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第2章 巨神を討伐せよ
2.勇者は機械少女に振り回される
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僕とナーリは廃墟の公園で出会ったアンドロイドのミニに導かれ、エレベータのようなもので地下へと降りている。周囲が暗くなり、光っているのがミニの七色の髪だけなので、どれぐらいの速度で降りているのか分からなかった。
「どうなってるの?」
「マスターを安全な場所までお連れ致しますの」
「勇者チャン、これ大丈夫なの?」
「分からない」
とりあえず今はミニを信じるしかない。しかしこれだけの大掛かりな仕掛けだと本当にここは未来の地球なのではと思ってしまう。
「ねえ、ここは地球なの?」
「チキュウ?それは地名でしょうか。ミィは現在限られた情報しか持ち合わせていないので、ここがシンエドという都市名だとしかお答え出来ませんの。ですが、もうすぐ中央データベースに接続出来ますので、その時お答えいたしますの」
七色の髪を輝かせながらミニが答える。シンエドというのは新江戸という事だろうか。となると、ここが日本だという可能性も高い。
「ねえ、勇者チャンは分かってるみたいだけどあんどろいど(?)ってなんなの?」
「アンドロイドは人型の機械の事ですの。ミィはこう見えても人間ではありませんの」
「それだけど、本当に機械なの?確かに髪と耳は機械っぽいけど」
「ミィが人間かお疑いですの?では、こんなのでどうでしょう」
ミニの金色の瞳が光り、ライトのようになる。そして、光で自分の形のいいな胸を照らすと、両手で真ん中から胸を左右に開いた。
「えーーー!」
「うわっ」
ナーリと僕は2人して変な声を出してしまう。ミニの胸がパネルのように左右に開いて、その中の金属の骨とケーブルと動く歯車などのよく分からない機械部品が見えたからだ。
「この通り、見た目は人間に近いですが、中身は機械ですの」
「分かったから、元に戻して」
流石にずっと見ていたい物では無く、ミニに胸を戻してもらった。そんな事をしているうちに降下していた地面がガタンと言って止まる。
「到着しましたの。ここがシンエドの総司令部ですの!!」
ミニは両手を上げて堂々と宣言する。が、辺りは暗いままで良く見えない。
「あの、何も見えないけど……」
「少々お待ち下さいの。あれ?どうして??」
ミニが瞳をライトにして周囲を照らすと、確かに大型モニターのようなものが壁にあるのが見えるが、動かず壁と同化している。他にも何かの機器に見えるものがあるが、それも一部は風化し、明りが点いているものは無い。
「壊れてるんじゃないの?」
「そのようですの」
「ねえ、ここはなんなのー?」
「ここはシンエドの全てを集中管理出来る総司令部、でしたの。今は稼働していないので単なる地下の一室ですの」
ミニの言っている事が正しければ、ここが動作すれば色々分かる筈だ。
「直せないの?」
「今のミィには無理ですの」
「超高性能アンドロイドとか言ってなかった?」
「はい、超高性能ですの。戦闘から家事、建築工事、研究開発、政治軍事、機械操作、夜伽と何でもこなすスーパーアンドロイドですの」
ミニは自信たっぷりにドヤ顔で語る。
「でも直せないんだよね」
「はい。ミィは7つのボディにそれぞれ特化した機能が付いていますので、直すには研究開発と機械操作のボディが必要ですの」
「そのボディはどこにあるの?」
「さあ、知りませんの」
「今のボディは何なの?」
「夜伽ボディですの。マスターの快楽の為にあらゆる性技を駆使出来ますの」
(一番役に立たないボディじゃないか。もしかしなくてもこれはポンコツアンドロイドなのでは……)
僕が期待していたものがガラガラと崩れ落ちていく。
「ねえ、勇者チャンの力でこれは直せないの?」
「流石にこれは僕が知ってる物じゃないから難しいと思う。
ねえ、ミニが知っている情報を聞きたいんだけど」
「はいマスター、何なりとご質問下さいの」
僕は何でもいいから情報を引き出してみる事にする。
「この場所について知っている事を教えて」
「ここはシンエドですの。ミィの創造主であるミコト様が造られた都市で、ミィの内臓タイマーに狂いが無ければおよそ800年前に造られた都市ですの」
「800年前?つまりその頃にはミニもこの総司令部もメカニマルも動いていたって事?」
「総司令部やメカニマルはそうですの。ただ、ミィの製造年はもっと後で、720年前に創られ、そのままマスターが現れるまで冬眠プログラムに入りましたの」
本当に700年前ならメンテナンスしていなければ総司令部が壊れていてもおかしくはない。
「総司令部は壊れたけどメカニマルが動いてるのはどうして?」
「メカニマルには自己修復機能があり、ある程度の故障は自己修復出来るんですの。ミィも同様ですが、原理や構造についてはこのボディでは詳しく説明出来ませんの。
総司令部にも自己管理機能が付いていた筈ですが、想定外の不具合、または人為的な破壊でそれが動作しなくなったようですの」
「ねえ、勇者チャン、質問するのはいいけど、このミニちゃんに先に服を着せてあげた方がいいんじゃないかなー」
ナーリに言われてみればその通りで、ミニは出て来てからずっと全裸だ。ミニ本人がアンドロイドであり、恥ずかしがらないからあまり気にならなくなっていた。
「ミニの服はどこかに無いの?」
「総司令部の電源が入れば倉庫への道が開けたのですが、今は電源が落ちているので向かうのは困難ですの。他にミィが知っている当てはありませんの」
「分かった、僕が創るよ」
あいにくガルブレ(ガールズブレイブナイツ)にはアンドロイドキャラは居ないし、ミニに似たキャラも居ない。なので僕は身長とメイドという属性からエリに着せていたガルブレのエミのメイド忍者装備を想像し、それをミニが身に着けた姿で創造する。他人の装備を着せるとどうなるか分からないし、そもそもミニは人間ですらない。
「どう?動きが軽くなったりする?」
「デザイン的にはいいと思いますの。でも、動きやすさは変わりませんの。あと、胸のサイズが緩いですの」
やはり装備はその人向けに創っていたので、他の人が着ても同じ技が使えたりはしないようだ。あと、胸は巨乳のエリを考えれば、平均的な胸のミニには合わないだろう。
「とりあえず今はそれで我慢して。防御力は上がる筈だし」
「分かりましたの」
ミニは身体を動かしてみて、それに合わせてメイド服のスカートがひらひらと舞い、楽しそうにしていた。僕はもう一度質問に戻る事にする。
「また質問だけど、ここに人が住んでいないのはどうして?」
「不明ですの。ミィが造られた際には約10万人の人が住んでいたと記録されておりますの」
昔に人の文明があったのは確かなのだろう。700年前から今の間のどのタイミングかは分からないけど、何か異変があったのかもしれない。
「その、ミニを作ったミコトさんってどんな人なの?」
「ミコト様の個人情報については持ち合わせておりませんの。ただ、ミィを創り、都を造った凄い人とだけミィにインプットされておりますの」
「シンエドの外はどうなってるかは知ってる?」
「いいえ。ミィの稼働フィールドはシンエド内となっていましたので、それ以外の情報は持っておりませんの」
ミニがポンコツなのか、徹底して情報制限されているのか分からないけど、あまり有用な情報が出てこない。
「さっき言ってた中央データベースへの接続は出来ない?」
「総司令部が起動しないのでミィには無理ですの。研究開発ボディがあれば出来る可能性はありますの」
「その、他のボディがどこにあるか手がかりとか無いの?」
「いいえ。ミィが起動した際にボディが自動で集まる筈でしたの。恐らく総司令部が起動しないのと同様の理由と推測出来ますの。ミィのボディは重要ですので離れた場所に保管する予定、という未確定の情報なら持っておりますの」
つまり、今ここに無いという事は壊れているか、どこかに埋もれている可能性が高そうだ。
「ミニがそのボディで夜伽以外で出来る事は何?」
「一般的な人間が取れる行動は可能ですの。メカニマルとの戦闘は無理ですの。知識や知能についてはデータを入力する事での向上は可能ですの。
言いにくいのですが、夜伽以外は期待しないで下さいの」
思ったより役に立たないし、何も進展しない。やはりシンエドから脱出するしかないようだ。
「ミニの事は分かったよ。で、これからどうするか考えないと」
「ミィも情報を知りたいですの。それが分かれば何かお手伝い出来る事があるかもしれませんの」
ミニに言われてとりあえずここに来た経緯とかを簡単に説明する。勇者とか今までの戦いとかについてはまだ話さなくていいだろう。
「なるほどなるほど。どこかから飛ばされてここに来て、元の場所に戻る方法を探していたのですね。でしたら、まずは他の人がいる場所へ移動するのがいいかと思いますの」
「ミニちゃんはその場所知ってるのー?」
「いいえ、知りませんの」
「それぐらいなら僕らも考えてたよ。どっちに行けばいいか分からないし、そもそも町の周囲にメカニマルがいて出られないから困ってたんだ」
やはりミニは役に立ちそうにない。
「それならお任せ下さいの。地形情報から人が住んでいそうな方向は分かりますし、メカニマルの行動パターンも知っておりますの」
「本当?」
「はい、高性能アンドロイドですので」
自己紹介が超高性能から高性能にグレードダウンしてる。でも、僕達で分からない情報が得られるなら役に立つのは本当だろう。
それから僕達は拠点を総司令部のあった地下に移した。総司令部の電源は落ちていても空気と水回りは補助電源で動いているそうで、総司令部にはメカニマルが指示されない限り侵入しないという事だからだ。ブレイブウォールや公園に置いてきた荷物を取りに行き、灯りを創ってとりあえずの拠点が出来上がった。
「メカニマルには指定された場所、言い換えると縄張りを守るタイプと巡回して見つけた部外者を排除するタイプがおりますの。それらの守備範囲を把握出来れば一番手薄な場所を通って行けますの」
「そういえばミニは部外者扱いなんだね?」
「住民の情報は常に更新されますので、総司令部でメカニマルに対して情報を更新する必要がありましたの。ですが、総司令部が動かないので今は更新出来ませんの」
拠点でミニに話を聞いているが、色々と不便だなと思ってしまう。
「その、メカニマルとかいうのに弱点は無いのー?」
「頭脳かつ動力源であるコアが弱点ですの。ボディの中央にありますので厚いアーマーを何とかする必要がありますの」
最初のサソリ型を倒せたのはナーリがアーマーを壊して、溶解液でコアを壊せたからうまく行ったのだろう。溶解液はもう無いので、倒すなら他の方法が必要だ。
「水とか砂とか粘度のある液体とか、メカニマルの動きを鈍らせる事は出来ない?」
「その辺りは対策済みですの。あと、いざとなったらパーツの一部を切り離しても動作しますの」
罠に嵌めるのも簡単そうでは無さそうだ。他に何か無いだろうか。
「そういえばメカニマルのエネルギー源は何なんだ?それを断てば動けなくなるんじゃないか?」
「メカニマルは太陽からの日光と大気中の魔力を吸収し、蓄積して動いていますの。曇りが連続している日に動かし続ければ可能かもしれませんが、それは天気次第でいつになるか分かりませんの」
本当にこれといった弱点が無い機械だった。総司令部が動けばメカニマルが味方になったかもしれないと思うと本当に惜しい。
「勇者チャン、やっぱり倒して行くしかないみたいねー」
「問題は戦力だよ。僕のブレイブウォール初号機改も魔力燃料が残り少ないし、そもそもこの間の戦いでは体当たり攻撃は当てられなかったし」
「縄張りタイプでしたらそのエリアを抜ければ追いかけて来ませんの。つまり無理して倒す必要はありませんの」
「そうか。僕が囮になってそのうちに逃げればいいのか」
完全な囮は無理かもしれないけど、それでもメカニマルは逃げる相手よりエリアに留まる相手を重要視する筈だ。
「じゃあ、なるべく戦わず逃げる方法で、手薄な場所と上手く引き付ける方法を考えよう」
それから2日間はミニを連れてメカニマルの行動範囲を把握したりして、脱出方法を調べたのだった。
「疲れた……。でも、これで明日は脱出作戦が決行出来る」
「うまく逃げて来られて良かったねー」
メカニマルの行動範囲を調べるのは良かったが、最後は命からがら拠点のある地下への入り口に走って逃げる事になってしまった。ブレイブウォールを置いた僕もミニも戦力外であると共に足の速さがナーリには及ばず迷惑をかけている。
「ミニも他のボディがあればこんな事にはならかったですの」
「あれからボディの反応とかは無かったの?」
「このシンエド内にはあると思いますの。ただ、メカニマルを避けて探し出すのは困難ですの」
運良く見つかれば作戦がもっと楽になると思ったけど、さすがにそう都合よく行かないようだ。
「明日は朝から作戦開始だし、早く寝よう」
「分かったー」
夕食を食べ、シャワーで身体も洗ったので今日は寝る事にする。ちなみにミニに睡眠という行為は不要らしく、簡単に見張りをしてもらっていた。総司令部にメカニマルが入らないというのを信じてはいるけど。
(あれ?また壁になってる。なんでだろう)
寝たと思ったら、僕は見知らぬ部屋の壁になっていた。
(どこだここは?シンエドの地下のどこかなのか?)
