壁の勇者は異世界百合を見守りたい ~オタク知識でのハーレム魔王討伐劇~

まいんとじる

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第2章 巨神を討伐せよ

1.勇者は戦士と二人きりになる

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 僕は魔王軍の罠で見知らぬ廃墟に飛ばされ、そこに立ち尽くしていた。

(本当にここはどこだろう。現実世界に戻されたのか?)

 見渡す限り人影も生き物の姿も見えない。あるのは廃屋と朽ちた道路と遠くに見える高層の建物だ。どれも異世界マリナリアのものではなく、現実の日本にあった物のように見える。とにかく一緒に飛ばされた戦士のナーリを起こしてみる事にした。

「ナーリ、大丈夫?」

「う……ううん……。あれ、ここはー?」

 赤髪の少女ナーリがゆっくりと目を覚まし、身体を起こしてきょろきょろと周りを見回す。

「僕にもよく分からないんだ。飛ばされたのは僕達だけみたいで、とりあえず周りに人影は無い。ナーリはこの風景に心当たりある?」

「ううん、全然ー。見た事が無い形の建物だしー、あんなお城みたいな大きいものが沢山並んでるのは初めて見たよー」

 ナーリは朽ちたビルやマンションを見て言っている。やはり、ナーリのいた異世界とは別の場所なのだろうか。

「そうだ勇者チャン、魔法の連絡装置は使えないの?」

「そっか、ちょっと待って。
『誰か聞こえますか?』……。
返事が来ないから届いてないみたいだ」

 腰の道具袋に入れていた魔法の連絡装置を使ってみたけど、誰からも反応は無い。そもそも遠距離では使えないと聞いていたので、ここじゃない場所に飛ばされても通じなかった可能性が高い。

「そっかー。とりあえず周りを調べてみようかー」

「そうだね。ナーリは身体は大丈夫なの?」

「うん、ダークナイツとの戦いで負ったケガは大したこと無かったしー。
でも、ダークナイツが洗脳されて無かったとは思わなかったなー」

「まだ分からないよ。あれはそう洗脳されていただけかもしれない。心の弱味に付け込んで操ってる可能性もあるし」

「そーだねー。それならファイ姉も喜ぶだろうねー」

 僕はまず一緒に飛ばされたブレイブウォール初号機改を動かしてみる。脚部に一部ダメージはあったけど、まだ動きそうだ。問題は魔力残量で、僕の魔力もブレイブウォールの魔力も残り少ない。ブレイブウォールの魔力はマレーヤが植物などから集めて作った魔力燃料を元に動いてる。その魔力燃料の予備は少ししかなく、僕の魔力を回すとしても、今日の稼働時間は半日ぐらいだと思う。

「ホントに誰もいないねー」

 ブレイブウォールを外に置いて2人で近くの廃屋に入ってみた。かなり朽ちていて、ドアも窓も枠以外無くなっている。コンクリート製の家らしく、その骨組みと半壊した壁で辛うじて家の形を保ってるようだ。中には使えるような道具も生活の跡も見られなかった。

(ここが未来の日本かもしれない事をナーリに言った方がいいのかなあ)

 この景色が僕が知っているものに近い事を伝えれば、ナーリは別の世界に飛ばされたと知り、絶望するかもしれない。でも、いつまでも隠しておくのも酷い気がした。

「どうかした、勇者チャン。転移の魔法で飛ばされたとしてもそんなに遠くまでは無理だって聞いたし、そんなに心配しなくて大丈夫だよー」

「いや、ごめん。ちょっと別の事を考えてただけだから。食べ物や寝る場所も探さないとだし、あっちの方へ行ってみようか」

「そうだね、高い建物に登れば良く見えるかもしれないしねー」

 時刻は飛ばされた時からそれほど経って無ければもうすぐ日が暮れる筈だ。そうなると探索も困難だし、安全な場所を探しておかないと夜も安心して眠れない。僕達は近くのマンションぽい建物に向かってみる事にした。
 そうしてしばらく道を進んだ時だった。

