた。


「あれ、どこだったっけ?」


一通りの片付けを終えた優羽は、陸の部屋にむかおうとして廊下で一人立ち止まる。

どれも同じドアで、どこも同じ造り。


「二階の角部屋って言ってたけど。」


階段を上った二階が兄弟と幸彦の部屋があるフロアだと、晶が前にくれた地図に書いてあったはずだ。
等間隔に並ぶ廊下に面した巨大な窓の向こうは、まだ雨が降っている。
階段を背後に、T字に広がる廊下を見て、角がどの方向の部屋を指すのかがわからなくなってしまった。
今になって、陸を先に行かせたことを後悔する。


「たしか、右。いや、左だったかも?」


左右を確認するように、覗きこんだ優羽の頭だけが廊下で揺れていた。
不在の部屋を覗くまねはしたくない。


「何してるの?」

「陸っ!」


前から歩いてくる人物に、優羽は涙目で駆け寄る。


「陸のところに行こうと思ってたの。」

「迷っちゃった?」

「うん。」

「だと思った。」


困ったように、陸は駆け寄ってきた優羽に笑いかけた。
ほっとする。
どうやら、朝の不穏な空気はもうどこにもないみたいだった。


「もう、ちゃんと覚えてよね。」

「うん。ごめんね。」


一番右端の部屋に優羽を招きながら文句をいう陸に、優羽は小さく頭を下げる。


「素直が一番だよ。」

「それ、お父さんの真似?」

「あたりー。」


ニコッと天使の笑みで正解を誉めてくれる陸に、優羽も自然と笑みがこぼれた。


「よかった。」

「なにが?」

「いつもの陸だから。」


部屋のドアをあけて、レディーファーストだと先を許してくれた陸の横を優羽は通り抜ける。


「僕が怖かった?」

「そっそんなことないもん。」


仮にも年下の陸にバカにされたみたいで、優羽はドアを閉める陸を振り返って口をとがらせた。
陸は、それに笑いながらも優羽を近くに座るようにうながす。


「いいソファだね。」

「うん。僕のお気に入りなんだ。」

「それでかぁ。」

「なにが?」

「陸の匂いがする。」


部屋に入った時からそうだが、ここは陸の匂いが充満していると思った。
昨日、抱き締められた時にも同じ匂いがしたが、香水とは違う軽い香り。


「これのせいじゃないかな?」

「なに、これ?」

「ドライフラワー。」


クッションの中に詰めているものの正体を説明する陸に、優羽は感心した目を向ける。
陸はこういうところにこだわりを持っているのかと、新たな発見ができたようで嬉しかった。


「こういうのがあるなんて知らなかった。」

「欲しい?」

「えっ? いいの!?」

「うん。その代わり、毎日僕と一緒のにおいが優羽からすると思うけどね。」


からかうように笑う陸に、優羽の顔が赤く染まる。
それを横から眺めていた陸の香りがギシッと音をたてて移動する。


「ねぇ、優羽ってさ、僕のことガキだって思ってるよね?」

「えっ?」


抱えるクッションの上から陸の重みが加わって、優羽の顔が固まっていく。
定まらない視線を無理やり陸に合わせているようで、さっきまで赤くしていた顔がビクリと反応した。


「りっ、陸も知ってるの?」

「も?」


言ってからしまったと思う。
はっと、口からついて出た言葉に絶句した優羽の瞳に、口角をあげた陸がうつる。


「ふぅん。」


陸は天使なんかじゃない。
意地悪な悪魔だと、陸を見つめる視線がそう訴えていた。


「りッりく?」


ガラリと変わった陸の雰囲気に、クッションを抱きしめる優羽の腕に力がこもる。


「もう、誰かに告白した?」

「ッ!?」


驚愕に目を見開いた優羽の額に自分の額をくっつけながら、

「優羽って正直だね。それって誰?」

と陸は笑った。
ゾクゾクと悪寒が走る。
合わさった額のせいで、嫌でも目に入る陸の視線が怖い。


「ここに跡つけたやつは、誰かって聞いてるんだけど?」

「キャァァッ!?」


逃げようとした瞬間、ワンピースを下からたくしあげられて優羽は、クッションを取り落とした。
恥ずかしさで、顔が赤くなるのがわかる。
首もとまでたくしあげられた服は、その下に隠れていた優羽のすべてを陸に教えた。