薄暗いが赤く点滅するライトで何とかどこかの部屋だと把握出来る。壁も床も金属なのでシンエドの総司令部の作りに近い気がする。
(ん?なんかあるな)
と、部屋の奥に並ぶ何かに僕は気が付いた。それはガラスのような透明の容器に入った頭部の無い女性の身体と思われるものだった。それが3つ並んでいて、それぞれSFのボディスーツのような恰好をしている。
(まさかミニのボディか!)
「マスター、マスター……」
そう気付いた時、現実の僕の身体が誰かに揺すられ、僕は無意識に壁を解除してしまった。
「マスター」
「ミニか。なんか用なの?」
寝袋の中で寝ている僕を小声で呼んで揺すっていたのはメイド服に身を包んだミニだった。七色の髪が辺りを照らしている。
「ナーリさんが起きてしまいますのでこちらに来て下さいの」
僕はミニに案内されるままについて行く。ボディが見つかったかもしれない事を話そうかと思ったけど、夢の可能性が皆無では無いのでまだ黙っておく事にした。ミニは使われていない総司令部の空き部屋に僕を案内する。灯りはミニの髪の毛だけで部屋は薄暗い。僕はミニと並んで台座になっているような場所に座る。
「それで用って何?」
「明日に向けてマスターの体調を管理致しますの。一発抜いてスッキリした方が元気になりますの」
ミニの言葉で何の話か僕は理解する。
「言いたい事は分かったけど、それなら僕一人でするから気にしなくていいよ」
「駄目ですの。ミニはマスターの性処理を得意としていますの。それにエネルギーの補給も兼ねていますの」
「え?ミニはメカニマルと同じで太陽光と魔力でエネルギー補給してるんじゃないの?」
以前ミニに食事をしないか聞いた時はメカニマルと同様で自然にエネルギーを補給していて、あとは水が必要な位だと聞いていた。
「勿論それだけでも最低限のエネルギー補給は出来ますの。ですが、ミニの機能をフル活用するにはマスターの魔力が必須ですの。マスターの魔力はマスターの体液から摂取出来ますの。最初のキスの時に唾液を頂きましたが、それだけでは不十分ですの」
体液というと唾液や血液、あとは尿か精液という事になる。流石に飲尿させるのはどうかと思うし、血を与えるのは僕個人としては遠慮したい。唾液もそこまで出ないだろう。
「つまり、僕の精液が必要だと?」
「ご明察ですの。マスターも気持ち良くなってミィも元気になる、ウィンウィンですの」
一応理屈は通ってるけど、本当にエロゲーみたいな展開だなと思ってしまう。
「ミィは通常のセックスの他にもすまた、手こき、足こき、パイズリ、フェラ、腋こきと何でもやりますの。マスターの希望を教えて下さいの」
「いきなりそんな事言われても……」
正直ここに飛ばされてからオナ禁していて、前にナーリに誘われて危ないところまで行っていたので、かなり溜まってるのは確かだ。ミニは機械だけど、やっぱり少女の形をしている人を道具みたいに使うのは抵抗がある。
「ミニは機械なのでセックスしても童貞は貫けますの。安心して使って下さいの」
「でも人の形しているし、初めてはやっぱり好きな人としたい」
「でしたら手こきをおススメしますの。ミニの手もマスターの手も大して変わりませんの」
ミニが金色の瞳で妖艶な表情をしてこちらを見つめる。エリと同じメイド衣装を身に着けたミニは魅力的だ。強引に誘われたら手を出したくなってしまうだろう。だったら、早く抜いてもらって賢者モードになった方がいい。
(それにミニのエネルギー補給にもなるみたいだし)
もしかしたら騙されている可能性もあるけど、僕はミニの誘惑には勝てなかった。
「分かった、手こきでお願い」
「了解です、マスター!」
ミニは満面の笑顔になり、服を脱ぎ始める。
「別に服を脱がなくてもいいんじゃないかな」
「マスターの精液で衣装が濡れたら大変ですの」
そう言われると反論の余地はない。全裸になったミニの姿は改めて見ると背は低いながらも胸もお尻も大きく、性的な魅力に溢れていた。綺麗なピンク色の乳首は上向きで触りたくなってしまう。
「マスターがミィの裸に反応していますの。今からでも対応を変更出来ますの」
「いいよ、手こきで」
僕は誘惑に負けないように急いで言う。僕もミニが手こき出来るようにズボンとパンツを脱いで台に座った。
「では、触らせて頂きますの」
ミニは足を開いて座る僕の前にしゃがんで座る。そして自分の唾液を手の平に出し、両手に優しくまぶす。そして勃起してきた性器をミニが両手で優しく包み込む。
「うぅ」
柔らかく温かい手が僕の性器を包んで、その気持ち良さに声が出てしまう。前にオナホを作ってそれで手こきしてもらったけど、直にやってもらうのはその比では無かった。それはミニの能力かもしれないけど。
「マスターのとても大きくて太くて立派ですの。ずっと触っていたいですの」
ミニは性器に触れるぐらい近くで言う。ゆっくりと両手が前後し、唾液が潤滑油になり、快感が増していく。正直すぐに出してしまいたいけど、男としてそれは我慢する。
「どうですの?痛かったら言って下さいの」
「大丈夫、気持ちいいから」
「分かりましたの、もう少し強くしますの」
そしてミニの手が更に僕の性器に密着する。そしてスピードも上がった。
「ううっ!ああっ!」
今までに無い快感に声が出る。ミニはテンポよく手を前後する。もう限界だった。
「マスター、下さいの!」
「ああ、出るっ!!!」
僕の性器から大量の精液が飛び出した。それは正面にいたミニの顔に思いっきりかかる。何度か痙攣して僕の精液は全てミニに絞り取られた。
「ごめん、かけちゃって」
「いえ、これこそミィが求めていたものですの。有り難くいただきますの」
ミニは手の平や髪や顔にかかった精液を大事な物のように集め、自分の口に運んでいく。本当にそれがエネルギーなのかは分からないけど、とてもエロい光景だった。
「口でお掃除してもいいですの?」
「いや、それはやめてくれ」
もし性器に口なんか付けられたら第2ラウンドが始まってしまう。僕はティッシュで自分の性器を拭いて、服を着る。
「えーと、なんかありがとう」
「いえ、こちらこそマスターに感謝ですの。明日は今まで以上に働きますの」
ミニは少女らしい笑顔で答える。僕は少しの罪悪感を感じつつ再び眠るのだった。
翌朝、ミニのボディがあった部屋を想像して壁になろうとしたけど、無理だった。もしかしたら本当に夢だったのかもしれないし、あの時ミニに起こされず、抜いたりしなければもう一度行けたかもしれない。まあ、後悔してもしょうがない。
「よし、それじゃあ始めよう」
僕とナーリとミニはシンエドを脱出する作戦を実行する為に町の北側のメカニマルが来ない場所に来ていた。まだ朝の時間帯だ。
ナーリは光属性で露出度の低い限定SSRの聖戦士衣装を着て貰っている。移動速度は落ちるが、防御力はナーリの装備の中では最も高く、武器が斧からハルバードになる事で槍部分での突きが可能になるからだ。メカニマルのコアの場所はミニに教えてもらっているので、相手の動きを止められればナーリが1撃で仕留められる筈だ。
ミニは作ったメイド衣装のままだけど、隠し苦無の代わりに同じくガルブレのエミの装備の中から煙玉や爆裂玉だけを作って忍ばせて貰っている。これならうまく使えなくても、投げるだけで敵を引き付けたり、逃げる時に役に立つ筈だ。ただ、ミニの動きにあまり期待はしていない。
あとは僕のブレイブウォールも準備している。と言っても、もう戦うのは無理で、敵の攻撃を受ける盾役が辛うじて出来るぐらいだ。
(あとは作戦通りに敵を引き付けられれば)
作戦の要はどれだけ敵と戦わずにメカニマルの縄張りを抜けられるかだった。一応分かる範囲で一番手薄な部分を選んだけど、それでも上手く行く確証は無い。
(いざとなれば僕だけでも町に残って引き付けるしか)
みんなには言ってないが、ナーリやミニに無理をさせるなら僕が壁として町に残れば他の2人だけは逃がせられる可能性は高い。言ったら絶対に反対されるからこれは最終手段だと思っているけど。
「それじゃあ行ってくる」
「勇者チャン、気を付けてねー」
「マスターの無事をお祈りしますの」
僕は2人とブレイブウォールを置いて壁と同化した。同化した壁は元居た場所から東側のビルが集まっている一帯だ。そこで僕はビルの間を巡回する3体のメカニマルを確認し、同化を解く。
「こっちだ!!」
僕はビルの5階ぐらいに立ち、階下の道路に向かって叫んだ。下にいたトラ型、ライオン型、オオカミ型のメカニマルが僕に気付く。僕はそのまま手に持った剣でビルの床や柱を叩いてメカニマルを威嚇した。メカニマルはジャンプしてこちらに近付こうとしている。
(いい感じだ)
僕は急いで建物の奥に引っ込み、そこで再び壁に同化した。これでしばらくメカニマルは僕を探し回る筈だ。僕は同様の事を3箇所で行い、巡回しているメカニマルをその場に留める事をした。これでナーリ達が居る場所に巡回しているメカニマルが来るのに時間が稼げるという作戦だ。
「ただいま」
「うまく行った?」
「うん、3箇所とも成功した。行こう!」
僕はナーリ達の居た場所に戻り、今度はブレイブウォールと同化する。僕の上にミニを乗せ、ナーリは僕と並走する形で建物の間を進んで行く。
「マスター来ますの。トカゲ型が3体ですの」