「勇者チャン、止まって。何かの気配を感じる」

「分かった」

 最初にナーリが気付き、僕はブレイブウォールを止めて辺りを探る。瓦礫の建物の向こうから確かに何かが動く音が微かに聞こえた。

「誰かいるのかな?」

「分かんない。でも、人の気配じゃない気がする」

「ナーリはここに居て。僕なら攻撃を食らっても大丈夫だから」

「でも」

「ただの野生動物かもしれないし、まずは見てくるだけだから」

 僕はナーリを納得させ、自分で偵察してくる事にする。ここが現実世界なら見知った動物が出て来てもおかしくない。僕はゆっくりと音のした方へと道路をブレイブウォールで進んでいく。すると、建物の陰から黒い巨体が急に現れた。

「え?」

『ガンッ!!』

 巨体から何かが伸び、ブレイブウォールは吹き飛ばされる。

「勇者チャン!!」

「待って!」

 飛び出そうとするナーリを制止させるように叫ぶ。が、ナーリは既に走り出していて巨大な何かに向かって行った。

「とりゃあああ!」

『キンッ!』

「ウソ!?」

 ナーリの斧の1撃が相手に弾かれる。そしてそれは陽の光に晒され全貌を現した。

「機械のサソリ?」

 それは全高5メートルぐらいのサソリの姿をしていた。が、今まで戦ったモンスターのような生き物では無く、全身は金属で覆われ、関節部はどう見ても機械だ。玩具やアニメで長く展開している機械生命体の作品を僕は思い出す。

(でも、コクピットが無いし、人が乗ってるようには見えないな)

 そんな事を考えているうちにも機械サソリは巨大なハサミでナーリを攻撃する。ナーリはそれを何とか避けた。観察している場合じゃない。

「僕がやってみるから下がって!」

 今度は僕がブレイブウォールで突撃して攻撃を仕掛けてみる。巨体だろうと、鋭利になった壁で斬る事は出来る筈だ。が、僕の1撃は軽々と機械サソリに回避されてしまった。同じような機械の脚部でも、向こうの方が洗練され、動きが速いのだ。

(逃げるか?でもこの速さだと難しいかも)

「勇者チャン、必殺技なら効くかもしれない。
行っくよー!全力全開、叩き斬っちゃうんだから!クリムゾンスマーッシュ!!」

 僕の方に集中していた機械サソリに対してナーリが恒常衣装の必殺技を炸裂させる。ナーリが斧を回転させてガリガリと金属同士がぶつかる音が響き、最後に斧で機械サソリを上から叩き斬る。が、機械サソリの上部の装甲が割れただけで、真っ二つにはならなかった。

「危ない!」

 サソリの尾がナーリ目掛けて動いているのに気付いて、僕は急いで壁をサソリとナーリの間に移動させる。ギリギリ間に合ってナーリを守る事が出来た。

「ありがとう、勇者チャン!」

「でも、まだこいつは動いてる。何とかしないと……」

 僕は機械サソリの攻撃を脚を畳んで壁になって受けながら打開策を考える。

(そうだ!)

 僕は装備を溶かす液体がまだわずかに残っていた事を思い出した。

「これでどうだ!」

 僕は脚を1本出し、ナーリが割ってくれた機械サソリの装甲の隙間に装備を溶かす液体をかける。すると機械サソリは苦しそうにもがきだし、やがてその動きが止まった。

「倒せたみたいだ……」

「やったね、勇者チャン」

 僕は人間の姿に戻って慎重に動かなくなった機械サソリを観察する。金属の装甲の下は見た事の無い機械部品がぎっしり詰まっていた。機械にはそこまで詳しくないのでどういう仕組みなのかとか動力が何かなのかとかは分からない。

「ナーリはこういうのを見た事ある?」

「ううん、初めて見たー。魔法で動く金属のゴーレムは見た事あるけど、こんな複雑な仕組みじゃ無かったと思うしー」

 どちらかと言えばブレイブウォールの脚の仕組みに近いけど、素人の僕が見ても機械サソリの方が洗練され、強度も高いようだ。

(やっぱり未来の日本なのか?それともそれは思い込みで、別の星や世界なのかな……)

 高層ビルやアスファルトを最初に見たせいで日本と思い込んだけど、別の星で人型の生物が進化したら同じような物を作ってもおかしくなはい。むしろ、今のところ地球の物と決定付けれられる証拠は無い。

