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外伝『選良魂殺』
丙
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薄暗い倉庫の中、雨漏りの音が聞こえる。
武田観月は両手首を鎖で縛られ、天井から吊るされていた。
既に薬を飲まされ、軍人として鍛え身に付けた力も失われてしまっている。
そんな状態で彼女は、一人の女から鞭打ちの拷問を受けていた。
「うぐっ! うぐぁっ!!」
「ほぉら、さっさと吐くんだよ! お前の知っている軍の情報をな!」
「誰が……! ぐぎひっ!!」
既に軍服はボロボロであり、選良を自負していた観月は見るも無残な状態になっていた。
しかし、そんな彼女を支えているのはまさに選良としての矜持に他ならなかった。
新兵の自分が知っている情報など、大した価値は無いかも知れない。
だが軍人の道を選んだ以上、敵に情報を売ることなど出来ない。
「調子はどうだ、同志火野」
そんな所に、倉庫へ二人の男が入ってきた。
共に長身に、鍛えられた体付きをしている。
その内の一人は、声に聞き覚えがあった。
「貴様……!」
「生身では初めましてだな。俺が金剛悟、貴様を撃墜した超級為動機神体・ロクサーヌ改の操縦士だ」
「金剛……悟だと……?」
観月はその名前に聞き覚えがあった。
戦ったときから引っかかっていたのだ。
「知っている奴は知っているかもな。俺は嘗て、民間人の為動機神体大会で中學生ながら全国優勝した神童だったのだ。当時は皇國全土でちょっとした話題になったものだ。もう十五年前になるかな?」
得意気に語る金剛の顔を、観月は唯々睨み上げる。
武装戦隊・狼ノ牙には凄腕の操縦士が居ると、隊長から聞いてはいた。
しかし、まさかそのような経歴の者が叛逆者に身を落としていたとは。
「どうしてそんな男が……狼ノ牙などに……」
「不公平だからだよ」
即答する金剛の横で、先程まで観月を鞭打っていた女が目を背けた。
「俺は平和主義者でね、軍には興味が無かったから其処に居る同志火野の父親が経営する企業に入り、為動機神体開発の試験操縦士として生計を立てていた。ま、経歴が経歴だからな、会社には貢献したし、それなりに稼がせてもらった。しかしそれでも、社会に出ると否が応にも思い知るのさ。この国が如何に腐っているのかを。無能で怠け者の貴族が踏ん反り返っている社会が如何に糞であるかをな」
「火野……? まさかその女、火野初音か?」
観月は立て続けに驚かされた。
為動機神体を開発している民間企業の中でも、火野重工は非財閥として最王手だ。
その社長令嬢・火野初音までもが叛逆者となっていたとは。
「貴様は一つ勘違いしている。俺達は正確には『地上ノ蠍座』といってな、同志・黄柳野の下で狼ノ牙の別働隊として再結成された組織なのだ。どうも、俺達は狼ノ牙とは境遇が違って話が合わんのだよ。あいつらは俺達と違って恵まれていなかったからな」
「ああ、俺も熟々そう思うよ」
もう一人の男が頷いた。
地頭恭輔、如何にも凶暴そうな、人相の悪い男だ。
しかし彼もまた、裕福な家の育ちである。
そんな彼に、金剛と火野は意外そうな視線を向ける。
「同志地頭は仲良くやっていたように思ったがな?」
「口裏を合わせていただけだ。女の趣味も合わんしな。あいつらは従順な女が好きなようだが、俺は反抗的な女を犯すのが興奮するんだ」
そう言うと、地頭は服を脱いで全裸となった。
彫り物が駆け巡る筋骨隆々とした肉体が剥き出しになる。
「うっ……!」
観月は青褪めた。
何故男二人が拷問の場に割って入ったのか、その目的が男根と共に露わとなる。
彼女がそれを目の当たりにしたのは幼少期以来だったが、地頭のそれは想像からかけ離れて異様な形状をしていた。
「女の拷問は親父の組の得意分野でな、俺もやり方は能く心得ている。その為の物も確り仕込んであるんだ。見ろ、こいつをよ……」
地頭の男には、明らかに人工物が埋め込まれていた。
所々に浮き出る丸い突起が観月の恐怖を煽る。
「やめろ……!」
「ふふふ、いつ見ても堪らんな、強気な女の表情が恐怖に染まるのは。だが、肉が強張るのは良くない」
地頭はそう言うと拳を握り締め、腰を回して振り被る。