予定通りこの付近を縄張りとしているメカニマル3体がこちらに気付いてやってくる。ミニには僕が創った双眼鏡を渡して敵の動きを報告して貰っていた。アンドロイドだから双眼鏡と同等の機能ぐらい付いてそうだけど、今のボディだと必要だそうだ。まあ、それならしょうがない。
「よし、僕が盾になるから準備して」
「分かった!」
「了解ですの」
僕がトカゲ型の先頭に近付き、2人はそれぞれ準備する。
「ミニ!」
「はいですの!」
ある程度接近してまずはミニが敵に向かって煙玉を投げる。目くらまし程度だが、これで相手は音と大まかな影を目安に動くしかない。そして先頭のトカゲ型がブレイブウォールに接近し、その前脚で僕を引っかく。僕は横を向いて壁を盾のように使い、ミニは急いで僕から飛び降りた。
「ナーリ!」
「行っくよーっ!!」
そして僕の後ろに隠れて付いて来ていたナーリが跳躍する。流石に攻撃をした直後のトカゲ型は動けない。ナーリは必殺技では無く、聖戦士装備の特殊技であるジャンプして上からハルバードの槍で貫く技でトカゲ型を攻撃した。攻撃は命中し、トカゲ型は動かなくなる。
「成功だ、次に移ろう!」
コアの位置はミニに聞いた通りで、うまく1撃で破壊出来た。僕は一旦建物の方へと移動する。ミニとナーリは僕の背後に付いて同様に移動する。
「ミニ、もう一発お願い」
「はいですの」
煙幕が晴れてきたので、ミニに追加でもう一発煙玉を投げてもらう。ここで重要なのはこちらの行動を敵に気付かれない事だ。建物に接近した僕達はそこでミニとナーリに建物の中に隠れてもらう。
2体目、3体目とトカゲ型を倒す事も考えたが、ミニが言うにはエリア全てのメカニマルを破壊するとメカニマルが集中してフォローに来ると聞いて、倒すのは1体だけにしたのだ。
僕は2人を置いて2体のトカゲ型の攻撃を受けつつ建物から離れていく。このまま2体が付いて来てくれれば作戦成功だ。やがて煙幕が晴れていく。
(頼む、気付かれないでくれ……)
僕は祈りつつ敵の攻撃を受け続ける。トカゲ型2体は移動する僕にそのまま付いて来てくれていた。あとはもう少し距離を離せればいい。流石にブレイブウォールも移動しながら攻撃されると脚部にもダメージが増えてくる。もうそろそろ限界だろう。
(今までありがとう。さよなら、ブレイブウォール初号機改……)
僕はブレイブウォールの脚部に最後の命令を送り、その上部の壁から分離した。一旦近くの壁になってブレイブウォールがトカゲ型に攻撃されながら自動で離れていくのを見送る。そして2人が隠れている建物の壁になり、人型に戻った。
「うまく行った、急ごう!」
「分かった」
「了解ですの」
僕はミニから荷物を受け取り、ナーリを先頭に走り出す。ルート的に他のメカニマルはいない筈で、町の外れに当たる林まで入れれば作戦完了だ。僕達は無言で背を低くして走り続けた。
「着いたーー!!」
「作戦成功ですの」
「うまく行って良かった……」
僕達は林の中を数分移動してようやく立ち止まる。ここならメカニマルのエリア外だし、町側からも見えない位置だ。僕はホッとしてしゃがみ込んだ。ブレイブウォールは犠牲になったが、とりあえず3人無事なのは大成功だ。
「このまま北に進めば本当に人が住んでる所に出られるのか?」
「確証はありませんの。ただ、生きている人が居るなら水の流れ的に下流がある北から北東辺りが可能性が高いですの」
今は情報も少ないのでミニの想定を信じるしかない。僕達は周囲を気にしつつ林を北側へと進んで行く。ここにはウサギなどの野生動物もおり、食料も調達出来そうだ。昼を過ぎたら野宿する場所を探すのもいいかもしれない。
「勇者チャン、なんか怪しい気配が」
「見てみますの」
ナーリが何かに気付いて立ち止まり、ミニが双眼鏡で周囲を見回す。僕も周りに集中するが、ナーリのように異変は察知出来ていない。
(この辺は壁も無いし、壁化の能力を使っての移動も出来ないな)
ブレイブウォールがあれば強行出来たけど、もう無いので今は慎重に進むしかない。
「居ましたの。あれは、見た事の無いメカニマルですの」
ミニに双眼鏡を手渡され、僕もそれでミニが指し示す方を見る。するとそこにはアルマジロのような形のメカニマルが5体ぐらい歩いていた。今の戦力でまともに戦える相手では無い。
「見つかるとマズいな。回避して進まないと」
「でも林の中を音を立てずに移動するのは難しいよねー」
ナーリの言う通りで、林の中は草も多く生えていて、この人数で音を立てずに移動を続けるのはかなり難しい。アルマジロ型の行動範囲や索敵能力が分からない以上、動かないで遠くへ行くのを待つのも選択肢として考えた方がいい。
「昔は町の外にメカニマルはいなかったの?」
「はい、あくまでシンエドの管理防衛用に作られたと聞きましたの。他の人に危害が加えられないよう、シンエドから外に出る事は無かった筈ですの」
小声でミニに確認する。そもそもミニは長年寝ていたのでその情報が更新されていないので、どうしてここにメカニマルがいるのかは分からない。
(動くか、待つか、考えないと。どっちにしろ見つかったら終わりだ)
僕は必死に策を考える。ブレイブウォールを取りに戻って、無理矢理僕の魔力で動かす事は出来るが、ここまで戻ってくる時間と僕の魔力を考えると現実的ではない。
(やっぱり運任せで待つよりは敵の動きと反対側へ行くのがいい)
「行こう、まだ敵には気付かれてないし、敵は東へ動いてるから、西へ向かえば距離は離せる」
「分かった」
「了解ですの」
僕らはなるべく音を立てないように西へと移動を開始する。ミニは正確に東西南北を把握出来るので、こういう時は役に立つなと思った。
「マスター、問題がありますの。この先は崖ですの」
敵に気付かれずに数分進めたが、そこで双眼鏡を覗いていたミニが報告する。
「崖はどんな感じで続いてるか分かる?」
「西側はずっと崖で、南北に伸びていますの。崖に出ると周りから目立ちますので林の中を北東に移動する必要がありますの」
北東という事はまた先ほどのメカニマルに近付く事にはなる。だが、恐らく崖は降りられないだろうし、近付く事自体も危険な気がする。南はシンエドに戻る事になるし、行き先は限られている。
「行こう、勇者チャン。敵の接近に注意しながら進めば大丈夫だよー」
「そうだな、行くしかないか」
僕達は東側に注意を払いつつ北東に進路を変えて進んで行った。
「もうすぐ林を抜けられますの。先にメカニマルは見当たりませんの」
しばらく進み、ようやく林が開ける場所まで近付いた。まだ敵に見つかった気配は無い。
「抜けた!あとは出来るだけ林から離れよう」
「うんっ!」
林を抜けると草原が広がっており、その先には山が見えた。ある程度山まで近付き、そこから東へ向かうのがいいだろう。僕達は林から離れるように進んで行く。
『ザザザッ』
と、周囲から物音がし、さすがに僕でもそれには気付く。
「勇者チャンっ!」
「分かってる」
僕達は立ち止まり身構える。すると、周囲の地面が隆起し、そこから3体のアルマジロ型のメカニマルが現れた。距離は近く、完全に囲まれている。
(罠か?それとも巣に踏み込んだのか)
罠かは分からないけど、マズいのには変わらない。でも、こういった状況になったらどうするかは話し合っていた。
「ミニ、煙玉を。あとは全速力で逃げるぞ!」
「りょーかいっ!」
「はいですの!」
ミニがメイド服から玉を取り出し、2体のアルマジロ型の中心辺りに投げ付ける。が、弾は煙を出さず爆発した。煙玉ではなく、爆裂玉の方を投げたのだ。2匹のアルマジロ型は驚いたものの、ダメージはさほどなく健在だ。
「ごめんなさいの。間違えましたの!」
「謝るのは後で、1体がこっちに来る、僕の背後に!」
僕は近寄ってくるアルマジロ型の正面に壁を創って攻撃を防ぐ。前のように2人を囲うような壁を創る魔力は残っていない。
「勇者チャン!あたしが敵を引き付けるからその間に2人で逃げて!」
ナーリが近付いて来る2体のアルマジロ型の方を向いて叫ぶ。
「駄目だ、危険過ぎる」
「でも、このままじゃ全滅だよ。ここで勇者チャンが倒れたらみんなに顔向け出来ないよ!」
ナーリの気持ちは分るが、そもそも3体をナーリが引き付け続けるのはどう考えても無理だ。
(1人を囮に残すのは絶対に死亡フラグだ。でも、僕の魔力も残り少ないし、時間が経てば他の敵も来る。何か策を考えないと)
そう話してる間にも1体のアルマジロ型がナーリに襲い掛かってそれをナーリはギリギリ受け止めていた。ミニももう1体の方に煙玉を投げたが、既に相手はこちらの位置を把握して近付いて来る。壁を殴っていたもう1体も攻撃するのを止めて移動を開始していた。
(アルマジロ、固い甲羅……。そうか、あれが出来るかもしれない!)
僕は作った壁の大きさを大きくし、地面との角度を30度ぐらいの斜めにする。
「みんな、急いで壁の下に!」
「分かった!」
「はいの!」
僕達は滑り込むように壁のわずかな隙間に入り込む。
「ミニは煙玉を、ナーリは僕が誘い込むから壁の上を敵が通ったら下からコアを狙って」
「分かったけど勇者チャンが危ないよ」
「大丈夫、すぐに壁になるから」
「分かった、気を付けてね」
心配顔のナーリを残し、僕は煙幕の中、斜めになった壁の上に立つ。正直怖いけど、ミニを囮にするなら僕がやった方がいい。
(来た!)
