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第2章 巨神を討伐せよ
3.勇者は東の果てで己を鍛える
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僕は見知らぬ集落で女性剣士に刀を向けられ身動き出来なくなっていた。
「あの、どういう事でしょうか?」
僕は刀を構えている剣士カスミに恐る恐る質問する。ナーリはまだ傷を治してもらって寝ているし、ミニがこういう場面で役立つとは思えない。僕は慎重に会話する他無い。
「そなたらが我らに仇なす者だったら斬るという事だ。正直に答えよ。そなたは魔王にくみする者ではないな?」
「はい、むしろ魔王軍と戦っていました」
この質問は各地が魔王に攻められているので、意図もどう回答すればいいかも分かった。
「では、次の質問だ。そなたはアレサング王家の配下の者か?」
このカスミの質問はどういった意図のものなのだろうか。だが、言い淀めば怪しまれるだろう。僕は素直に答える事にした。
「いいえ、違います。ですが、王家の血を引くリンザ姫とは共に魔王軍と戦っていました」
「――なるほど。では最後の質問だ。そなたが信仰する神を教えて欲しい」
(信仰する神?どういう事だ?)
僕はカスミがどうしてこんな質問をしたのか分からない。そもそも、マリナリアで信仰されている神はマリナ神だけだと聞いていた。現実世界の事だとしても、僕は特に信仰している神様や宗教は無い。少し悩んだ末、僕はやっぱり正直に話す事にした。
「僕が信仰している神はいません。
正直に言います。僕はこの世界に来てまだ1ヶ月も経っていないんです。以前は地球の日本というところで生活をしていました。ですが、事故死して、この世界に転生して来たばかりなんです」
「1ヶ月?転生?どういう事でござるか?」
「カスミ、多分この子は嘘は言ってないわ。刀を収めて食事をしてから話を聞きましょう」
「分かった、少し興奮し過ぎたでござるな」
カスミは刀を鞘に収めると、座布団のような敷物の上に胡坐で座る。吟遊詩人であるユキが席を立ち、多分台所と思われる部屋へ移動した。ユキに抱かれていたアンドロイドのミニが逃げるように僕の横にくっついて座る。とりあえず余計な事を言わないように僕達は無言で食事を待った。横で寝ている戦士のナーリが安らかな寝息を立てている事で僕は少し平常心を取り戻した。
「大したものは無いけど、好きなだけ食べてね」
「これはお米ですよね。凄く嬉しいです!」
ユキが持ってきた食事はご飯と焼き魚と山菜を煮つけたものだった。転生してきてからはパンなどの穀物が主食だったので、久しぶりに食べるご飯はとても美味しくありがたかった。カスミもお腹が空いていたのか、出された食事を美味しそうに食べていた。
「あら、ミニちゃんは食べないの?」
「ミニはアンドロイドですから食事は不要ですの」
「ミニは人型機械でここに飛ばされた時に拾ったんです」
「なるほど、太古に機械人形があったとは聞いた事があるが、まだ稼働する物が残っていたのか」
カスミとユキは珍しそうにミニを眺めていた。食事が終わり、先程の緊迫した空気が無くなったので僕は気になっていた事を聞いてみた。
「東の果てと言っていましたけど、ここはマリナリアのどの辺りなんですか?失礼ですが、この集落はあまり人が住んで無いみたいですし」
「地図は無いけれど、キミが居たアレサング王国がある中央大陸がここだとすると、その東の端から海を越えた島の東の果てがここよ。キミが言った通りここはうち以外はご老人が10人ぐらいしか住んでない小さな集落でしかないわ」
「拙者が小さい頃にはもっと多くの人が住む町が近くにあった。が、今は無い。そもそもこの島国でまともに人が住んでいるのは西のサカイの町だけでござる」
アレサング王国にいた時に世界地図を見てなかったので規模が分からないが、とにかく大陸が海を隔てていてそれなりに遠い事は理解出来た。
「大陸に急いで戻りたいんですが、船とか交通手段はどこかにあるのでしょうか?」
「無理だと思うわよ。唯一栄えているサカイの町も今は魔王軍の支配下に入って、船は全部接収されている筈。魔法での移動も制限されて、今この島から出る手段は無いわね」
「リュート殿、そなたはそもそもどうやってあの場所に辿り着いたのでござるか?」
「魔法か何かで飛ばされたんです。一週間ぐらい前に魔王軍のモンスターと戦っていた僕とナーリは、モンスターの能力で廃墟の町に飛ばされていました。そこでこのミニと出会い、何とかそこから抜け出したんです。まあ、町の外にいたメカニマルに襲われて、カスミさんに助けて貰えなければ終わってたんですが」
改めて考えてもミニやカスミに出会わなければ僕もナーリも生きていなかっただろう。
「廃墟の町……。神の箱庭の事か。よくあの地から生きて出られたものだ」
「ミニが廃墟の町、シンエドと機械のモンスター、メカニマルの事を知っていたのが大きいです」
「いえ、悔しいですがミィはマスターのお役にあまり立てていないですの」
「本当に神の箱庭にいた機械人形なのね。こんなにふにふにして柔らかいのに」
ユキが再びミニを抱っこして身体中触っている。まあ、僕もミニが機械である事はたまに忘れるぐらい人間と大差ないと感じていた。
「ナーリちゃんが回復するまでに時間がかかるし、リュート君とミニちゃんとカスミはお風呂に入ってきたらどう?」
「リュート殿、近くに温泉があるでござる。もし宜しければひと風呂行きませんか?」
「混浴で無ければ是非」
ユキとカスミに言われ、僕とカスミは集落の近くにある温泉へと向かった。ミニはそもそもお風呂が必要無いのと、ナーリの事が心配なので家に残ってもらった。ユキに襲われないかは少し心配ではあるけど。僕とカスミは竹藪の中を歩いて行く。
「そういえばちゃんとお礼が言えて無かったので改めて言わせて下さい。助けて下さりありがとうございました。ナーリの件も含めて何か僕達に出来る事があればお礼させて下さい」
「いや、そんな大したことはしてないでござる。それに突然刀を向けた無礼をこちらこそ謝ってなかったでござる。本当に申し訳ない。もし許して下さるのならそれでお互い終わりにして下さらぬか」
確かにカスミに刀を向けられはしたが、それでもこちらの得が大きいのは明らかだ。でもこの話をしてもカスミは折れなそうだし、この件はここまでにしようと思った。
「そういえばカスミさん滅茶苦茶強いですよね。名のある剣士とかじゃないんですか?」
「いえ、拙者は山奥で剣の腕だけを磨いていた愚かなサムライでござるよ。メカニマル、とリュート殿が呼んでいる機獣は動きさえ見切れば拙者のような腕でも倒せるようになるでござる」
謙遜しているが、僕の装備を着たナーリが苦戦したメカニマルを一刀両断出来るのは普通の人間ではない。ここら辺のサムライと呼ばれる人達が強いのか、カスミが特化して強いのかは分からないが。
「この辺りは人がそんなに住んで無いんですよね?なんでカスミさんとユキさんはここに住んでるんですか?」
「拙者は大昔にこの地を守るよう言われ、ほぼ一人で山奥に住んでる変わり者でござる。ユキは元々世界中を旅しておったが、魔王軍が現れ、故郷であるこの地に逃げ延びて来たのでござる」
「そっか、ユキさんは吟遊詩人でしたよね。お二人はもっと人がいる所へ行こうとは思わないんですか?」
僕は踏み込んでいいのか分からないけど、とりあえず質問してみる。
「確かに魔王軍と戦うべきだという気持ちが無いわけでは無い。だが、集落の付近にたまに現れる機獣やモンスターもおり、誰かがこの地を守る必要があるのでござる。
ユキについてはいずれ出ていくと思ったが、まだ残ってる理由を聞いた事は無いでござる」