「晶?輝?」


ソファーに埋め込むように押し倒してくる陸から逃げることも出来ずに、優羽は自分の体をまじまじと見つめる陸の質問を聞いていた。
答えられるわけもない。
自分でもまだ自信を持って言い切れない部分が残っている。


「父さん、じゃないよね?」


バランスを保っていられずに、倒れこんだ優羽を見下ろしながら悪魔は微笑む。


「じゃあ、戒。」

「ッ!?」

「あたりー。」


クスッと笑う陸の顔は、可愛いとは程遠い、男の色気を放っていた。


「りっ陸ッ。」


声が震える。
現実に追い付いてきた頭が、抵抗の二文字を実行させようとしてくるが、ワンピースをたくしあげる陸の手に触れることがどうしてもできない。


「なに?」


クスクスと笑う陸に、優羽の手がピタリと止まった。


「ねぇ、優羽。」

「なっなっなに?」


急速にのどが乾いてきて、声がうまく出せない。
見下ろしてくる陸が怖い。
怖いのに目がそらせなくて、指先もわずかに震えていた。


「覚悟、出来てるよね?」

「んッ!?」


突然、上から押さえつけるように重なった陸の身体が、優羽の身体をソファーへと完璧にめり込ませる。苦しいほど重なる唇から時おりこぼれる吐息は、陸の苛立ちの感情が溢れていた。


「僕が一番最初って決まったはずだったのに。」

「ンッ…りっ…ッ~んぁ」

「わかってんの?」


何を言っているのかよくわからない。
わからないから、答えられずに、優羽はただただ、陸のキスに全身で答えるしかない。


「優羽は、ダメだね。」

「やッあっぁ!?」

「こんなに教え込まれてんのに、イヤなわけないでしょ。」


苦しくて、怖くて、押し退けようとして陸の肩をつかんだ優羽の手に力がこもっていく。

陸も知ってる。

誰にも見られていないはずなのに、持ってしまった関係を否定するどころか、肯定もさせてもらえない状況に困惑する。
家族全員。共犯なのか、狂犯なのかはわからないが、それでも優羽が女である非力さを痛感するには十分な時間だった。


「イヤァっ!」


好きなのに、どうして。
意識も身体もまるで自分じゃないみたいに、欲望に支配されていくのがわかる。陸の行為を求める感情が、好意なのかがわからなくなる。


「ダメだよ。優羽。」


逃げられない。
めくられたワンピースの中に唯一存在する下着までもはぎとられる。


「ヒァッ!?」


抵抗する間も与えられないほどに差し込まれた陸の指に、優羽の蜜壺はきつく反応した。


「無理矢理でも感じるんだ。それとも、無理矢理だから感じる?」

「ぁっ…アッ…ヤめっ──」

「ねぇ、どっち?すっごい音。誰がこんなに濡らしてるかわかってる?」

「───ッアァ!?そっそこ…ダメっ!!」


微動だにしない陸の肩をつかみながら、絡めとられる舌をなんとか動かす。脚の間にいる陸の指がスピードをあげると、イヤだと優羽は首をよこにふった。


「年下のよさを教えてあげるよ。」

「ヤァァアッ」


男の顔で見つめられながら、優羽は大きく体をのけぞらせて身体を震わせる。
イヤだと首をふっても声は歓喜の叫び声を奏で、義弟にかき出される愛液はとどまることを知らない。


「いっぱい出てくるね。可愛いっ。」

「陸…っり…くッ!?」

「そんな顔で、そんな声で、僕以外に抱かれた罰だよ。」


そう言いながら陸は、優羽の残りの服を剥ぎ取った。


「み…ないで…っ~」


昨日、戒につけられたばかりの赤い後が、背徳感から羞恥に変わっていく。それをジーッと無言で見つめられて、優羽は目をギュッとつぶった。
泣きたくなってくる。
別に陸のものになったつもりはないのに、強いまなざしが妙な罪の意識を植え付ける。
熱い。
陸の視線が燃えるように身体を熱く変えていく。壊れそうなほど早鐘をうつ心臓を必死で抑えようとしながら、優羽は無言の時間に耐えていた。


