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第四夜 非情な世話係(上)
何があったのか、うまく思い出せない。
意識が戻ってきた時に理解出来たことは、ただひとつ。
生きている。それだけだった。
「目が覚めたみたいだね」
「ッ!?」
ふいにかけられた声に、優羽はパチッと目をあける。そのまま勢いよく身体を起こせば、心臓が暴れたように警戒心をみなぎらせていた。
体のしんどさで息苦しいのではない。
獣から人間に変わっていく姿から目が離せない。見慣れないと言った方がいいのか。端正な顔で穏やかな気配をもつ狼の彼に、体が硬直していく。
「あき…ら…っ…」
口調は優しいのに、なぜか危険な感じがする。どうしてそう思うのかと尋ねられても、優羽にはうまく答えられなかった。
晶と名乗った狼は、表情は笑っているのに、目が笑っていないからか。穏やかに接してくるのに、義務的な感じがするからか。とにかく、何かがひどく矛盾していて気が抜けない。
心を許してはいけない。
優羽は無意識にそう感じながら、身体の上にのっていた簡素な布を強く握りしめて体を硬直させていた。
「そんなに怖がらなくてもいいよ」
どの口がそういうのか。
いまいち信用できない表面上の言葉に、優羽はますます怖くなるのを感じていた。
きっと、相手もそれをわかっていて声をかけているに違いない。
怖がっている獲物を追い詰めるのが好きなのであれば、随分性格が悪いと思うが、それも間違ってはいないだろう。穏やかな雰囲気のまま、ゆっくりと目の前にやってくる晶を優羽はジッと見つめていた。
「怯えた視線は、俺を誘っているつもり?」
「えっ、ちっ違います」
検討違いな発言に、優羽は反論を口にする。何を言っているんだと思いながら、勝手に熱くなった顔に、優羽は自分が情けなくなっていた。
美しさは凶器と紙一重。神様はうぬぼれさえも許されるのかと、優羽は赤い顔で晶を見上げる。
「っ」
不公平だ。意地悪い性格でもその笑顔が胸を苦しくさせるのだから情けなくもなる。
優羽は言葉を見失った勢いで、晶から視線をそらすと、唇をきゅっと結んだ。
「キミ、百面相だっていわれない?」
クスリと笑いをこぼしたあとで、晶は優羽の目の前にしゃがみこんだ。
「父さんも言ったと思うけど、キミは大事な食料だからね。悪いようにはしない」
その言葉に、優羽は赤い顔をもう一度晶のほうへ向ける。自分と同じ高さになった晶の顔が、より間近にみえて、さらにドキドキと胸が鳴くのを感じてしまう。
彼はこの複雑な乙女心に気づきもしないのだろう。
食料として存在するエサである身分に、希望や期待は許されるのだろうか。柔らかな雰囲気の晶は、また少し唇をあげながら優羽の脇に水を張った器を置いた。
「水?」
「これは飲み水じゃないよ。身体を綺麗に洗うために持って来てあげたもので、ほら。手、出して」
頭の中に浮かんだ疑問に対して、晶は当たり障りのない言葉で答えてくれたが、テキパキと要領よくこなすその動きは、どこか慣れている節があった。無駄がないだけじゃない。
きっと、こういう場面に何度も立ち会ってきたに違いない。
柔らかな布をひたし、適度に絞り、水気を払って、ゆっくりと顔をむけてくる。それだけの動作なのに、熟練者のなせる技のひとつに見えた。
「あっ…え…あの……」
当然のように腕を持ち上げられて、優羽はうろたえる。
ひんやりとした布を滑らせるように肌にあてられたが、晶は優羽の言葉を待つつもりなのか、その動作を止めた。
至近距離でジッと見つめられると、どうしていいかわからない。
言葉につまった優羽を晶は小さく肩をすかせることで受け流すと、まるでよくあることだとでも言いたげに、作業を再開させた。
「大人しくしていれば何もしないよ」
腕をふくその優しさに、ドキドキしながら優羽は息をのむ。壊れないように丁寧な力加減が心地よくて、変な期待が胸にわきそうになる。そこで優羽は、ふと思い出したように室内を見渡した。
「涼は、森の巡回。陸は遊びに行ったよ」
「……え?」
指先から丁寧に拭いてくれる晶の言葉に優羽は耳を疑う。
どうしてわかったのだろうか。たしかに、涼と陸の存在が気にはなったが、顔に出しているつもりはなかった。
「涼と陸に何か用でもあった?」
問われたところで、返答に困る。
二人を見つけて、どうなるというのだろう。ここに連れてきた責任をとってほしいのか、それとも助け出してほしいのか。たぶん、心細いだけだと優羽は悲しそうに息を吐いた。
よりどころを見つけるなんて、どうかしている。
特別な感情は持たない方がいい。彼らにとって、自分は"ただのエサ"。勝手に舞い上がって浮かれてしまえば、あとでツラくなることだけは、目に見えてあきらかだった。
「賢明な判断だと思うよ」
「……え?」
またも言い当てられたことに、優羽は今度こそ驚愕をあらわにする。
もう片方の腕を拭き始めた晶は、その様子に薄い笑いを浮かべて答えてくれた。