「そうですか、すみません、こんな事聞いて」
「いや、疑問に思うのは確かでござる。こんな辺境に住むのは変わり者だけでござるからな」
ユキは分からないが、カスミが仲間になってくれれば魔王軍と戦う戦力が増えるのは確かだ。ガルブレの衣装を着て貰えば更に強くなると思うし。が、話を聞く限り誘っても断られそうだと思った。
竹藪の先の山を少し登ったところに温泉はあり、簡易だが男女別の脱衣所の小屋もあって僕は安心した。服を脱いで貸してもらった布を持って1人で温泉に浸かる。
「ふぅ……」
温泉は自然で出来たものを少し加工した感じだが、広々して外の景色も見えて素晴らしかった。こっちに飛ばされてから水浴びや地下のシャワーは使えたけど、こうして広い湯船に浸かるのは久しぶりで、本当に心地よかった。
「リュート殿、湯加減は大丈夫でござるか?」
温泉の横には竹で出来た柵があり、そっちからカスミの声が聞こえたので、柵の向こうが女湯なんだろう。
「丁度いいです。久しぶりに温泉に入れて嬉しいです」
「そうか、それは良かったでござる」
薄い柵越しにカスミが居るのを意識してしまうが、覗こうとか、そういう気持ちにはならなかった。今は一人でゆっくりくつろぎたい。ナーリも怪我が良くなったら連れて来ようと思った。
「リュート殿、本当にもしよければの話なのだが、一つだけ救出のお礼として、して貰いたい事があるのでござるが……」
カスミが歯切れ悪そうに言ってくる。僕としてはお礼をしたいし、仲良くしておきたいので、断る理由は無い。
「僕に出来る事なら何でも言って下さい」
「――そうか、では。
その、リュート殿の裸を見せて貰えないでござるか?」
「え!?」
比較的真面目に見えたカスミからそんな要求をされ、僕は狼狽える。もしかしてむっつりスケベとかなのだろうか。
「すみません、なんでそんな事を?」
「いや、勿論失礼な申し出だとは分かっているでござる。だが、こんな事を頼める機会はもう無いかと思い、申し出てしまったのだ。
拙者、この齢になってもまだ若い男性の裸を見た事が無いのでござる。魔王が現れ、その機会が減り、死ぬまでに一度は見てみたいと思ってな。
と、いや、忘れてくれていいでござる」
声だけだけどカスミが顔を真っ赤にしている様子が想像出来た。カスミは見た目から20代後半ぐらいだろう。そんな女性がこんな事を頼んで来たと思うとカスミが凄い可愛らしく思えてしまう。でも彼女は真剣で僕はどう答えるか悩む。
(裸は三博士にも見られてるし、見せるだけなら別にいいかな)
「いいですよ、見るだけなら」
「本当でござるか?では、お言葉に甘えさせていただくでござる」
柵の向こうから湯船を上がる音が聞こえ、柵を回り込んで岩がある方から全裸のカスミが現れた。こんなに簡単に移動出来るなら若い男女がいたら絶えず問題が起こりそうだと思った。布で胸と股を隠しているけど、大きい岩から降りてくるので乳首や性器が見えそうになり僕は急いで視線を逸らした。
「恥ずかしい頼み事を聞いて下さり本当に感謝でござる」
「いや、別に、これぐらいなら全然」
そう言いながら僕はカスミを直視しては駄目だと、なるべく横を見るように話す。
「リュート殿、拙者の事は気にしなくて大丈夫でござる。リュート殿の裸だけを見ようなどとは思っておらん。拙者の裸でいいなら存分に見て下され」
「いや、そういうわけにも……」
横目で見えるカスミの巨乳に僕は下半身が反応してきてしまう。僕はなるべく早く済ませようと思った。
「あの、どうすればいいですか?立った方がいいとか」
「こんな機会は二度と無いかもしれん。そこの岩に座ってもらってもいいでござるか?」
「分かりました」
僕は温泉の洗い場にある岩に座り、股間を隠していた布を岩に置いて裸体を晒した。カスミの裸とシチュエーションに興奮してしまい、僕の性器は既に張り詰めていた。
「おお、これが噂の男性器でござるか。思ったより大きいのだな。こんなものを付けていては歩くのが大変ではござらぬか?」
「いや、普段はもっとコンパクトになってるんです。今は興奮して勃起しているというか」
これはこれで羞恥プレイだなと思ってしまう。感心して凝視するカスミは油断していて、胸を隠していた布もずれ、綺麗な紫色の乳首も見えてしまっていた。露骨に顔を逸らすのも変なので、僕はなるべくカスミの顔を見てそちらを見ないように頑張る。
(髪を下ろしてると本当に美人だな……)
「リュート殿、触ってみてもいいでござるか?」
「触る?いや、ダメだけど、軽く触れるだけだったらいいです」
「そうでござるか、では遠慮なく」
拒否したいけど、ここまで来たらと身を任せる事にする。
「ほー、まるで骨があるみたいに硬いのでござるな。いやいや、女性との違いがこんなにあるとは思いもよらなかったでござる」
「もうそろそろいいでしょうか」
カスミに性器を優しくなで回され、これ以上はヤバいと思い僕は喋る。
「はい、満足したでござる。お礼と言っては何だが、拙者の身体を触ってもいいでござるよ?」
「いや、それはいいです。これ以上は危険なので戻ってもらっていいですか?」
「危険?リュート殿を襲ったりはしないでござる」
「そういう意味では無いです。いや、そういう意味もありますが。とにかく、戻って下さい!」
カスミは怪訝そうな顔をして男湯を出ていった。僕の頭には綺麗なカスミの裸体が残り、どこかで一発抜かないと危ないなと思うのだった。
「ただいま、って何してんの?」
「マスター、助けて下さいの」
集落にカスミと戻ってくると、家の床には沢山の服が散らばり、ミニが鮮やかなドレスを着て立っていた。
「おかえり。いやー、ミニちゃんが可愛いから色々着せてみたくなっちゃってね」
「これ全部ユキさんの服ですか?」
「うん、うちは服を集めるのが趣味で、旅先で色々買ってたんだけど、自分に合わない服も多くてねえ。ミニちゃんは小っちゃいけどスタイルはいいし、どれも似合うんだわ」
「ミィは着せ替え人形じゃありませんの」
とりあえず実害が無いようなので、まあいいかと思った。
「ナーリの怪我を治して貰ったり、食事を頂いた恩はありますけど、あんまりミニで遊ばないで下さいね」
「はーい、分かりました」
「それで、ナーリの容態の方はどうですか?」
「傷の治りも早いし、随分生命力の高い子だと思うわね。目が覚めれば大分良くなっている筈よ」
「そうですか、良かったです」
ナーリはまだ寝ていて、起きてきそうな気配は無かった。
「誰か―助けてくれー!」
そんな時外から年老いた叫び声が聞こえた。
「何事か?拙者が見てくるでござる」
「僕も行きます。ミニはメイド服に着替えてナーリを守ってて」
「はいですの」
「うちも行くわ」
カスミが刀を持って出て行き、僕は武器を、ユキは楽器を持って家を出る。外には沢山のアンデッドの集団が待ち構えていた。集落の住人と思われる数人の老人達が小屋の前で震えている。
「あら、本当にこんな所に居たのね、勇者ちゃん」
アンデッドの集団の中からすらりと背の高い長い金髪の女性が出てきて僕を見つめる。巨乳の谷間が目立つ胸元の空いた黒いドレスと紅い鋭い瞳が妖しさを強調している。口から見える長い牙と伸びた赤い爪が彼女が人では無い事を示していた。
「あなたは誰ですか?」
「アタシ?アタシは魔王様に仕える4魔将の1人、滅魔将軍のクルニよ。勇者が生きてるって聞いてわざわざ来たんだけど、会えて嬉しいわ」
「リュート殿が勇者?」
「黙っていてすみません。僕は魔王を倒す為に転生して来た勇者なんです」
あえて説明していなかったが、魔王軍が現れた以上勇者と明かした方がいいと僕は思った。
「アタシの目的はその勇者だけよ。この村を破壊されたくなければその身を差し出しなさい。安心して、殺さず魔王様の所に連れてってあげるから」
