【R18】愛欲の施設-Love Shelter-

皐月うしこ

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最終話 転生の姫巫女 (前編)

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愛している。

こんなにも深くて重みのある感情を与えてもらえることが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
前世の自分がどういう状況、環境で彼らと約束を交わしたのかはわからない。
それでもわかる。
たとえ自分が初めての存在でも、迷わず彼らと永久を過ごす道を選んだだろう。


「私も、みんながいない世界なんて考えられない。」


ほほを伝う涙をぬぐいながら、優羽は幸せそうに笑った。
そうしてその余韻に浸りかけたその時、ふと素朴な疑問が沸き起こる。


「私、幸彦さまたちがイヌガミ様だってことはわかるんだけど、他の記憶がないの。」

「他の記憶?」

「私が何度も生まれ変わっているのなら、"優羽"と会うのはこれが初めてじゃないよね?」


あまりに素朴な質問すぎただろうか。
驚いたように目を見開いて固まる幸彦の表情は新鮮すぎて笑えるが、それがよくないものを訴えている気がして、優羽は助けを求めるように周囲を見渡した。


「私、何かおかしなこと言った?」


あれだけ騒がしかった空気が、水を打ったようにシンと変わったことに身震いする。
心に浮かぶままに尋ねてみただけなのだが、彼らにとってその質問は予想外だったのか、誰もがピタリと固まったまま動かない。


「え、私がひとりめ?」


変な質問だが、それなら彼らの驚き方には合点がいくと優羽は困ったように彼らを見つめる。


「でも、さっき戒は"何度生まれ変わっても"って言ってなかった?」


少し前の記憶を探るように優羽は頭をひねってみた。
さすがに忘れるわけがない最近の会話の内容を思い出して、優羽はやっぱりそう言っていたと一人うなずく。


「前の私はみんなのこと覚えてた?」


無邪気に尋ねてくる優羽をどういう気持ちで眺めていたのかわからない。それでも、彼らの表情に陰(カゲ)りが見えた気がするのは、気のせいではないだろう。
それに気付いた優羽は、取り繕うように背筋を伸ばして声を落とした。


「私、何か悪いことしちゃった。とか?」


前世の記憶が限定的すぎて"ない"とは言い切れない出来事を確認するように優羽は、幸彦たちの顔をのぞきこむ。
前世の自分が何か良くないことをしでかしていたとしたら、謝るべきなのか、そうじゃないのか。感覚はよくわからないけど、前世の自分が犯した失敗のせいで、彼らと離ればなれになることだけは避けたい。


「聞いてる?」


少し怒ったように口を尖らせた優羽の声で、ハッと空気が動き始めた。
取り繕うように、ごほんごほんと幸彦のわざとらしい咳払いが聞こえてくる。


「すまない。」

「やっぱり私、何かしちゃった?」

「いや、優羽は何も。そうそう、わたしたちが前世の優羽に会ったことがあるかないかだったね。」


苦笑混じりに話し始めた幸彦の態度に少し引っ掛かりは覚えるものの、優羽は素直にその先を聞く姿勢をとった。


「もちろん、前世の優羽もわたしたちと共にいた。優羽をわたしたち以外の誰かに汚されるわけにはいかないだろう?」

「飢えが満たされなくなるから?」

「面白い質問をするね。」


ぶはっと遠くで輝が吹き出した音が聞こえてくる。
何をそんなに爆笑することがあるのだろうか。幸彦でさえ珍しく笑ったせいで、優羽はさらに真っ赤に変わった顔をふくれさせた。
思い浮かんだことを口にしただけなのに、そんなに笑われると心外を通り越して恥ずかしくなってくる。


「愛しているからに決まっている。」

「っ?!」


不意打ちは卑怯だと、前にそう言ったはずなのに、またしてもやられた。
さらりと至極当然と言わんばかりの勢いで言われても、受け流せるほどの免疫はついていないし、対応にも困る。
そんな当たり前に愛の告白を繰り返してくる目の前の紳士一同に、優羽は真っ赤な顔を隠すように少しだけ下をむいた。