煙幕の中で僕を見つけたアルマジロ型の1体が斜めの壁を登ってくる。僕は恐い気持ちを我慢しギリギリまで引き付けて壁から飛び降りる。僕を追ってきたアルマジロ型も僕を追って壁の端からジャンプする。アルマジロ型は僕にぶつかったけど、僕は急いで壁になって致命打は喰らわずに済んだ。
「そこだーっ!!」
ナーリが叫び壁の下から槍を突き刺す。僕を追ってきたアルマジロ型は動かなくなった。作戦成功だ。
「やったよ勇者チャン!下からコアが突けたよ!」
「うまく行って良かった」
僕は敵に体当たりされて身体が痛いけど、それを我慢して壁の中で微笑む。戦車が出てくるアニメで戦車の装甲の薄い底面を狙うのを思い出してやってみたけど、何とかなるなと思った。
「この調子で繰り返せば……」
「マスター、残念ながら今すぐここを抜けないとですの。敵が地面の下からこちらに近付いて来てますの」
「そんな……」
ミニに言われてみると、確かに地面の下から振動を感じる。敵もただこちらの行動を漠然と見てるわけでは無いのだ。
「敵も2体に減ったし、地面から出てくる前に出来るだけ距離を離そう。もしかしたら敵の縄張りから抜けられるかもしれない」
「分かった!」
「はいの!」
僕達は急いで壁の下から出て走り出す。正直次の案を考えてる間に攻撃されるので、逃げながら何か考えるしかない。
(山まで平原で隠れるような場所が無い。かといって林に戻っても他のメカニマルと出会う確率が上がるだけだ)
地上に出たアルマジロ型の残り2体はこちらが逃げたのに気付いて追ってきている。今のところ縄張りを抜けたからと止まる様子は見えない。
「勇者チャン、1体ずつならコアを破壊出来るかもしれないよ」
「アルマジロ型は他のメカニマルより鱗の装甲が厚そうだから上から攻撃するのは危険だ。戦うのは避けた方がいい」
「ミィもマスターの意見に賛成ですの。せめて落とし穴とかで腹部が攻撃出来るようにしないとですの」
ミスナがいれば落とし穴などの罠が設置出来たけど、今の僕達ではすぐに作るのは難しい。僕の魔力がもっとあれば何か仕掛けが作れるかもしれないけど、残っている魔力で何が出来るかは分からない。
「でも、もうすぐ追い付いちゃうよー」
「ここは一旦僕が足止めする」
僕は立ち止まり振り返る。横長に壁を創れば少しは時間稼ぎが出来る筈だ。僕は手を前に突き出し壁をイメージする。
「うっ……」
が、集中しようとした時、先ほどの打撲の痛みを実感してしまい、集中が切れて壁が作れない。
「勇者チャンっ!!」
僕に襲い掛かる1体のアルマジロ型にナーリがジャンプして上からハルバードの槍部分を突き刺す。
『キーーーンッ!』
甲高い金属音が響き、ナーリの攻撃は弾かれ、ナーリはバランスを崩して地面に膝を付く。
「ナーリさんっ!」
ミニが叫び、ナーリにもう1体のアルマジロ型が攻撃しようとしてるのに気付いた。だけど、僕はまだ壁を集中してイメージ出来ない。そしてナーリはアルマジロ型の爪での攻撃をまともに喰らい、宙に浮いた。
「ナーリっ!」
僕は急いで落下したナーリの方に駆け寄る。
「勇者チャン、逃げて……。あたしはここで敵を引き留めるから……」
ナーリの鎧は爪で派手に切り裂かれ、腹から血が零れ落ちてるのが分かる。
「そんな事出来るわけ無いだろ。
ミニ、投げられる物は全て後方に投げて走るぞ」
「はいのっ!!」
僕はナーリを背負い、ミニと一緒に敵に背を向けて走り出す。思ったよりナーリは軽いけど、それでも人を背負って走るのは大変だった。背後に爆発音とかが聞こえるけど、それでも敵が迫ってきているのが分かる。そして僕の背中にはナーリの血が染み出して来ているのを実感した。
(クソっ、僕が失敗したせいで!)
僕の中にやり場のない怒りが生まれる。このままだと3人とも死ぬだろう。でも、もうどうしようもない。僕の横で必死に走るミニもいるけど、ミニに何かしてもらう案も無い。
「マスター、もう無理ですの……」
「分かった、ミニはナーリを背負って逃げて」
「そんな、駄目だよ……」
ナーリは消えそうな声で言う。僕はナーリをミニに渡し、近寄るアルマジロ型に剣を向ける。僕が少しでも耐えられれば2人は生き残る可能性はわずかにある。
(こんな事なら剣の練習をしておけばよかった……)
結局自分の能力を過信して己を鍛えなかった事を後悔する。ぐるぐると色んな事が頭によぎるが、今は少しでも目の前の敵を引き付けるだけだ。
「来いっ!」
威勢だけでもと僕は叫び、アルマジロ型の1体が僕に飛び掛かった。僕は避けようとするが、どう見ても間に合わない。
(ここまでか……)
そんな僕の目の前でアルマジロ型は前後に真っ二つに分かれた。
「え!?」
僕は何が起こったか分からない。
「大丈夫でござるか?」
そしていつの間にか僕の斜め前には和装の袴のような服を着た長い黒髪を縛った綺麗な女性が立っていた。手には長い日本刀のような武器を持っている。
「これはあなたが?」
「もう一匹いる。動かないで」
女性は僕の正面に移動し、迫ってくるアルマジロ型と対峙する。
「はっ!」
そして女性がスローモーションのように動いた。飛んでくるアルマジロ型を真正面から刀で女性は一閃する。すると分厚い鱗であるアルマジロ型は今度は縦に真っ二つに分かれていた。
(凄い。生身でメカニマルを2体も……)
僕は女性の動きに見入ってしまった。女性は長い刀を腰の鞘に納めるとこちらに戻ってきた。
「危ないところでござったな。しかしなぜこんな辺鄙なところに?」
「えーと、その」
僕はなんて言おうか頭の中で考える。
「マスター、それよりナーリさんを!」
ミニに言われて僕は戻って来た2人の事を思い出す。布の上にナーリを寝かせ、鎧を脱がせ、傷口に持っていた回復のポーションを振りかける。しかし、ナーリの傷は深く、それだけでは傷口が少し小さくなるだけで、ナーリは唸り苦しむままだ。
「傷が深いでござるな。このままでは危ないでしょう」
「ミィも傷の手当は包帯を巻くぐらいしか出来ませんの」
「初めて会ってすぐにで悪いのですが、この辺にナーリを治せる人はいないでしょうか?」
「うーむ、間に合うかは微妙だが、一応心当たりはあるでござる」
「お礼は後でしますから、連れてって下さい」
「分かったでござる。
そうそう、拙者はカスミと申します」
「僕はリュートです。で、こっちがミニで、傷を負っているのがナーリです」
簡単に名前だけの自己紹介をし、走るカスミの後を僕はナーリを背負って必死について行った。背中のナーリの息がどんどん苦しそうになるのが分かり僕はどんどん焦っていく。
カスミは山の横にある森に入り、その中を更に進んで行った。まだ昼間なのに森は深く、周囲は暗い。もしカスミが悪意のある人物だったら僕達は簡単に騙されたり殺されたりするだろう。でも、今は信じるほかない。
「ここでござる。まだおればいいが……」
森が開けるとそこには小さな集落があった。建っているのは木造のわらぶき屋根のような家で、僕の昔話の日本の村のイメージと一致していた。
「ユキ!いるか!!」
「その声は、カスミ?」
カスミが叫ぶと1軒の家から濃い緑色の髪の毛の派手な服を着た美女が現れた。日本家屋っぽい家とのアンマッチ感が凄いと僕は思ってしまう。
「よかった、機獣に襲われた者が居てな。見てやってくれないか」
「怪我人ね。いいわ、入って」
僕達はカスミとユキと呼ばれた女性に促され、その家に入る。ナーリを板の間に寝かせると、ユキはナーリを全裸にし、その傷を確認する。
「うちが居る時で良かったわ。毒が回ってきてる。でも、まだ大丈夫よ」
ユキは何を思ったか、薬ではなく小さなギターのような楽器を取り出す。
「あの、何を?」
「心配なさるな。黙って見ておれ」
カスミに言われ、僕はとりあえずユキに任せる。
『ラ~ラ、ララ~~。ラララ~~~~』
ユキは楽器を弾きながら美しい声で唄った。その声は僕の心を温かくし、とても気分が良くなってくる。ナーリの身体が光り出し、傷口が小さくなっていった。苦しそうに呻いていたナーリも顔色が良くなり、静かに寝息を立て始めた。
「自己紹介がまだでしたね。うちはユキ。旅の吟遊詩人であり、マジックソングの使い手よ」
「こいつの回復魔法の効果は信用していい」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は深々と頭を下げる。ナーリが大丈夫そうなのと、ユキが歌で魔法を使える事で、僕はようやくカスミがガルブレの女侍のアスミに、ユキがガルブレのソングマスター(歌で戦う歌手)のユリに似ている事に気が付いた。そして僕はガルブレに似た子を見つけた事でここがまだ異世界であるのではと希望を持つ。
「で、カスミ。どこでこんな可愛い子達を拾ったの?」
「こいつは歌も魔法もいいのだが、性癖だけはちょっと特殊でな。出来れば連れて来たくなかったんだが」
ユキはミニを捕まえるとその光る頭をわしゃわしゃと撫で始めた。口からはよだれが出ている。
(ああ、可愛い女の子好きの女性なのか)
僕としては百合作品でよく見ているので特に引いたりはしない。こういう愛の形もありだと思っている。
「マスター、助けて下さいの」
「あんまり酷かったら助けるけど、今はちょっと我慢してて」
ナーリを助けて貰った礼もあるので、僕はミニにはとりあえず生贄になってもらう事にした。
「それより聞きたい事があるんです。ここはどこですか?地球なんですか?」
「拙者も色々聞きたいのでござった。だが、先に答えよう。
ここは滅びしヤマトの国。今は名も無き東の果てでござる。チキュウという地ではござらんな」
「ヤマト?それはマリナリアの地名でいいんでしょうか?」
僕がその名を出すと2人の顔が変わるのが分かった。
「そうよ、マリナリア、と今は呼ばれてる世界ね。という事はあなた達は大陸から来たのね」
ユキの言い方は気になるが、とりあえずここが地球ではなくマリナリアである事に僕はホッとする。大陸というのが何を指しているかよく分かっていないが、僕が転生したアレサング王国は大陸の中央の国だと聞いていたので僕はそれを伝える事にした。
「はい、アレサング王国に居ました」
そう言った瞬間、僕は寒気を感じた。そしていつの間にか目の前には刀を抜いたカスミが立っていた。
「そうでござったか……。拙者、返答次第ではそなたらを斬らねばならぬ」
カスミに冷たい視線で刀を向けられ、僕は全身の血が引いていくのだった。
「どうなってるの?」
「マスターを安全な場所までお連れ致しますの」
「勇者チャン、これ大丈夫なの?」
「分からない」
とりあえず今はミニを信じるしかない。しかしこれだけの大掛かりな仕掛けだと本当にここは未来の地球なのではと思ってしまう。
「ねえ、ここは地球なの?」
「チキュウ?それは地名でしょうか。ミィは現在限られた情報しか持ち合わせていないので、ここがシンエドという都市名だとしかお答え出来ませんの。ですが、もうすぐ中央データベースに接続出来ますので、その時お答えいたしますの」
七色の髪を輝かせながらミニが答える。シンエドというのは新江戸という事だろうか。となると、ここが日本だという可能性も高い。
「ねえ、勇者チャンは分かってるみたいだけどあんどろいど(?)ってなんなの?」
「アンドロイドは人型の機械の事ですの。ミィはこう見えても人間ではありませんの」
「それだけど、本当に機械なの?確かに髪と耳は機械っぽいけど」
「ミィが人間かお疑いですの?では、こんなのでどうでしょう」
ミニの金色の瞳が光り、ライトのようになる。そして、光で自分の形のいいな胸を照らすと、両手で真ん中から胸を左右に開いた。
「えーーー!」
「うわっ」