「本当に僕が行けば他の人には手出ししないんですか?」
「ええ。弱い者いじめは趣味じゃないしね」
悪役のこういうセリフは大体嘘だと分かっている。僕が捕まった後に村を焼かれたりするのがオチだ。だからといってこの人数で戦うのも無理な気がしていた。アンデッド相手に刀を使うカスミは不利だし、歌で戦うユキはサポートメインの筈だ。そして、そもそも二人は魔王軍と戦う理由が無い。
(ナーリとブレイブウォールがあれば何とかなったかもしれないけど、今の僕では無理だ)
「分かりました、僕に戦う意思は無いので捕まえて下さい」
「リュート殿!」
僕は諦めてクルニの方へと歩いて行く。僕が捕まる事でカスミ達が逃げる隙が出来るかもしれないし、寝ているナーリは運が良ければ助かる筈だ。
「止まって下さい、リュート殿。拙者もサムライの端くれ、魔王軍と戦う覚悟はあるでござる」
「ちょっと、カスミ、どうして?」
「その人数で戦うつもり?そういうのを無駄死にって言うのよ。この数のアンデッド相手に村人を守って戦えるとか思ってる?」
「あたしもいるわ」
と、家から鎧を着たナーリとあわあわしているミニが現れた。確かにナーリが加われば戦力は上がるが、ナーリは病み上がりだしアンデッド戦に特に強いわけでもない。
(どうしよう。でも迷ってる場合じゃない)
僕は考え、最善と思われる方法を選択する。
「カスミさん、ユキさん、僕を信じて下さい!」
僕は2人にガルブレの衣装を創造する。メカニマル戦で魔力は大分使ったけど、ユキの歌で傷が癒え、温泉に入った事で2人分を創るぐらいの魔力は回復していた。
カスミにはガルブレのアスミの正月限定SSR衣装である派手な赤色を基調とした着物衣装を創造した。胸元は大きく開けていてさらしを巻いた胸がほぼ見えている露出度の高い衣装だ。いきなりこんな衣装はと思ったけど、アンデッド相手には炎属性の技が使えるこの衣装が一番だと選んだ。
ユキに創ったのはガルブレのユリのクリスマス限定SSR衣装で、白を基調としたひらひらしたドレスは胸や足の露出度が高い。スリムな体系のユキのボディラインが良く見えて美しい。こっちもいきなり露出度が高いのはどうかと思ったけど、光属性の衣装で、アンデッドに効果がある技が使えるので選んだのだ。
「リュート殿、これはいったい?」
「僕の勇者の力で強力な装備を創れるんです。見た目は露出度が高いですが、魔法で防御力は上がってるので安心して下さい。カスミさんの刀は炎が付与されるのでアンデッドに効果があります。ユキさんはアンデッドの動きを抑えるホーリーソングが歌える筈です」
「なるほどね、確かに身体から力が漲る感じがするわ。分かったわ、今はリュート君を信じる」
「拙者も同じく信じるでござる」
「ほー、それが勇者の力ねえ。アタシは手を出さないからお手並み拝見させてもらうわ」
クルニは背中から蝙蝠のような羽根を生やして空に浮かび上がる。そしてアンデッド達が動き始めた。
「ナーリはカスミさんと協力してアンデッドの相手を。ユキさんは2人の援護をお願いします。ミニは僕と一緒に住民の守りを。今ハンマーを創るから」
「分かったー」「了解した」「分かったわ」「はいですの」
僕の指示で4人がそれぞれ動き出す。僕はミニにガルブレのドワーフ娘であるビニラの装備の巨大なハンマーを創って渡す。見た目はごつくて大きいけど、重さは魔法の力でさほど感じなくなり、ミニが振り回すだけでも小型のアンデッド相手なら十分な凶器となるだろう。
「はっ!」
カスミは着物衣装をはためかせてスケルトンの集団に近付き、刀を一閃する。すると振るったあとに炎の波が出来て、スケルトン達は一気に消滅していった。ナーリも聖戦士衣装でハルバードを振るい、近付くゾンビ達を薙ぎ倒していく。ユキは綺麗な声でホーリーソングを唄い、ゾンビやスケルトンなどの下級のアンデッド達の動きは一気に遅くなる。そのおかげで僕とミニは近寄る敵を何とか倒す事が出来た。
「なるほどねえ、普通の兵士達とは違うわね。でも、これだとどうかしら?」
クルニが指を鳴らすとアンデッド達の数が増えた。その中でも2メートルはある首の無い騎士のデュラハン数体と、その奥にいる巨大な骨のドラゴンが強敵である事が分かった。
「ナーリ殿、拙者が骨の龍の相手をするでござる。首無し騎士は任せても宜しいか?」
「勿論!」
「雑魚はうちに任せて」
ユキは楽器から衝撃波を放ってマミーなどの中型のアンデッドを攻撃して牽制する。ナーリはハルバードでデュラハンの攻撃を受け流しつつ相手をしている。そしてカスミはボーンドラゴンの攻撃を躱して刀で打ち込み続けた。
(よかった、何とかなりそうだ)
僕は近寄るアンデッドを倒しつつ、こちらが優勢な事が確認出来て少し安心していた。
「これでどうだ!」
ボーンドラゴンの毒のブレスを避けたカスミが跳躍し、その頭部を一閃してついにドラゴンは崩れ落ちた。装備の力もあるけど、やっぱりカスミは凄いと実感する。デュラハンも残りが少なくなり、アンデッドの軍勢は残りわずかとなっていた。
「なるほど、この中ではアンタが一番強いみたいね。今日は顔見せだけにしようと思ったけど、やっちゃおうかしら」
空に浮かぶクルニが邪悪な笑みを浮かべる。そして着ていたドレスが破裂して全裸になった。豊満な胸も大きなお尻も性器も丸見えだ。でも透き通るように真っ白な肌は芸術とさえ感じてしまう。
「勇者はロリコンの気があるって聞いたからこっちの姿の方がいいかしら」
クルニの身体が縮んでいって少女のような姿になる。悔しいけどクルニの言う通り大人な姿より少女の姿の方が僕の好みではあった。こぼれるような巨乳も控えめな美乳になっている。
「魔王様に頂いた力と勇者の力、どっちが優れているか見せてあげるわ」
そしてクルニは自分の手を手刀のような形にして長い爪を自らの左胸に突き刺した。そこから真っ赤な鮮血が噴き出す。が、血はクルニの身体に纏わりついていき、真紅の鎧へと変化した。鎧は禍々しくも美しい。手には同じく固まった血で出来た巨大な槍が握られている。僕の創るガルブレの衣装と同じようにゲームやアニメに出てくる敵役の衣装のように感じた。
「さあ、殺し合いを始めましょう」
クルニは急降下してカスミを槍で貫こうとする。カスミはそれをギリギリ避けて、振り向きざまに刀で斬ろうとする。が、クルニは消えるように後退していてそれを躱した。
「速い!?」
「スピード勝負でアタシに勝てると思ってる?」
クルニは左手を前に突き出すとそこから真っ赤な蝙蝠が大量に放たれた。カスミはそれを避けるのと刀で斬って何とか防ぐ。が、完全には防げず身体の一部に切り傷が出来ていた。
「美味しそうな血。すぐに殺しちゃうのは勿体ないわね」
「まだだ!」
カスミは目にも止まらぬ速さでクルニに迫り刀を斜めに振り下ろす。が、その刀は槍で受け止められていた。
(僕の創った武器が止められた?アスミの刀はガルブレでは一番切れ味が高い筈なのに)
「確かに凄い威力ね。アタシじゃなければ倒せたかもね」
クルニは余裕のようで優雅に一回転し、蹴りをカスミに食らわせた。カスミは避けきれず後方へ吹き飛ぶ。ナーリはまだデュラハンと戦っているし、ユキも残りのアンデッドの相手で動けない。ミニもハンマーを振り回すので精一杯だ。
(今までの敵とは何かが違う。このままだとマズイ。僕が何とかしないと)
相手は多分吸血鬼だ。この世界の吸血鬼がどうかは知らないけど、弱点は多い筈。といっても日が射している夕方のこの時間に自由に動いてる時点で普通のアンデッドではない。
(ニンニク?十字架?木の杭?うーん、どれも多分駄目だ)
考えている間にもクルニは槍で攻撃を続け、カスミは追い詰められていく。
(あとはゲームで聖水を使うとかあったな。聖水……そうだ!)