「お前はもうわたしたちのものだ。」

「それは、そうだけど。」

「わたしは嫉妬深いのでね。わたしたちと共に過ごすと約束した以上、優羽に他の道は存在しない。他者になど、愛しい優羽の声も瞳も体も心もすべて、奪わせやしないし、渡すつもりもない。」


断言すると偉そうに笑ったのが幸彦でなければ、何を言っているのかと鼻で笑い返すことも出来たに違いない。
それでも相手は"女"という餌を捕らえるための最強の武器を持った人外の生き物。ドキドキと高鳴る鼓動をおさえる方が、無理難題に等しい感覚だった。
狗神と呼ばれる彼ら白銀の狼が、まだこの世で存在していることを一体どれくらいの人が知っているのだろう。
たぶん自分も断言できる。
私しかいないと。
それなのに忘れてしまっていた。
落ち込みかけたところで、白銀の瞳をもつ陸の顔が視界にうつる。


「僕たちが怖くない?」

「どうして?」


驚きがなかったと言えば嘘になる。
だけど本性を知っている彼らをどうして怖いと思うのか、愛しく思う気持ちは姿形が変わったからといってなくなるわけではない。
それに、これだけ完璧でいつも胸を熱くさせてくれる彼らが"イヌガミ"だと言われた方がどこか納得する。
白銀の毛並みと瞳を持つ美しい狼。


「キレイ。」


陸の瞳に触れようと腕を伸ばしながら、優羽は笑顔で答えた。
なぜかギュッと抱きつかれてしまったが、誰も陸の行為を指摘しないのだから、今は許されるのだろう。


「優羽には敵いません。」


ギュッと反対側から戒にも抱きつかれるが、どう対応していいかわからなかった。
両端から抱き締められる感覚は、何度繰り返してもドキドキする。


「俺らを見て怖がらへんどころか、キレイやて。そういや、あん時もそうやったな。」

「優羽はいつも優羽のまま。それがどれほど俺たちを勇気づけてくれているか。」

「わかってねぇんだろうな。」

「どっちでもいい。」 


背後でふわふわの軍団がじゃれあっているが、横目に見えた耳と尻尾は触りたくなるほどに可愛い。
触ったらダメだろうか。
いや、今はそういう衝動にかられていい場面じゃない。


「あ。」


隙を見て陸の耳を引っ張ろうとしたことに気づかれたらしい。満足したように狼から人に戻った陸の頭上で、優羽の指先は軽く空気をつまんだ。


「あとでね。」


ニコッと微笑む天使の笑顔は健在で、見上げるように離れていく陸のイタズラな瞳に思わず顔が赤くなる。
ゴホンと誤魔化すように小さく咳払いをして、優羽は再び幸彦の方へと居住まいを正した。


「前世の私はみんなのこと覚えてた?」

「ああ。」


そうなんだと答える声がきちんと出ていたかどうかはわからない。
だけど、余程落ち込んだ声が出ていたのだろう。優しく笑った幸彦の声が優羽の耳元をかすめていく。


「今回は出会えたことすら奇跡だ。忘れてしまったことは、大した問題ではない。」

「でもっ。」

「優羽と同じ時代に眠りから覚められたことさえ偶然で、優羽がわたしたちの存在を受け入れてくれるかどうかも、わたしたちにとっては大きな賭けだったのだよ。」


励ましてくれているのか、いつもよりゆっくりと話す幸彦に優羽は力なく微笑んだ。


「でも、私は───」


無くしたくない。
失いたくない。
原因がわからなければ、また繰り返されるかもしれない。


「───忘れたくない。」


前世の自分に嫉妬する。
そんな感覚なんて持ちたくないのに、ぶつける対象のないヤキモチほど、モヤモヤするものはない。
大好きな人たちとの思い出の日々は、自分が過ごしてきた時間よりもずっと濃密で幸福だったと思う。
交わした言葉も約束も彼らへの思いも今は知る術もなく、全ては過去の自分だけのもの。


