【R18】愛欲の施設-Love Shelter-

皐月うしこ

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第21話 聖なる導き(後編)

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愛蜜が奥から溢れ出して止まらないのに、最後の欲情がくすぶったまま、体ばかりが熱をもつ。
精神が"まだ"正常を保っているからか、この放置された状態で二人の男に見下ろされる羞恥は耐え難い。
赤い紐で縛り上げられたメスのカエルは、研究者たちの餌食になるわけにはいかないと、必死に奮闘し始めた。


「ほら、お前のせいで優羽の魔法がとけてしまった。」


残念そうに落ち込んだ幸彦の声に、輝が怪訝な顔を見せるのも無理はない。


「魔法だぁ?」


淫質な音をたてて優羽から引き抜いた指を舐めながら、輝は幸彦と向き合うように身体を起こした。
そしてすぐに顔を引きつらせて後退する。


「わかった。俺は手を出さねぇ。」

「聞き分けのよい息子で嬉しいよ。」


輝が何を見たのかは知らない。
でもきっとよくないものだろう。


「優羽、頑張れよ。」


小声で耳打ちしていった輝に励まされても、ちっとも頑張れる気がしなかった。


「ちょ、輝?!」


寝返りを打つことも叶わない優羽の声が、薄情な男の背中を追いかけて消える。


「優羽。」

「っ?!」


あと一歩というところで絶頂を迎え損ねた優羽の逃走劇は、緩んだ紐を再度締め上げてきた幸彦によって失敗に終わった。


「さぁ、もう一度最初から始めようか。」


────────…

願ってもやまない愛撫の集中攻撃に、意識が混濁(コンダク)し始める。


「イカせ…ッ…く…らさ」

「輝に邪魔をされてしまったからね。さて、どこまでいったのだったかな?」

「いかせてッいやぁッ…ん…ぅンッ」

「ああ、性欲を引き出されようと礼儀を忘れてはいけないと言ったところだったね。」


わざとらしく同じ事を繰り返した幸彦は、はぁはぁと息も絶え絶えに胸を上下に動かす優羽の懇願を無下に扱っていた。
おかげで、生殺し状態をじっくり味わわされる羽目となった優羽は、固定されて痺れた手足を意識する暇もなく、沸き立つ絶頂の欲求を叫び続けている。


「見なさい。」


寝ころんだままグイッと顔だけ起こされた優羽は、パックリと広げられた割れ目の中心で大きく腫れたものを見つけた。ぬらりと光り、三角に押しだされた性器が幸彦の指の間で赤く震えている。


「イクんじゃないよ?」


直後、落とされた痛感の雫に優羽の悲鳴がこだました。


「おやおや、一滴でこの反応だと楽しみがいがあるね。」


嬉しそうに笑う幸彦の眼下で、優羽は大きく目を見開いて身体を弓なりに暴れさせる。
痛いのにキモチイイ


「イヤァァアっあぁッアぁ?!」


ポタリ、ポタリと神経を過敏にさせる液体が下から這い上がってきて胸にも落とされる。
そのお陰で"ソレ"の正体がなんなのかよくわかった。
大きな赤いロウソク。
火が灯るこよりの傍から溶け出した蝋(ロウ)が雨のように降ってくる。


「アッ?!」


思い込みとは不思議なもので、痛みが熱さに変わり、同時に、先ほど落とされた場所の全てが溶けそうなほど熱く感じていた。


「落ち着きなさい。」


火傷の恐怖に悲鳴をあげる優羽を見下ろしながら、クスクスと楽しそうに蝋燭の雨を降らせる幸彦が笑う。


「熱くないだろう?」


その言葉通り、少し息を整えることに集中してみると、熱い液体をかけられる感覚だったのが徐々に変わってきた。
確かにさほど熱くはない。
けれど、肌の表面に落ちるときのピリッと痛くて、じんっと熱い感覚は、何ともいえない刺激だった。


「アッア…~っ…ひぁッア」


液体が落ちた時に打ちつけてくる感覚に酔いしれ、次に落ちる雫の場所に勝手に意識が集中していく。幾度となく時間をかけて落とされるロウの肌に埋まっていきながら、欲しい場所に落ちたときの幸福感と、欲しい箇所に当たらなかった時の残念感に優羽の情緒は乱れていった。