僕は最低なアイデアを思い付いてしまう。だが、今はその可能性にかけるしかない。
「ミニ、この瓶の中に例の排水をしてくれないか」
「あの排水ですの?分かりましたの」
以前マレーヤの薬品を入れる為に創った瓶をミニに手渡すと、ミニはそれをメイド服のスカートの中に入れ、『チョロチョロ』と瓶に液体が入る音がする。背後で怯えていた老人達は僕達の行動を不審な目で見ているが、今は我慢するしかない。
「はい、出したてほかほかですの」
「ありがとう」
色々表現が危ないが、とにかく今は一時を争う。僕はミニが用を足してる間に小型の筒のようなものを創っていた。これはブレイブウォールに追加装備させた液体発射機能部分だ。瓶を筒に装着し、僕は狙いをクルニに定める。外したら終わりだ。
「そこだ!」
クルニがカスミの攻撃を避けた瞬間を狙い、僕は筒から液体を発射した。カスミとの戦いを楽しんでいたクルニは僕の動きには気付いておらず、その液体を顔面にもろに浴びる。
「なんだ、これは。うっ……臭い……」
「それはミニの特殊な排水だよ。モンスターを追い払ったり、洞窟で迷った時に迷子にならないよう特殊な香料を付加してるそうだ。洗っても簡単には落ちないぞ」
「その通りですの。モンスターが苦手な臭いですの」
地下で脱出計画を準備していた時にミニが排水に特殊な臭いを付ける事が出来ると聞いて試しに出して貰った事があった。その時はあまりの臭さに後悔したが。流石に吸血鬼だろうと、この臭いは気になるのではないだろうか。
「駄目だ、臭くてたまらん!まあいい、今日は遊びで来ただけだしな。勇者よ、覚えておれ、次に会った時に後悔する事になるぞ!」
クルニは空に浮かび、文句を言ってから飛び去っていった。残りのアンデッドはすぐに片付き、僕はようやくホッとした。
「リュート殿、助かったでござる。しかし、凄い策略でござったな」
「いや、こちらこそ助かりました。僕が原因で襲われてるのに怪我をさせてしまってすみません」
「怪我はうちが治せるから大丈夫よ。でも、この装備凄いわね。キミは本当に勇者なのね」
「まあ、僕自身はこんな事ぐらいしか出来ませんけど」
「勇者様、ありがとうございます」
老人達も寄ってきて次々と感謝の言葉をくれた。追い払い方は最低だったけど、とりあえず勇者としては認めて貰えたようだった。そのままの流れで集落の人達がご馳走を作ってくれて、簡単な宴が始まった。集落の人達はみな結構な齢なので、酒盛りで残っているのは僕達だけになっていた。
「ナーリも病み上がりなのにありがとう」
「ううん、怪我して迷惑かけてたんだし、戦うのは当たり前だよー」
「ナーリ殿、一つ聞きたい事があるでござる。そなた、カーレ殿の縁者だったりせぬか?」
「え?おししょー様の事知ってるの?」
ナーリと話しているとカスミが話に入ってきた。カーレという人がナーリの師匠なのだろうか。
「やはり、カーレ殿に師事されてござったか。いや、戦い方を見て、カーレ殿の太刀筋と似てると思ってな」
「うん、あたしはおししょー様に武器の使い方を習ったからねー。カスミさんはどこかでおししょー様に会った事があるの?」
「拙者は昔、武者修行に諸国を渡り歩いていた時期があってな、その時カーレ殿の武勇を聞いて手合わせして頂いたのだ。その時は拙者の勝ちとはなったが、あえて武器は剣のみの試合だったので、拙者はカーレ殿の方が腕が上だと思ったでござる」
「確かにおししょー様は色んな武器を使い分けるのが強みだからねー」
こんな所でナーリとカスミに関連があって僕は少し驚いた。だが、こういう縁こそ重要な気もしていた。
「へー、ナーリちゃんはカスミと共通の知り合いが居たんだ。折角おめでたいんだし、今日は歌っちゃおうかな」
「ああ、祝いの席だ、存分に歌ってくれ」
ユキは楽器を取って来て、椅子に腰かけ歌い出した。
『夜空の月に照らされて私はあの人を思い出す~』
ユキはバラードのようなゆったりした歌を歌う。歌詞は旅立った想い人を家で待つ女性の歌のようだ。僕はお酒が回ってきたのもあり、気持ちが乗ってきて、ライブで使うペンライトを創り出してそれを左右に振っていた。
「勇者チャン、それなーに?」
「ああ、これは僕が居た世界で歌手の人を応援するのに振るライトだよ。曲のイメージに合わせて色を変えたりするんだ」
僕はペンライトのボタンを押して色を変えて見せた。
オタク生活を始める前はライブに行った事は無かったけど、オタク友達の純也が某人気アイドルゲームのオタクだったので、誘われてライブビューイングに行き、その楽しさを教えてもらったのだ。コールもオタ芸も分からないし、簡単な掛け声やPPPHぐらいしか知らなかったけど、それでも十分楽しめた。それにガルブレにもゲームのイベントの歌があって、声優さんを呼んでのリアルイベントにライブコーナーがあったりして、その為に色が変わるペンライトを買って使っていたのだ。
「ねえ、それ面白そー。あたしにも貸してー」
「創るのに魔力は全然使わないからもう一個作るよ。ほら、こういう明るい曲の時は黄色とかに変えるんだ」
「ありがとー」
「ミィも合わせるですの」
僕とナーリはライトの色を変えて左右に振り、ミニも髪の色をそれに合わせて頭を左右に振った。ユキも僕らのライトが気に入ったのか何曲も歌ってくれた。
(そういえば奨められたアイドルゲームはインストールはしたけど音ゲーが苦手だから碌にプレイしなったなあ。でも、属性で色を変えるってガルブレにも関連するし、なんか使えそうだな)
僕はライトを振りながら頭の中で何かが繋がりそうな気がした。
『パチパチパチ』
ユキの歌は大きな拍手で幕を閉じた。ただでいいものが見れて得した気分だった。
「凄く良かったです、ありがとうございます」
「こちらこそ久しぶりに観客がいる中で歌えてよかったわ」
「リュート殿、ちょっと話したい事があるでござる」
「何でしょうか?」
宴会もこれで終わりかと思ったところでカスミが切り出してきた。
「前に大陸に行く手段が無いと話しましたな。実を言うと大陸へ移動出来るもの自体はあるのでござる」
「ちょっとカスミ、まさかあの話をするつもり?」
今まで笑顔だったユキの表情が険しいものへと一転する。
「拙者はリュート殿と話し、その戦いぶりと勇者としての能力を見て話しても大丈夫と感じたのでござる。そもそも動くか分からぬ代物、見てもらうぐらいは問題無かろう」
「分かったわ。あれを守っていたのはカスミだし、好きにすればいいわ」
「かたじけない。この集落の北にある祠にトリフネと呼ばれる太古の機械が眠っているのでござる。大昔はそれで空を移動したと言われているが、燃料の関係か、今はただの大きな置物として残っているのでござる」