「そんな顔をしないでください。」


陸についで身体を離そうとしていた戒が優しく頭を撫でてくる。


「優羽に悲しい顔は似合いません。」

「それに、俺たちはもう十分、優羽の気持ちを知っているよ。」


晶も柔らかな笑みを向けてくれた。
それでも不安要素は消えない。


「どうして?」


誰に尋ねるでもなく顔をあげた優羽に、困ったような表情が向けられる。


「どうして前世の私にあったのに、今の私には記憶がなくなってしまったの?」


どう答えればいいのか、全員が正しい答えは何なのか模索するように頭を悩ませていた。
その表情にまた不安が募る。
"良くないこと"というのは、すぐに理解できた。


「ッ?!」


突然、頭が鈍器で殴られたような衝撃が優羽を襲う。ぐらっと意識は逆さまに世界を写し、頭が割れそうなほど痛い。


「優羽っ?!」


頭を押さえるようにして、ソファーの上でうずくまった優羽に、ハッと心配そうな瞳がむけられたが、優羽の息は荒く、視界は明滅を繰り返していた。


"約束は違(タガ)えぬ。"


またあの声が聞こえてくる。
ひどく妖艶で冷たい静かな男の声。
頭痛に苛(サイナ)まれる意識の中で、優羽は過去の自分が体験した景色を見ていた。
真っ黒な場所。
揺らめく青白い炎と、蝋燭の赤い炎に照らされて光る金色の閃光────


「やく…ッ…そ…く」


─────何かと引き換えに、途切れた歴史と失われた記憶。
それが何かわかった気がする。
パズルのピースがはまるように、次々と流れ込んでくる情報量が多過ぎて頭が拒絶反応を起こしかけていた。
これ以上は思い出したくない。
受け止めきれない。
何千年という、前世の優羽が生きてきた記録を書き写していくには、18年しか生きていない脳はあまりにも小さすぎる。
収まりきらない。
そう脳が勝手に自己防衛を引き起こして、優羽の身体はがくがくと震えていた。


「優羽ッ!?」


驚いたような焦ったような陸の声が聞こえてくるが、それさえもどこか遠くから別の人間の目で見ているようで気がおかしくなりそうだった。
助けて。
声にならない叫び声をあげて、優羽は頭を抱えて気を失いかける。


「優羽、落ち着いて。ほら、深呼吸して俺の目を見てごらん?」

「あ…っ…あき」

「うん。一度に記憶が戻ってきてるね。」


駆け寄ってきた晶が抱き締めるように優しく語りかけてくれたおかげでなんとか気を失わずにすんだ。けれど、まだ続く色写真の上書きに優羽の嗚咽がそのひどさを物語る。


「優羽、俺たちはここにいるよ。」


温かな眼差し、いつもの穏やかな晶の瞳に、優羽の息は少し落ち着きを見せ始めた。


「ちょっと優羽は大丈夫なの?!」

「たくさんの記憶と情報が一度に戻ってきているみたいだから何とも言えないかな。優羽の身体がそれに対応できないせいで、拒否を起こしている。」


陸の質問に、晶は荒い呼吸で肩を上下に揺らす優羽を抱き締めながら答えた。
ゆっくりと背中を撫でてくれる手が心地いいが、頭から血が噴き出すのではないかというほど熱く溶けそうな痛みには耐えられそうにない。


「やべぇな。薬でどうこうなるもんじゃねぇだろうし。」

「記憶、戻る前に優羽がどないかなってまうで。」

「今の優羽は普通の人間ですからね。」


取り囲むように集まった三人の声も聞こえてくる。
焦ったような困ったような、それでいて頼もしくて安心する聞きなれた声。


「優羽。」


涼の声が耳元で聞こえた気がした。
声のする方向に顔を向けてみると、すぐ真横に涼の顔が見えた。


「優羽の記憶はもう戻らないと思っていた。」


期待と悲しみが入り混じったような複雑な目がじっと見つめてくる。


「もう一度、鎖をつなぐ以外は。」


それが唯一の方法だとでも言うように、涼は言葉を噛み締めて優羽から晶へと顔をあげた。
苦渋の決断。それはあまり選びたくないといった風に、力強い瞳が優羽の頭上で交差する。


