日本と皇國の幻争正統記・好色秘伝

坐久靈二

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外伝『恥辱の中で媚笑んで』

補 上

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 いつきは反政府テロ組織「そうせんたいおおかみきば」に参画を決めた。
 今後、はその首領の都合の良い愛人、セックスフレンドとして、その体をささげ続けるだろう。

 一方で、同じくゆうという女を寝取られたもう一人の男は全く別の運命を辿たどった。
 とある大人物の邸宅、長く続く壮麗な回廊で、ヒールの乾いた音が響いている。
 彼にとって、目一杯のおめかしは己を愛してくれた掛け替えのない貴人への礼節であり、感謝であり、忠義であり、慕情である。

 この廊下の向こう、ごうけんらんな寝室では、よいも彼の主が胸を時めかせて彼をびている。
 無論、それは彼にとっても同じであり、この世で最もいとしき人と目合い語らう部屋へ向け、どうしても足早になってしまう。

 そんな、心に在らずな彼は、一人の男とぶつかってしまった。
 一六〇センチ足らずのきやしやで小柄な体にフリフリの女装がく似合っている彼とは対照的な、二メートルを優に超える偉丈夫である。
 体格差にヒールのバランスの悪さが重なり、彼は一方的に転ばされてしまった。

「大丈夫か?」
「も、申し訳御座いません」

 相手が相手なので、倒れた彼の方が即座に謝罪を口にした。
 偉丈夫はこうぜんしょくの肌にはっきんしょくの長髪という浮き世離れした色彩に、身震いするほど美しい顔で彼を見下ろしている。
 こうこくに住まう者ならば誰でもその顔を知っている。
 日常的に男の肖像画を見て生活しているからだ。

「不注意でした。大変申し訳御座いません、皇太子殿下」
「良い良い、気にするな」

 皇太子はその青い唇からうっとりするほど心ぐ声を奏でた。
 柳緑と深紅のこうさい、澄んだ重瞳に、女性とまがう彼の姿が鏡映しになっている。

「立てるか?」
「はい。づかいありがとうございます」

 そう言いながらも立ち上がる際に体勢を崩した彼の手を、皇太子はとつつかんだ。

「あ、すみません……」
をせぬようにしつかり前を見て歩くが良い。傷が出来ては姉上が悲しむぞ」
「はい。ありがとうございます」

 彼は一礼し、この館の主である皇女のもとへと向かった。

    ⦿

 皇太子はこの日、姉である第一皇女に遊びの誘いを受けていた。
 遊びと言っても、彼女のコレクションをさかなに酒を楽しみながら、天下国家のあるべき姿について意見を交換するという雲上人のたしなみに興じるのだが。
 彼とぶつかったのは、ひとしきり話し終えて帰る最中であった。

「あの子、今日もまた呼び出されたのですか。お酒で気分が高揚されているとはいえ、弟君が帰るのも待たずに早速とは……。第一皇女殿下も随分とお気に入りのようですねえ……」

 ゴシックファッションに身を包んだ近衛侍女が皇太子に語り掛けた。
 皇太子は丸太の様に太い腕を組み、立ち去った女装子の後ろ姿を眺めている。

「あれほどの美貌の持ち主だ。収まるべきところに収まったと言うべきだろう。むしろ、前の女に捨てられたというのが全く理解出来ん」
「まあ、女性の好みは色々では御座いますが、ナヨナヨした弱さを嫌う方は多いですからねえ。そのかたにとっては論外だったのでしょう」
「しかし、元はといえば幼い頃よりおもいを寄せ合った仲だというではないか。それを昨日今日新規に現れた何処どこぞのなにがしへ乗り換えるなどということがあるか? それとあの美貌を合わせてなお、強い弱いだの勝ち組負け組だの、そんな誰も彼も大して変わらぬどうでも良い要素の方が重いというのか?」

 心底解せぬ、といった様子で皇太子は首をひねった。
 そんな主に、近衛侍女が更なるうわさばなしを告げる。

「よくある話ですよ。彼を捨てた方は極端ではありますがね。聞けばその御方、彼を捨てて得た財閥の御曹司も敗戦を機にまた捨てて、最終的にはたかつがい公爵閣下へ嫁いだそうですよ」
たかつがい公爵家? あのよるあきの処へか? たかつがい家の嫁選びには今更驚かんが、よりにもよってあの男を選んだのか? こう言っては難だが、男を見る目が無さ過ぎるのではないか?」
「ええ。結局たかつがいきようはまた新しい女性に目移りして離婚。ごみ同然に捨てられたその御方、今では夜の商売で体を売ってこうしのいでいるそうですわ」