「ねえ、これって仲間とかいるのかなー?」

「作られた物だと考えると、1体だけって事は無いと思う」

「だとすると仲間が探しに来る可能性もあるね」

 ナーリの言う通りだ。もしかしたら発信装置とかが付いてるかもしれない。もっと調べたい気もするけど、それでこんなのが複数出てきたら2人だけでは対処出来ないだろう。

「そうだね、まずはここから離れよう。あの建物に登ってみて、中に何もいなければ今日はそこで休もうか」

「うん、分かったー」

 僕達は動かなくなった機械サソリを置いて、一番近いマンションらしい建物に向かった。何とか他の敵(?)に見つかる事無くマンションに辿り着く。ブレイブウォールのままだと魔力を消費するし、床が壊れるのが怖いので僕は人間の姿に戻ってナーリと一緒に建物に入った。

(うーん、作り的には現実世界のマンションっぽい気がするんだけどなあ)

 1階はロビーのような広間が広がり、店舗が入っていたような空間がいくつかあった。奥にはエレベーターがあったと思われる縦穴が空いていて、その横に階段がある。

「誰もいないねー」

「上の方も見てみようか」

 僕はナーリと注意しつつ階段を昇っていく。途中に半壊したような場所もあり、上に行くほど歩くたびに周りが崩れる事があった。

「流石に怖いね」

「でも勇者チャンはいざとなったら壁になれるんでしょ」

 その言葉で僕は自分の能力がまだ使えている事に気付く。ブレイブウォールと一体化する事は当たり前みたいに思ってたけど、あれも壁になる能力の応用だ。それが使えているという事は、壁になる能力は使えている。

(という事は創造する能力も使えるのか。そう考えると、ここはまだ異世界なのか?)

 そもそもあの世界だから能力が使えるのか、僕自身にその能力が付随しているのかさえ分からない。とりあえず思い込みは危険だと心に誓う。
 建物の途中の階は廊下に対して左右に部屋がある集合住宅の作りで、部屋を覗いてみると、どれもドアは壊れ、窓もガラスは残って無く風が吹き抜けている。道具のようなものも生活の跡も無く、どういった人が使っていたかの痕跡がまるで無かった。

「もうすぐ屋上だねー」

「ああ、日が暮れる前に登れてよかった」

 何とか屋上まで階段は残っていて、僕達は上に空いた穴から屋上に出る。屋上には夕焼け空が広がっていた。そして眼下に廃墟の町が広がっている。

「うわー」

「凄いね」

 高い所から見る夕陽の廃墟の町は綺麗だった。上から見ると道路が整理され、区画に沿って建物が建っていた事が分かる。ただ、この高さでは町全体がどうなっているかまでは分からず、どこまで町が続いているかも分からない。

「さっきのサソリみたいなのがやっぱりいるねー」

「本当だ」

 目を凝らすと町の道路をサソリやトカゲのような機械が周回していた。1体だけしか出会わなかったのは運が良かったらしく、複数体が並んで動いてる事が多い。
 思ったより時間の進みが早かったようで、日が沈み闇が世界を飲み込んでいく。

「日が暮れちゃったな。この周囲には機械のモンスターは居ないみたいだし、今日はここで寝泊まりしようか」

「そうだねー。食べ物が見つからなかったのは残念だけどー」

「明日はもっと高い建物に行ってみよう」

 僕は町全体が見渡せれば何か食べ物がある場所を発見出来るかもと思って言う。僕はブレイブウォールをマンションのロビーに隠し、敵が登って来ず、比較的風通しが少ない5階で休む事にした。

「作れた!これで水と食料の心配はしばらく無いかな」

「でも勇者チャンの魔力をそんな事に使っていいのー?」

「身体を壊したら元も子もないから」

 僕は創造の力で携帯食料と水のペットボトルと寝袋を2人分作った。創造の力が普通に使えたのは良かったけど、食料と水を創るのに意外と魔力を使うのが難点だった。死ぬ事は無いけど、これだと魔力を使って新しい物を創ったり、敵と戦う余裕が無い。出来れば食料と水は別に見つけたいところだった。
 マンションの一室の床に向かい合って座り、夕食の携帯食料を2人で食べる。