「自分で拡げてみて。」

「えっ?」


突然向けられた陸の言葉が理解できずに、優羽はキョトンと自分を組み敷く陸を見上げた。
真上にみえる陸の瞳に見下ろされると、年下のはずなのに逆らえない。
無言の圧力が体中に染みわたっていく。


「してくれるよね?」


見せつけるように優羽の愛液がまとわりついた指を陸が舐める。あまりの恥ずかしさから、優羽の瞳に涙がにじんだ。
年下の可愛い男の子。
陸のことをずっとそう思っていた。
それなのに、今、目の前で余裕そうに笑うのは、本当にあの陸なのだろうか。


「いいね、その顔。」

「キャッ!?」

「いい? ここをこう持って──」


命令されたことが理解できずに固まっていた優羽は、慣れた手つきでグイッと引き起こされた腕をそのまま下肢に導かれる。
陸が誘導するせいで、抵抗の声をあげる前に言いなりの体制にさせられていた。


「───そう、手でちゃんと拡げるんだよ。」

「やッ~。」

「イヤだっていいながら、勃起させてんじゃん。」

「アァッ!?」


開いた花弁の真ん中で主張する蕾をピンっと指で弾いた陸は、

「誰にこんなこと教えてもらったの?」

と、涙ににじむ優羽の顔を覗きこんで、イタズラに笑う。
自分で大きく足を開いて、こともあろうか自分の手で男に秘部をさらしている。
言葉に出来ない羞恥心で、顔を真っ赤にしながら小さく震える優羽の女に顔を近づけると、陸はまた余裕そうに笑った。


「美味しそう。」


濡れて敏感に主張する秘芽をこれでもかと見つめられて、優羽の蜜がソファーをつたう。
自分でも下腹部に力がこもるのを、その両手から感じ取っていた。


「まずこれをつけてあげる。」


動いたらダメだからねと楽しそうな声で、陸は何かの箱を優羽の前に置いた。


「お土産だよ。淫乱な優羽にはピッタリでしょ?」

「ッ!!?」


お土産にしては冗談がすぎる。
誰が高校生にこんなものを売ったのかは知らないが、乳首を潰してつける飾りなど、あの輝でさえ使わなかった。
本当にそんなものをつけさせる気かと逃げ出したくても、動いたあとの方が怖くて動けない。


「痛くないから、絶対動かないでね。」

「ヤッ……ッ…いやぁっ~」

「うわぁ、本当にピッタリ。」


恥ずかしさで顔すらあげられない優羽の乳首が、チリンチリンとか細く音をたてて震えている。
お揃いで作られたのか、可愛らしい鈴がついた首輪もつけられ、まるで飼い犬か飼い猫のように優羽は陸にはめられた。


「動くたびに音が鳴っちゃうね。あっ。またこぼれた。」


いまだ自分で押し広げたままの脚の間から蜜がつたう。
もう半分以上、羞恥に泣いて顔を背ける優羽の姿に、陸は嬉しそうな声をあげた。


「使うのもっとあとになるって思ってたんだけど、優羽がこんなに素直に言うこと聞いてくれるなら買ってきてよかったぁ。」


チリンチリンと鳴る細かい鈴の音が優羽の心境を陸に伝えていく。


「そんなに恥ずかしがらなくても、すっごく可愛いよ?」

「ヤっ…恥ず…か…しぃ。」

「じゃあ、鏡で見てみる?」


信じたくない言葉をなげかけられて顔をあげた優羽の目の前には、いつのまにか全身鏡があった。
冗談じゃない。
びくりと大きく鈴の音が響く。


「ねっ?可愛いでしょ?」


ソファーの背もたれに体を預けて開脚する優羽の後ろにまわった陸の舌がほほをなぞる。
鏡越しに見える陸の横顔が、本物の悪魔に見えた。直視したくないのに、あまりの光景に顔がそらせない。


「ほら、ここもたってるのわかる?」

「ヒッぅ…りっ陸──」

「よく見えるように剥いてあげるね。」

「──っヤッ!?」


まじまじと見せられた自分の秘部に全身が震える。
恥ずかしすぎて言葉がでない優羽の変わりに、首と胸についた鈴が"感じています"と陸に知らせていた。大きく腫れた優羽の小さな芽に、愛液をまとわりつかせていく陸の指に迷いはない。