「晶、何か方法はないのか?」

「無理矢理止めると、それこそ優羽の負担は大きくなるだろうね。魂に刻まれた記憶が戻るなんて、俺ですらこれは奇跡としか言えない現象だよ。」


首を振る代わりに言葉で否定した晶に対して、涼だけでなく、誰もがつらそうな息を飲み込んでいた。
思い出されたくないのか、思い出してほしいのか、そのどちらともわからないまま優羽は激しくなる混沌の渦の中で悶え苦しんでいく。
幸せな日々も悲しいことも何もかもが混ざりすぎて、何をどう判断すればいいのかもわからない。


「イヤァァァァ!!」


恐怖が身体中を駆け抜けていく。
拒絶して暴れる優羽の身体を晶の腕が抱き締めてくれていた。
だけど、それさえもわからない。
感覚が麻痺し、薄れ行く意識の中で優羽は遠くなっていく現実の代わりに瞼に浮かぶ過去の記憶をたどっていく。


「そう…っ…だ」


あの日、金色の生き物と最悪の取引をした。犯した罪は忘れたくなるほどの後悔と懺悔を連れ、優羽の精神を蝕(ムシバ)もうと迫ってくる。


「ごめな…っ…さ」


ごめんなさい。
ごめんなさい。
前世の自分が泣いている。

"こんなつもりじゃなかったの。"

小さくうずくまって泣き崩れる少女の背中に、優羽はそっとその手を伸ばした。


「優羽、お前には名を呼ぶ権利がある。」


幸彦の声が聞こえてくる。


「望みはなんでも叶えてあげよう。」


その優しい声に、晶に抱きつかれたまま頭を押さえていた優羽はゆっくりと顔をあげた。


「お前はようやく"普通"の人生を送ることができるのだよ。」

「ふ…つう…っ?」


かぼそい優羽の声が、幸彦の言葉に重なる。
普通の人生、普通の人間。
選択できるのは今しかない。
彼らと人生を共に行くか、いかないか。全ては自分次第。


"家族のルールを覚えていますか?"


前に戒に聞かれた質問が脳内を反芻していく。
すべてを隠さず素直になること。
心も体も望むままに叶えてくれる存在が目の前にいる。
望めば手に入る。
希望も願望も切望も、どんな卑猥な言葉でも、醜悪な行為でも何もかもすべて。


「私は────」


本当に許されるなら。
ずっと思い続けてきた、このドロドロした心の感情をすべて受け止めてくれるというのなら。


「───私は誰も選べな…い」


求めているものはただひとつ。


「だけど欲しい…の幸彦さ…ま───」


伸ばした腕は、呼ぶ名前に応じて引き寄せられていった。

「涼」

"どこにも行くな。"

「晶」

「俺たちを選ぶなら、もう離してあげられないよ。」


それでもいい。それがいい。
首筋に落とされるキスの証は赤い首飾りのように、優羽の肌に刻まれていく。


「輝」

"一生手放す気はねぇから"

「竜」

"いつでも駆けつけたるからな"


次々に思い出すのは、現世の自分の記憶。
彼らはいつでも優羽を守り、愛してくれていたのだと、あのときは不可解だった言葉も行動も今は全部理解できた。


「戒」

"誰にも渡しません。"

「陸」

「優羽、ずっと一緒だよ。」


肌に重なった唇が離れていく。
契約の赤い印はその昔、前世の自分に結ばれた約束の証と同じ。


「──私は全部欲しい。」


何もかも全て欲しい。
それは、迷わず言葉にした願い。
誰も選べないのにすべてが欲しい。
貪欲に全員の心も感情も体も独り占めにして、自分だけのものになってほしい。
私だけに染まって、私だけを見てほしい。もっと、もっと、求めるものは快楽以上の底無しの欲望。


