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2話
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2
「ただいま。」
放課後デートを終え、俺は夕飯の材料を買ってから帰宅する。姉と二人暮しだが、姉は仕事が忙しいので一切家事をやらない。なので、夕飯の買い出しから何から全て俺一人でやっているのだ。
「おかえり。悠。」
俺が帰ってくると姉は必ず仕事を一旦やめ、2階にある自室から降りてくる。そんなに仕事がしたくないのか、あるいはご飯が食べたいのか……真偽は分からないが、まぁ別に俺には関係ないことなので何でもいい。
「今日の夕飯は肉じゃがだから、ご飯できるまで少し時間貰うけどいい?サラダでも先に作るわ。」
「いや、いいよ。私お風呂入ってくる。」
一見すると普通の家庭の会話に聞こえるが、俺は少し違和感を覚える。うちの姉は、「ご飯できる前になんでもいいから少し食べられるもの出して。お腹空いた」と毎日絶対言ってくるのに、今日は空腹なんて微塵も感じさせないような口調でそう言った。
「了解。」
まぁ別に毎日空腹な訳でもないだろうと思い、俺は台所へ向かった。しかし、いつもと違う姉の態度には少し引っかかる部分があった。
◇
大学生、氷川美鈴。その類い稀なる美貌を存分に生かし、つい先日の大学内のミスコンでは、本選に初出場初優勝。吸い込まれそうな漆黒の長髪と、対照的な白く透明感のある肌。鋭く切れた目も相まって『クール系美女』のお手本のような見た目をしている。性格はかなりキツめだが、その言葉の節々からは優しさと思いやりが感じられ、時々見せる表情には純粋な乙女としての一面もある。こんな女性が男子からモテないわけがなく、大学でも告白ラッシュなのだそう。
目の前で料理を頬張っている姉を見て、俺はそんな紹介文を考える。身内の目から見ても美人なのだ。他の男からだとさぞ美しく思えるだろう。
「なんで私の事見てるの?私の顔になんかついてる?」
「いや、大丈夫。なんでもない。」
それ以降、俺たちの間に会話はなかった。不機嫌なのか、ただ単に疲れているのか。姉は読めない部分が多々あるから、時々わからないのだが、今回は一段とわからない。
1日の諸々を終わらせ、ベッドに体を投げ出す。
出掛けたりしてそこそこ疲れていたのだろう。俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
起きるとまだ3:00。水でも飲んでくるかと部屋を出た時、隣にある姉の部屋の電気が少し空いたドアの隙間から漏れていた。仕事をしているのだろうと思い、コーヒーは必要かと声をかけるため静かにドアの前へ。すると、中からブツブツ何かを呟く声が聞こえた。
「悠は渡さない。悠は私のもの。私の弟だもん。あんなメス猫に渡す訳にはいかない。」
俺は恐怖でそこを離れようとした。しかし、それがまずかったのだ。足音をひそめることなんて一切考えていなかった俺はバタンと大きな音を出してしまった。無論、姉がそれに気づかないはずもなく見事に見つかった。
「悠。起きてたんだ。」
「う、うん。コーヒー必要かなって思って……」
「入って。」
「え?」
状況が掴めぬまま、姉の部屋に連行される。パソコンの画面にはメモ機能が開かれており、そこには先程の姉の独り言が呪文のように書いてあった。
画面に目を奪われていた俺は不意をつかれ、ベッドに押し倒された。姉に馬乗りされ一切身動きが取れない。
「悠さ、今日帰りいつもより遅かったよね。」
「うん。」
「誰とどこで何してたの。」
突然そんな事を聞かれ、俺はたじろいて目を逸らす。彩乃と付き合っていることは姉には言っていない。言って問題があるかと言われればないんだけれども、かと言って報告するようなものでもないだろう。
「友達と、少しゲーセンに……」
「嘘よ。」
なぜバレている。もしかして見られてたのか……?いや、見られていたとしたらなぜこんなことを聞いてくるのか……
分からないことが多すぎるが、とりあえず隠せるところまでは隠し通そうと決め、言い訳を続ける。
「なんで嘘ってわかるのさ。見てたの?」
「うん。悠が栗原さんと海でキスしてるの見た。」
もはや言い逃れができない所まで見られてしまっていた。
「なんなら、悠が栗原さんと付き合っているのも知ってた。しょっちゅう帰りが遅くなるのも、帰ってきた時に少し香水の匂いがするのも、なんとなくそんな気がしてた。」
姉の顔がさっきよりも近くなる。布団と姉自身から漂ってくる甘い匂いが思考回路を遮ってくる。
「悠は栗原さんのことが好き?」
「うん。」
「そっか。」
姉はおもむろに俺の髪に手を当て、そっと撫でてきた。何年ぶりか分からないその感覚に俺は身を預ける。小さい頃はよくこうやって一緒に寝てもらった思い出があるが、思春期の到来と共にさっぱり無くなってしまった。
「悠……」
返事をしようと瞬間、姉の手に視界を完全に奪われる。状況を整理している間もなく、
――唇に温かく湿った感触が伝わってきた。
「やっぱり許せないから上書き。ごめんね……」
最後のごめんねにどのような意味があるのかは俺には分からなかった。しかし、その時の姉の顔が泣きそうだったことはハッキリと分かった。
放心状態で部屋に戻った俺は一言、