「餌は補充がきくし、腐ったものは捨てられる。心の拠り所を見つける前に、美味しくなる方法を考えた方が自分のためになるよ」
優羽は、必死に頭で理解しようとする。
いま告げられた言葉は実に的を得ていたし、その通りだと納得も出来る。それでも、面と向かって言い切られると複雑な思いがした。
「補充がきく?」
ずきりと胸が痛い。
「腐る?」
それを想像すると寒気を感じるように全身が震えた。
腕を預けたまま落ち込んだ声をだした優羽の顔を見つめると、晶はどこか呆れたようにわざとらしい息を吐く。
「俺たちにとって、キミは数多くある食べ物のひとつにすぎないよ」
「数、多く……ある?」
「じゃあ聞くけど。キミは今まで、何を食べて生きてきたのかな?」
ウっと優羽は言葉に詰まる。それは一種類、二種類、指折り数えることなど難しくないほど、簡単に答えることができる質問だった。どうして彼らは「自分だけ」で事足りると思ってしまったのか。
その意味を考えると、ただ、ただ、泣きたくなってくる。
「素材がどうであれ、美味しく味わうための手間暇は俺たちでもかける」
それはそうだろう。優羽にだって料理の一つや二つくらい身に覚えがある。今の優羽を形成している養分は、たくさんの命の積み重ねで生まれたもの。
イヌガミ様が生きていくための必要素は、イヌガミである彼らが決める。
「美味しく食べられたかったら、美味しくなる努力をしたほうがいい」
にこりと向けられたその笑顔が怖くて、ひどく悲しかった。
「そうすれば、残すことなく、味わい尽くしてあげるかもね」
指先に落とされた唇の感触に、思わず身を震わせた優羽を晶は見上げる。優羽も晶を見つめていた。その証拠に、白濁とした銀色の瞳に優羽の姿が映っている。
吸い込まれそうなほど魅惑の眼光に、優羽は固まったまま動けなかった。
「一つ忠告するなら、キミが俺たちにその体を提供したくないと抵抗した場合。どうなると思う?」
優羽は手を握る晶の難題に首をひねる。
食べ物に抵抗された経験はないが、もしも、空腹である自分の目の前にある食べ物が「食べられたくない」と抵抗して、逃げたら、どうするだろうか。
「おいかける?」
「正解。飢えが深まると、俺たちの凶暴さが増す」
飢えないためには満たされることが必要なのだと安易に晶は告げてくる。
「八つ裂きにされたくないのなら、大人しくしていることだよ」
いっそのこと、そうしてくれた方が、苦しみが緩和されるのではないかという錯覚さえ感じてしまった。
エサとして腐らず、飽きさせないように体を提供する。美味しくなる方法はよくわからないが、飢えを促進させて凶暴になられたらどうなるのだろうか。結果は目に見えて明らかだった。現に、一度殺されかけている。
精神的な苦痛か、肉体的な苦痛か。
どちらをとっても苦しみに変わりはないが、現状では、その両方が架(カ)せられている気がしないでもない。
「まあ、さっきの気にあてられて、少し戸惑ったのも正直なところだけどね」
「え?」
布を水盆にひたしながらつぶやいた晶の声に、優羽はうまく聞き取れずに首をかしげる。けれど、晶はニヤリと意地悪な笑みを浮かべて見当違いなことを尋ねてきた。
「そんなに死にたい?」
ふいに尋ねられて、優羽は晶をじっと見つめる。やはり見れば見るほど、吸い込まれそうになる銀色の瞳が綺麗だと、優羽は赤い顔でそっと唇をかんだ。
本当に性格が悪い。
今ここでその質問がくることにも驚いたが、気がつけば、晶は足を拭こうとしていたのだから優羽にとっては二重の驚きがそこにはあった。
「あ、足はじ…じじじ自分でやりますっ!!」
恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、優羽は晶の行為を止めさせる。薄い布がかけられているとはいえ、全裸のまま男の前に座っているのだから、しどろもどろになるのは当然と言えた。
「質問に答えてくれたらね」
そう言いながら、足を持ち上げてくるのだから気が抜けない。優羽はあわてて布がめくれあがるのを両手で抑える。
間一髪。晶が足の間に割り込むことを未然に防ぐことができた。
「よく…っ…わかりません」
しばらくの沈黙の後。声が震えるのを無視して、優羽は素直に気持ちを吐き出していく。
帰る家も、行く先も、会いたい人もいない。生きていればイイことがあると思いたくても、生きる場所がないのだからどうしようもない。居場所がどこにもない。探してみようと思っても、身寄りのない女が一人で生きていくには、今の世はあまりにも無情すぎる。
だからかもしれない。
無意識に身をささげていたのは、自分じゃ終わらすことのできない途方も無い未来を無理矢理終わらせて欲しかったのかもしれない。
「死にたいと……思っていたわけでは、ないんです」
死を直接意識していたわけではなかった。現に、いま生きていることに、どこかホッとしている自分がいる。
「でも……その……」
優羽は結局、拭くことを諦めた晶から目をそらせて、言いにくそうに口ごもった。
晶は作業を止めたまま、優羽の言葉を待っている。チラチラと言おうかどうか迷ったが、優羽は隠していてもしょうがないと小さな声でつぶやいた。