「私は誰か一人じゃなくて…っ…みんなと一緒にいた…い…離れたくない…忘れたくない。」


ワガママで独りよがりな願望。
それなのに、笑って包み込んでくれる温かな存在が愛しくてたまらなかった。


「わたしたちのすべてをあげよう。」

「ッ?!」


どうして受け入れてくれるのか。
見上げればそこにある輪の中で、優羽の瞳から涙がこぼれ落ちる。
戸惑いと不安はいつもすぐ傍にあった。いつか見離されるんじゃないか、いつか愛想をつかされて自分だけが置いていかれるんじゃないか。
彼らと自分はあまりにも生きる世界が違い過ぎて、自信が持てなかった。

本当に私でいいの?

その質問はもう必要ない。
傍にいたいと願っているのは他の誰でもない、望んでいるのは自分自身。


「あ…っ…りがとうございます。」


ポタポタと頬をつたって落ちる雫が、優羽の身体を濡らしていく。
ずっとずっと怖かった。
だけど今、伝えずにはいられない。
溢れ出して、込み上げてくる感情を否定する言い訳すら見当たらない。
彼らに伝えたいのは昔も今もただ一言───


「愛しています。」


───それだけだった。
心からの気持ちを伝えるのは難しくて、随分と遠回りをしてしまったように思う。


「ッ?!」


突然グイッと泣き顔を無理矢理あげさせられた視線の先に、閉じられた涼の睫毛が見えた。
何が起こったのかは重ねられた唇が理解しているが、ずっと抱き締めてくれていた正面の晶が離れて、代わりに背後から陸が抱きついてくる。


「~っ~んッ~」


涼のキスに狼狽(ウロタ)える前に、ポンっと頭に手が乗った。涼に顎を掴まれたまま頭上に目をやると、輝と竜が優しく見下ろして笑っているのが視界にうつる。


「ッ…あっ」


いつのまにか優羽を取り囲むようにして作られていた輪は、幸彦以外の全員が近付くことで狭(セバ)まっていた。

"怖い?"

いつかの声が聞こえる。
それは自分の魂の問いかけ。

"大丈夫。今度はもう迷わない。"

うんっと、優羽は心の声に答えた。また知らずに涙がこぼれ落ちる。
求められる思いに胸が温かくなる。
心の隙間が埋まっていく。
満たされていく。
祈るように目を閉じた優羽は、長い息を吐き出すように全身の力を抜いた。


「ひぁッ!?」


背後から抱きついていた陸が突然胸を揉みあげたせいで、驚いた優羽の悲鳴がこだまする。服の上から中央に寄せるようにわしづかまれた優羽の胸は、陸の手の中で形を変えていた。


「ちょ…ちょっ陸!?」


後ろを振り向きたくても、唇を寄せる涼の手がガッシリと顎をつかんでいるせいでそれは叶わない。
焦りに混乱する優羽は、柔らかさを堪能する陸の手に顔を赤く染めはじめた。いや、厳密にはすでに顔は真っ赤だった。


「僕、もう限界。」

「ッ!?」


服ごと強く乳首を摘まみあげながら、耳に噛みついた陸の声に優羽の身体が跳ねあがる。大きく見開いた目の前で、複数の銀色の瞳が細まるのを見た。


「ちょ…ちょッんンっ!?」


なにがなんだかよくわからないまま、再び涼に唇を奪われる。


「んっ…あっ…ッ…やぁ」


角度を変えては、口の中を動き回る涼の舌に優羽の舌は絡め取られ、胸を揉む陸の腕の隙間を縫うようにして晶の腕が服を脱がせようとしていた。
普段は騒がしいのに、こういうときばかり連携が見事すぎて正直焦る。
抵抗する暇もくれない涼のキスと陸の愛撫のせいで、優羽の服はいとも簡単に晶の手で剥ぎ取られ、野獣たちの前にその肌をさらした。