「おいなんなんだよ……」
ただ呆然と、そう呟いた。
「ただいま。」
放課後デートを終え、俺は夕飯の材料を買ってから帰宅する。姉と二人暮しだが、姉は仕事が忙しいので一切家事をやらない。なので、夕飯の買い出しから何から全て俺一人でやっているのだ。
「おかえり。悠。」
俺が帰ってくると姉は必ず仕事を一旦やめ、2階にある自室から降りてくる。そんなに仕事がしたくないのか、あるいはご飯が食べたいのか……真偽は分からないが、まぁ別に俺には関係ないことなので何でもいい。
「今日の夕飯は肉じゃがだから、ご飯できるまで少し時間貰うけどいい?サラダでも先に作るわ。」
「いや、いいよ。私お風呂入ってくる。」
一見すると普通の家庭の会話に聞こえるが、俺は少し違和感を覚える。うちの姉は、「ご飯できる前になんでもいいから少し食べられるもの出して。お腹空いた」と毎日絶対言ってくるのに、今日は空腹なんて微塵も感じさせないような口調でそう言った。
「了解。」
まぁ別に毎日空腹な訳でもないだろうと思い、俺は台所へ向かった。しかし、いつもと違う姉の態度には少し引っかかる部分があった。
◇
大学生、氷川美鈴。その類い稀なる美貌を存分に生かし、つい先日の大学内のミスコンでは、本選に初出場初優勝。吸い込まれそうな漆黒の長髪と、対照的な白く透明感のある肌。鋭く切れた目も相まって『クール系美女』のお手本のような見た目をしている。性格はかなりキツめだが、その言葉の節々からは優しさと思いやりが感じられ、時々見せる表情には純粋な乙女としての一面もある。こんな女性が男子からモテないわけがなく、大学でも告白ラッシュなのだそう。
目の前で料理を頬張っている姉を見て、俺はそんな紹介文を考える。身内の目から見ても美人なのだ。他の男からだとさぞ美しく思えるだろう。
「なんで私の事見てるの?私の顔になんかついてる?」
「いや、大丈夫。なんでもない。」
それ以降、俺たちの間に会話はなかった。不機嫌なのか、ただ単に疲れているのか。姉は読めない部分が多々あるから、時々わからないのだが、今回は一段とわからない。
1日の諸々を終わらせ、ベッドに体を投げ出す。
出掛けたりしてそこそこ疲れていたのだろう。俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
起きるとまだ3:00。水でも飲んでくるかと部屋を出た時、隣にある姉の部屋の電気が少し空いたドアの隙間から漏れていた。仕事をしているのだろうと思い、コーヒーは必要かと声をかけるため静かにドアの前へ。すると、中からブツブツ何かを呟く声が聞こえた。
「悠は渡さない。悠は私のもの。私の弟だもん。あんなメス猫に渡す訳にはいかない。」
俺は恐怖でそこを離れようとした。しかし、それがまずかったのだ。足音をひそめることなんて一切考えていなかった俺はバタンと大きな音を出してしまった。無論、姉がそれに気づかないはずもなく見事に見つかった。
「悠。起きてたんだ。」
「う、うん。コーヒー必要かなって思って……」
「入って。」
「え?」
状況が掴めぬまま、姉の部屋に連行される。パソコンの画面にはメモ機能が開かれており、そこには先程の姉の独り言が呪文のように書いてあった。
画面に目を奪われていた俺は不意をつかれ、ベッドに押し倒された。姉に馬乗りされ一切身動きが取れない。
「悠さ、今日帰りいつもより遅かったよね。」
「うん。」
「誰とどこで何してたの。」
突然そんな事を聞かれ、俺はたじろいて目を逸らす。彩乃と付き合っていることは姉には言っていない。言って問題があるかと言われればないんだけれども、かと言って報告するようなものでもないだろう。
「友達と、少しゲーセンに……」
「嘘よ。」
なぜバレている。もしかして見られてたのか……?いや、見られていたとしたらなぜこんなことを聞いてくるのか……
分からないことが多すぎるが、とりあえず隠せるところまでは隠し通そうと決め、言い訳を続ける。
「なんで嘘ってわかるのさ。見てたの?」
「うん。悠が栗原さんと海でキスしてるの見た。」
もはや言い逃れができない所まで見られてしまっていた。
「なんなら、悠が栗原さんと付き合っているのも知ってた。しょっちゅう帰りが遅くなるのも、帰ってきた時に少し香水の匂いがするのも、なんとなくそんな気がしてた。」
姉の顔がさっきよりも近くなる。布団と姉自身から漂ってくる甘い匂いが思考回路を遮ってくる。
「悠は栗原さんのことが好き?」
「うん。」
「そっか。」
姉はおもむろに俺の髪に手を当て、そっと撫でてきた。何年ぶりか分からないその感覚に俺は身を預ける。小さい頃はよくこうやって一緒に寝てもらった思い出があるが、思春期の到来と共にさっぱり無くなってしまった。
「悠……」
返事をしようと瞬間、姉の手に視界を完全に奪われる。状況を整理している間もなく、
――唇に温かく湿った感触が伝わってきた。
「やっぱり許せないから上書き。ごめんね……」
最後のごめんねにどのような意味があるのかは俺には分からなかった。しかし、その時の姉の顔が泣きそうだったことはハッキリと分かった。
放心状態で部屋に戻った俺は一言、
「おいなんなんだよ……」
ただ呆然と、そう呟いた。
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