「狼に食べられると言われれば…えっと…その…っ…生かしてもらえるとは思っていなかったので―――」
「俺たちが、人喰いだと?」
「―――ぅっ…はい…ッ…すみません」
優羽は、小さくなりながら頭を下げる。言葉を選んだつもりが、失礼な言葉を口走ってしまったと、後悔がこみ上げてきた。
「そういうつもりで言ったんではないんです!!」
「間違ってないよ」
「……え?」
間違っていない。
晶の言葉は、優羽の心の中で反復していく。
間違っていないということは、"人喰い"であることを肯定しているのだろうか。
優羽の記憶が正しければ、彼らの食事方法は直接エサをその牙でかみ砕くことではないはずだった。
「でも、イヌガミ様の食事って…っ」
思い出すと恥ずかしくなる。相当間抜けな顔だったに違いない。ところが、晶は赤面する優羽の顔をみたにも関わらず、真面目な表情に変わった。
「俺たちイヌガミ族は、本来なら性力を喰らうだけで生きながらえることが出来る種族なんだ。けどね、残念なことに、最近ではそれだけで生きてはいけない。なぜかわかる?」
優羽はその問いに、力なく首を横に振る。
「純粋に、俺たちに身も心も捧げる乙女は、もうどこにもいないからだよ」
なぜか寂しそうに瞳を曇らせる晶の声に、優羽は胸が締め付けられるのを感じていた。
どこにもいない。その言葉に秘められた悲しみの深さは優羽にはわからない。
「この身を維持するために、時には"器ごと"喰らうこともある」
それは、食べるという意味が想像させる行為をお互いに同じものだと認識していいのだろうか。
その言葉に、何も言い返せるものが見つからない。
人間を「器」だと表現した晶のほうが、器である優羽よりも苦しそうに生きているように見えるのは気のせいなのだろうか。
「死にたくなったら、いつでも言っておいで。俺が、この世から跡形もなく消してあげるよ」
柔らかな笑顔に身体を石に変えられてしまったのか、茫然と晶の顔を見つめたまま、優羽は動くことが出来ない。
衝撃の内容に、自分と彼らが違う存在なのだと、あらためて気づかされる。
悲しみと寂しさを心に持って生きるイヌガミ様。
直面した現実に、忘れかけていた事実を思い出した。目の前で人間の容姿をしている晶もその狼のひとりなのだ。命もろとも死ぬことを願えば、跡形もなく、本当に消してくれるだろう。
「その時は…っ…お願いします」
これから先、それを願う日が来るのかはわからないが、優羽は願うように頭をさげる。
「出来ることなら晶さんのお手を煩(ワズラ)わせることには、なりたくありませんけど」
「俺も、そう願うよ」
交わった視線が、ほんの少しだけ温かさを運んだ気がした。
完璧なまでに隔(ヘダ)たりのあった壁に、小さな穴が開いたみたいに、少しだけ近づけたような気がした。
「他の連中に、殺されないようにね」
晶の意地悪な物言いに、優羽はガクッと肩を落とした。
今度こそ忘れていた。この空間には、全部で七匹の狼が住んでいる。
ひとりに安全が保障されたところで、全員がそうとは限らない。優羽は、知らずと首にそっと手を当てていた。
「それで?」
「え?」
晶の問いかけに、優羽は現実へと意識を戻す。
「自分で拭くのかな?」
身体を隠していた布を持ち上げるようにして確認された優羽は、晶の手から濡れた布を急いでひったくった。
顔の熱がいっこうに冷めてくれない。クスクスと笑いながら静かに腰をあげた晶は、「終わったら、呼んでね」と、言い残して、あっさりと部屋を出て行ってくれた。
意外な優しさに、優羽はポカンと口を開け、晶の背を見送っていた視線を手元の布に戻す。
「………」
ぬれた布だけを残して、晶がいなくなっただけで、ぽつんと孤独な空間に室内が変わった気がした。
「……生きてる」
その実感が不思議なものであるように、優羽はしばらくじっと自分の手と布を見つめていた。
やがて意を決したように立ち上がると、それに合わせてはらりと、唯一優羽の身体を隠していた薄い布が落ちる。それは床で軽い音をたて、重なり合うようにして誰もいない部屋で優羽の裸体をさらしていた。
まだ、傷ひとつ、ついていない。初めての時は、さけたと錯覚した股の痛みもない。
複雑な思いを巡らせながら、落ちた布を拾い上げもせずに、優羽はゴシゴシと自分の身体を拭き始める。
「………」
雑念を払い落すため、優羽は布をひたし、よくしぼりもせずに、また身体を拭く。
ぼたぼたと、水が線を描いて肌の上を滑り落ちていったが、それを気にも留めず、何度か繰り返していくうちに、優羽は無の感情に支配されていった。
一人になったら泣くと思っていただけに、自分の意外な一面に唖然とする。わざと音をたてて布を洗ってみても、まったくといっていいほど、今の現状に何の感情も湧いてはこなかった。
「………」
思わず、自分の両手を見つめる。
水の張った器の中に布は沈んでいったが、それさえもどこか他人事のように、優羽は静かに眺めていた。
本当に生きているのだろうか?