ナーリと僕は2人して変な声を出してしまう。ミニの胸がパネルのように左右に開いて、その中の金属の骨とケーブルと動く歯車などのよく分からない機械部品が見えたからだ。
「この通り、見た目は人間に近いですが、中身は機械ですの」
「分かったから、元に戻して」
流石にずっと見ていたい物では無く、ミニに胸を戻してもらった。そんな事をしているうちに降下していた地面がガタンと言って止まる。
「到着しましたの。ここがシンエドの総司令部ですの!!」
ミニは両手を上げて堂々と宣言する。が、辺りは暗いままで良く見えない。
「あの、何も見えないけど……」
「少々お待ち下さいの。あれ?どうして??」
ミニが瞳をライトにして周囲を照らすと、確かに大型モニターのようなものが壁にあるのが見えるが、動かず壁と同化している。他にも何かの機器に見えるものがあるが、それも一部は風化し、明りが点いているものは無い。
「壊れてるんじゃないの?」
「そのようですの」
「ねえ、ここはなんなのー?」
「ここはシンエドの全てを集中管理出来る総司令部、でしたの。今は稼働していないので単なる地下の一室ですの」
ミニの言っている事が正しければ、ここが動作すれば色々分かる筈だ。
「直せないの?」
「今のミィには無理ですの」
「超高性能アンドロイドとか言ってなかった?」
「はい、超高性能ですの。戦闘から家事、建築工事、研究開発、政治軍事、機械操作、夜伽と何でもこなすスーパーアンドロイドですの」
ミニは自信たっぷりにドヤ顔で語る。
「でも直せないんだよね」
「はい。ミィは7つのボディにそれぞれ特化した機能が付いていますので、直すには研究開発と機械操作のボディが必要ですの」
「そのボディはどこにあるの?」
「さあ、知りませんの」
「今のボディは何なの?」
「夜伽ボディですの。マスターの快楽の為にあらゆる性技を駆使出来ますの」
(一番役に立たないボディじゃないか。もしかしなくてもこれはポンコツアンドロイドなのでは……)
僕が期待していたものがガラガラと崩れ落ちていく。
「ねえ、勇者チャンの力でこれは直せないの?」
「流石にこれは僕が知ってる物じゃないから難しいと思う。
ねえ、ミニが知っている情報を聞きたいんだけど」
「はいマスター、何なりとご質問下さいの」
僕は何でもいいから情報を引き出してみる事にする。
「この場所について知っている事を教えて」
「ここはシンエドですの。ミィの創造主であるミコト様が造られた都市で、ミィの内臓タイマーに狂いが無ければおよそ800年前に造られた都市ですの」
「800年前?つまりその頃にはミニもこの総司令部もメカニマルも動いていたって事?」
「総司令部やメカニマルはそうですの。ただ、ミィの製造年はもっと後で、720年前に創られ、そのままマスターが現れるまで冬眠プログラムに入りましたの」
本当に700年前ならメンテナンスしていなければ総司令部が壊れていてもおかしくはない。
「総司令部は壊れたけどメカニマルが動いてるのはどうして?」
「メカニマルには自己修復機能があり、ある程度の故障は自己修復出来るんですの。ミィも同様ですが、原理や構造についてはこのボディでは詳しく説明出来ませんの。
総司令部にも自己管理機能が付いていた筈ですが、想定外の不具合、または人為的な破壊でそれが動作しなくなったようですの」
「ねえ、勇者チャン、質問するのはいいけど、このミニちゃんに先に服を着せてあげた方がいいんじゃないかなー」
ナーリに言われてみればその通りで、ミニは出て来てからずっと全裸だ。ミニ本人がアンドロイドであり、恥ずかしがらないからあまり気にならなくなっていた。
「ミニの服はどこかに無いの?」
「総司令部の電源が入れば倉庫への道が開けたのですが、今は電源が落ちているので向かうのは困難ですの。他にミィが知っている当てはありませんの」
「分かった、僕が創るよ」
あいにくガルブレ(ガールズブレイブナイツ)にはアンドロイドキャラは居ないし、ミニに似たキャラも居ない。なので僕は身長とメイドという属性からエリに着せていたガルブレのエミのメイド忍者装備を想像し、それをミニが身に着けた姿で創造する。他人の装備を着せるとどうなるか分からないし、そもそもミニは人間ですらない。
「どう?動きが軽くなったりする?」
「デザイン的にはいいと思いますの。でも、動きやすさは変わりませんの。あと、胸のサイズが緩いですの」
やはり装備はその人向けに創っていたので、他の人が着ても同じ技が使えたりはしないようだ。あと、胸は巨乳のエリを考えれば、平均的な胸のミニには合わないだろう。
「とりあえず今はそれで我慢して。防御力は上がる筈だし」
「分かりましたの」
ミニは身体を動かしてみて、それに合わせてメイド服のスカートがひらひらと舞い、楽しそうにしていた。僕はもう一度質問に戻る事にする。
「また質問だけど、ここに人が住んでいないのはどうして?」
「不明ですの。ミィが造られた際には約10万人の人が住んでいたと記録されておりますの」
昔に人の文明があったのは確かなのだろう。700年前から今の間のどのタイミングかは分からないけど、何か異変があったのかもしれない。
「その、ミニを作ったミコトさんってどんな人なの?」
「ミコト様の個人情報については持ち合わせておりませんの。ただ、ミィを創り、都を造った凄い人とだけミィにインプットされておりますの」
「シンエドの外はどうなってるかは知ってる?」
「いいえ。ミィの稼働フィールドはシンエド内となっていましたので、それ以外の情報は持っておりませんの」
ミニがポンコツなのか、徹底して情報制限されているのか分からないけど、あまり有用な情報が出てこない。
「さっき言ってた中央データベースへの接続は出来ない?」
「総司令部が起動しないのでミィには無理ですの。研究開発ボディがあれば出来る可能性はありますの」
「その、他のボディがどこにあるか手がかりとか無いの?」
「いいえ。ミィが起動した際にボディが自動で集まる筈でしたの。恐らく総司令部が起動しないのと同様の理由と推測出来ますの。ミィのボディは重要ですので離れた場所に保管する予定、という未確定の情報なら持っておりますの」
つまり、今ここに無いという事は壊れているか、どこかに埋もれている可能性が高そうだ。
「ミニがそのボディで夜伽以外で出来る事は何?」
「一般的な人間が取れる行動は可能ですの。メカニマルとの戦闘は無理ですの。知識や知能についてはデータを入力する事での向上は可能ですの。
言いにくいのですが、夜伽以外は期待しないで下さいの」
思ったより役に立たないし、何も進展しない。やはりシンエドから脱出するしかないようだ。
「ミニの事は分かったよ。で、これからどうするか考えないと」
「ミィも情報を知りたいですの。それが分かれば何かお手伝い出来る事があるかもしれませんの」
ミニに言われてとりあえずここに来た経緯とかを簡単に説明する。勇者とか今までの戦いとかについてはまだ話さなくていいだろう。
「なるほどなるほど。どこかから飛ばされてここに来て、元の場所に戻る方法を探していたのですね。でしたら、まずは他の人がいる場所へ移動するのがいいかと思いますの」
「ミニちゃんはその場所知ってるのー?」
「いいえ、知りませんの」
「それぐらいなら僕らも考えてたよ。どっちに行けばいいか分からないし、そもそも町の周囲にメカニマルがいて出られないから困ってたんだ」
やはりミニは役に立ちそうにない。
「それならお任せ下さいの。地形情報から人が住んでいそうな方向は分かりますし、メカニマルの行動パターンも知っておりますの」
「本当?」
「はい、高性能アンドロイドですので」
自己紹介が超高性能から高性能にグレードダウンしてる。でも、僕達で分からない情報が得られるなら役に立つのは本当だろう。
それから僕達は拠点を総司令部のあった地下に移した。総司令部の電源は落ちていても空気と水回りは補助電源で動いているそうで、総司令部にはメカニマルが指示されない限り侵入しないという事だからだ。ブレイブウォールや公園に置いてきた荷物を取りに行き、灯りを創ってとりあえずの拠点が出来上がった。
「メカニマルには指定された場所、言い換えると縄張りを守るタイプと巡回して見つけた部外者を排除するタイプがおりますの。それらの守備範囲を把握出来れば一番手薄な場所を通って行けますの」
「そういえばミニは部外者扱いなんだね?」
「住民の情報は常に更新されますので、総司令部でメカニマルに対して情報を更新する必要がありましたの。ですが、総司令部が動かないので今は更新出来ませんの」
拠点でミニに話を聞いているが、色々と不便だなと思ってしまう。
「その、メカニマルとかいうのに弱点は無いのー?」
「頭脳かつ動力源であるコアが弱点ですの。ボディの中央にありますので厚いアーマーを何とかする必要がありますの」
最初のサソリ型を倒せたのはナーリがアーマーを壊して、溶解液でコアを壊せたからうまく行ったのだろう。溶解液はもう無いので、倒すなら他の方法が必要だ。
「水とか砂とか粘度のある液体とか、メカニマルの動きを鈍らせる事は出来ない?」
「その辺りは対策済みですの。あと、いざとなったらパーツの一部を切り離しても動作しますの」
罠に嵌めるのも簡単そうでは無さそうだ。他に何か無いだろうか。
「そういえばメカニマルのエネルギー源は何なんだ?それを断てば動けなくなるんじゃないか?」
「メカニマルは太陽からの日光と大気中の魔力を吸収し、蓄積して動いていますの。曇りが連続している日に動かし続ければ可能かもしれませんが、それは天気次第でいつになるか分かりませんの」
本当にこれといった弱点が無い機械だった。総司令部が動けばメカニマルが味方になったかもしれないと思うと本当に惜しい。
「勇者チャン、やっぱり倒して行くしかないみたいねー」
「問題は戦力だよ。僕のブレイブウォール初号機改も魔力燃料が残り少ないし、そもそもこの間の戦いでは体当たり攻撃は当てられなかったし」
「縄張りタイプでしたらそのエリアを抜ければ追いかけて来ませんの。つまり無理して倒す必要はありませんの」
「そうか。僕が囮になってそのうちに逃げればいいのか」
完全な囮は無理かもしれないけど、それでもメカニマルは逃げる相手よりエリアに留まる相手を重要視する筈だ。
「じゃあ、なるべく戦わず逃げる方法で、手薄な場所と上手く引き付ける方法を考えよう」
それから2日間はミニを連れてメカニマルの行動範囲を把握したりして、脱出方法を調べたのだった。
「疲れた……。でも、これで明日は脱出作戦が決行出来る」
「うまく逃げて来られて良かったねー」
メカニマルの行動範囲を調べるのは良かったが、最後は命からがら拠点のある地下への入り口に走って逃げる事になってしまった。ブレイブウォールを置いた僕もミニも戦力外であると共に足の速さがナーリには及ばず迷惑をかけている。
「ミニも他のボディがあればこんな事にはならかったですの」
「あれからボディの反応とかは無かったの?」
「このシンエド内にはあると思いますの。ただ、メカニマルを避けて探し出すのは困難ですの」
運良く見つかれば作戦がもっと楽になると思ったけど、さすがにそう都合よく行かないようだ。
「明日は朝から作戦開始だし、早く寝よう」
「分かったー」
夕食を食べ、シャワーで身体も洗ったので今日は寝る事にする。ちなみにミニに睡眠という行為は不要らしく、簡単に見張りをしてもらっていた。総司令部にメカニマルが入らないというのを信じてはいるけど。
(あれ?また壁になってる。なんでだろう)
寝たと思ったら、僕は見知らぬ部屋の壁になっていた。
(どこだここは?シンエドの地下のどこかなのか?)