彼の悪趣味に金剛と火野は目を背けている。
そして、彼は勢いを付けて観月の腹部に拳を突き立てた。
「がはっ!!」
腹部の内臓が悲鳴を上げる様な鈍痛が観月を悶絶させる。
殴られると解っていた彼女は彼女なりに腹筋を固めたのだが、そんなものは存在しないかの如くあっさりと貫かれたのだと解ってしまう。
そんな彼女に、地頭の鍛え抜かれた腕が更に容赦無く振るわれる。
何度も、何度も、宛ら肉の下拵えの如く彼女の腹を殴り続ける。
「ぐえっ! ごえエェェッッ!!」
「犯す前になァ! 恐怖で強張った肉を殴って柔らかくするんだ! そうやって強くて反抗的な女の心をへし折って屈服させるのが興奮するんだよ俺は! 肉がトロトロになった女を犯したときの征服感よ!」
鈍い音が腹から響く。
痛みと息苦しさに視界が明滅する。
「地頭め、何て悪趣味なの……。同じ女として、見ていられない……」
「軍人になどなるものではないな」
先程まで鞭を打っていた火野や男の金剛ですら目を覆う。
観月にとって、それまでの拷問が児戯に思える苦しみだった。
これが男の腕力。
ふと彼女は金剛の言葉を脳裡に繰り返す。
『軍人になどなるものではない』
あの時、家を出ずに大人しく嫁に出されていればこんな目に遭わなかった――そんな考えがふと頭に過ってしまった。
だがその迷いすらも、地頭の剛腕に与えられる腹部の苦痛が一瞬で掻き消してしまう。
「オラ! オラァッ!!」
「おげえェェッ!! うげえエェェッ!!」
いつこの苦痛は終わるのか――そんなことを思ったとき、地頭の肩に金剛の手が置かれた。
止めてくれたのか――そんな甘い考えが観月の頭に過った辺り、既に彼女の心は折れるまで秒読みだった。
だが、そんな淡い期待は儚く消える。
「地頭、俺と火野は隊長の死体を片付けてくる。此処に居るよりそっちの方が気が楽だ」
「おう、悪いな」
観月は漆黒の絶望に包まれた。
隊長が死んだ。
自分が独断専行せずに連携していれば、或いはこうならなかったかも知れない。
金剛と火野は倉庫を去り、この場には地頭と観月だけが残された。
もうこの男を止めうる者は誰も居ない。
気が済むまで嬲られるだけだ。
「さぁて、お楽しみを続けよう……かっ!」
「ごほぉォッ!!」
再び、いつ終わるとも知れぬ腹への殴打が始まった。
武田観月は両手首を鎖で縛られ、天井から吊るされていた。
既に薬を飲まされ、軍人として鍛え身に付けた力も失われてしまっている。
そんな状態で彼女は、一人の女から鞭打ちの拷問を受けていた。
「うぐっ! うぐぁっ!!」
「ほぉら、さっさと吐くんだよ! お前の知っている軍の情報をな!」
「誰が……! ぐぎひっ!!」
既に軍服はボロボロであり、選良を自負していた観月は見るも無残な状態になっていた。
しかし、そんな彼女を支えているのはまさに選良としての矜持に他ならなかった。
新兵の自分が知っている情報など、大した価値は無いかも知れない。
だが軍人の道を選んだ以上、敵に情報を売ることなど出来ない。
「調子はどうだ、同志火野」
そんな所に、倉庫へ二人の男が入ってきた。
共に長身に、鍛えられた体付きをしている。
その内の一人は、声に聞き覚えがあった。
「貴様……!」
「生身では初めましてだな。俺が金剛悟、貴様を撃墜した超級為動機神体・ロクサーヌ改の操縦士だ」
「金剛……悟だと……?」
観月はその名前に聞き覚えがあった。
戦ったときから引っかかっていたのだ。
「知っている奴は知っているかもな。俺は嘗て、民間人の為動機神体大会で中學生ながら全国優勝した神童だったのだ。当時は皇國全土でちょっとした話題になったものだ。もう十五年前になるかな?」
得意気に語る金剛の顔を、観月は唯々睨み上げる。
武装戦隊・狼ノ牙には凄腕の操縦士が居ると、隊長から聞いてはいた。
しかし、まさかそのような経歴の者が叛逆者に身を落としていたとは。
「どうしてそんな男が……狼ノ牙などに……」
「不公平だからだよ」
即答する金剛の横で、先程まで観月を鞭打っていた女が目を背けた。
「俺は平和主義者でね、軍には興味が無かったから其処に居る同志火野の父親が経営する企業に入り、為動機神体開発の試験操縦士として生計を立てていた。ま、経歴が経歴だからな、会社には貢献したし、それなりに稼がせてもらった。しかしそれでも、社会に出ると否が応にも思い知るのさ。この国が如何に腐っているのかを。無能で怠け者の貴族が踏ん反り返っている社会が如何に糞であるかをな」