わずかな疑問が生まれる。
本当は、もうとっくの昔に亡くなっているんじゃないかとさえ思えてきた。生きている方が不思議な状況には、もう何度も遭遇してきた。村を出る前も、出た後も何も変わらない。
生きていると思っているだけで、ここが死後の世界なのだとしたら、それこそつじつまが合うような気がした。
目を見張るほどの美しい男たち、彼らにもたらされた甘美なる悦(ヨロコ)び、何度も天に昇りつめる快感。そして、ふと感じる孤独な静けさ。村を治らない疫病が襲っている時も、そう感じたことを思い出す。ひとり取り残される恐怖。周りに誰もいない感覚。孤独に一歩、また一歩と、日に日に近づいて行くあの頃も、こうして自分の両手を見つめていた。
「私は…っ…どうして?」
生きているのか、生かされているのか、その答えが見つけられない。
立ったまま、ボーっと両手を見下ろす優羽は、寂しさがこみ上げてくるのを感じ取っていた。
「優羽、終わったかな?」
「ッ!?」
驚いた、なんてものじゃない。完全にひとりの世界に没頭していたせいで、周囲への警戒がおざなりになっていた。
口から心臓が飛び出していったのではないだろうか。そう思えるほど、優羽の脈は異常な早さを告げていた。
「…~ッ……」
無言のまま優羽は首を上下に振る。驚きすぎて、どう反応すればいいかわからないほど混乱していた優羽は、自分の身体を両手で隠しながら落ちていた布を拾い上げ、それを自分の身体にまきつける。
自分でも驚くほど素早い身のこなしができたと思うが、咄嗟に悲鳴を飲み込んだせいで、まだうまく声は出せそうになかった。
「キャァッ!?」
せっかく巻き付けたはずの布が、乱暴とも言えるほど勢いよく晶にはぎとられる。
おかげで、ちゃんと声が出た。
「なにするんですか!?」
「何って、確認だよ」
「か…っ…確認?」
布が持っていかれると同時にしゃがみこんだ優羽は、両手で胸を隠しながら混乱した悲鳴を晶にむける。そうして瞬時に、顔を真っ赤に染めた。
「ッ!?」
理解不能な行動を説明してもらおうと、眼前にそびえたつ晶を見上げてから、優羽は相手も一糸まとっていないことに気が付いた。目と鼻の先で見るにはあまりにも衝撃的すぎる。
見上げたばかりの顔を慌てて下げながら、優羽は体を小さく丸まらせていた。
「今さら、何をしてるんだか」
あきれたような晶のため息が真上から降ってくるが、優羽は真っ赤になった顔をあげられない。
「別に、初めて見るものでもないでしょ」
優羽は、必死でうつむきながら身体を丸める。こんなに近くで男そのものを見たのは初めてだっただけに、すっかり平常心を失っていた。
「はい、ここにちゃんと座ろうね」
「ッ!?」
ひょいっと軽々抱き上げられて、優羽は敷物の上に座らされる。しゃがんでいた体勢のまま、向きを変えるようにお尻を床につけた優羽は、赤い顔を隠して、さらに身体を小さく抱え込んだ。
その顔をのぞきこむように、晶がすぐ脇でひざをつく。
「ちゃんと綺麗になってるか、確認するだけだよ」
「だっだだだ大丈夫です!!」
「それなら、見られても大丈夫なはずだね」
「ッ!!?」
相手の方が一枚上手だったことは、いまさらどうにもならない。
自分で掘った墓穴を埋めるための言葉を探している間もなく、優羽の足はいとも簡単に晶にひろげられてしまった。
「はい、このまま膝を立たせておいてくれるかな」
小さな子供に言い聞かせるようになだめられれば、もうまともに顔さえあげることが出来ない。かといって、強制的に大きく広げられた足の間を見る勇気もなかった。
「寝ころんでもいいよ」
ありがたい言葉に、優羽は口元を隠しながら身体をうしろに倒していく。
晶の行為に甘えることにしたものの、身体を寝かせてから、優羽はさらなる羞恥に耐える羽目になることを知った。
「足を閉じていいとは言ってないよ。ほら、ちゃんと曲げて、そう」
何が悲しくて、大股で足をひらき、誰もが見惚れるほどの男に秘部をさらさなければならないのだろう。それも、"よく見せるため"というのだから泣けてくる。
「あ…ッ…~~~ヤッ」
「ジッとしてれば、すぐに終わるよ」
「ひぁっ…ッ…~っ…は…ぃ」
涼の時のように、食べられる恐怖を誤魔化すための行為でもなく、陸の時のように無理矢理広げられているわけでもなく、幸彦の時のように快楽の延長線上にあるものでもない。
それこそ小さな赤子ならいざ知らず、大事な部分が綺麗になったかどうかなんて、実の親にだって確認してもらった記憶はない。まるで、拷問にも近い恥ずかしさだった。
「はぁ…っん…ちょ…ッ」
遠慮なんて言う文字は、きっとこの人たちの中に存在しないのだろう。
指で割れ目を押し広げて診察する晶の行為に、優羽はただ早く終わってくれることを祈る他なかった。
「そこ…待っ…ァ~っ…くっ」
意識が戻ってきた時に理解出来たことは、ただひとつ。
生きている。それだけだった。
「目が覚めたみたいだね」
「ッ!?」