「ねっ。こうして、こすると気持ちいいでしょ?」

「ヤッ…やめッアっ」

「指もこうやって出入りするんだよ。」

「ッ…あっ…ッり…く…ぅ…ふぁっ……~…ッ!?」

「さっきは、これくらい早かったかな?」

「ヤッ!?」


大きな鈴の音が自分の耳に木霊する。陸の手の動きにあわせて花弁がめくれ、奥へと埋め込まれる指がイヤでも視界に写っていた。軽やかな鈴の音と飛沫する愛液の雫、そして快楽悶える自分の顔。
もう見たくないと鳴く優羽の声に、クスリと陸が笑う。


「もう、優羽ってば。濡らしすぎ。」


口をとがらせながら、優羽が逝く寸前で陸は指を引き抜く。


「なに?そんな顔したってダメだよ?」


そんな顔とは、いま鏡にうつっている自分のことなのだろうか?
目に涙を浮かべ、顔を赤く染め、肩で息をしながら果肉を自らの手で開いた、ただのメス。ソファーの上でM字開脚をさせられているはずなのに、まるで自分からおねだりしているみたいに、ヒクヒクと恨めしそうに唇があいている女の顔。


「僕のソファー濡らしちゃったんだから、ちゃんと謝ってよ。」


もう、鏡越しの陸がどうとかじゃなかった。
どうして陸に主導権を握られているのかわからないが、完ぺきに支配された現状に抵抗する意思は残っていない。
疼く体をどうにかおさめてもらいたくて、口が勝手に言葉をつむいでいた。


「──ご…めんな…さっ……」


「なんで謝ったの?」

「いっいッぱ…ぃ…よごし…ちゃったかっ…ら…──」

「優羽って可愛いね。」


鏡越しに見つめあった背後の陸の声が、すぐ真横で聞こえる。


「いきたい?」


耳元でささやかれた質問が、あまりに的を得すぎてゴクリと喉がなった。チリンチリンと鈴が優羽の首にあわせて揺れる。


「じゃあ、お願いは?」

「ッ!?」

「お・ね・が・い・は?」


耳元でそんな風に言わないでほしい。
絶対に陸の方が可愛いのに、そんな目で見ないでほしい。
理性がゾクゾクと欲情に染まっていく。誰にも見せたことのない恥ずかしい姿をやめたくても、陸が許してくれない。


「いかせ…て…くださ…っ」

「優羽は、誰にいかせてもらいたいの?」


耳元で勝ち誇ったように囁く陸の声に涙がこぼれた。
陸の匂いのこもった部屋で、陸がいつも使っているソファーで鏡で、優羽は淫らに乱れていく。剥かれた秘芽の周りをゆっくりと、もて遊ぶようになぞる陸の指先に心が震える。


「アッあ…おねがッ」


もどかしさに声が漏れる。
真横から首筋や耳にかみついてくる陸の愛撫に頭がボーっと熱をおびたみたいに揺れていた。


「知ってるでしょ?」

「アッ!?」

「おねだりの仕方。」


低い声で耳に噛みついた陸の鋭い視線に、優羽はグッと唇をかむ。
これ以上まだ恥ずかしい言葉を言わせる気かと陸をにじりあげたが、この行為が彼らにとって最高の餌であることはまだ学べていなかった。


「優羽。そんな顔しても逆効果だよ?」

「アッ!?」

「もっとイジメタクなっちゃった。」


陸の声が楽しそうに弾んでいるのに、その目は肉食獣のように鋭利さを増していく。
逃げられない。
鏡から自分を見つめてくる陸の瞳を、優羽の涙にうるんだ瞳が受け取っていた。


「早く言わないと、この鈴とお揃いで作らせた他のお土産をあけることになっちゃうよ?」


逆らう言葉が見つからなかった。
陸はやると言ったらきっと、たぶん本当にやる。


「りっ陸にいかせてほしい…で……す」


チリンチリンと、鈴をころがす陸の指に視線が定まらない。
羞恥に染まる赤い顔から零れた涙と溢れた蜜が止まらない。
半ばやけくそに勇気を出した優羽の声も、最後の方は小さく屈辱に消えていた。