「待ッ!?」


誰をどう止めたらいいのかわからない。
六人の兄弟相手に使える腕は残念ながら二本しかなく、暴れようにも足を動かそうにも背後から抱きつく陸のせいで姿勢も変えられない。


「見て──」

「ッ?!」


ブラジャーの下から滑り込んできた陸の手のひらが、グイッと優羽の柔肌を持ち上げた。


「──もう優羽の乳首立ってる。」


現状が理解できずに真っ赤な顔のまま声を失う優羽の姿に、嬉しそうな陸の声が兄たちを見上げる。


「ンッん?!」


中途半端にずれたブラジャーはやはり器用に伸びてきた晶の手で丁寧にはずされ、部屋の角へ追いやられた。


「ちょっ…ッヤ…待っ」


状況判断する時間がほしいのに、誰も待ってくれないどころか、止めてもくれない。輝も竜も戒も視界の中にいるのに、じっと見つめてくるだけで動こうともしていなかった。


「ヤッ…っ…みな…で」


ゾクゾクする。
徐々に侵食される姿をじっと見つめられているせいで、理性が恥ずかしさを認めて体が熱くなってくる。


「優羽の硬くて美味しそう。」


涼のキスが止み、クスッと笑った陸の吐息に全身がブルブルと震えた。
酸素不足に朦朧とする頭を解放された優羽は、両脇から差し込まれた陸の指の間で奇妙に盛り上がった胸を見せつけるように体をのけぞらせる。


「ね、すっごく美味しそうでしょ。」

「ッ…やァッ!?」


陸の手で搾り取られるように形を変えた乳房の先端に涼の唇が吸い付いた。


「涼がそっち食うんやったら、俺こっちもらうで。」

「やッ…っ…りゅチャッ?!」


しゃがんできた竜が、涼とは反対の胸に噛みつく。
右胸の竜と左胸の涼。同時に加えられる性質の違う感触に、優羽の腕がそれぞれの肩に爪を立てた。


「大人しくしろ。」

「優羽、美味しいで。」


陸の手に固定された優羽の胸を味わうかのように、ふたつの違う舌が音をたてる。


「アッ…ちょっ…待って…ッア」


競い合っているのか、二人は口の中に含んだ優羽の乳首をコロコロと転がし、舌先で弾き、歯をたてて、もてあそんでいた。
ビクともしない肩に、抵抗の爪痕が虚しく線を描いていくが、当の男たちは全くといっていいほど気にしていないらしい。


「ヤッあぁ…っ…ひぁッ」


逃れられない快感に声を震わせながら羞恥に首を横に振る優羽をからかうように、乳首は硬く尖り続けていく。


「優羽を独占すんじゃねぇよ。」

「そうですよ。食事は全員でとると決まっているはずです。」

「そうだね。じゃあ、陸。ちょっと移動してくれるかな?」

「はいはーい。優羽持ち上げるよ。」


そう言って一瞬体が浮いたと思った瞬間、優羽の体は何故かテーブルの上に乗っていた。
もちろん離れた陸と違って、胸に吸いつく二人の男は離れない。


「アッ…~っやめ…ッ」


本当に食事を始めるつもりなのか、裸も同然で仰向けに転がる優羽に鋭利な瞳が向けられる。
そんな目で見ないでほしい。
その目で見つめられると体の芯に欲情の火が灯されていくようでおかしくなる。前にもそうお願いをしたはずなのに、誰も聞く耳をもってくれなかった。


「怖くないからね。」


手術室の患者の気持ちが今ならよくわかる。


「最高に気持ちよくしてやるよ。」


試験体に選ばれた生け贄はこんな風に世界が見えていただろうか。


「晶と輝が大丈夫と言うときほど、良くないことが起こりそうな気がするのは何故なんでしょうね?」


戒の質問に答えられるわけがない。
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