トリフネという響きを考えると、飛行艇のようなものなのだろうか。
「ミニ、何か記録とかない?」
「空を飛ぶ機械はいくつかシンエドにも存在していましたの。実物を見れば何か分かるかもしれませんの」
「カスミさん、その祠まで連れてってくれませんか?」
「お安い御用でござる。明日になったら案内致す」
「ありがとうございます」
本当に空を飛ぶ機械が眠っていて、それが動かせるならみんなの元に帰れる可能性が高い。あとはシンエドの総司令部みたいに壊れて無い事をを祈るばかりだ。
僕達は集落の空いてる小屋を貸してもらい、そこで今夜は眠る事になった。一応ナーリとミニとは別室になったので、久しぶりに一人で眠れる事になる。お酒を飲んだのと久しぶりの安心感で僕はすぐに眠りに落ちた。
(って、また壁になってる。ここはユキさんの家の壁か)
僕はまた無意識に壁になっていた。そこには並んだ布団で眠るカスミとユキの姿があった。2人の声が聞こえ、まだ眠ってはいない事が分かる。
「ねえ、どうしてあの子達の味方をしたの?確かに魔王軍とは戦ってたけどアレサング王国から来たのよ」
「拙者、これでも人を見る目はあるつもりでござる。彼らに悪意は感じられなかったでござる」
とりあえずカスミには信用して貰えているようだ。だけどカスミに裸を見られ、カスミの裸も見てしまったので、その話をユキにされたら更に幻滅されそうだと思った。
「2人はそうかもしれない。でも、もしあの子が大陸に戻ったらうちらの事がアレサング王家に伝わるかもしれないのよ」
「そうかもしれん。だが、このままでは世界全てが終わるかもしれない。だから拙者はリュート殿に賭けてもいいかと思ったのでござる」
何となく感じてたけど、ここにあった国とアレサング国とで過去に何かがあったのだろう。でもこんな遠方の国に対してそんな酷い事をしたのだろうか。
「それにトリフネの事は絶対に部外秘と伝えられて来たんでしょ。まさか、あの子があの伝承の救世主だと思ってるの?」
「『やがて光の少女を携えた救世主が現れ、ヤマトの民を導くだろう』。リュート殿が勇者だと聞いた時、伝承の一文を思い出したのは確かでござる。だが、拙者はそれよりも魔王軍と戦い、その強さを感じた故にリュート殿の力になりたいと思ったのだ」
「勇者の味方をしたのだからまた魔王軍が攻めて来る可能性は高いわ。ねえ、やっぱり北に逃げない?カスミと2人なら何とかなるわ」
「その話は以前にも断ったではないか。確かに北にはひっそり暮らしているヤマトの生き残りの民がいると聞いている。だが、拙者はこの地を離れるわけにはいかないのでござる」
カスミはどうしてそこまでこんな辺境に拘るのだろうか。僕は生きる為に逃げる事は悪い事だとは思わない。もちろんカスミとユキが仲間になってくれればとは思っていたけど。
「ほんと頑固なのは昔からよね。でも、うちはそんなカスミが好きなのよ」
「本当にすまない」
2人の関係は分からないけど、百合とは少し違った何かしらの強い結び付きを感じる。2人の会話が途切れたので僕は再び部屋で眠る自分に戻るのだった。
「この先でござる」
翌日、僕とミニはカスミの案内で集落の北の山を登っていた。ナーリは怪我の療養と再び魔王軍が来る可能性に備えて集落に残ってもらっている。
「これが祠?」
「見た目はただの洞窟の入り口にしか見えないようになってるでござる」
山の中腹に人がやっと通れるぐらいの洞窟の入り口があり、カスミがたいまつに火を点けて先頭で入っていく。僕も携帯ライトをつけて続き、その後ろをミニが付いてきた。
「え?」
最初は岩肌の洞窟だったのが途中からシンエドの地下と同じような金属の壁に変わって僕は驚く。
「本来は明りが点くそうだが、今は点かないのでござる」
「確かにシンエドと同じ技術の地下ですの。電源は落ちてるようですの」
そのまま通路を階段を上り下りして進むと広い空間に出た。
「あれがトリフネでござる」
「大きい……」
手に持ったライトを広間の中央に当てるとそこには30メートルぐらいありそうな大作ファンタジーゲームで見る飛行艇のような物が置いてあった。上部はラグビーボールみたいな形の気球と思われる形状で、その下に箱型の船室が付いているようだ。ただ、全体が金属で出来ていて、どういう動力で動くものなのかは分からない。
「ミニ、あれが何か分かる?」
「はい、シンエドにあった遊覧用のエアマシンと同型と思われますの。内部が壊れていなければ動く筈ですの」
「昔色々調べてみた者がいたが、入り口さえ分からなかったそうでござる」
「こっちですの」
今度はミニに僕達は付いて行く事になる。下の船室部分と思われる場所には扉のようなものは見当たらず、どこから入ればいいか見当がつかない。ミニは船室の何も無い壁に近付き、手を当てる。
「やっぱり電源は止まっているようですの。手動で開けますの」
ミニがトリフネの壁に手を当てると『コンッコンッ』と二回軽く叩く。すると壁がスライドし、赤いレバーが現れた。下に引く形状のようだ。
「今のミィのボディの腕力だと難しいですの。マスター、お願いしますの」
「分かった」
僕は力を込めてレバーを引くが、びくともしない。自分の力の無さが少し恥ずかしかった。
「リュート殿、手を貸すでござる」
横にカスミが並んで一緒に引っ張ると、『ギギギッ』と鈍い音がしてようやくレバーが下に下がった。すると横の壁部分が上に開き、トリフネの内部への入り口が現れた。けれど、まだ中は真っ暗だ。
「こっちですの」
ミニは目から光を出し、その中へと入っていく。僕とカスミもその後に続いた。中は綺麗な状態で、雰囲気的に新幹線の中に入ったような感覚だった。ミニはトリフネの船首と思われる方向へと進んで行く。
「中はこのようになっていたのでござるな」
「見た感じは劣化して無いですね」
「この先がブリッジですの。起動するか試してみますの」
ミニが扉を手動で開くと複数の座席とよく分からない機械が並ぶ広い部屋に出た。前面にはモニターと思われるパネルがあるが、前の総司令部と同じくどこも光っていない。ミニは中央にある座席に座り、その前のパネルやボタンをパチパチと触っていた。
「うーん、動きませんの。壊れて無さそうなので電源が落ちているみたいですの」
「ちょっと見せて」
僕が見て何とかなるとは思わないけど、とりあえずミニが座っている付近を調べてみる。SFアニメの戦艦のブリッジみたいに見えるけど、何のボタンやスイッチなのかは分からない。と、そこに僕は見覚えのある端子を見つけた。
(USB端子?本当にそうなのか?)