「アッ…ちがッ?!」


動かない身体が、求める快楽を言葉にさせる。


「ちク…びにくらさッ…ァアッ」


そうして与えられる快感は、いつも以上に大きな波紋を伝えてきた。
どうかしてしまったんじゃないかと思うほど、自分の"次を期待する気持ち"に狂っていく。


「アッ…そこッ…違っ」

「ここだろう?」

「ソリェッ…そこッあぁぁっぁ!?」


幸彦がロウソクを左右に揺らせば、優羽の視線も左右に揺れた。
わずかに頭をあげて、赤色に染まる身体中を震わせながら優羽は舌舐めずる。


「アァあ…~ッ…あ…あ」


物欲しそうな顔が、恍惚に揺れていた。


「欲しいときは素直にねだるものだ。」

「アぁ幸彦さまっ…ろうそくッ…優羽のッ優羽の乳首にクダサいッ?!」

「そう、いい子だ。」


どこか満足そうに幸彦は微笑む。


「欲しいものがあるのなら、いつ、どこで、誰に、何をしてほしいのかを全て口にしなければならない。そうでなければ本当に望んでいることが相手に伝わらないのだよ。」


教えるように丁寧に言葉を落とし、熱い液体を落としてくる幸彦を優羽は潤んだ瞳で見上げていた。
欲しいものをくれるのも、くれないのも全て幸彦の手にかかっている。
望むものを手に入れるには、幸彦に心から沸き起こる全ての感情や思いを伝えなければならない。


「"誰"のモノが欲しいのか。そこがとても重要だ。」


ロウソクを脇においた幸彦の顔がゆらゆらと揺れる。
いつの間にか部屋全体が赤い色に染まっていた。


「名を呼ぶ権利が優羽にはある。」


赤く染まった幸彦の両手が、お腹の上に添えられる。


「イヤァァァアッア」


突然の刺激に、享楽に歓喜する優羽の悲鳴が弓なりにのけぞって甘い声を轟かせた。
中途半端に固まったロウソクが、肌から剥がれる感覚に体が跳ねる。
言い様のないゾクゾクと込み上げてくるもどかしさに、心地よくて、こそばくて、全身が性感体に変わっていく。


「お前に名を呼ばれ、求められることこそ。我らが最も欲するもの。」


肌の上をすべる幸彦の手のひらが囁く。


「いつ、いかなるときも、可愛いわたしの娘らしく礼儀正しくいなければならない。」


魅壷の令嬢らしく。
欲しくなったその時に、欲しい場所へ欲しい人から欲しいものを。
求める声は命令と同等の威力を持つ。


「ここを剥がそうか?」

「アァっ?!」


また期待が膨らんだ。
そこを一気に剥がされたらどうなるんだろう。うまく剥がれなかったらどうしよう。
色んな感情を混ぜ合わせた優羽の意識のすべては、秘部の突起に集中していく。


「あぁ幸彦さまっ幸彦サマッ剥がして優羽のソレ──」


わずかに盛り上がった尖端を幸彦の指先が叩いた。
それだけで、キュッと中がしまる。
求める声が形になる。


「───ッアアァアァ」


無理矢理引き剥がされる感覚に電流が全身を駆け抜け、身体が反応して跳び跳ねた。上下に暴れる体の上で、クスクスと幸彦の笑う声が聞こえてくる。
もうダメだった───
きっと我慢の限界を越えたのだろう。


「幸彦さまのが欲しイッ優羽にイレて」

「待ちなさい。」

「早くハヤクっ欲しイッ幸彦さまぁ」


───他に何も考えられない。
ブチッと嫌な音をたてながら、理性を働かせたり、感情を抑えたりする重要な糸が切れたに違いない。
何かのスイッチが入ったみたいに、思考回路がひとつになる。
望むものはただひとつ。
欲しいものもただひとつ。
目の前の人から与えられたいという、貪欲な欲情と欲求だけが、今の優羽のすべてだった。


「壊れた姿がより愛しいと感じるのはわたしの性かな。」


早く早くと急かす優羽を見下ろしながら、幸彦はゆっくりと服を脱いでいく。
いつもは神業かと脱帽するほど服を脱ぐのが早いくせに、これみよがしにゆっくりと脱いでいくその姿に優羽は狂ったように求めていた。