ふいにかけられた声に、優羽はパチッと目をあける。そのまま勢いよく身体を起こせば、心臓が暴れたように警戒心をみなぎらせていた。
体のしんどさで息苦しいのではない。
獣から人間に変わっていく姿から目が離せない。見慣れないと言った方がいいのか。端正な顔で穏やかな気配をもつ狼の彼に、体が硬直していく。
「あき…ら…っ…」
口調は優しいのに、なぜか危険な感じがする。どうしてそう思うのかと尋ねられても、優羽にはうまく答えられなかった。
晶と名乗った狼は、表情は笑っているのに、目が笑っていないからか。穏やかに接してくるのに、義務的な感じがするからか。とにかく、何かがひどく矛盾していて気が抜けない。
心を許してはいけない。
優羽は無意識にそう感じながら、身体の上にのっていた簡素な布を強く握りしめて体を硬直させていた。
「そんなに怖がらなくてもいいよ」
どの口がそういうのか。
いまいち信用できない表面上の言葉に、優羽はますます怖くなるのを感じていた。
きっと、相手もそれをわかっていて声をかけているに違いない。
怖がっている獲物を追い詰めるのが好きなのであれば、随分性格が悪いと思うが、それも間違ってはいないだろう。穏やかな雰囲気のまま、ゆっくりと目の前にやってくる晶を優羽はジッと見つめていた。
「怯えた視線は、俺を誘っているつもり?」
「えっ、ちっ違います」
検討違いな発言に、優羽は反論を口にする。何を言っているんだと思いながら、勝手に熱くなった顔に、優羽は自分が情けなくなっていた。
美しさは凶器と紙一重。神様はうぬぼれさえも許されるのかと、優羽は赤い顔で晶を見上げる。
「っ」
不公平だ。意地悪い性格でもその笑顔が胸を苦しくさせるのだから情けなくもなる。
優羽は言葉を見失った勢いで、晶から視線をそらすと、唇をきゅっと結んだ。
「キミ、百面相だっていわれない?」
クスリと笑いをこぼしたあとで、晶は優羽の目の前にしゃがみこんだ。
「父さんも言ったと思うけど、キミは大事な食料だからね。悪いようにはしない」
その言葉に、優羽は赤い顔をもう一度晶のほうへ向ける。自分と同じ高さになった晶の顔が、より間近にみえて、さらにドキドキと胸が鳴くのを感じてしまう。
彼はこの複雑な乙女心に気づきもしないのだろう。
食料として存在するエサである身分に、希望や期待は許されるのだろうか。柔らかな雰囲気の晶は、また少し唇をあげながら優羽の脇に水を張った器を置いた。
「水?」
「これは飲み水じゃないよ。身体を綺麗に洗うために持って来てあげたもので、ほら。手、出して」
頭の中に浮かんだ疑問に対して、晶は当たり障りのない言葉で答えてくれたが、テキパキと要領よくこなすその動きは、どこか慣れている節があった。無駄がないだけじゃない。
きっと、こういう場面に何度も立ち会ってきたに違いない。
柔らかな布をひたし、適度に絞り、水気を払って、ゆっくりと顔をむけてくる。それだけの動作なのに、熟練者のなせる技のひとつに見えた。
「あっ…え…あの……」
当然のように腕を持ち上げられて、優羽はうろたえる。
ひんやりとした布を滑らせるように肌にあてられたが、晶は優羽の言葉を待つつもりなのか、その動作を止めた。
至近距離でジッと見つめられると、どうしていいかわからない。
言葉につまった優羽を晶は小さく肩をすかせることで受け流すと、まるでよくあることだとでも言いたげに、作業を再開させた。
「大人しくしていれば何もしないよ」
腕をふくその優しさに、ドキドキしながら優羽は息をのむ。壊れないように丁寧な力加減が心地よくて、変な期待が胸にわきそうになる。そこで優羽は、ふと思い出したように室内を見渡した。
「涼は、森の巡回。陸は遊びに行ったよ」
「……え?」
指先から丁寧に拭いてくれる晶の言葉に優羽は耳を疑う。
どうしてわかったのだろうか。たしかに、涼と陸の存在が気にはなったが、顔に出しているつもりはなかった。
「涼と陸に何か用でもあった?」
問われたところで、返答に困る。
二人を見つけて、どうなるというのだろう。ここに連れてきた責任をとってほしいのか、それとも助け出してほしいのか。たぶん、心細いだけだと優羽は悲しそうに息を吐いた。
よりどころを見つけるなんて、どうかしている。
特別な感情は持たない方がいい。彼らにとって、自分は"ただのエサ"。勝手に舞い上がって浮かれてしまえば、あとでツラくなることだけは、目に見えてあきらかだった。
「賢明な判断だと思うよ」
「……え?」
またも言い当てられたことに、優羽は今度こそ驚愕をあらわにする。
もう片方の腕を拭き始めた晶は、その様子に薄い笑いを浮かべて答えてくれた。
「餌は補充がきくし、腐ったものは捨てられる。心の拠り所を見つける前に、美味しくなる方法を考えた方が自分のためになるよ」
優羽は、必死に頭で理解しようとする。
いま告げられた言葉は実に的を得ていたし、その通りだと納得も出来る。それでも、面と向かって言い切られると複雑な思いがした。