「これ、お菓子みたいだけど美味しいね」

「仕事で忙しい時はこれで済ませてたから」

 ブロック状のクッキーとゼリー状の携帯食料は徹夜のお供だったのを思い出す。まさかこうやって誰かと食べるとは思ってなかった。

「みんな大丈夫かなー」

「隠れ里も近い場所だったし、大丈夫だと思うな」

 食事も終わり、やる事も無いので僕達は寝袋にくるまって横になりながら会話していた。灯りは非常用ライトをランタンモードにして付けている。

「ごめんね、勇者チャン。あたしがレニーナみたいに魔法が使えればもっと色々調べられたのに」

「いいよ。それに、ナーリには済まないって思ってるんだ。僕があれに不用意に触れなければ良かったのに巻き込んじゃって」

「ううん、それこそ勇者チャンじゃなくて、あたしだけが飛ばされた方が良かったんだよー」

 ナーリは済まなそうな顔をしている。ナーリに悪いところなんて何も無いのに。

「ごめん、言い方が悪かったかも。僕一人じゃなくて、ナーリも一緒で助かったよ。一人だけだったらどうしていいか分からなかったし」

「ホント?でも、あたしはそんなに役に立ってないと思うけどなー。お姫様の救出の時も、ダークナイツとの戦いの時もうまく出来なかったし……」

「そんな事全然無い。今回だってサソリを倒せたのもナーリのおかげだし、階段を昇って危ない時も手を差し伸べてくれたし。僕一人だけじゃ無理だったと思うよ」

「そーかな?うん、少しでも役に立ったなら嬉しいな」

 ナーリがようやく笑顔になってくれる。一人きりじゃなくて良かったのは本当だ。僕一人が飛ばされていたら、気持ちが折れていたと思う。

「疲れただろうし、今日はもう寝よう」

「分かったー。おやすみ、勇者チャン」

「おやすみ、ナーリ……」

 階段の入り口はブレイブウォールで塞ぎ、ここまでの通路にも簡単な罠を仕掛けたので、敵が入って来て気付かない事は無いだろう。横からナーリの寝息が聞こえてきて、僕もそれを聞いているうちに眠りに落ちていった。

 敵の襲撃を警戒してか、眠りは浅かったが、睡眠自体は十分取れた。日が出て来たので目を覚ますと既にナーリは起きていた。

「おはよう、勇者チャン」

「おはよう、ってごめん」

 見るとナーリは鎧を脱いだ下着姿で身体を拭いていた。僕は急いで目を逸らす。白い肌と大きな胸が目に焼き付いて離れない。

「別にこれぐらい見られても大丈夫なのにー」

「でも、やっぱりダメだよ」

 僕はナーリに背を向け、ペットボトルの水で軽く顔を洗う。僕も身体を拭かないと臭いかもしれないけど、今はやる気分じゃ無かった。

「ちょっと外の様子を見てくる」

「分かったー。気を付けてねー」

 僕はなるべくナーリを見ないように部屋を出て、少し上の階に行く。魔力で小型の双眼鏡を創り、それで周囲を観察してみた。眼のいいネルルや精霊が使えるネルマがいないので、自分で確認するしかない。

(やっぱり定期的にメカ生物が巡回してる。巡回ルートをメモって、戦闘を避けて進むのがいいかな。あとは敵の眼と耳の良さがどれぐらいかにもよるか)

 僕だけなら建物の壁づたいに調査出来るけど、今は分かれるより一緒に行動したい。ブレイブウォールも移動だけならまだ使えるし、いざとなれば壁に出来る。少しずつ捜索範囲を広げるのがいい気がした。


「今日も誰とも会わなかったねー」

「やっぱりこの町は無人なのかもしれない。でも中心の公園みたいな場所には行ってないし、明日はそこに向かおう」

 陽が落ちて来たので拠点としたマンションに帰ってきたが、今日も有用な情報は得られていなかった。僕もナーリも少しずつ消耗してきているのが分かる。
 ここに飛ばされて3日が経っている。毎日少しずつ敵の居ない場所を探索したが、特に有用な情報は得られていない。分かったのはここには人間が居ない事、町の中心が緑がある公園のような場所だという事、どんな人が住んでいた町かの手がかりが無い事、町の外側はメカ生物が多くて抜けるには戦闘が必要な事だった。ブレイブウォールは魔力量が少なくなり、探索には置いていくようになっていた。

