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4話
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目が覚めてから少しして、俺は姉のベッドで寝ていることに気が付いた。下の階から料理をする音がする感じ、姉は既に起きているようだ。
「おはよう。後は俺がやるから休んでていいよ。」
「悠、おはよう。こっちはもう終わるから大丈夫。早く食べて学校行っちゃいなさい。」
「ありがとう。」
最近姉はずいぶんと家事に協力的になった。大半は俺がやっているにしても、前よりも遥かに負担が減ったのは助かることだ。
「それじゃ、行ってきます。」
今日の空も雲ひとつない快晴だ。
◇
土曜日の朝、姉の提案で俺たちは駅で待ち合わせすることになった。同じ家に住んでいるのだから。家から一緒に行ったらいいのにとも思うが、今日一日は姉の頼みを一切断らないという約束で出かけるので、文句はなしだ。だが。
――駅前にいたその清楚系美女に俺は釘付けになった。
ミントグリーンのブラウスにペールホワイトのショートパンツを合わせた、夏の終わりにぴったりな明るい色で染められた女性がそこには立っていた。
「レディを待たせるなんて失礼だよ。悠。」
「あっ、ごめん、姉さん。」
「その『姉さん』って呼び方はやめて。今日はいつもの買い物とは違うの。」
「先生……も違うか。」
今まで姉を下の名前で呼んだことがないため、抵抗が物凄い。
「美、鈴……」
思い切って呼んでみた。姉は満足そうにニコニコと笑っているが、俺からしたら呼ぶたびに鼓動が早くなって仕方がない。こんな心臓に悪いことはやめようと思ったが、これもまた悪くないなと思う自分もいるのだった。
◇
電車で数時間、池袋まで出てきた俺たちはウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「見てみて、これめっちゃ可愛い!」
「お客様、よければご試着されていきますか?」
「はい!」
この会話を聞くのは今日で何度目だろうか。気に入ったものは片っ端から試着してファッションショーを行うのが姉流らしい。おまけにどれも似合っているときた。秋コーデから少し早めの冬コーデまでなんでも着こなす姉に俺は度肝を抜かれていた。
「どう?かわいい?」
「おう。めっちゃ似合ってる。」
「えへへ……あるがと。」
少し照れながら、「買おうかな、これも」と呟く姉を見ながら、俺も嬉しくなっていた。小説家としての氷川美鈴は誰よりも見てきたが、ひとりの女の子としてはしゃいでいる氷川美鈴を見たことはあまりなかったから。
「そろそろ疲れたし、少し休憩していくか?」
「そうだね、賛成。私パフェ食べたい!」
喫茶店は思ったよりかは空いており、スムーズに入れた。姉は苺が大量に乗ったパフェを、俺はチョコレートケーキを頼んだ。
「うーん!美味しい!」
「うん、こっちもうめぇ」
「ねぇ悠。一口あげるからそっちのやつも頂戴よ。」
いよいよ来てしまった。このデートにおいて100%来ると想定されていた「あーん」シチュエーション。さすがの姉弟とはいえ、人目があるところでは憚られるし、この前のことがあったから少し意識してしまう部分があるが……
「ほら、あーん」
姉のキラキラした眼差しには勝てなかった。なるべく、なるべく動揺している素振りを見せず、平然と姉から差し出されたスプーンを受け入れる。
――酸っぱい。非常に酸っぱい。
つい先ほどまで姉の舌が触れていた、間接キスを超えた超濃厚間接キスにもなりうるそのスプーンに乗せられて運ばれてきた苺はとても酸っぱかったが、ほんのり甘かった。
「どう、美味しいでしょ!?あ、でもチョコの後には酸っぱかったかな。ごめんね。」
「いや、大丈夫。この苺甘くておいしね。」
「だよね!これ選んで正解だったよ~」
それから姉は何事もなかったかのように同じスプーンで食べ始めた。この姉、もしかしてそんなに気にしていないのかと思っていたが、そんなこともなかった。よくよく見ると、耳の辺りが完熟した苺のように真っ赤になっている。
「美鈴……」
「へっ!?」
頬まで真っ赤になった。姉だけじゃない、俺もだ。体の芯から熱くなるような気がした。二人の間の空気だけでチョコが溶けてしまいそうな、そんな感覚だった。チョコレートケーキは、甘かった。
「美味しかったね。」
「そうだね。」
――店を出るときには自然と、お互いの指は絡み合っていた。