 そのてんまつに、皇太子は肩をすくめて反対側へ首を捻った。

「下々の男と女はよくわからんな……」
たかつがい卿をして下々と評せるのは貴方あなた様くらいで御座いましょうが……」

 頭を捻る皇太子と、その後に続く近衛侍女が廊下を歩いて行く。



    ⦿⦿⦿



 小さなノック音を静寂に鳴らす。
 ぼくはこの瞬間を何十回繰り返しても胸の高鳴りを抑えられない。

「入りなさい」

 鈴を転がすような美しい声が扉の向こうから返される。
 皇太子といい彼女といい、貴人の声というものは聞くだけで夢心地にさせる。

「失礼します」

 扉の向こうで待つ第一皇女殿下は、間違い無くこうこくで最も美しい御方だ。
 畏れ多くもぼくは彼女を「ねえさま」と呼ばせて頂いている。

ちらへいらっしゃい。わたくしわい望愛のあ

 おとがい望愛のあ、それが御姉様に賜ったぼくの新しい名だ。
 かつての「くろやなぎのりあき」という名は、いつきという間男に幼馴染のもちむらゆうを寝取られて以来呪われてしまった。
 直々に新しい名を下さった御姉様には感謝しか無い。
 あの二人は今頃どうしているだろうか。
 ぼくが雌の喜びに目覚めたと知れば、二人して嘲笑するのだろうか。

 天鵞絨びろうどの幕が垂れるごうしやな寝具に座って細い指先をもてあそび手招く御姉様に促されるまま、ぼくは彼女の傍らに寄り添って腰掛ける。

「ごめんなさいね、このところ毎日御前を呼び出してしまっていますね」

 お姉様の白い手がぼくうちももを優しくさする。
 それだけでぼくは快感に声を漏らしてしまう。

「可愛いですね。そんなまえだから、わたくしもつい会いたくなってしまうのですよ」
「あ♡ 御姉様……♡」

 体が密着し、身長一七七センチあるという御姉様の体格に華奢なぼくはつい圧倒され押し倒されそうになる。
 ふふ、と彼女は笑い、腰に手を回してぼくを支えた。

 長く、さらさらの絹のような黒髪がぼくの敏感な肌に触れる。

「あっ、あっ……。御姉様、御姉様……」
「モジモジしちゃって……。少しでてやるだけですぐこれですね」
「だって御姉様、素敵だから……」

 うっとりした夢心地のままお姉様の瞳を見上げるぼくを、彼女はぐいと抱き寄せ、唇を重ねた。
 自らに配膳された極上の果実を味わい尽くすように舌を絡められると、ぼくうれしさで胸が一杯になる。
 更に、弾力のある豊かな乳房が布越しに圧し当てられ、ぼくいよいよ耐え難いうずきにもだえし始めた。

 二人の唇が離れ、唾液が名残惜しそうに糸を引く。

「んっ……」
「うふふ、いつまでっても初心うぶな坊やですね。トロンとした目でほうけちゃって……、本当に可愛い♡」 
「はぁ、はぁ……。御姉様、ぼくもう……」
「欲しくなってしまいましたか?」
「はい、ごめんなさい……」

 御姉様のちようあいを受ける者は、ある特別な誉れを賜ることが出来る。

 彼女もまた、皇太子殿下とは異なる形で幻想的な身体的特徴を有する神聖な御方だ。
 数多くの『日本』を吸収してきたこうこくだったが、他のどの時空もこのような特殊性を備えた方を多く有する皇室は無かったそうだ。
 もちろん、ぼくの元いたネオローだいかんていこく連邦日本王国のおうみつのぶ殿下らも同じだった。
 
 特別な方との特別な目合い。

 それを知ってしまったら、もう普通には戻れない。
 もう御姉様に与えられるよろこび以外で満足なんてできない。

「では、いつものようにオネダリをしてみなさい」
「はい……♡」

 ぼく寝台ベッドあおけとなり、フリルのたっぷり付いたスカートを託し上げる。
 そして女性用のパンティとガーターベルトにギチギチと抑え込まれながら必死に勃起する弱々しい陰茎おちんちんを彼女にさらした。
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