僕は試しにUSBケーブルを創り、携帯ライトとトリフネの端子を繋いでみた。トリフネの端子は本当にUSBと同じ形状で、ケーブルがきちんと嵌った。携帯ライトはソーラーと手回し充電が出来る仕組みで、USB端子も付いていて、それで携帯の充電が出来る機能も付いていたのだ。
「マスター、それは?」
「容量は小さいけどこのライトはモバイルバッテリーとしても使えるんだ。規格が同じみたいだし、何か起こるかなって。
って、本当に動いた!」
今まで真っ暗だったミニの座っている前のパネルが光り、その周囲のボタンなども光り出す。
「マスター凄いですの!
あ、消えちゃいましたの……」
「容量不足って事かな」
すぐにパネルの光は消え、携帯ライトをライトとして点けてみたらちょっと光ってすぐに消えてしまった。ライトの電気が使われたのは確かだろう。良く考えなくてもモバイルバッテリー程度の容量でこんな大きな機械が動くわけが無い。
「ミニ、この船の動力源ってミニとかメカニマルと一緒なの?」
「はいですの。外部の魔力と太陽光を集めて動く仕組みですの。ただ、この大きさですと魔力を集める為の機能も動かすのにエネルギーが必要で、それが足りてないと思われますの」
「それって今みたいにケーブルで外から取り込めば動くようになるかな?」
「ブリッジが少し稼働した事を考えれば出来ると思いますの」
それから僕とミニはトリフネの動力室を調べ、そこにUSBケーブルである程度の電力を送れば動くかもしれないという結論に至った。
「リュート殿、動きそうでござるか?」
「すぐには無理かもしれないけど、僕がソーラーモバイルバッテリーを複数作って、それを繰り返し供給すればうまく行くかもしれない」
「多少の破損はトリフネの自己修復機能が回復すれば大丈夫だと思いますの」
「よく分からないけど、可能性があるのならばよかったでござる」
カスミは黙って付いて来てくれたが、トリフネが使えそうなことを喜んでいた。僕はソーラーパネルの付いたモバイルバッテリーを複数作り、それをトリフネの動力部に繋いでみた。動力部の一部がそれで動き出し、ミニがそれを見て必要な電力量を割り出してくれた。
「ミィが24時間充電したバッテリーを供給し続ければ5日間で復旧出来る見込みですの」
「5日か。でもミニにそれを任せるのは大変じゃない?」
「ミィは戦闘では殆ど役立たずですの。マスターのお役に立てるなら嬉しいですの」
「分かった、頼むよ。今度お礼もするから」
「それは楽しみですの!」
どうやってミニに栄養補給するかを考えないとと僕は思いながら、ミニを置いてカスミと一旦集落へ帰るのだった。
「勇者チャン、どうだった?」
「うん、本当に空飛ぶ機械はあったよ。動く可能性もあって、今はミニに補給してもらってる」
「そっかー、それは良かったー」
「魔王軍は来てないでござるか?」
「今のところそういう動きは無いわね。トリフネの事を知らなければここから逃げ場は無いわけだし急いで無いのかもね」
ユキは複雑な表情で答える。昨日壁になって聞いた会話を考えると、僕達はユキにとっては部外者で厄介な存在ではあるのだろう。
午後になり、僕はある決意をして外を見回っているカスミに話しかけた。
「カスミさん、お願いがあります」
「なんでござるか?」
「僕に剣を教えて下さい」
僕は東に飛ばされてから自分の身体で戦えない事がずっと頭の片隅にあって、それを解決するのは今しかないと思っていた。トリフネが直るまで時間がかかるし、魔力はモバイルバッテリーを創るのに必要で他の物は作れない。ブレイブウォールが無くなった今、僕が出来るのは己を鍛える事だ。
「それは構わないが、短期間で覚えられるようなものでもないでござるよ?」
「今の僕は本当に素人なので、少しでも覚えられれば何かの役に立つ筈です」
「分かったでござる。ただし、拙者の剣術は特殊なもの、リュート殿の役に立つとは限りませんぞ。それこそナーリ殿に習った方がいいのではござらぬか?」
「直感でしかないんですが、僕はカスミさんの技の方が役に立つ気がするんです」
今まで見てきて、ナーリの戦い方はナーリ自身のパワーを活かした技術だと思った。転生して筋力は増したけど、僕自身は別にそこまで力は無い。筋トレで鍛えても一気には増えないだろう。一方カスミの戦い方はガルブレのアスミと同じなら敵の弱点を狙って鋭い一撃で決めるものだ。力は無くても武器さえ強力な物を使えば似たような事が出来るかもと思ったのだ。
「そうでござるか。では、基礎とリュート殿が出来そうな技をお教えしよう」
「ありがとうございます!」
そうしてしばらくは毎日一度ミニにモバイルバッテリーを持って見に行く他はカスミに剣を習う事になった。集落の裏の広場で僕は木刀を持って素振りや打ち込みを何度も行う。カスミの教え方は厳しかったが、無理を言ってくる会社の先輩とは違って、ちゃんと理屈の通ったもので、僕は耐える事が出来た。少しずつだけど剣の扱いが上達している実感もあった。
「戦場で重要なのは全体を一つの空間として捉える事、行動する選択肢を少なくする事、そして一度決めたら迷わず突き進む事でござる。速度と気合は時としてどんな困難も突き通すでござる」
「分かりました」
剣術を習い始めて4日目の午後、休憩を取りながらカスミが剣術とは別の事を教えてくれた。確かに僕はどうしようかと悩んでその間に味方が傷を負う事が多かった。自分も直接戦闘するなら、もっと素早く決断出来ないといけない。銃や爆弾で戦う現代の戦争とは違い、この世界が剣と魔法で戦う独自やり方に発展している事が肌で感じられた。
「まあ、拙者の剣術も戦い方も師の教えをそのまま伝えてるだけでござるが」
「でもそれが実践出来て、強いカスミさんは凄いと思います。師匠はどんな方だったんですか?」
「拙者の師は父でござる。厳しい人だったが、サムライとしての腕は今の拙者よりずっと上でござった……」
カスミが寂しそうな顔をしたので、これ以上聞いてはいけない気がした。本当に今のカスミより強いなら名のある剣豪だったのかもしれない。
「さて、休憩はここまでにして続きと行こうでござる」
「はい!」
僕は気合を入れて限られた時間で何とか剣を使えるものにしようと木刀を振るのだった。
「どう?」
「これで起動する筈ですの」
ミニがトリフネの補給を始めて5日目になり、ようやく必要なエネルギーが補給出来た。ミニが動力室の主電源起動のボタンを動かす。すると動力室に明りが灯り、周囲のパネルにも文字が浮かび上がった。最初赤く点灯したランプが緑色に変わり、機械の駆動音が部屋中に響く。
「成功ですの!後は自動修復が完成すれば浮上出来る筈ですの」
「ありがとう、ミニ!」
僕はミニの頭を撫でてあげる。
「うまく行ったのでござるか?」
「多分。まだ本当に飛べるかは分からないけど」
「そうでござるか。
リュート殿、折り入って話があるでござる」
「何でしょうか?」
カスミにはトリフネを教えてもらったし、剣も習っているので何か恩返しがしたいとは思っていた。また裸を見せてくれと言われたら少し困るけど。
「もしトリフネが本当に空を飛べたなら、拙者も連れて行ってくれぬか?」
「それは構いません、というかむしろ付いて来て貰えたら嬉しいですが、カスミさんはここから離れるつもりが無いんじゃなかったでしたっけ?」
「拙者もそのつもりでござった。だが、リュート殿がトリフネを操れる勇者であるなら話は別なのでござる。魔王軍と戦い、その強大さも思い知った。いつまでの過去のしがらみに縛られてはいられないのでござる」
「じゃあ、一緒に魔王軍と戦ってくれるんですか?」
カスミは本当に強いので、仲間になってくれるのならかなり助かる。
「拙者のような者で良ければ。それに、リュート殿の剣の指導もここで別れたら不満が残るでござる。せめて、模擬戦で一本取れるぐらいになって貰えねば」
「それは一生無理な気もしますが……」
「まあ、それは半分冗談でござるよ」
カスミが笑って答える。正直自分でもまだまだだと思っていて、引き続き剣の指導をしてくれるならそれも大分助かると思った。
ブリッジに移動し、ミニが色々と調整してくれる。僕ではどうにも出来なかったところなのでミニが居てくれて本当に助かった。ポンコツアンドロイドと思ったのは撤回しなければならない。
「自動修復も完了しましたの。これで飛行出来る筈ですの」
「分かった、じゃあ、お願い」
「トリフネ、起動ですの」
ブリッジのモニター全てに電源が入り、トリフネが格納されていた祠内部の景色がガラス窓のように周囲のモニターに浮かび上がる。天井もまるでガラスのように真上が見え、祠の上壁が左右に割れて空からの光が入ってきた。
「上昇開始ですの」
「「おお」」
軽い浮遊感を感じ、トリフネが上昇していくのが分かる。僕とカスミは急いで近くにある席に座った。気球に乗った事は無いけど、気球で浮かぶとこんな感じなんだろうなと思った。
「凄いでござるな。本当に宙に浮いてるでござる」
「こんな技術が昔にあったんだ」
「あくまで娯楽用の機械ですの。武装は積んで無いですし、攻撃に対する防御も弱いですの」
「それでも十分だよ」
魔王軍に制空権を取られているとは聞いたけど、大陸へ向かう手段が他に無いならこれで何とかするしかない。モニター越しに眼下に小さくなった祠の穴が見え、かなりの高度まで上がったことが分かる。
「集落まで移動しますの」
「これを見たらユキも驚くでござるよ」
「本当に動いてよかった」
数十分かかった山道もトリフネで移動するとあっというまに着いてしまった。集落の広場にギリギリトリフネは着陸出来て、集落の人達が出てきてそれを見て驚いていた。ユキとナーリも外に出てきて集まってくる。
「凄いわね、本当にトリフネを動かせたのね」
「全部ミニのおかげです」
「いえ、マスターがバッテリーを創ってくれたおかげですの」
「これで大陸まで行けるんだよねー」
トリフネを降りるとみんなそれを見上げる。外で改めて見ると青と白の流線形のボディは美しく壮大さが感じられた。こんな巨大なものが空を飛ぶのだから凄いなと再度実感する。
「ユキ、拙者はリュート殿に付いて行く事に決めたでござる」
「まあ、そんな事になるんじゃないかと思ってたわよ」
「勝手に決めてしまってすみません。水と食料とかを準備したらすぐに旅立とうと思ってます」
「食料でしたら好きなだけ持って行って下され」
集落の老人達が食料を持って来てくれて、出発の準備はすぐに終わりそうだった。
「ねえ、旅立つのはいいけど、どっちに行けばいいか分かってるの?」
「ミィもトリフネも大陸の位置情報は持っていませんの」
「ナーリは分かる?」
「東の国だから西に行けばいいって事ぐらいしか分からないかもー」
「すまん、拙者も旅していた時は街道を進んだだけで、正確な地理は分からんでござる」
ユキに問われて移動手段は確保したが、正確な行き先が分かっていなかった事が判明する。トリフネの速度はあるし上空から見れば大陸のある方向は分かるが、目的地であるアレサング国に遠回りで向かう事になる可能性が高い。
「しょうがないわね、うちが付いていってあげるわ。これでも吟遊詩人で旅していた分、地図は頭に入ってるのよ。それに、こんな可愛い子達を見つけたのにすぐに別れるのは勿体ないからね」
「本当ですか?それは助かります。でも、2人ともいなくなったら集落は……」
「わしらの事は気にしないでくだせい。老い先短い身、もともとカスミもユキも居ないところで暮らしておったのじゃから」
「すみません。なるべく早く魔王を倒して平和にしますから」
僕はすまないと思いつつ、そんな言葉しか言えなかった。ここに魔王軍が再び現れない事を祈るばかりだ。トリフネに荷物を詰め込み、出発の準備が整う。ブリッジの席にみんな座っているのを確認する。
「みんな準備出来た?」
「リュート殿、合図をお願いするでござる」
「僕でいいんですか?」
「この中のリーダーはリュート君でしょ」
ナーリもミニも僕を見て頷く。
「分かりました。
トリフネ、大陸に向けて出発!」
「はいですの!」
ミニが操縦し、トリフネは大陸に向けて大空へ飛び立ったのだった。
「あの、どういう事でしょうか?」
僕は刀を構えている剣士カスミに恐る恐る質問する。ナーリはまだ傷を治してもらって寝ているし、ミニがこういう場面で役立つとは思えない。僕は慎重に会話する他無い。
「そなたらが我らに仇なす者だったら斬るという事だ。正直に答えよ。そなたは魔王にくみする者ではないな?」
「はい、むしろ魔王軍と戦っていました」
この質問は各地が魔王に攻められているので、意図もどう回答すればいいかも分かった。
「では、次の質問だ。そなたはアレサング王家の配下の者か?」
このカスミの質問はどういった意図のものなのだろうか。だが、言い淀めば怪しまれるだろう。僕は素直に答える事にした。
「いいえ、違います。ですが、王家の血を引くリンザ姫とは共に魔王軍と戦っていました」
「――なるほど。では最後の質問だ。そなたが信仰する神を教えて欲しい」
(信仰する神?どういう事だ?)