待チキレナイ

早くハヤク 欲しい


「純粋な快楽ほど満たされるものはない。」

「幸彦さ…ッま~~っ」


大事なものが何だったか、乙女の貞操観念も、恥じらいや淑やかさの在り方も全部どうでもいい。
目の前の愛しい人が応(コタ)えてくれるなら、抵抗を捨てて、ただ本能のままに求めるだけ。


「おやおや。」


今日の幸彦は上機嫌に見える。
いつにも増して優雅に、それでいて幻想的な力を放ち続ける魅惑の眼差しで、恍惚に鳴く優羽を見つめていた。


「ッ?!」


勝手にゴクリと喉がなり、下腹部がキュッと締まる。
見つめられるだけでドクドクと奥から蜜が溢れていくのは可笑しいのだろうか、メスの匂いを放ちながら、待ちわびる視線を送るのはいけないことなのだろうか。
身体中を縛り上げる紐が食い込んで、すりよることも叶わず、伸縮を繰り返す内部と自分の優越な想像にすら優羽は犯されていた。


「あぁ」


大きく曲がったまま固定されている優羽の足の間に幸彦がしゃがみこむ。膝に手をかけた瞬間に、あきらかな期待がこもった優羽の声に幸彦はまた笑った。


「優羽は何を望むかな?」

「は…ゃく…ッ」

「手間暇をかけた食材は格別の味がするというが、お前はいつもわたしの期待以上に育つ。」


まるで本当にそう思っているかのように、幸彦は半開きの口で荒い呼吸を繰り返す優羽の肌に手を伸ばす。
愛しそうに撫でられた瞬間、ビクッと、優羽の身体は素直に跳ねた。


「アッ…~っ…あぁ…あ」


早く入れてほしかった。
願ってやまないものがすぐそこにあるのに、自ら迎え入れることも出来ない。口で言葉にして伝える以外に方法がないのに、伝えられる言葉の少なさに困惑していた。

幸彦がホシイ

ただそれだけなのに。
動きが封じられているだけで、こんなにももどかしく感じる。思い通りにならない苛立ちが、快感に変わっていく。


「こんな優羽が見られるのなら、永遠に縛り付けておこうか?」


自分でも困惑するほど愛液がドロドロと、どうしようもなく送り出されていた。
欲しくて欲しくて死んでしまいそうだった。
耐えられないほどゆっくりと感じる時間の流れが恐ろしくて、もどかしくて、優羽は潤んだ瞳で幸彦へと訴える。


「早く入れてッ!」


怒ったように泣き叫んだ優羽に、幸彦の瞳が意地悪そうに揺らめいた。深い濁色。鉛のように濃厚な銀色の瞳。


「そのような娘に育てた覚えはない。」

「ッ?!」


押し当てるように身体を密着させてきた幸彦の瞳に吸い込まれそうになる。
あと少しで望みは叶うのに、動かない体に反して熱い思いに答えてくれないもどかしさが、後悔をにじませてくる。


「ごめ…っ…な…さぃ」


内部が激しい伸縮を繰り返すのを感じながら、優羽は目を細めて唇を噛んだ。


「お願い…し…ます」


声が震える。
ここで拒まれたらどうしようと、ヤまない欲情の結末を想像して優羽の瞳は震えていた。
願うものはただひとつ。


「優羽に幸彦さまを下さい」


優羽のこぼれた涙を受けて、幸彦は柔らかな笑みをこぼす。
次の瞬間───


「ッ?!」


───大きく見開かれた少女にそれは埋まっていた。


「ッぅあぁアアぁッっ~~」


待ち望んだ以上の圧力に、優羽の美声が室内に響く。
深々と根本まで打ち付けられた腰、縄が食い込む赤い肌、敏感に尖った蕾。何もかもが一瞬で、弓なりにのけぞった優羽は大きく目を見開いてその快感を受け入れていた。


「もらってばかりではいけないよ。」

「ッア?!」


瞳を細めて口角をあげた幸彦を見たのが最後、優羽は快楽の針に悲鳴をあげる。


「いッゃアアァアァ?!」


奥深くまで突き刺さっては、潤いをまとわせて引き抜かれる。開脚された足は閉じることも叶わず、ただ何度も何度も無抵抗に最奥まで愛蜜を削り取られて、鈍痛に鳴く。
それだけの繰り返しなのに、絶妙なツボをつく幸彦のせいで優羽は悲鳴を押さえられなかった。
声も快楽も制御できない。