薄暗いが赤く点滅するライトで何とかどこかの部屋だと把握出来る。壁も床も金属なのでシンエドの総司令部の作りに近い気がする。
(ん?なんかあるな)
と、部屋の奥に並ぶ何かに僕は気が付いた。それはガラスのような透明の容器に入った頭部の無い女性の身体と思われるものだった。それが3つ並んでいて、それぞれSFのボディスーツのような恰好をしている。
(まさかミニのボディか!)
「マスター、マスター……」
そう気付いた時、現実の僕の身体が誰かに揺すられ、僕は無意識に壁を解除してしまった。
「マスター」
「ミニか。なんか用なの?」
寝袋の中で寝ている僕を小声で呼んで揺すっていたのはメイド服に身を包んだミニだった。七色の髪が辺りを照らしている。
「ナーリさんが起きてしまいますのでこちらに来て下さいの」
僕はミニに案内されるままについて行く。ボディが見つかったかもしれない事を話そうかと思ったけど、夢の可能性が皆無では無いのでまだ黙っておく事にした。ミニは使われていない総司令部の空き部屋に僕を案内する。灯りはミニの髪の毛だけで部屋は薄暗い。僕はミニと並んで台座になっているような場所に座る。
「それで用って何?」
「明日に向けてマスターの体調を管理致しますの。一発抜いてスッキリした方が元気になりますの」
ミニの言葉で何の話か僕は理解する。
「言いたい事は分かったけど、それなら僕一人でするから気にしなくていいよ」
「駄目ですの。ミニはマスターの性処理を得意としていますの。それにエネルギーの補給も兼ねていますの」
「え?ミニはメカニマルと同じで太陽光と魔力でエネルギー補給してるんじゃないの?」
以前ミニに食事をしないか聞いた時はメカニマルと同様で自然にエネルギーを補給していて、あとは水が必要な位だと聞いていた。
「勿論それだけでも最低限のエネルギー補給は出来ますの。ですが、ミニの機能をフル活用するにはマスターの魔力が必須ですの。マスターの魔力はマスターの体液から摂取出来ますの。最初のキスの時に唾液を頂きましたが、それだけでは不十分ですの」
体液というと唾液や血液、あとは尿か精液という事になる。流石に飲尿させるのはどうかと思うし、血を与えるのは僕個人としては遠慮したい。唾液もそこまで出ないだろう。
「つまり、僕の精液が必要だと?」
「ご明察ですの。マスターも気持ち良くなってミィも元気になる、ウィンウィンですの」
一応理屈は通ってるけど、本当にエロゲーみたいな展開だなと思ってしまう。
「ミィは通常のセックスの他にもすまた、手こき、足こき、パイズリ、フェラ、腋こきと何でもやりますの。マスターの希望を教えて下さいの」
「いきなりそんな事言われても……」
正直ここに飛ばされてからオナ禁していて、前にナーリに誘われて危ないところまで行っていたので、かなり溜まってるのは確かだ。ミニは機械だけど、やっぱり少女の形をしている人を道具みたいに使うのは抵抗がある。
「ミニは機械なのでセックスしても童貞は貫けますの。安心して使って下さいの」
「でも人の形しているし、初めてはやっぱり好きな人としたい」
「でしたら手こきをおススメしますの。ミニの手もマスターの手も大して変わりませんの」
ミニが金色の瞳で妖艶な表情をしてこちらを見つめる。エリと同じメイド衣装を身に着けたミニは魅力的だ。強引に誘われたら手を出したくなってしまうだろう。だったら、早く抜いてもらって賢者モードになった方がいい。
(それにミニのエネルギー補給にもなるみたいだし)
もしかしたら騙されている可能性もあるけど、僕はミニの誘惑には勝てなかった。
「分かった、手こきでお願い」
「了解です、マスター!」
ミニは満面の笑顔になり、服を脱ぎ始める。
「別に服を脱がなくてもいいんじゃないかな」
「マスターの精液で衣装が濡れたら大変ですの」
そう言われると反論の余地はない。全裸になったミニの姿は改めて見ると背は低いながらも胸もお尻も大きく、性的な魅力に溢れていた。綺麗なピンク色の乳首は上向きで触りたくなってしまう。
「マスターがミィの裸に反応していますの。今からでも対応を変更出来ますの」
「いいよ、手こきで」
僕は誘惑に負けないように急いで言う。僕もミニが手こき出来るようにズボンとパンツを脱いで台に座った。
「では、触らせて頂きますの」
ミニは足を開いて座る僕の前にしゃがんで座る。そして自分の唾液を手の平に出し、両手に優しくまぶす。そして勃起してきた性器をミニが両手で優しく包み込む。
「うぅ」
柔らかく温かい手が僕の性器を包んで、その気持ち良さに声が出てしまう。前にオナホを作ってそれで手こきしてもらったけど、直にやってもらうのはその比では無かった。それはミニの能力かもしれないけど。
「マスターのとても大きくて太くて立派ですの。ずっと触っていたいですの」
ミニは性器に触れるぐらい近くで言う。ゆっくりと両手が前後し、唾液が潤滑油になり、快感が増していく。正直すぐに出してしまいたいけど、男としてそれは我慢する。
「どうですの?痛かったら言って下さいの」
「大丈夫、気持ちいいから」
「分かりましたの、もう少し強くしますの」
そしてミニの手が更に僕の性器に密着する。そしてスピードも上がった。
「ううっ!ああっ!」
今までに無い快感に声が出る。ミニはテンポよく手を前後する。もう限界だった。
「マスター、下さいの!」
「ああ、出るっ!!!」
僕の性器から大量の精液が飛び出した。それは正面にいたミニの顔に思いっきりかかる。何度か痙攣して僕の精液は全てミニに絞り取られた。
「ごめん、かけちゃって」
「いえ、これこそミィが求めていたものですの。有り難くいただきますの」
ミニは手の平や髪や顔にかかった精液を大事な物のように集め、自分の口に運んでいく。本当にそれがエネルギーなのかは分からないけど、とてもエロい光景だった。
「口でお掃除してもいいですの?」
「いや、それはやめてくれ」
もし性器に口なんか付けられたら第2ラウンドが始まってしまう。僕はティッシュで自分の性器を拭いて、服を着る。
「えーと、なんかありがとう」
「いえ、こちらこそマスターに感謝ですの。明日は今まで以上に働きますの」
ミニは少女らしい笑顔で答える。僕は少しの罪悪感を感じつつ再び眠るのだった。
翌朝、ミニのボディがあった部屋を想像して壁になろうとしたけど、無理だった。もしかしたら本当に夢だったのかもしれないし、あの時ミニに起こされず、抜いたりしなければもう一度行けたかもしれない。まあ、後悔してもしょうがない。
「よし、それじゃあ始めよう」
僕とナーリとミニはシンエドを脱出する作戦を実行する為に町の北側のメカニマルが来ない場所に来ていた。まだ朝の時間帯だ。
ナーリは光属性で露出度の低い限定SSRの聖戦士衣装を着て貰っている。移動速度は落ちるが、防御力はナーリの装備の中では最も高く、武器が斧からハルバードになる事で槍部分での突きが可能になるからだ。メカニマルのコアの場所はミニに教えてもらっているので、相手の動きを止められればナーリが1撃で仕留められる筈だ。
ミニは作ったメイド衣装のままだけど、隠し苦無の代わりに同じくガルブレのエミの装備の中から煙玉や爆裂玉だけを作って忍ばせて貰っている。これならうまく使えなくても、投げるだけで敵を引き付けたり、逃げる時に役に立つ筈だ。ただ、ミニの動きにあまり期待はしていない。
あとは僕のブレイブウォールも準備している。と言っても、もう戦うのは無理で、敵の攻撃を受ける盾役が辛うじて出来るぐらいだ。
(あとは作戦通りに敵を引き付けられれば)
作戦の要はどれだけ敵と戦わずにメカニマルの縄張りを抜けられるかだった。一応分かる範囲で一番手薄な部分を選んだけど、それでも上手く行く確証は無い。
(いざとなれば僕だけでも町に残って引き付けるしか)
みんなには言ってないが、ナーリやミニに無理をさせるなら僕が壁として町に残れば他の2人だけは逃がせられる可能性は高い。言ったら絶対に反対されるからこれは最終手段だと思っているけど。
「それじゃあ行ってくる」
「勇者チャン、気を付けてねー」
「マスターの無事をお祈りしますの」
僕は2人とブレイブウォールを置いて壁と同化した。同化した壁は元居た場所から東側のビルが集まっている一帯だ。そこで僕はビルの間を巡回する3体のメカニマルを確認し、同化を解く。
「こっちだ!!」
僕はビルの5階ぐらいに立ち、階下の道路に向かって叫んだ。下にいたトラ型、ライオン型、オオカミ型のメカニマルが僕に気付く。僕はそのまま手に持った剣でビルの床や柱を叩いてメカニマルを威嚇した。メカニマルはジャンプしてこちらに近付こうとしている。
(いい感じだ)
僕は急いで建物の奥に引っ込み、そこで再び壁に同化した。これでしばらくメカニマルは僕を探し回る筈だ。僕は同様の事を3箇所で行い、巡回しているメカニマルをその場に留める事をした。これでナーリ達が居る場所に巡回しているメカニマルが来るのに時間が稼げるという作戦だ。
「ただいま」
「うまく行った?」
「うん、3箇所とも成功した。行こう!」
僕はナーリ達の居た場所に戻り、今度はブレイブウォールと同化する。僕の上にミニを乗せ、ナーリは僕と並走する形で建物の間を進んで行く。
「マスター来ますの。トカゲ型が3体ですの」