「陸っ…陸のが欲し…っ…ぃ」

「優羽は、いい子だね。」


よくできましたと笑う陸は、やっぱり悪魔に見えた。
天使のように可愛い顔で、優羽は野性の男の色気に犯されていく。
ゆっくりと猛獣がその回りを徘徊するように、陸は服を脱ぎながら優羽の前にやってくる。噛みつく前の確認なのか、彫刻のように整った体は、最初に指示した体制のまま変わらない優羽を見下ろして、ニヤリとその口角をあげた。


「優羽。」

「ッン!?」


雪崩のように手を伸ばした陸の重みに、体制が崩れる。


「逃げちゃダメじゃん。」

「ヒァッ!?やっ……ンッ!」


ソファーに押し付けられるように酸素が奪われ、乙女が開かれる。
足を撫で上げるように下肢をもてあそんでいた陸の指が数本同時に最奥に挿入されると、つけられた鈴を激しく揺らしながら優羽は狂喜に鳴いた。


「ヤァッあ……ヒッ…アッ……」


声を荒げ、理性をすてた脳に本能が押し寄せてくる。
陸の指技についていけない体が、甘い吐息と快楽の限界を訴えてくる。


「陸…くっ…ィ…陸ッ───」

「いいよ。可愛くお願いできたご褒美あげるね。」

「───ッ…ぃ…アァァッァァァ」


余裕の表情で自分を見下ろす陸の瞳の中で、快楽に溺れた自分の絶頂がうつっていた。
トマラナイ
気持ちよさに自然と優羽は陸を強く抱き締めていた。
ただ、閉じようとする脚は陸によって叶わず、伸縮をくりかえす蜜壺からは、愛液が飛び散っていく。


「とりあえずソファーを汚したことは、これで許してあげるよ。」


はぁはぁと体をヒクつかせて息を吐く優羽から指を引き抜いて、陸は優羽を抱えあげる。


「あとは、僕に───」


ドサッと優羽をベットに押し倒しながら陸は、荒い呼吸を吐く唇に形のいい唇を押しつけた。
その間も全身を責められ続け、からめとられた舌に息が出来ない。


「───一番をくれなかった罰だね。」


陸の言っていることが理解できない。
一番?
何の順番かはわからないが、そんな約束を陸とした覚えはない。
朦朧とした頭で、弱々しく尋ねる優羽を陸は少しふてくされたように見下ろす。
離れたふたりの唇を銀色の糸が結んでいたが、それを嬉しそうに舌舐めずる陸は、何も答えなかった。


「ゴメンね、優羽。」


何に対して謝っているのか陸に聞こうとした優羽は、その瞬間、深く突き刺された厚みに体をのけぞらせる。
チリンッと乳首の鈴が上下に跳ねた。


「──…ッアァ!?」

「若さを教えてあげるって言ったこと、忘れちゃった?」

「ヒッふっ…ぅ…アァぁ…──」


奥まで突き刺さる男の質量と質感に優羽の声は、苦しそうに爪を立てる。


「壊しちゃったらゴメンね。」


どこか切なさと申し訳なさが入り交じった陸の声。


「陸、こわ…ッアッ……」

「なに?」


ニコリと微笑みながら打ち付けてくる容赦ない陸の腰の動きに、優羽は悦びの声をあげていた。
チリンチリンと音を鳴らしながら陸を求めて、ただただ快楽に身を投げ出し、体中のすべてを支配されていく。

───壊して

愛液の混ざりあう淫妖な音の隙間から、かぼそく鳴く優羽の声が聞こえた。

──────────
────────
──────

「はぁ?優羽?俺んとこじゃねぇよ。寝てんじゃねーの?」


作業中に鳴った電話の相手に、輝は苛立ちを隠しもせずに声をあげる。
地下で仕事をしている彼にとって、時間の感覚は少し違うらしい。


「まだ、寝るには早ぇか。」


一度携帯の液晶画面にうつる時計を確認した輝は、再度、電話越しの相手に向かって声をかけた。


「風呂でのぼせてるとか?」

「本当に一緒じゃないんですか?」

「だから、俺じゃねぇって。」

「そちらにいないんでしたら、もういいです。」


どこかすねたように不機嫌な戒の声に、輝は作業をしていた手を止める。
その時ハッと何かひらめいたのか、その顔がみるみる焦りをにじませると輝は携帯を持ったまま部屋を飛び出した。