キモチイイ

激しい律動にすべてが満たされていく。


「ゅ…きッ…彦…さまッアァ」


不自由な体で唯一動く声だけが甘く高く快感を叫んでいく。
肉欲の傀儡(カイライ)のように、その表情はだらしなく、乱れた女のまま男を妖艶に誘い続ける。
名前を呼び、求め、貪欲に全てを吸い付くそうと男根を埋め込んだ口はうねっていた。


「もっとおくれ。」


快楽をむさぼるように掻き乱してくる幸彦を優羽の瞳は淫妖にうつす。
綺麗だった。
とても綺麗だった。
こんなに淫らな行為をしているのに、熱い劣情(レツジョウ)が止まらない。幸彦に心も体も奪われ、染められていく快感がたまらなく愛しい。
身を任せ、激しく揺さぶられる心情がどこまでも深く幸彦を求めていた。


「もっと…ッ…モット」


優羽の口からも、うわ言のように繰り返される。
もっと欲しい。
それは互いの望みでもあるのか、幸彦の唇が優羽の唇と重なった。


「ああ、とても美味しい。」

「ゅ…きッあぁ!?」

「生き返る気持ちだ。」


吐息から漏れる奇声は、高い壁を越えて限界を訴えるように暴れ始める。
石になったように伸びない手足、身体にまとわりつく赤い紐と、少し干からびた赤色の液体。


「ィャアっ…イ…だメッおかひくなッイッチゃ…ぅ…ゃだ…と…まッて…幸ひ…こさ…まァアァァア」


脳は現実を口にする。
止まってくれないと壊れてしまう。
心も体も何もかもスベテ
だけど、その先を望んでいた。

──ヤメナイデ

足りない

タリナイ

"イッテも、イッテも、足りないでしょう?"

いつかの戒の言葉が耳に響いた。


「アぁキモチぃい…もっと…くラさ…いッ…もット…ユキヒコさまッ…アッ…アァァッ」


ズンズンと、開かれたままの下肢が悲鳴をあげる。
暴れることも出来ない身体は、優羽の口から感じる全てを言葉にさせ、幸彦へと伝えていた。


「ソコっあっ…チガ…やぁっぁ…ッ…イジワルしな…で…くださ…ひィッ!?」

「わたしを見なさい。」

「ヤッァアァァ?!」


本能じゃない。
もっと奥深く。
まるで魂に刻み込まれた醜悪な欲情のように求めてしまう。


「アッ…こわれィヤァァアッヒッ…くっ…イくッ」

「壊しているのだよ。」


理性なんていらない。
わたしたちを求めるだけの、そんな卑猥な獣になれと幸彦は言う。


「待ちわびていた。」


幸彦の声がどこか遠く聞こえた。
それなのにすぐ耳横で囁かれているみたいに、頭の中に響いてくる。


「出口のなかった未来に希望が見えるようだ。」


それは誰にとってなのか。
幸彦の切望にも似た思いが、中まで突き刺されたモノを伝って這い上がってくる。
景色が霞(カス)んでまどろんでいく。


「優羽───」


抱き締められたその腕は、心なしか震えているみたいだった。


「───わたしたちと同じ存在に。」


呟きと共に重なった唇。


「ッ!!?」


大きく見開かれた優羽の視界に真っ白な世界が広がる。快楽と恭悦の先に見たものは、それはそれは綺麗な世界だった。

───────────
──────────
─────────
見上げれば高い空は灰色の雲を宿し、どんよりとイルミネーションの光を反射させている。
植物たちは寒さに身を寄せ、吐く息も白く凍る風の冷たさに身震いしていた。


「っくそ。」


冷気に支配されたせいか、いつもより閑散と繊細で美しく見える豪邸に車は止まるや否や、荒々しくドアが蹴り破られ、バタンとまた勢いよく閉まる。
現れたスーツ姿の男は、ずれた眼鏡を正しながらその屋敷をにらみあげた。


「あのクソ親父が。」


その秀麗な顔立ちからは想像もできない悪態を吐きながら、わざと音をたてて涼は屋敷の階段をのぼる。
ガンガンガンガン
仕事から帰って来た合図にしては少々乱暴な気もするが、今は丁寧に玄関を開ける気すら起こらない。