予定通りこの付近を縄張りとしているメカニマル3体がこちらに気付いてやってくる。ミニには僕が創った双眼鏡を渡して敵の動きを報告して貰っていた。アンドロイドだから双眼鏡と同等の機能ぐらい付いてそうだけど、今のボディだと必要だそうだ。まあ、それならしょうがない。
「よし、僕が盾になるから準備して」
「分かった!」
「了解ですの」
僕がトカゲ型の先頭に近付き、2人はそれぞれ準備する。
「ミニ!」
「はいですの!」
ある程度接近してまずはミニが敵に向かって煙玉を投げる。目くらまし程度だが、これで相手は音と大まかな影を目安に動くしかない。そして先頭のトカゲ型がブレイブウォールに接近し、その前脚で僕を引っかく。僕は横を向いて壁を盾のように使い、ミニは急いで僕から飛び降りた。
「ナーリ!」
「行っくよーっ!!」
そして僕の後ろに隠れて付いて来ていたナーリが跳躍する。流石に攻撃をした直後のトカゲ型は動けない。ナーリは必殺技では無く、聖戦士装備の特殊技であるジャンプして上からハルバードの槍で貫く技でトカゲ型を攻撃した。攻撃は命中し、トカゲ型は動かなくなる。
「成功だ、次に移ろう!」
コアの位置はミニに聞いた通りで、うまく1撃で破壊出来た。僕は一旦建物の方へと移動する。ミニとナーリは僕の背後に付いて同様に移動する。
「ミニ、もう一発お願い」
「はいですの」
煙幕が晴れてきたので、ミニに追加でもう一発煙玉を投げてもらう。ここで重要なのはこちらの行動を敵に気付かれない事だ。建物に接近した僕達はそこでミニとナーリに建物の中に隠れてもらう。
2体目、3体目とトカゲ型を倒す事も考えたが、ミニが言うにはエリア全てのメカニマルを破壊するとメカニマルが集中してフォローに来ると聞いて、倒すのは1体だけにしたのだ。
僕は2人を置いて2体のトカゲ型の攻撃を受けつつ建物から離れていく。このまま2体が付いて来てくれれば作戦成功だ。やがて煙幕が晴れていく。
(頼む、気付かれないでくれ……)
僕は祈りつつ敵の攻撃を受け続ける。トカゲ型2体は移動する僕にそのまま付いて来てくれていた。あとはもう少し距離を離せればいい。流石にブレイブウォールも移動しながら攻撃されると脚部にもダメージが増えてくる。もうそろそろ限界だろう。
(今までありがとう。さよなら、ブレイブウォール初号機改……)
僕はブレイブウォールの脚部に最後の命令を送り、その上部の壁から分離した。一旦近くの壁になってブレイブウォールがトカゲ型に攻撃されながら自動で離れていくのを見送る。そして2人が隠れている建物の壁になり、人型に戻った。
「うまく行った、急ごう!」
「分かった」
「了解ですの」
僕はミニから荷物を受け取り、ナーリを先頭に走り出す。ルート的に他のメカニマルはいない筈で、町の外れに当たる林まで入れれば作戦完了だ。僕達は無言で背を低くして走り続けた。
「着いたーー!!」
「作戦成功ですの」
「うまく行って良かった……」
僕達は林の中を数分移動してようやく立ち止まる。ここならメカニマルのエリア外だし、町側からも見えない位置だ。僕はホッとしてしゃがみ込んだ。ブレイブウォールは犠牲になったが、とりあえず3人無事なのは大成功だ。
「このまま北に進めば本当に人が住んでる所に出られるのか?」
「確証はありませんの。ただ、生きている人が居るなら水の流れ的に下流がある北から北東辺りが可能性が高いですの」
今は情報も少ないのでミニの想定を信じるしかない。僕達は周囲を気にしつつ林を北側へと進んで行く。ここにはウサギなどの野生動物もおり、食料も調達出来そうだ。昼を過ぎたら野宿する場所を探すのもいいかもしれない。
「勇者チャン、なんか怪しい気配が」
「見てみますの」
ナーリが何かに気付いて立ち止まり、ミニが双眼鏡で周囲を見回す。僕も周りに集中するが、ナーリのように異変は察知出来ていない。
(この辺は壁も無いし、壁化の能力を使っての移動も出来ないな)
ブレイブウォールがあれば強行出来たけど、もう無いので今は慎重に進むしかない。
「居ましたの。あれは、見た事の無いメカニマルですの」
ミニに双眼鏡を手渡され、僕もそれでミニが指し示す方を見る。するとそこにはアルマジロのような形のメカニマルが5体ぐらい歩いていた。今の戦力でまともに戦える相手では無い。
「見つかるとマズいな。回避して進まないと」
「でも林の中を音を立てずに移動するのは難しいよねー」
ナーリの言う通りで、林の中は草も多く生えていて、この人数で音を立てずに移動を続けるのはかなり難しい。アルマジロ型の行動範囲や索敵能力が分からない以上、動かないで遠くへ行くのを待つのも選択肢として考えた方がいい。
「昔は町の外にメカニマルはいなかったの?」
「はい、あくまでシンエドの管理防衛用に作られたと聞きましたの。他の人に危害が加えられないよう、シンエドから外に出る事は無かった筈ですの」
小声でミニに確認する。そもそもミニは長年寝ていたのでその情報が更新されていないので、どうしてここにメカニマルがいるのかは分からない。
(動くか、待つか、考えないと。どっちにしろ見つかったら終わりだ)
僕は必死に策を考える。ブレイブウォールを取りに戻って、無理矢理僕の魔力で動かす事は出来るが、ここまで戻ってくる時間と僕の魔力を考えると現実的ではない。
(やっぱり運任せで待つよりは敵の動きと反対側へ行くのがいい)
「行こう、まだ敵には気付かれてないし、敵は東へ動いてるから、西へ向かえば距離は離せる」
「分かった」
「了解ですの」
僕らはなるべく音を立てないように西へと移動を開始する。ミニは正確に東西南北を把握出来るので、こういう時は役に立つなと思った。
「マスター、問題がありますの。この先は崖ですの」
敵に気付かれずに数分進めたが、そこで双眼鏡を覗いていたミニが報告する。
「崖はどんな感じで続いてるか分かる?」
「西側はずっと崖で、南北に伸びていますの。崖に出ると周りから目立ちますので林の中を北東に移動する必要がありますの」
北東という事はまた先ほどのメカニマルに近付く事にはなる。だが、恐らく崖は降りられないだろうし、近付く事自体も危険な気がする。南はシンエドに戻る事になるし、行き先は限られている。
「行こう、勇者チャン。敵の接近に注意しながら進めば大丈夫だよー」
「そうだな、行くしかないか」
僕達は東側に注意を払いつつ北東に進路を変えて進んで行った。
「もうすぐ林を抜けられますの。先にメカニマルは見当たりませんの」
しばらく進み、ようやく林が開ける場所まで近付いた。まだ敵に見つかった気配は無い。
「抜けた!あとは出来るだけ林から離れよう」
「うんっ!」
林を抜けると草原が広がっており、その先には山が見えた。ある程度山まで近付き、そこから東へ向かうのがいいだろう。僕達は林から離れるように進んで行く。
『ザザザッ』
と、周囲から物音がし、さすがに僕でもそれには気付く。
「勇者チャンっ!」
「分かってる」
僕達は立ち止まり身構える。すると、周囲の地面が隆起し、そこから3体のアルマジロ型のメカニマルが現れた。距離は近く、完全に囲まれている。
(罠か?それとも巣に踏み込んだのか)
罠かは分からないけど、マズいのには変わらない。でも、こういった状況になったらどうするかは話し合っていた。
「ミニ、煙玉を。あとは全速力で逃げるぞ!」
「りょーかいっ!」
「はいですの!」
ミニがメイド服から玉を取り出し、2体のアルマジロ型の中心辺りに投げ付ける。が、弾は煙を出さず爆発した。煙玉ではなく、爆裂玉の方を投げたのだ。2匹のアルマジロ型は驚いたものの、ダメージはさほどなく健在だ。
「ごめんなさいの。間違えましたの!」
「謝るのは後で、1体がこっちに来る、僕の背後に!」
僕は近寄ってくるアルマジロ型の正面に壁を創って攻撃を防ぐ。前のように2人を囲うような壁を創る魔力は残っていない。
「勇者チャン!あたしが敵を引き付けるからその間に2人で逃げて!」
ナーリが近付いて来る2体のアルマジロ型の方を向いて叫ぶ。
「駄目だ、危険過ぎる」
「でも、このままじゃ全滅だよ。ここで勇者チャンが倒れたらみんなに顔向け出来ないよ!」
ナーリの気持ちは分るが、そもそも3体をナーリが引き付け続けるのはどう考えても無理だ。
(1人を囮に残すのは絶対に死亡フラグだ。でも、僕の魔力も残り少ないし、時間が経てば他の敵も来る。何か策を考えないと)
そう話してる間にも1体のアルマジロ型がナーリに襲い掛かってそれをナーリはギリギリ受け止めていた。ミニももう1体の方に煙玉を投げたが、既に相手はこちらの位置を把握して近付いて来る。壁を殴っていたもう1体も攻撃するのを止めて移動を開始していた。
(アルマジロ、固い甲羅……。そうか、あれが出来るかもしれない!)
僕は作った壁の大きさを大きくし、地面との角度を30度ぐらいの斜めにする。
「みんな、急いで壁の下に!」
「分かった!」
「はいの!」
僕達は滑り込むように壁のわずかな隙間に入り込む。
「ミニは煙玉を、ナーリは僕が誘い込むから壁の上を敵が通ったら下からコアを狙って」
「分かったけど勇者チャンが危ないよ」
「大丈夫、すぐに壁になるから」
「分かった、気を付けてね」
心配顔のナーリを残し、僕は煙幕の中、斜めになった壁の上に立つ。正直怖いけど、ミニを囮にするなら僕がやった方がいい。
(来た!)