僕はカスミがどうしてこんな質問をしたのか分からない。そもそも、マリナリアで信仰されている神はマリナ神だけだと聞いていた。現実世界の事だとしても、僕は特に信仰している神様や宗教は無い。少し悩んだ末、僕はやっぱり正直に話す事にした。
「僕が信仰している神はいません。
正直に言います。僕はこの世界に来てまだ1ヶ月も経っていないんです。以前は地球の日本というところで生活をしていました。ですが、事故死して、この世界に転生して来たばかりなんです」
「1ヶ月?転生?どういう事でござるか?」
「カスミ、多分この子は嘘は言ってないわ。刀を収めて食事をしてから話を聞きましょう」
「分かった、少し興奮し過ぎたでござるな」
カスミは刀を鞘に収めると、座布団のような敷物の上に胡坐で座る。吟遊詩人であるユキが席を立ち、多分台所と思われる部屋へ移動した。ユキに抱かれていたアンドロイドのミニが逃げるように僕の横にくっついて座る。とりあえず余計な事を言わないように僕達は無言で食事を待った。横で寝ている戦士のナーリが安らかな寝息を立てている事で僕は少し平常心を取り戻した。
「大したものは無いけど、好きなだけ食べてね」
「これはお米ですよね。凄く嬉しいです!」
ユキが持ってきた食事はご飯と焼き魚と山菜を煮つけたものだった。転生してきてからはパンなどの穀物が主食だったので、久しぶりに食べるご飯はとても美味しくありがたかった。カスミもお腹が空いていたのか、出された食事を美味しそうに食べていた。
「あら、ミニちゃんは食べないの?」
「ミニはアンドロイドですから食事は不要ですの」
「ミニは人型機械でここに飛ばされた時に拾ったんです」
「なるほど、太古に機械人形があったとは聞いた事があるが、まだ稼働する物が残っていたのか」
カスミとユキは珍しそうにミニを眺めていた。食事が終わり、先程の緊迫した空気が無くなったので僕は気になっていた事を聞いてみた。
「東の果てと言っていましたけど、ここはマリナリアのどの辺りなんですか?失礼ですが、この集落はあまり人が住んで無いみたいですし」
「地図は無いけれど、キミが居たアレサング王国がある中央大陸がここだとすると、その東の端から海を越えた島の東の果てがここよ。キミが言った通りここはうち以外はご老人が10人ぐらいしか住んでない小さな集落でしかないわ」
「拙者が小さい頃にはもっと多くの人が住む町が近くにあった。が、今は無い。そもそもこの島国でまともに人が住んでいるのは西のサカイの町だけでござる」
アレサング王国にいた時に世界地図を見てなかったので規模が分からないが、とにかく大陸が海を隔てていてそれなりに遠い事は理解出来た。
「大陸に急いで戻りたいんですが、船とか交通手段はどこかにあるのでしょうか?」
「無理だと思うわよ。唯一栄えているサカイの町も今は魔王軍の支配下に入って、船は全部接収されている筈。魔法での移動も制限されて、今この島から出る手段は無いわね」
「リュート殿、そなたはそもそもどうやってあの場所に辿り着いたのでござるか?」
「魔法か何かで飛ばされたんです。一週間ぐらい前に魔王軍のモンスターと戦っていた僕とナーリは、モンスターの能力で廃墟の町に飛ばされていました。そこでこのミニと出会い、何とかそこから抜け出したんです。まあ、町の外にいたメカニマルに襲われて、カスミさんに助けて貰えなければ終わってたんですが」
改めて考えてもミニやカスミに出会わなければ僕もナーリも生きていなかっただろう。
「廃墟の町……。神の箱庭の事か。よくあの地から生きて出られたものだ」
「ミニが廃墟の町、シンエドと機械のモンスター、メカニマルの事を知っていたのが大きいです」
「いえ、悔しいですがミィはマスターのお役にあまり立てていないですの」
「本当に神の箱庭にいた機械人形なのね。こんなにふにふにして柔らかいのに」
ユキが再びミニを抱っこして身体中触っている。まあ、僕もミニが機械である事はたまに忘れるぐらい人間と大差ないと感じていた。
「ナーリちゃんが回復するまでに時間がかかるし、リュート君とミニちゃんとカスミはお風呂に入ってきたらどう?」
「リュート殿、近くに温泉があるでござる。もし宜しければひと風呂行きませんか?」
「混浴で無ければ是非」
ユキとカスミに言われ、僕とカスミは集落の近くにある温泉へと向かった。ミニはそもそもお風呂が必要無いのと、ナーリの事が心配なので家に残ってもらった。ユキに襲われないかは少し心配ではあるけど。僕とカスミは竹藪の中を歩いて行く。
「そういえばちゃんとお礼が言えて無かったので改めて言わせて下さい。助けて下さりありがとうございました。ナーリの件も含めて何か僕達に出来る事があればお礼させて下さい」
「いや、そんな大したことはしてないでござる。それに突然刀を向けた無礼をこちらこそ謝ってなかったでござる。本当に申し訳ない。もし許して下さるのならそれでお互い終わりにして下さらぬか」
確かにカスミに刀を向けられはしたが、それでもこちらの得が大きいのは明らかだ。でもこの話をしてもカスミは折れなそうだし、この件はここまでにしようと思った。
「そういえばカスミさん滅茶苦茶強いですよね。名のある剣士とかじゃないんですか?」
「いえ、拙者は山奥で剣の腕だけを磨いていた愚かなサムライでござるよ。メカニマル、とリュート殿が呼んでいる機獣は動きさえ見切れば拙者のような腕でも倒せるようになるでござる」
謙遜しているが、僕の装備を着たナーリが苦戦したメカニマルを一刀両断出来るのは普通の人間ではない。ここら辺のサムライと呼ばれる人達が強いのか、カスミが特化して強いのかは分からないが。
「この辺りは人がそんなに住んで無いんですよね?なんでカスミさんとユキさんはここに住んでるんですか?」
「拙者は大昔にこの地を守るよう言われ、ほぼ一人で山奥に住んでる変わり者でござる。ユキは元々世界中を旅しておったが、魔王軍が現れ、故郷であるこの地に逃げ延びて来たのでござる」
「そっか、ユキさんは吟遊詩人でしたよね。お二人はもっと人がいる所へ行こうとは思わないんですか?」
僕は踏み込んでいいのか分からないけど、とりあえず質問してみる。
「確かに魔王軍と戦うべきだという気持ちが無いわけでは無い。だが、集落の付近にたまに現れる機獣やモンスターもおり、誰かがこの地を守る必要があるのでござる。
ユキについてはいずれ出ていくと思ったが、まだ残ってる理由を聞いた事は無いでござる」
「そうですか、すみません、こんな事聞いて」
「いや、疑問に思うのは確かでござる。こんな辺境に住むのは変わり者だけでござるからな」
ユキは分からないが、カスミが仲間になってくれれば魔王軍と戦う戦力が増えるのは確かだ。ガルブレの衣装を着て貰えば更に強くなると思うし。が、話を聞く限り誘っても断られそうだと思った。
竹藪の先の山を少し登ったところに温泉はあり、簡易だが男女別の脱衣所の小屋もあって僕は安心した。服を脱いで貸してもらった布を持って1人で温泉に浸かる。
「ふぅ……」
温泉は自然で出来たものを少し加工した感じだが、広々して外の景色も見えて素晴らしかった。こっちに飛ばされてから水浴びや地下のシャワーは使えたけど、こうして広い湯船に浸かるのは久しぶりで、本当に心地よかった。
「リュート殿、湯加減は大丈夫でござるか?」
温泉の横には竹で出来た柵があり、そっちからカスミの声が聞こえたので、柵の向こうが女湯なんだろう。
「丁度いいです。久しぶりに温泉に入れて嬉しいです」
「そうか、それは良かったでござる」
薄い柵越しにカスミが居るのを意識してしまうが、覗こうとか、そういう気持ちにはならなかった。今は一人でゆっくりくつろぎたい。ナーリも怪我が良くなったら連れて来ようと思った。
「リュート殿、本当にもしよければの話なのだが、一つだけ救出のお礼として、して貰いたい事があるのでござるが……」
カスミが歯切れ悪そうに言ってくる。僕としてはお礼をしたいし、仲良くしておきたいので、断る理由は無い。
「僕に出来る事なら何でも言って下さい」
「――そうか、では。
その、リュート殿の裸を見せて貰えないでござるか?」
「え!?」
比較的真面目に見えたカスミからそんな要求をされ、僕は狼狽える。もしかしてむっつりスケベとかなのだろうか。
「すみません、なんでそんな事を?」
「いや、勿論失礼な申し出だとは分かっているでござる。だが、こんな事を頼める機会はもう無いかと思い、申し出てしまったのだ。
拙者、この齢になってもまだ若い男性の裸を見た事が無いのでござる。魔王が現れ、その機会が減り、死ぬまでに一度は見てみたいと思ってな。
と、いや、忘れてくれていいでござる」
声だけだけどカスミが顔を真っ赤にしている様子が想像出来た。カスミは見た目から20代後半ぐらいだろう。そんな女性がこんな事を頼んで来たと思うとカスミが凄い可愛らしく思えてしまう。でも彼女は真剣で僕はどう答えるか悩む。
(裸は三博士にも見られてるし、見せるだけなら別にいいかな)
「いいですよ、見るだけなら」
「本当でござるか?では、お言葉に甘えさせていただくでござる」
