日本と皇國の幻争正統記・好色秘伝

坐久靈二

文字の大きさ
14 / 17
外伝『選良魂殺』

しおりを挟む
 一年後、たけづきは軍にとどまっていた。
 命令無視の独断専行から被撃墜、最新鋭機のかく、更には部隊の全滅を招き、隊長を死なせた上に虜囚となった彼女は少尉に降格となった。
 それでも一応は機密を漏らさなかったということで、退役だけはどうにか免れたが、彼女に突き刺さる視線はせんぼうや嫉妬から侮蔑や嘲笑に変わってしまった。

 針のむしろとなった彼女だったが、かといって家を捨てて村を飛び出した彼女に帰る場所など無い。
 どんなに惨めでも、居たたまれなくても、軍にしがみ付くより他に無かったのだ。

 そんなづきにとって、心の安まる時間がわずかにあった。
 軍には華族の子女を一定期間預かって訓練を行う制度があるのだが、それを利用した一人の男爵令嬢がづきの預かりとなっていたのだ。
 令嬢の名ははた――づきが家を出る際、身元の引き受けを請け負ったはた男爵家の次女である。

 づきどうしんたいの操縦を訓練していた。
 これは貴族達にとって、非常に人気の技能だ。
 時には公爵家の当主自らがこれを身に付けたいと希望する程である。

は筋が良いな」
「ありがとう、づき

 る夕刻、づきはその日の訓練を終えて営内を歩いていた。
 彼女と居る一時だけは、づきは己の現況を忘れることが出来る。
 教えを請う人間を導くのは、本来こうありたかった自分自身の姿と重なる。
 ささやかながら、の存在はづきの救いだった。

「しかし、突然どうしんたいの操縦技能を身に付けたいとは、どういった心境なんだ?」
わたくしには……やらなければならないことがあるのです……」

 の表情に暗い影が差した。
 実のところ、づきの胸中を薄々察してはいた。
 というのも、が現在どうしんたいの訓練を受けられているのは通常あり得ないことなのだ。

「やらなければならないこと……なんとなくわかるが、そのためこうどうしゆとうに入るとはな」
「軍に顔が利かなければ、上級貴族の方々を差し置いて訓練を受けられませんから……」

 こうどうしゆとうとは、軍人や下級貴族の間でひそかに党員を増やしている極右政治団体である。
 こうこくいて神皇や皇族は深い崇敬の念を集めているが、こうどうしゆとうは神皇の親政を求める過激な変革思想を持っている。

さんか……。国家に忠誠を誓う軍人の身で言うのも難だが、見付かると良いな」
「ありがとう」

 の姉・はたはた家の令嬢でありながらそうせんたいおおかみきばはしってはんぎやく者に身をとしたと聞く。
 はそんな姉を探し出して連れ戻すべく、おおかみきばに潜入しようと考えているのだ。
 身分を偽って自分を売り込む為に、どうしんたいの操縦技術を身に付けようという腹積もりなのである。

はた家の令嬢……恵まれた境遇で育った女……ということは、所属は「じようさそり」の方なんだろうな……なら、今頃彼女は……)

 一年前の動乱では、結局おおかみきばは敗退して勢力をいちじるしく衰退させ、じようさそりは壊滅した。
 の姉は十中八九、じようさそりと共に身を滅ぼしているだろう。
 しかし、づきには言えなかった。
 を止めてしまえば、自分が救われる時間が終わってしまう。

(うっ……!)

 瞬間、づきは体の奥底に込み上げるものを感じた。

「どうしたのですか、づき?」
「いや、何でもない」

 平気な顔をに向けるづきだが、彼女の中ではぐつぐつとある衝動がたぎっていた。
 それはふとした切掛でよみがえ心的外傷トラウマにも似ている。

「じゃあづきわたくしで」
「ああ、気を付けて帰れよ」

 門での別れ際、づきに深々と頭を下げた。
 やはり、叛逆者に関わろうとするのことは止めるべきだろう。
 しかし、づきにはどうしても出来なかった。
 彼女ははやおおかみきばじようさそりのことは平常心で考えられないのだ。

(駄目だ……早く戻らないと……)

 彼女は急いで、営内の宿舎へと向かった。



    ⦿⦿⦿



 近年、自衛隊では勤務環境の改善が行われ、自衛官に個室を与えられるようになってきているらしい。
 こうこくの軍でもまた、同様の改革が行われていた。
 とはいえ、個室が与えられるのは将校以上に限られる。
 づきの降格が少尉に留まったのは非常に幸いであった。

「うぅ……はぁ、はぁ……」

 なら彼女は時折、どうしても自分を慰めずにはいられなくなってしまうからだ。
 引き金となるのは、一年前にとうきょうすけから受けたりようじよくを思い出してしまうこと。
 また、それに起因した今の惨めな境遇に思いをせてしまっても、同じ様な衝動に駆られる。

「おぉぉぅっ、んおぉぉっ……」

 今日もづきは布団の上で自分の秘部を指でまわし、当時の記憶を思い起こしながら自慰行為にふけっていた。
 ただそれは、彼女にとって決して甘美な一時ではない。

(やめろ……やめろ……!)

 づきはんすうするのは苦痛と恐怖、屈辱と屈服の記憶である。
 腹へのしつような拳打で痛め付けられ犯されて感じた苦痛、その仕打ちにって植え付けられてしまった恐怖、心が折れて敵に許しを乞いながら床に失禁し小便をめさせられた屈辱、首を絞められながら犯されて中に出されて絶頂した屈服。
 それら全てが暗い悦楽として彼女をさいなみ、どうしようも無く体を熱くさせるのだ。

「ああアッ、くそ! くそ!」

 だがもちろん、このような行為はづきが本来望むところではない。
 本来は選良エリートとして人の上に立つはずだったのに、その道も絶たれてような有様を演じている。
 その落差から来る惨めさが、更にづきたかぶらせてしまう。

「イっグッッ! イグイグイグゥゥッ!!」

 そしてついには、秘部を激しく掻き回しながら、みっともない声を上げて絶頂してしまうのだ。
 これでもかと体をらせ、足を伸ばしてけいれんし、暗い快楽の波に揺られる。
 そしてひとしきり快楽をむさぼった後、づきれた布団に力無く寝そべる。

わたしは……わたしは最低だ……。いつまでこんなことを……。もう死にたい……)

 けんの毛布が彼女を包む。
 だがこの日はこれで終わりではなかった。
 彼女の電話端末が鳴り、或る人物からの連絡を告げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

処理中です...