「おい、陸は?」


電話越しの相手も息を飲むのがわかる。さっき確認した時刻は、夜の八時半をまわっていた。


「戒。陸の部屋いけ!」


地下からあがる階段を数段飛ばしでかけあがりながら、輝は戒に目的地を知らせる。


「わかりました。」


勉強を終えた戒と患者からようやく解放された晶が帰宅したのは今から五分ほど前。いつもであれば、パタパタと足音をたてて玄関まで迎えに来る優羽の姿が見えないことを不審に思った二人は、今朝、優羽に頼んだ場所へと電話をかけた。
けれど、輝から返ってきた予想外の答えに晶も戒も怪訝な顔をする。
外は雨。
匂いも音も掻き消すほどの雨音に、気づくことが遅れたことの後悔が胸を打つ。


「輝はなんて?」

「晶。陸の部屋です。」

「っ!?」


輝との電話を切るなり、焦燥の顔で振り向いた戒の声を合図に、晶も走り出す。
三人とも陸が帰ってきていたことをたった今、思い出した。


「くそっ!あの馬鹿。」


作業を途中で放り出して地下から階段を駆け上がってきた輝が、同じように緊迫した面持ちで走る晶と戒に遭遇する。


「いつから一緒なんだよっ!?」

「わかりません。朝食の時が最後です。」

「もう十時間近くたってるね。」


合流した彼らは、バタバタと陸の部屋にむかいながらお互いが持つ情報を交換する。

二階の突き当たり。

嫌な予感は当たるもので、一番端の陸の部屋からは、かすかに鈴の音が響いていた。


「くそっ!」


荒い息を吐きながら立ち止まった輝が舌打つ。
防音が屋敷中に施されているせいで集中して聞かなければ聞きとることが難しいそれも、長年、弟をみてきた兄たちに中の現状を知らせるには十分な音量だった。


「陸っ!!」


バンっと、前振りなく蹴り破ったドアを吹き飛ばし、その勢いのまま輝は陸を殴り飛ばした。


「──ッ!?」

「優羽、大丈夫ですかっ!?」


陸の真下で虚ろな目をしながら痙攣を起こしていた優羽の体を戒が助け出すと、すぐさま晶がその様子を診察し始める。


「晶、優羽は?」

「大丈夫だよ。間に合った。」


晶の診断結果に、はぁっと安堵の息が輝と戒の口からこぼれた。
それと同時に、輝によって殴り飛ばされた陸が、ハッと気づいたように辺りを見渡した。


「バカか、お前はっ!! あれほど気を付けろっつっただろうがッ!!」

「力がコントロール出来るまで、優羽に手をあげない約束ではなかったですか?
陸は、優羽を壊す気ですか?」


輝の怒声を引き継ぐように、戒が冷ややかな視線を陸にむける。


「最初に約束を破ったのは、誰なんだよッ!」


陸も負けじと言い返すが、戒の腕の中にいる優羽の様子に気付くと、驚きに目を見開いてハッと息をのんだ。


「優羽っ!!?」


そこで初めて陸は、自分が何をしでかしたのかを理解したようだった。


「陸、食べすぎたね。」

「あ…晶…ぼ…く…。」


困惑と戸惑いに、蒼白な顔で震える陸の頭に晶の手が乗る。
そのまま、困ったように頭を撫でてくる晶に、陸はグッと唇をかんでうつむいた。


「たぶん大丈夫だろうけど、とにかく、病院に連れて行こう。」

「あ。」

「いいから、お前もこい。」

「きちんと優羽に謝ってくださいよ。」


輝にひきずられていく陸に、服をかきあつめた戒のため息が並ぶ。
世話が焼ける弟をもつと苦労するだの、もういい年なんだから手をわずらわせないでほしいだの、さんざん文句を言っているが、弟が可愛くて仕方がないから放っておけないのだろう。
廊下に出て病院へ行く準備をし始めた弟たちを晶はなんともいえない顔で見守っていた。
が、すぐに優羽を抱き上げると、陸の部屋を後にして、前をいく三人のあとへ続く。


「ンッ。」


晶の腕の中で優羽が、苦しそうに眉をよせる。


「優羽、大丈夫だよ。」


晶の優しい口づけが額に落とされると、優羽は少し力を抜いたように鈴を鳴らした。

───────To be continue.
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