煙幕の中で僕を見つけたアルマジロ型の1体が斜めの壁を登ってくる。僕は恐い気持ちを我慢しギリギリまで引き付けて壁から飛び降りる。僕を追ってきたアルマジロ型も僕を追って壁の端からジャンプする。アルマジロ型は僕にぶつかったけど、僕は急いで壁になって致命打は喰らわずに済んだ。
「そこだーっ!!」
ナーリが叫び壁の下から槍を突き刺す。僕を追ってきたアルマジロ型は動かなくなった。作戦成功だ。
「やったよ勇者チャン!下からコアが突けたよ!」
「うまく行って良かった」
僕は敵に体当たりされて身体が痛いけど、それを我慢して壁の中で微笑む。戦車が出てくるアニメで戦車の装甲の薄い底面を狙うのを思い出してやってみたけど、何とかなるなと思った。
「この調子で繰り返せば……」
「マスター、残念ながら今すぐここを抜けないとですの。敵が地面の下からこちらに近付いて来てますの」
「そんな……」
ミニに言われてみると、確かに地面の下から振動を感じる。敵もただこちらの行動を漠然と見てるわけでは無いのだ。
「敵も2体に減ったし、地面から出てくる前に出来るだけ距離を離そう。もしかしたら敵の縄張りから抜けられるかもしれない」
「分かった!」
「はいの!」
僕達は急いで壁の下から出て走り出す。正直次の案を考えてる間に攻撃されるので、逃げながら何か考えるしかない。
(山まで平原で隠れるような場所が無い。かといって林に戻っても他のメカニマルと出会う確率が上がるだけだ)
地上に出たアルマジロ型の残り2体はこちらが逃げたのに気付いて追ってきている。今のところ縄張りを抜けたからと止まる様子は見えない。
「勇者チャン、1体ずつならコアを破壊出来るかもしれないよ」
「アルマジロ型は他のメカニマルより鱗の装甲が厚そうだから上から攻撃するのは危険だ。戦うのは避けた方がいい」
「ミィもマスターの意見に賛成ですの。せめて落とし穴とかで腹部が攻撃出来るようにしないとですの」
ミスナがいれば落とし穴などの罠が設置出来たけど、今の僕達ではすぐに作るのは難しい。僕の魔力がもっとあれば何か仕掛けが作れるかもしれないけど、残っている魔力で何が出来るかは分からない。
「でも、もうすぐ追い付いちゃうよー」
「ここは一旦僕が足止めする」
僕は立ち止まり振り返る。横長に壁を創れば少しは時間稼ぎが出来る筈だ。僕は手を前に突き出し壁をイメージする。
「うっ……」
が、集中しようとした時、先ほどの打撲の痛みを実感してしまい、集中が切れて壁が作れない。
「勇者チャンっ!!」
僕に襲い掛かる1体のアルマジロ型にナーリがジャンプして上からハルバードの槍部分を突き刺す。
『キーーーンッ!』
甲高い金属音が響き、ナーリの攻撃は弾かれ、ナーリはバランスを崩して地面に膝を付く。
「ナーリさんっ!」
ミニが叫び、ナーリにもう1体のアルマジロ型が攻撃しようとしてるのに気付いた。だけど、僕はまだ壁を集中してイメージ出来ない。そしてナーリはアルマジロ型の爪での攻撃をまともに喰らい、宙に浮いた。
「ナーリっ!」
僕は急いで落下したナーリの方に駆け寄る。
「勇者チャン、逃げて……。あたしはここで敵を引き留めるから……」
ナーリの鎧は爪で派手に切り裂かれ、腹から血が零れ落ちてるのが分かる。
「そんな事出来るわけ無いだろ。
ミニ、投げられる物は全て後方に投げて走るぞ」
「はいのっ!!」
僕はナーリを背負い、ミニと一緒に敵に背を向けて走り出す。思ったよりナーリは軽いけど、それでも人を背負って走るのは大変だった。背後に爆発音とかが聞こえるけど、それでも敵が迫ってきているのが分かる。そして僕の背中にはナーリの血が染み出して来ているのを実感した。
(クソっ、僕が失敗したせいで!)
僕の中にやり場のない怒りが生まれる。このままだと3人とも死ぬだろう。でも、もうどうしようもない。僕の横で必死に走るミニもいるけど、ミニに何かしてもらう案も無い。
「マスター、もう無理ですの……」
「分かった、ミニはナーリを背負って逃げて」
「そんな、駄目だよ……」
ナーリは消えそうな声で言う。僕はナーリをミニに渡し、近寄るアルマジロ型に剣を向ける。僕が少しでも耐えられれば2人は生き残る可能性はわずかにある。
(こんな事なら剣の練習をしておけばよかった……)
結局自分の能力を過信して己を鍛えなかった事を後悔する。ぐるぐると色んな事が頭によぎるが、今は少しでも目の前の敵を引き付けるだけだ。
「来いっ!」
威勢だけでもと僕は叫び、アルマジロ型の1体が僕に飛び掛かった。僕は避けようとするが、どう見ても間に合わない。
(ここまでか……)
そんな僕の目の前でアルマジロ型は前後に真っ二つに分かれた。
「え!?」
僕は何が起こったか分からない。
「大丈夫でござるか?」
そしていつの間にか僕の斜め前には和装の袴のような服を着た長い黒髪を縛った綺麗な女性が立っていた。手には長い日本刀のような武器を持っている。
「これはあなたが?」
「もう一匹いる。動かないで」
女性は僕の正面に移動し、迫ってくるアルマジロ型と対峙する。
「はっ!」
そして女性がスローモーションのように動いた。飛んでくるアルマジロ型を真正面から刀で女性は一閃する。すると分厚い鱗であるアルマジロ型は今度は縦に真っ二つに分かれていた。
(凄い。生身でメカニマルを2体も……)
僕は女性の動きに見入ってしまった。女性は長い刀を腰の鞘に納めるとこちらに戻ってきた。
「危ないところでござったな。しかしなぜこんな辺鄙なところに?」
「えーと、その」
僕はなんて言おうか頭の中で考える。
「マスター、それよりナーリさんを!」
ミニに言われて僕は戻って来た2人の事を思い出す。布の上にナーリを寝かせ、鎧を脱がせ、傷口に持っていた回復のポーションを振りかける。しかし、ナーリの傷は深く、それだけでは傷口が少し小さくなるだけで、ナーリは唸り苦しむままだ。
「傷が深いでござるな。このままでは危ないでしょう」
「ミィも傷の手当は包帯を巻くぐらいしか出来ませんの」
「初めて会ってすぐにで悪いのですが、この辺にナーリを治せる人はいないでしょうか?」
「うーむ、間に合うかは微妙だが、一応心当たりはあるでござる」
「お礼は後でしますから、連れてって下さい」
「分かったでござる。
そうそう、拙者はカスミと申します」
「僕はリュートです。で、こっちがミニで、傷を負っているのがナーリです」
簡単に名前だけの自己紹介をし、走るカスミの後を僕はナーリを背負って必死について行った。背中のナーリの息がどんどん苦しそうになるのが分かり僕はどんどん焦っていく。
カスミは山の横にある森に入り、その中を更に進んで行った。まだ昼間なのに森は深く、周囲は暗い。もしカスミが悪意のある人物だったら僕達は簡単に騙されたり殺されたりするだろう。でも、今は信じるほかない。
「ここでござる。まだおればいいが……」
森が開けるとそこには小さな集落があった。建っているのは木造のわらぶき屋根のような家で、僕の昔話の日本の村のイメージと一致していた。
「ユキ!いるか!!」
「その声は、カスミ?」
カスミが叫ぶと1軒の家から濃い緑色の髪の毛の派手な服を着た美女が現れた。日本家屋っぽい家とのアンマッチ感が凄いと僕は思ってしまう。
「よかった、機獣に襲われた者が居てな。見てやってくれないか」
「怪我人ね。いいわ、入って」
僕達はカスミとユキと呼ばれた女性に促され、その家に入る。ナーリを板の間に寝かせると、ユキはナーリを全裸にし、その傷を確認する。
「うちが居る時で良かったわ。毒が回ってきてる。でも、まだ大丈夫よ」
ユキは何を思ったか、薬ではなく小さなギターのような楽器を取り出す。
「あの、何を?」
「心配なさるな。黙って見ておれ」
カスミに言われ、僕はとりあえずユキに任せる。
『ラ~ラ、ララ~~。ラララ~~~~』
ユキは楽器を弾きながら美しい声で唄った。その声は僕の心を温かくし、とても気分が良くなってくる。ナーリの身体が光り出し、傷口が小さくなっていった。苦しそうに呻いていたナーリも顔色が良くなり、静かに寝息を立て始めた。
「自己紹介がまだでしたね。うちはユキ。旅の吟遊詩人であり、マジックソングの使い手よ」
「こいつの回復魔法の効果は信用していい」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は深々と頭を下げる。ナーリが大丈夫そうなのと、ユキが歌で魔法を使える事で、僕はようやくカスミがガルブレの女侍のアスミに、ユキがガルブレのソングマスター(歌で戦う歌手)のユリに似ている事に気が付いた。そして僕はガルブレに似た子を見つけた事でここがまだ異世界であるのではと希望を持つ。
「で、カスミ。どこでこんな可愛い子達を拾ったの?」
「こいつは歌も魔法もいいのだが、性癖だけはちょっと特殊でな。出来れば連れて来たくなかったんだが」
ユキはミニを捕まえるとその光る頭をわしゃわしゃと撫で始めた。口からはよだれが出ている。
(ああ、可愛い女の子好きの女性なのか)
僕としては百合作品でよく見ているので特に引いたりはしない。こういう愛の形もありだと思っている。
「マスター、助けて下さいの」
「あんまり酷かったら助けるけど、今はちょっと我慢してて」
ナーリを助けて貰った礼もあるので、僕はミニにはとりあえず生贄になってもらう事にした。
「それより聞きたい事があるんです。ここはどこですか?地球なんですか?」
「拙者も色々聞きたいのでござった。だが、先に答えよう。
ここは滅びしヤマトの国。今は名も無き東の果てでござる。チキュウという地ではござらんな」
「ヤマト?それはマリナリアの地名でいいんでしょうか?」
僕がその名を出すと2人の顔が変わるのが分かった。
「そうよ、マリナリア、と今は呼ばれてる世界ね。という事はあなた達は大陸から来たのね」
ユキの言い方は気になるが、とりあえずここが地球ではなくマリナリアである事に僕はホッとする。大陸というのが何を指しているかよく分かっていないが、僕が転生したアレサング王国は大陸の中央の国だと聞いていたので僕はそれを伝える事にした。
「はい、アレサング王国に居ました」
そう言った瞬間、僕は寒気を感じた。そしていつの間にか目の前には刀を抜いたカスミが立っていた。
「そうでござったか……。拙者、返答次第ではそなたらを斬らねばならぬ」
カスミに冷たい視線で刀を向けられ、僕は全身の血が引いていくのだった。
0
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