「補充がきく?」
ずきりと胸が痛い。
「腐る?」
それを想像すると寒気を感じるように全身が震えた。
腕を預けたまま落ち込んだ声をだした優羽の顔を見つめると、晶はどこか呆れたようにわざとらしい息を吐く。
「俺たちにとって、キミは数多くある食べ物のひとつにすぎないよ」
「数、多く……ある?」
「じゃあ聞くけど。キミは今まで、何を食べて生きてきたのかな?」
ウっと優羽は言葉に詰まる。それは一種類、二種類、指折り数えることなど難しくないほど、簡単に答えることができる質問だった。どうして彼らは「自分だけ」で事足りると思ってしまったのか。
その意味を考えると、ただ、ただ、泣きたくなってくる。
「素材がどうであれ、美味しく味わうための手間暇は俺たちでもかける」
それはそうだろう。優羽にだって料理の一つや二つくらい身に覚えがある。今の優羽を形成している養分は、たくさんの命の積み重ねで生まれたもの。
イヌガミ様が生きていくための必要素は、イヌガミである彼らが決める。
「美味しく食べられたかったら、美味しくなる努力をしたほうがいい」
にこりと向けられたその笑顔が怖くて、ひどく悲しかった。
「そうすれば、残すことなく、味わい尽くしてあげるかもね」
指先に落とされた唇の感触に、思わず身を震わせた優羽を晶は見上げる。優羽も晶を見つめていた。その証拠に、白濁とした銀色の瞳に優羽の姿が映っている。
吸い込まれそうなほど魅惑の眼光に、優羽は固まったまま動けなかった。
「一つ忠告するなら、キミが俺たちにその体を提供したくないと抵抗した場合。どうなると思う?」
優羽は手を握る晶の難題に首をひねる。
食べ物に抵抗された経験はないが、もしも、空腹である自分の目の前にある食べ物が「食べられたくない」と抵抗して、逃げたら、どうするだろうか。
「おいかける?」
「正解。飢えが深まると、俺たちの凶暴さが増す」
飢えないためには満たされることが必要なのだと安易に晶は告げてくる。
「八つ裂きにされたくないのなら、大人しくしていることだよ」
いっそのこと、そうしてくれた方が、苦しみが緩和されるのではないかという錯覚さえ感じてしまった。
エサとして腐らず、飽きさせないように体を提供する。美味しくなる方法はよくわからないが、飢えを促進させて凶暴になられたらどうなるのだろうか。結果は目に見えて明らかだった。現に、一度殺されかけている。
精神的な苦痛か、肉体的な苦痛か。
どちらをとっても苦しみに変わりはないが、現状では、その両方が架(カ)せられている気がしないでもない。
「まあ、さっきの気にあてられて、少し戸惑ったのも正直なところだけどね」
「え?」
布を水盆にひたしながらつぶやいた晶の声に、優羽はうまく聞き取れずに首をかしげる。けれど、晶はニヤリと意地悪な笑みを浮かべて見当違いなことを尋ねてきた。
「そんなに死にたい?」
ふいに尋ねられて、優羽は晶をじっと見つめる。やはり見れば見るほど、吸い込まれそうになる銀色の瞳が綺麗だと、優羽は赤い顔でそっと唇をかんだ。
本当に性格が悪い。
今ここでその質問がくることにも驚いたが、気がつけば、晶は足を拭こうとしていたのだから優羽にとっては二重の驚きがそこにはあった。
「あ、足はじ…じじじ自分でやりますっ!!」
恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、優羽は晶の行為を止めさせる。薄い布がかけられているとはいえ、全裸のまま男の前に座っているのだから、しどろもどろになるのは当然と言えた。
「質問に答えてくれたらね」
そう言いながら、足を持ち上げてくるのだから気が抜けない。優羽はあわてて布がめくれあがるのを両手で抑える。
間一髪。晶が足の間に割り込むことを未然に防ぐことができた。
「よく…っ…わかりません」
しばらくの沈黙の後。声が震えるのを無視して、優羽は素直に気持ちを吐き出していく。
帰る家も、行く先も、会いたい人もいない。生きていればイイことがあると思いたくても、生きる場所がないのだからどうしようもない。居場所がどこにもない。探してみようと思っても、身寄りのない女が一人で生きていくには、今の世はあまりにも無情すぎる。
だからかもしれない。
無意識に身をささげていたのは、自分じゃ終わらすことのできない途方も無い未来を無理矢理終わらせて欲しかったのかもしれない。
「死にたいと……思っていたわけでは、ないんです」
死を直接意識していたわけではなかった。現に、いま生きていることに、どこかホッとしている自分がいる。
「でも……その……」
優羽は結局、拭くことを諦めた晶から目をそらせて、言いにくそうに口ごもった。
晶は作業を止めたまま、優羽の言葉を待っている。チラチラと言おうかどうか迷ったが、優羽は隠していてもしょうがないと小さな声でつぶやいた。