「ッ。」


怒りに任せて蹴り開いた玄関扉は、無抵抗にその底冷えする冷気を中へと招いた。
過ごしやすい温度に管理されているはずの屋敷の温度か幾つか下がる。


「さっぶ。あれ、涼じゃん。」


怪訝な顔で階段の下に座っていた陸が、帰宅者の確認をするなり自身の体を抱き締めながら立ち上がった。
その陸につかみかかるように涼は叫ぶ。


「おいッ。優羽はどこだ!?」


その問いに返ってきたのは、空気さえ凍る冷酷な眼差し。


「わかってて聞くのやめてくんない?」


笑みさえない陸の声色に、涼の顔が悔しそうに歪んだ。
屋敷中に充満している濃密な香りと、かすかに聞こえる優羽の声。
高く、甘く、誰のものを望み、その身を委ねているのかなど聞かなくてもわかる。


「涼、帰ってたんですか。」


通りがかったのか、陸と涼が見上げる階段の先を見つめながら戒の声が響く。
静かでいて刺すようなそれは、戒の機嫌も陸や涼と同じように不機嫌なことがすぐにわかった。


「なぜ、誰も止めない?」

「止められると思ってるのかな?」


歯噛みした涼の問いかけに、一際優しい声をした晶の声が近づいてくる。
ニコニコと満面の笑みなあたり、余程機嫌は最悪に傾いているらしい。
帰宅後からテラスを望める玄関付近のソファーにでも座っていたのだろう。
コートとマフラーを身に付けていた。


「ったく、こんなとこで全員揃って何やってんだよ。」

「せやで。ってか、さっぶ。涼、帰ったんやったら玄関くらいちゃんと閉めてや。」


リビングの方から現れた二つの影は、全員の顔を見渡してそろって息を吐く。予想通りの展開過ぎてどうしようもないと言わんばかりに、輝と竜はお互いの顔を見合わせて肩をすかせた。


「優羽が風邪引くやろ。」


立ち尽くしたまま一歩も動かない兄弟たちの合間を縫って、竜は冬の風を吸い込む扉をパタンと閉めた。
シンと静寂が訪れたせいで、むせるほどの優羽の匂いが鼻をつく。


「どこに行こうとしているのかな?」

「優羽は俺のものだ。」

「またそれかよ。」


階段の手すりに手をかけて身体を前に踏み出した涼を両脇から晶と輝の腕が押し止める。
流れるように移動した三人に、陸と戒の声がそれを追いかけて文句を口にした。


「僕たちの優羽でしょ。」

「そうです。涼だけの優羽ではありません。」


憤慨の感情が込められた弟たちの眼差しは、三人の兄たちに送られる。


「涼が行くんだったら先に僕が行く。」

「陸、ずるいですよ。我慢しているのは陸だけではありません。」

「だったら戒も来たらいいじゃん。」

「アカン言うてるやろ。」


名案だと言わんばかりに階段をのぼろうとした陸と戒は、あきれた面持ちの竜にせき止められた。
さっきからこれの繰り返し。
攻防戦は仲間を変え、順番を変えて、幾度となくこの階段下で繰り広げられている。


「邪魔したら殺されんで。」

「優羽が、すっごぉぉぉく美味しそうになってるのに、こんなの生殺しだよ。」

「そりゃ、熟れまくってウマいだろうな。」


陸のふてくされた声に、輝は肩を落としてその顔をあげた。全員がつられるように階段の踊り場を見上げる。
大きな窓は暗い灰色の夜を写したまま動きそうになかった。


「家中に匂いが充満してる。」


涼がクンクンと鼻をならす。
隣の晶が諦めたようにマフラーをゆるめた。


「何時間も続けて、そうならない方がおかしいよ。」


こぼれ落ちるように染み渡った晶の言葉に反応したのか、窓の外に雪がちらつき始める。


「あーあ。知らねぇぞ。」


堪忍袋の緒が切れた兄弟たちが、無言で階段を上り始めた背中に向かって輝のため息が追いかけていった。


「今の親父は最強だ。」


昼間に見た幸彦の姿を思い出してか、はぁと深い息を吐いた輝は、先を急ぐ兄弟のあとを追いながら、聖なる夜を待たずに降り始めた雪をそっと見上げた。

──────To be continue.
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