「いただきまーす」

「いただきます」

 ナーリの要望で形式だけでもと瓦礫をテーブルと椅子に見立て、そこに携帯食料を置いて食事にしていた。確かに雰囲気だけでもそうする事で日常感を取り戻せている部分はあった。

「誰も迎えに来ないねー。そろそろ探し出してくれるかもしれないと思ってたのに―」

「そうだね」

 食事が終わってまったりしながら会話する。ここが地球かもしれない事はまだナーリに話せていない。僕自身確信が持ててないし、それで心配かけたくも無かったからだ。ただ僕は待っていてもみんなが助けに来るとは思っていなかった。

(何とかしてここを抜け出す案を考えないと。ナーリだけでも元の世界に帰してあげたい)

「ねえ勇者チャン」

「なに?」

「もし一生このまま2人きりだったとしたらどう思う?」

「どうって……。
まあ、仮定として考えると、ナーリと2人ならいいかなって思うな。それこそ男とか性格悪い子とだったら嫌だったと思うし」

「うん、あたしも勇者チャンで良かったと思うなー」

 ナーリは笑顔を向けてくれる。でも、その笑顔は僕に向けられていいものなのか不安になる。

(そういえば、複数ヒロインが居る作品で二人きりでどこかに飛ばされるのはヒロインレースの勝ちイベントだったりするよな。って、ナーリはそういうんじゃないけど)

 僕は変な考えを急いで頭から追い払う。

「ねえ、勇者チャンはホントにお姫様のこと好きだったの?」

「え?それは、まあ。
リンザ姫は可愛いし、国の為に必死だったと思うし」

「でも、勇者チャンに酷い当たり方してたよねー。あたしは昔からあんまり好きじゃなかった。確かに国の為に色々やってたとは思うよー。でも、無茶な作戦だって分かってて戦いを進めて、多くの人が犠牲になったのはやっぱり間違いだったと思う」

 ナーリは色んな人の死を見てきて、そういう感想を言っているのだ。だから、僕がそれに反論する事は出来ない。

「勇者チャンはレニーナと付き合いたかったんじゃないの?」

「なんで?」

 ナーリが真面目な顔で言うので少し驚く。

「レニーナのことは親友だから分かるんだよ。ある日から勇者チャンを見る目が変わったって。それに勇者チャンもレニーナを見る時少しほほ笑んでるじゃん。凄くいい子だもん、好きになるのは分かるしー」

「それは、勘違いだから。レニーナとはそういうんじゃなくて……」

 僕は慌てて否定する。ナーリはレニーナの事が好きで、それを崩す訳にはいかない。

「ホントに?」

「うん、嘘は言ってない。少し仲良くはなったけど、それは付き合うとか、好きとか、そういうんじゃないんだ」

「そうなんだ。良かったー」

 ナーリは本当にほっとしたようだ。僕はレニーナに変な事をさせた罪悪感が少しだけ出ていた。


「おやすみなさい」

「おやすみー」

 いつものように少し間隔を空けて並べた寝袋で二人とも寝る事にする。ナーリの着替えを見てしまうし、部屋も沢山あるから別の部屋で寝ようと提案したけど、それだと互いに守れないという事で、結局寝るのは同じ部屋になっていた。幸いナーリが僕を誘惑して来るようなことも無く、僕の理性は保たれている。

(美少女と2人きりで生活なんて本当は凄く嬉しい事なんだけどなー)

 僕は日が経つに連れ自分の勇者としての使命が薄れていくのを感じていた。でも、それを忘れたらいけないと心では思っている。そんな事を考えながら徐々に眠りに落ちていった。

(あれ?なんで壁になってるんだ?)