「狼に食べられると言われれば…えっと…その…っ…生かしてもらえるとは思っていなかったので―――」
「俺たちが、人喰いだと?」
「―――ぅっ…はい…ッ…すみません」
優羽は、小さくなりながら頭を下げる。言葉を選んだつもりが、失礼な言葉を口走ってしまったと、後悔がこみ上げてきた。
「そういうつもりで言ったんではないんです!!」
「間違ってないよ」
「……え?」
間違っていない。
晶の言葉は、優羽の心の中で反復していく。
間違っていないということは、"人喰い"であることを肯定しているのだろうか。
優羽の記憶が正しければ、彼らの食事方法は直接エサをその牙でかみ砕くことではないはずだった。
「でも、イヌガミ様の食事って…っ」
思い出すと恥ずかしくなる。相当間抜けな顔だったに違いない。ところが、晶は赤面する優羽の顔をみたにも関わらず、真面目な表情に変わった。
「俺たちイヌガミ族は、本来なら性力を喰らうだけで生きながらえることが出来る種族なんだ。けどね、残念なことに、最近ではそれだけで生きてはいけない。なぜかわかる?」
優羽はその問いに、力なく首を横に振る。
「純粋に、俺たちに身も心も捧げる乙女は、もうどこにもいないからだよ」
なぜか寂しそうに瞳を曇らせる晶の声に、優羽は胸が締め付けられるのを感じていた。
どこにもいない。その言葉に秘められた悲しみの深さは優羽にはわからない。
「この身を維持するために、時には"器ごと"喰らうこともある」
それは、食べるという意味が想像させる行為をお互いに同じものだと認識していいのだろうか。
その言葉に、何も言い返せるものが見つからない。
人間を「器」だと表現した晶のほうが、器である優羽よりも苦しそうに生きているように見えるのは気のせいなのだろうか。
「死にたくなったら、いつでも言っておいで。俺が、この世から跡形もなく消してあげるよ」
柔らかな笑顔に身体を石に変えられてしまったのか、茫然と晶の顔を見つめたまま、優羽は動くことが出来ない。
衝撃の内容に、自分と彼らが違う存在なのだと、あらためて気づかされる。
悲しみと寂しさを心に持って生きるイヌガミ様。
直面した現実に、忘れかけていた事実を思い出した。目の前で人間の容姿をしている晶もその狼のひとりなのだ。命もろとも死ぬことを願えば、跡形もなく、本当に消してくれるだろう。
「その時は…っ…お願いします」
これから先、それを願う日が来るのかはわからないが、優羽は願うように頭をさげる。
「出来ることなら晶さんのお手を煩(ワズラ)わせることには、なりたくありませんけど」
「俺も、そう願うよ」
交わった視線が、ほんの少しだけ温かさを運んだ気がした。
完璧なまでに隔(ヘダ)たりのあった壁に、小さな穴が開いたみたいに、少しだけ近づけたような気がした。
「他の連中に、殺されないようにね」
晶の意地悪な物言いに、優羽はガクッと肩を落とした。
今度こそ忘れていた。この空間には、全部で七匹の狼が住んでいる。
ひとりに安全が保障されたところで、全員がそうとは限らない。優羽は、知らずと首にそっと手を当てていた。
「それで?」
「え?」
晶の問いかけに、優羽は現実へと意識を戻す。
「自分で拭くのかな?」
身体を隠していた布を持ち上げるようにして確認された優羽は、晶の手から濡れた布を急いでひったくった。
顔の熱がいっこうに冷めてくれない。クスクスと笑いながら静かに腰をあげた晶は、「終わったら、呼んでね」と、言い残して、あっさりと部屋を出て行ってくれた。
意外な優しさに、優羽はポカンと口を開け、晶の背を見送っていた視線を手元の布に戻す。
「………」
ぬれた布だけを残して、晶がいなくなっただけで、ぽつんと孤独な空間に室内が変わった気がした。
「……生きてる」
その実感が不思議なものであるように、優羽はしばらくじっと自分の手と布を見つめていた。
やがて意を決したように立ち上がると、それに合わせてはらりと、唯一優羽の身体を隠していた薄い布が落ちる。それは床で軽い音をたて、重なり合うようにして誰もいない部屋で優羽の裸体をさらしていた。
まだ、傷ひとつ、ついていない。初めての時は、さけたと錯覚した股の痛みもない。
複雑な思いを巡らせながら、落ちた布を拾い上げもせずに、優羽はゴシゴシと自分の身体を拭き始める。
「………」
雑念を払い落すため、優羽は布をひたし、よくしぼりもせずに、また身体を拭く。
ぼたぼたと、水が線を描いて肌の上を滑り落ちていったが、それを気にも留めず、何度か繰り返していくうちに、優羽は無の感情に支配されていった。
一人になったら泣くと思っていただけに、自分の意外な一面に唖然とする。わざと音をたてて布を洗ってみても、まったくといっていいほど、今の現状に何の感情も湧いてはこなかった。
「………」
思わず、自分の両手を見つめる。
水の張った器の中に布は沈んでいったが、それさえもどこか他人事のように、優羽は静かに眺めていた。
本当に生きているのだろうか?