目が覚めてから少しして、俺は姉のベッドで寝ていることに気が付いた。下の階から料理をする音がする感じ、姉は既に起きているようだ。
「おはよう。後は俺がやるから休んでていいよ。」
「悠、おはよう。こっちはもう終わるから大丈夫。早く食べて学校行っちゃいなさい。」
「ありがとう。」
最近姉はずいぶんと家事に協力的になった。大半は俺がやっているにしても、前よりも遥かに負担が減ったのは助かることだ。
「それじゃ、行ってきます。」
今日の空も雲ひとつない快晴だ。
◇
土曜日の朝、姉の提案で俺たちは駅で待ち合わせすることになった。同じ家に住んでいるのだから。家から一緒に行ったらいいのにとも思うが、今日一日は姉の頼みを一切断らないという約束で出かけるので、文句はなしだ。だが。
――駅前にいたその清楚系美女に俺は釘付けになった。
ミントグリーンのブラウスにペールホワイトのショートパンツを合わせた、夏の終わりにぴったりな明るい色で染められた女性がそこには立っていた。
「レディを待たせるなんて失礼だよ。悠。」
「あっ、ごめん、姉さん。」
「その『姉さん』って呼び方はやめて。今日はいつもの買い物とは違うの。」
「先生……も違うか。」
今まで姉を下の名前で呼んだことがないため、抵抗が物凄い。
「美、鈴……」
思い切って呼んでみた。姉は満足そうにニコニコと笑っているが、俺からしたら呼ぶたびに鼓動が早くなって仕方がない。こんな心臓に悪いことはやめようと思ったが、これもまた悪くないなと思う自分もいるのだった。
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電車で数時間、池袋まで出てきた俺たちはウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「見てみて、これめっちゃ可愛い!」
「お客様、よければご試着されていきますか?」
「はい!」
この会話を聞くのは今日で何度目だろうか。気に入ったものは片っ端から試着してファッションショーを行うのが姉流らしい。おまけにどれも似合っているときた。秋コーデから少し早めの冬コーデまでなんでも着こなす姉に俺は度肝を抜かれていた。
「どう?かわいい?」
「おう。めっちゃ似合ってる。」
「えへへ……あるがと。」
少し照れながら、「買おうかな、これも」と呟く姉を見ながら、俺も嬉しくなっていた。小説家としての氷川美鈴は誰よりも見てきたが、ひとりの女の子としてはしゃいでいる氷川美鈴を見たことはあまりなかったから。
「そろそろ疲れたし、少し休憩していくか?」
「そうだね、賛成。私パフェ食べたい!」
喫茶店は思ったよりかは空いており、スムーズに入れた。姉は苺が大量に乗ったパフェを、俺はチョコレートケーキを頼んだ。
「うーん!美味しい!」
「うん、こっちもうめぇ」
「ねぇ悠。一口あげるからそっちのやつも頂戴よ。」
いよいよ来てしまった。このデートにおいて100%来ると想定されていた「あーん」シチュエーション。さすがの姉弟とはいえ、人目があるところでは憚られるし、この前のことがあったから少し意識してしまう部分があるが……
「ほら、あーん」
姉のキラキラした眼差しには勝てなかった。なるべく、なるべく動揺している素振りを見せず、平然と姉から差し出されたスプーンを受け入れる。
――酸っぱい。非常に酸っぱい。
つい先ほどまで姉の舌が触れていた、間接キスを超えた超濃厚間接キスにもなりうるそのスプーンに乗せられて運ばれてきた苺はとても酸っぱかったが、ほんのり甘かった。
「どう、美味しいでしょ!?あ、でもチョコの後には酸っぱかったかな。ごめんね。」
「いや、大丈夫。この苺甘くておいしね。」
「だよね!これ選んで正解だったよ~」
それから姉は何事もなかったかのように同じスプーンで食べ始めた。この姉、もしかしてそんなに気にしていないのかと思っていたが、そんなこともなかった。よくよく見ると、耳の辺りが完熟した苺のように真っ赤になっている。
「美鈴……」
「へっ!?」
頬まで真っ赤になった。姉だけじゃない、俺もだ。体の芯から熱くなるような気がした。二人の間の空気だけでチョコが溶けてしまいそうな、そんな感覚だった。チョコレートケーキは、甘かった。
「美味しかったね。」
「そうだね。」
――店を出るときには自然と、お互いの指は絡み合っていた。
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