 僕は久しぶりに無意識で壁になっていた。そこは多分僕達が寝泊まりしているマンションの一室で、月明かりで微かに部屋の中が見える。

(誰かいる?ってナーリか。でも何で一人でこんなところに?)

 そう考えて、トイレはそれぞれ離れた部屋で、と取り決めた事を思い出す。それだと覗いてはマズイ。

「あ、ああぁん……」

 でもナーリから聞えた嬌声はトイレのものとは思えなかった。そして、薄暗くてもパンツを脱ぎ、下腹部に手を当て動かしているのが分かる。

(自慰をしてるのか……)

 正直僕も溜まっているが我慢していた。なんか二人きりの場所でするのは不味いと思っていたからだ。

「レニーナぁ、ああぁっ……」

 ナーリがレニーナを想いながらしているのが分かる。それを聞くと、早く2人を再会させてあげたくなる。

「駄目、声が出ちゃう……」

 一応僕が寝ているので聞こえないよう声を上げるのを抑えているようだ。手が激しく胸と股間に押し当てられ、僕はそれを見て興奮してしまう。

「ああん、もっと、もっと強く!!」

 部屋に湿った水音が響く。床は既にびちょびちょになっている。

「レニーナ、そこ、そこをお願い!!」

 ナーリの指の動きが速くなる。僕は駄目だと思いつつ、その様子を見続けてしまう。

「レニーナ!勇者チャン!、ダメ、いっちゃう!!!」

 そしてナーリは達して息を荒くして脱力していた。

(でも、なんで僕の事を……)

 僕は深く考えないように眠っている姿を想像して壁から離れたのだった。


 翌朝、ナーリは普段通りだった。僕も意識しないように頑張ったが、着替えで下着になったナーリを見ると、昨日の事を思い出してしまう。それでも何とか平常心を保つように頑張った。

「着いたー!」

「うまく敵に遭わなくてよかった」

 敵の居る場所を避け、僕達は昼前に町の中心っぽい公園に到着した。

「勇者チャン、ここは自然があっていいねー。リスとか虫も居るよー」

「うん、ここは生物のサイクルがあるみたいだ」

 石畳は舗装されて木も植樹されたものに見えなくも無いけど、ここには土に木や草や花が生え、虫や小動物が生息していた。小動物が食べられて、魔力で食料を創るのをやめられれば他の物を創るのに回せる。そうすれば町を抜ける事も出来るかもしれない。具体的にメカ生物と戦う案はまだ無いけど、何か策はある筈だ。

「もっと中心部に行ってみよう」

「うん!」

 公園の中心部に行くとそこには大きな池があった。池の真ん中には一応石碑らしきものと、女性の姿をした石像がある。ただ、石碑には薄っすら文字らしきものがあるけど解読出来ないぐらい削れてしまっていたし、石造も元が女性だったんだぐらいしか分からないぐらい風化していた。何年も人の手が入ってないのは本当だろう。

(公園にも何の手がかりも無かったか。あとは町から脱出する方法を考えるぐらいしかないな)

 町の中心に行けば何かあるかと期待したけど、期待外れだった。でも池から水が手に入り、小動物も食料に出来る可能性があるのは一応前進ではある。

「ねえ、水浴びしようよ」

 ガッカリしてる僕とは違いナーリが嬉しそうに提案する。まあお風呂が無く、水も節約してたし、水浴びしたいのはその通りだろう。

「敵が来たりしないかな」

「あたしにも水着装備あったよねー。それを作って貰えれば、いざという時も戦えるしー」

 僕は少し考え、一旦装備を脱いで貰って限定SSRの水着装備を創る事にした。水着装備は防御力は下がるけど、相手の防御力を下げる技が使え、メカ生物と戦う時にも使えると思ったからだ。赤い露出度の高い水着は赤い長髪のナーリによく似合っていた。大きな胸と股間の食い込みが目立つようになったけど。