わずかな疑問が生まれる。
本当は、もうとっくの昔に亡くなっているんじゃないかとさえ思えてきた。生きている方が不思議な状況には、もう何度も遭遇してきた。村を出る前も、出た後も何も変わらない。
生きていると思っているだけで、ここが死後の世界なのだとしたら、それこそつじつまが合うような気がした。
目を見張るほどの美しい男たち、彼らにもたらされた甘美なる悦(ヨロコ)び、何度も天に昇りつめる快感。そして、ふと感じる孤独な静けさ。村を治らない疫病が襲っている時も、そう感じたことを思い出す。ひとり取り残される恐怖。周りに誰もいない感覚。孤独に一歩、また一歩と、日に日に近づいて行くあの頃も、こうして自分の両手を見つめていた。
「私は…っ…どうして?」
生きているのか、生かされているのか、その答えが見つけられない。
立ったまま、ボーっと両手を見下ろす優羽は、寂しさがこみ上げてくるのを感じ取っていた。
「優羽、終わったかな?」
「ッ!?」
驚いた、なんてものじゃない。完全にひとりの世界に没頭していたせいで、周囲への警戒がおざなりになっていた。
口から心臓が飛び出していったのではないだろうか。そう思えるほど、優羽の脈は異常な早さを告げていた。
「…~ッ……」
無言のまま優羽は首を上下に振る。驚きすぎて、どう反応すればいいかわからないほど混乱していた優羽は、自分の身体を両手で隠しながら落ちていた布を拾い上げ、それを自分の身体にまきつける。
自分でも驚くほど素早い身のこなしができたと思うが、咄嗟に悲鳴を飲み込んだせいで、まだうまく声は出せそうになかった。
「キャァッ!?」
せっかく巻き付けたはずの布が、乱暴とも言えるほど勢いよく晶にはぎとられる。
おかげで、ちゃんと声が出た。
「なにするんですか!?」
「何って、確認だよ」
「か…っ…確認?」
布が持っていかれると同時にしゃがみこんだ優羽は、両手で胸を隠しながら混乱した悲鳴を晶にむける。そうして瞬時に、顔を真っ赤に染めた。
「ッ!?」
理解不能な行動を説明してもらおうと、眼前にそびえたつ晶を見上げてから、優羽は相手も一糸まとっていないことに気が付いた。目と鼻の先で見るにはあまりにも衝撃的すぎる。
見上げたばかりの顔を慌てて下げながら、優羽は体を小さく丸まらせていた。
「今さら、何をしてるんだか」
あきれたような晶のため息が真上から降ってくるが、優羽は真っ赤になった顔をあげられない。
「別に、初めて見るものでもないでしょ」
優羽は、必死でうつむきながら身体を丸める。こんなに近くで男そのものを見たのは初めてだっただけに、すっかり平常心を失っていた。
「はい、ここにちゃんと座ろうね」
「ッ!?」
ひょいっと軽々抱き上げられて、優羽は敷物の上に座らされる。しゃがんでいた体勢のまま、向きを変えるようにお尻を床につけた優羽は、赤い顔を隠して、さらに身体を小さく抱え込んだ。
その顔をのぞきこむように、晶がすぐ脇でひざをつく。
「ちゃんと綺麗になってるか、確認するだけだよ」
「だっだだだ大丈夫です!!」
「それなら、見られても大丈夫なはずだね」
「ッ!!?」
相手の方が一枚上手だったことは、いまさらどうにもならない。
自分で掘った墓穴を埋めるための言葉を探している間もなく、優羽の足はいとも簡単に晶にひろげられてしまった。
「はい、このまま膝を立たせておいてくれるかな」
小さな子供に言い聞かせるようになだめられれば、もうまともに顔さえあげることが出来ない。かといって、強制的に大きく広げられた足の間を見る勇気もなかった。
「寝ころんでもいいよ」
ありがたい言葉に、優羽は口元を隠しながら身体をうしろに倒していく。
晶の行為に甘えることにしたものの、身体を寝かせてから、優羽はさらなる羞恥に耐える羽目になることを知った。
「足を閉じていいとは言ってないよ。ほら、ちゃんと曲げて、そう」
何が悲しくて、大股で足をひらき、誰もが見惚れるほどの男に秘部をさらさなければならないのだろう。それも、"よく見せるため"というのだから泣けてくる。
「あ…ッ…~~~ヤッ」
「ジッとしてれば、すぐに終わるよ」
「ひぁっ…ッ…~っ…は…ぃ」
涼の時のように、食べられる恐怖を誤魔化すための行為でもなく、陸の時のように無理矢理広げられているわけでもなく、幸彦の時のように快楽の延長線上にあるものでもない。
それこそ小さな赤子ならいざ知らず、大事な部分が綺麗になったかどうかなんて、実の親にだって確認してもらった記憶はない。まるで、拷問にも近い恥ずかしさだった。
「はぁ…っん…ちょ…ッ」
遠慮なんて言う文字は、きっとこの人たちの中に存在しないのだろう。
指で割れ目を押し広げて診察する晶の行為に、優羽はただ早く終わってくれることを祈る他なかった。
「そこ…待っ…ァ~っ…くっ」
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