「火野……? まさかその女、火野初音か?」
観月は立て続けに驚かされた。
為動機神体を開発している民間企業の中でも、火野重工は非財閥として最王手だ。
その社長令嬢・火野初音までもが叛逆者となっていたとは。
「貴様は一つ勘違いしている。俺達は正確には『地上ノ蠍座』といってな、同志・黄柳野の下で狼ノ牙の別働隊として再結成された組織なのだ。どうも、俺達は狼ノ牙とは境遇が違って話が合わんのだよ。あいつらは俺達と違って恵まれていなかったからな」
「ああ、俺も熟々そう思うよ」
もう一人の男が頷いた。
地頭恭輔、如何にも凶暴そうな、人相の悪い男だ。
しかし彼もまた、裕福な家の育ちである。
そんな彼に、金剛と火野は意外そうな視線を向ける。
「同志地頭は仲良くやっていたように思ったがな?」
「口裏を合わせていただけだ。女の趣味も合わんしな。あいつらは従順な女が好きなようだが、俺は反抗的な女を犯すのが興奮するんだ」
そう言うと、地頭は服を脱いで全裸となった。
彫り物が駆け巡る筋骨隆々とした肉体が剥き出しになる。
「うっ……!」
観月は青褪めた。
何故男二人が拷問の場に割って入ったのか、その目的が男根と共に露わとなる。
彼女がそれを目の当たりにしたのは幼少期以来だったが、地頭のそれは想像からかけ離れて異様な形状をしていた。
「女の拷問は親父の組の得意分野でな、俺もやり方は能く心得ている。その為の物も確り仕込んであるんだ。見ろ、こいつをよ……」
地頭の男には、明らかに人工物が埋め込まれていた。
所々に浮き出る丸い突起が観月の恐怖を煽る。
「やめろ……!」
「ふふふ、いつ見ても堪らんな、強気な女の表情が恐怖に染まるのは。だが、肉が強張るのは良くない」
地頭はそう言うと拳を握り締め、腰を回して振り被る。
彼の悪趣味に金剛と火野は目を背けている。
そして、彼は勢いを付けて観月の腹部に拳を突き立てた。
「がはっ!!」
腹部の内臓が悲鳴を上げる様な鈍痛が観月を悶絶させる。
殴られると解っていた彼女は彼女なりに腹筋を固めたのだが、そんなものは存在しないかの如くあっさりと貫かれたのだと解ってしまう。
そんな彼女に、地頭の鍛え抜かれた腕が更に容赦無く振るわれる。
何度も、何度も、宛ら肉の下拵えの如く彼女の腹を殴り続ける。
「ぐえっ! ごえエェェッッ!!」
「犯す前になァ! 恐怖で強張った肉を殴って柔らかくするんだ! そうやって強くて反抗的な女の心をへし折って屈服させるのが興奮するんだよ俺は! 肉がトロトロになった女を犯したときの征服感よ!」
鈍い音が腹から響く。
痛みと息苦しさに視界が明滅する。
「地頭め、何て悪趣味なの……。同じ女として、見ていられない……」
「軍人になどなるものではないな」
先程まで鞭を打っていた火野や男の金剛ですら目を覆う。
観月にとって、それまでの拷問が児戯に思える苦しみだった。
これが男の腕力。
ふと彼女は金剛の言葉を脳裡に繰り返す。
『軍人になどなるものではない』
あの時、家を出ずに大人しく嫁に出されていればこんな目に遭わなかった――そんな考えがふと頭に過ってしまった。
だがその迷いすらも、地頭の剛腕に与えられる腹部の苦痛が一瞬で掻き消してしまう。
「オラ! オラァッ!!」
「おげえェェッ!! うげえエェェッ!!」
いつこの苦痛は終わるのか――そんなことを思ったとき、地頭の肩に金剛の手が置かれた。
止めてくれたのか――そんな甘い考えが観月の頭に過った辺り、既に彼女の心は折れるまで秒読みだった。
だが、そんな淡い期待は儚く消える。
「地頭、俺と火野は隊長の死体を片付けてくる。此処に居るよりそっちの方が気が楽だ」
「おう、悪いな」
観月は漆黒の絶望に包まれた。
隊長が死んだ。
自分が独断専行せずに連携していれば、或いはこうならなかったかも知れない。
金剛と火野は倉庫を去り、この場には地頭と観月だけが残された。
もうこの男を止めうる者は誰も居ない。
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