「ほら、勇者チャンも早く―」

「分かったよ」

 僕もパンツのままではマズいので、自分用の水着を創り、池に入る。水温はそこまで低く無く、気温も少し暑いぐらいだったので心地いい。

「気持ちいいねー」

「うん、生き返る」

 池は深い所でも膝上ぐらいで、身体を沈めて浮かぶと心地いい。ナーリは池で泳いでいたりして、水着のお尻や太ももがむっちりしていて見入ってしまう。

「魚はいないかー。いれば食料も確保出来たのにー」

「草や小動物で食べられるものが無いか調べてみてもいいかもね。
ってああっ!」

 僕は喋りながら池を歩いていたら水の中の苔が生えた石で足を滑らせバランスを崩す。そのまま水の中に倒れ、ごぼごぼと口から空気が出ていく。手足を動かすが上手く起き上がれない。現実で死んだ時も川に落ちたな、なんてどうでもいい事を思い出していた。

「大丈夫!?」

 僕は急いでやって来たナーリに抱き抱えられ、水面から頭を出す。ゴホゴホと水を吐き出し、何とか呼吸をした。

「ごめん、油断してた」

「良かったー。勇者チャンがケガしたらどうしようかって心配したよー」

 ナーリが水着姿で僕をギュッと抱き締める。大きな胸が押し当てられ、幸せだけど、少し苦しい。こうやって近くで見るとナーリも普通の女の子なんだって思った。いつも勇ましく戦う姿を見ていたせいでそれを忘れていた。僕は目の前にあるナーリの頭を何となく撫でてしまう。

「え?なんで?」

「あ、ごめん。嫌だった?」

 漫画などでは頭を撫でるのはよく見る表現だけど、現実では女性に嫌われる行為だったことを思い出した。

「ううん、そうじゃ無いけど。急に撫でられてビックリしたー」

「いや、ナーリも可愛い女の子なんだって思って」

「え?」

 ナーリは赤面し黙ってしまう。僕も変な事を口走ったと思い、気まずい空気が流れていた。それでもナーリの手は僕から離れない。

「ねえ」

「何?」

「あたしが勇者チャンのこと好きになってもいいんだよね?」

 ナーリはその紅い大きな瞳で真っ直ぐに僕を見つめる。こうして近くで見るとナーリは凄い美少女だ。僕は何も答えられなくなる。

「勇者チャン、エッチしよ……」

「え?なんで?どうしたの?」

「知ってるよ。勇者チャンが溜まってるって事……」

 ナーリがお腹を僕の股間に押し付ける。既に固くなっていた性器が水着の中でも更に大きくなり、ナーリのお腹にめり込んでしまう。

「駄目だよ、そんな事」

「勇者チャンは話してくれないけど、この町のこと何か知ってるんだよね?建物の構造とか、整理された道とか慣れた感じに進んでたしー。それにみんながあたし達を見つけてくれるとも思ってない。あたしはバカだけど、それぐらいは分かるよー」

 僕が言わなかった事をナーリは気付いていたようだ。

「ごめん。ここが僕が転生する前の世界に似てる事を黙ってた。でも、そことも違っていて、説明しても混乱させるだけかなって。それに、それとエッチするのは関係ないよね?」

「4日間探して誰もいなかった。人の生活してる跡も無かった。ここには勇者チャンとあたしの2人しかいないんじゃないかって恐くなって。でも勇者チャンがいるのは凄く頼もしかった。
あたしは勇者チャンのこと好きだよ。だから、エッチしてもいいと思ってる」

「ナーリ、でも……」

 ナーリが真っ直ぐ僕の目を見る。もしこの世界が未来の地球で、生き残ったのが僕達だけだったら、僕はナーリを何の迷いもなく愛しただろう。ナーリは可愛いし魅力的だ。これまでも下着姿の彼女を見てエッチな気持ちになる事は何度もあった。

(僕はどうしたら……)

「触って。ほら、こんなにドキドキしてる……」

 ナーリが僕の右手を手に取り、ナーリの左胸の水着の中に押し当てる。僕は手の平にナーリの心臓の鼓動と熱とおっぱいの柔らかさが伝わってくる。僕の鼓動もどんどん速くなった。

「勇者チャン……」

「ナーリ……」

 ナーリが目を閉じキスを待つ。僕はナーリの睫毛が長いなと感心する。艶やかな唇が近付く。僕はもうどうでもよくなってしまった。

「パンパカパーンッ!!!!」

 だけど、僕の欲望は誰かの叫び声で崩れ去った。

「え?」

 池の中心の石像が光り輝き、真っ二つに左右に割れた。そして中から何者かが現れる。

「なんなのー?」

 ナーリも斧を取ってきて警戒する。

「初めまして、皆さん!我が名はミニです!!超高性能アンドロイドメイドのミニですの!」

「アンドロイド?」

 出て来たのは全裸の少女だった。背はマレーヤぐらい小さいけど、胸はそれなりにある。セミロングの髪が七色に輝きゲーミングヘアだな、なんて思ってしまう。そして耳の部分に付いているブレードみたいな機械が彼女の言うアンドロイドという単語と一致していると思った。

(本当にアンドロイドなのだろうか?というか、何なんだ、これ)

 ミニと名乗った少女は石像のあった台座を跳び降り、池の中を僕の方へと近付いて来る。

「勇者チャン!」

「多分大丈夫だと思う。一応警戒だけしておいて」

 ナーリが攻撃するか迷ってるけど、とりあえず止めておく。

「はいミィは安全ですの。ミィはマスターに尽くす為に創られたアンドロイドですの」

「ミィ?」

「ミィはミニの事を指していますの。ミコト様が可愛らしく設定して下さいましたの。ところで、貴方様はニホンジンではありませんか?」

「え?なんでそれを?」

「ミィの起動条件は公園内にニホンジンが入る事ですの。ミィのセンサーによるとそちらの女性より貴方様に親しみを感じましたの」

「確かに僕は元日本人だけど。というか、なんで裸なの?」

「それをミィに聞かれましても。ミィはこの姿で眠っておりましたの。ミィはニホンジンの方がここに訪れたら、その方をマスターとし、仕えるよう命じられ、この地に眠っていたんですの。
そんな事よりも、マスター登録をして下さいの」

 ミニはグイっと僕に近付いて来る。とりあえず敵では無さそうだ。言ってる事はよく分からないけど。ミニは丸顔で、まん丸の金色の瞳が可愛らしい。見た目だけだと髪と耳(?)以外は人間にしか見えない。

「マスターって僕が?なんで?」

「ミィはそうするよう命じられているので問われても困りますの。それより急いで下さい、敵対メカニマルが迫っておりますの」

 そう言われて周りを見ると2メートルぐらいの犬型のメカ生物が多数池を囲んでいた。じりじりとこちらに迫っている。この数だとナーリと僕だけで戦うのは難しいかもしれない。

「メカ+アニマルでメカニマルか。と、それは置いといて、マスター登録すればあれがどうにか出来るってこと?」

「はい、ミィは万能ですの。早くミィにキスをして下さいの」

「キス?」

「生体認証する為に必要な行為ですの。ミィは機械ですので、気にせずして下さいの」

 ミニは唇を突き出してこちらに迫る。

「ちょ、勇者チャン、騙されてない?」

「でも、この場を何とかするには。
分かった、やるよ」

 僕は腹をくくる。裸のミニの肩を掴むと人間の肌と同じく柔らかかった。僕は屈んでミニの唇に自分の唇を合わせる。

「んん!?」

 合わせた瞬間ミニの舌が僕の唇の間から入ってきた。ミニの舌は僕の舌に絡まり、生暖かい感触が口の中に広がる。

(凄い、生きてる人間みたいだ。まさかファーストキスが自称アンドロイドの全裸の子で、しかもディープキスになるなんて)

「ええーー!?」

 こちらを見ているナーリが叫び声を上げる。僕の顔はミニと自分の唾液でベタベタに濡れていく。僕は初めての感覚に脳が蕩けそうになった。ミニはしばらく僕の舌を堪能し、ようやく顔を離した。

「ご馳走様、登録完了ですの、マスター。では、緊急退避プログラムを作動させますの!!」

 ミニが叫び、全裸で両手を上に上げる。すると池の水がどんどん抜けていった。見ると池の周りに円状の窪みが出来て、犬型のメカニマルはそこから退避していく。池の水が全て無くなると、僕達が居た池は円状のステージみたいになっていた。そしてガクンッと音がしてからステージはエレベータのようにどんどん下へ降りて行き、暗闇の中へと吸い込まれていった。
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