柵の向こうから湯船を上がる音が聞こえ、柵を回り込んで岩がある方から全裸のカスミが現れた。こんなに簡単に移動出来るなら若い男女がいたら絶えず問題が起こりそうだと思った。布で胸と股を隠しているけど、大きい岩から降りてくるので乳首や性器が見えそうになり僕は急いで視線を逸らした。
「恥ずかしい頼み事を聞いて下さり本当に感謝でござる」
「いや、別に、これぐらいなら全然」
そう言いながら僕はカスミを直視しては駄目だと、なるべく横を見るように話す。
「リュート殿、拙者の事は気にしなくて大丈夫でござる。リュート殿の裸だけを見ようなどとは思っておらん。拙者の裸でいいなら存分に見て下され」
「いや、そういうわけにも……」
横目で見えるカスミの巨乳に僕は下半身が反応してきてしまう。僕はなるべく早く済ませようと思った。
「あの、どうすればいいですか?立った方がいいとか」
「こんな機会は二度と無いかもしれん。そこの岩に座ってもらってもいいでござるか?」
「分かりました」
僕は温泉の洗い場にある岩に座り、股間を隠していた布を岩に置いて裸体を晒した。カスミの裸とシチュエーションに興奮してしまい、僕の性器は既に張り詰めていた。
「おお、これが噂の男性器でござるか。思ったより大きいのだな。こんなものを付けていては歩くのが大変ではござらぬか?」
「いや、普段はもっとコンパクトになってるんです。今は興奮して勃起しているというか」
これはこれで羞恥プレイだなと思ってしまう。感心して凝視するカスミは油断していて、胸を隠していた布もずれ、綺麗な紫色の乳首も見えてしまっていた。露骨に顔を逸らすのも変なので、僕はなるべくカスミの顔を見てそちらを見ないように頑張る。
(髪を下ろしてると本当に美人だな……)
「リュート殿、触ってみてもいいでござるか?」
「触る?いや、ダメだけど、軽く触れるだけだったらいいです」
「そうでござるか、では遠慮なく」
拒否したいけど、ここまで来たらと身を任せる事にする。
「ほー、まるで骨があるみたいに硬いのでござるな。いやいや、女性との違いがこんなにあるとは思いもよらなかったでござる」
「もうそろそろいいでしょうか」
カスミに性器を優しくなで回され、これ以上はヤバいと思い僕は喋る。
「はい、満足したでござる。お礼と言っては何だが、拙者の身体を触ってもいいでござるよ?」
「いや、それはいいです。これ以上は危険なので戻ってもらっていいですか?」
「危険?リュート殿を襲ったりはしないでござる」
「そういう意味では無いです。いや、そういう意味もありますが。とにかく、戻って下さい!」
カスミは怪訝そうな顔をして男湯を出ていった。僕の頭には綺麗なカスミの裸体が残り、どこかで一発抜かないと危ないなと思うのだった。
「ただいま、って何してんの?」
「マスター、助けて下さいの」
集落にカスミと戻ってくると、家の床には沢山の服が散らばり、ミニが鮮やかなドレスを着て立っていた。
「おかえり。いやー、ミニちゃんが可愛いから色々着せてみたくなっちゃってね」
「これ全部ユキさんの服ですか?」
「うん、うちは服を集めるのが趣味で、旅先で色々買ってたんだけど、自分に合わない服も多くてねえ。ミニちゃんは小っちゃいけどスタイルはいいし、どれも似合うんだわ」
「ミィは着せ替え人形じゃありませんの」
とりあえず実害が無いようなので、まあいいかと思った。
「ナーリの怪我を治して貰ったり、食事を頂いた恩はありますけど、あんまりミニで遊ばないで下さいね」
「はーい、分かりました」
「それで、ナーリの容態の方はどうですか?」
「傷の治りも早いし、随分生命力の高い子だと思うわね。目が覚めれば大分良くなっている筈よ」
「そうですか、良かったです」
ナーリはまだ寝ていて、起きてきそうな気配は無かった。
「誰か―助けてくれー!」
そんな時外から年老いた叫び声が聞こえた。
「何事か?拙者が見てくるでござる」
「僕も行きます。ミニはメイド服に着替えてナーリを守ってて」
「はいですの」
「うちも行くわ」
カスミが刀を持って出て行き、僕は武器を、ユキは楽器を持って家を出る。外には沢山のアンデッドの集団が待ち構えていた。集落の住人と思われる数人の老人達が小屋の前で震えている。
「あら、本当にこんな所に居たのね、勇者ちゃん」
アンデッドの集団の中からすらりと背の高い長い金髪の女性が出てきて僕を見つめる。巨乳の谷間が目立つ胸元の空いた黒いドレスと紅い鋭い瞳が妖しさを強調している。口から見える長い牙と伸びた赤い爪が彼女が人では無い事を示していた。
「あなたは誰ですか?」
「アタシ?アタシは魔王様に仕える4魔将の1人、滅魔将軍のクルニよ。勇者が生きてるって聞いてわざわざ来たんだけど、会えて嬉しいわ」
「リュート殿が勇者?」
「黙っていてすみません。僕は魔王を倒す為に転生して来た勇者なんです」
あえて説明していなかったが、魔王軍が現れた以上勇者と明かした方がいいと僕は思った。
「アタシの目的はその勇者だけよ。この村を破壊されたくなければその身を差し出しなさい。安心して、殺さず魔王様の所に連れてってあげるから」
「本当に僕が行けば他の人には手出ししないんですか?」
「ええ。弱い者いじめは趣味じゃないしね」
悪役のこういうセリフは大体嘘だと分かっている。僕が捕まった後に村を焼かれたりするのがオチだ。だからといってこの人数で戦うのも無理な気がしていた。アンデッド相手に刀を使うカスミは不利だし、歌で戦うユキはサポートメインの筈だ。そして、そもそも二人は魔王軍と戦う理由が無い。
(ナーリとブレイブウォールがあれば何とかなったかもしれないけど、今の僕では無理だ)
「分かりました、僕に戦う意思は無いので捕まえて下さい」
「リュート殿!」
僕は諦めてクルニの方へと歩いて行く。僕が捕まる事でカスミ達が逃げる隙が出来るかもしれないし、寝ているナーリは運が良ければ助かる筈だ。
「止まって下さい、リュート殿。拙者もサムライの端くれ、魔王軍と戦う覚悟はあるでござる」
「ちょっと、カスミ、どうして?」
「その人数で戦うつもり?そういうのを無駄死にって言うのよ。この数のアンデッド相手に村人を守って戦えるとか思ってる?」
「あたしもいるわ」
と、家から鎧を着たナーリとあわあわしているミニが現れた。確かにナーリが加われば戦力は上がるが、ナーリは病み上がりだしアンデッド戦に特に強いわけでもない。
(どうしよう。でも迷ってる場合じゃない)
僕は考え、最善と思われる方法を選択する。
「カスミさん、ユキさん、僕を信じて下さい!」
僕は2人にガルブレの衣装を創造する。メカニマル戦で魔力は大分使ったけど、ユキの歌で傷が癒え、温泉に入った事で2人分を創るぐらいの魔力は回復していた。
カスミにはガルブレのアスミの正月限定SSR衣装である派手な赤色を基調とした着物衣装を創造した。胸元は大きく開けていてさらしを巻いた胸がほぼ見えている露出度の高い衣装だ。いきなりこんな衣装はと思ったけど、アンデッド相手には炎属性の技が使えるこの衣装が一番だと選んだ。
ユキに創ったのはガルブレのユリのクリスマス限定SSR衣装で、白を基調としたひらひらしたドレスは胸や足の露出度が高い。スリムな体系のユキのボディラインが良く見えて美しい。こっちもいきなり露出度が高いのはどうかと思ったけど、光属性の衣装で、アンデッドに効果がある技が使えるので選んだのだ。
「リュート殿、これはいったい?」
「僕の勇者の力で強力な装備を創れるんです。見た目は露出度が高いですが、魔法で防御力は上がってるので安心して下さい。カスミさんの刀は炎が付与されるのでアンデッドに効果があります。ユキさんはアンデッドの動きを抑えるホーリーソングが歌える筈です」
「なるほどね、確かに身体から力が漲る感じがするわ。分かったわ、今はリュート君を信じる」
「拙者も同じく信じるでござる」
「ほー、それが勇者の力ねえ。アタシは手を出さないからお手並み拝見させてもらうわ」
クルニは背中から蝙蝠のような羽根を生やして空に浮かび上がる。そしてアンデッド達が動き始めた。
「ナーリはカスミさんと協力してアンデッドの相手を。ユキさんは2人の援護をお願いします。ミニは僕と一緒に住民の守りを。今ハンマーを創るから」
「分かったー」「了解した」「分かったわ」「はいですの」
僕の指示で4人がそれぞれ動き出す。僕はミニにガルブレのドワーフ娘であるビニラの装備の巨大なハンマーを創って渡す。見た目はごつくて大きいけど、重さは魔法の力でさほど感じなくなり、ミニが振り回すだけでも小型のアンデッド相手なら十分な凶器となるだろう。
「はっ!」
カスミは着物衣装をはためかせてスケルトンの集団に近付き、刀を一閃する。すると振るったあとに炎の波が出来て、スケルトン達は一気に消滅していった。ナーリも聖戦士衣装でハルバードを振るい、近付くゾンビ達を薙ぎ倒していく。ユキは綺麗な声でホーリーソングを唄い、ゾンビやスケルトンなどの下級のアンデッド達の動きは一気に遅くなる。そのおかげで僕とミニは近寄る敵を何とか倒す事が出来た。
「なるほどねえ、普通の兵士達とは違うわね。でも、これだとどうかしら?」
クルニが指を鳴らすとアンデッド達の数が増えた。その中でも2メートルはある首の無い騎士のデュラハン数体と、その奥にいる巨大な骨のドラゴンが強敵である事が分かった。
「ナーリ殿、拙者が骨の龍の相手をするでござる。首無し騎士は任せても宜しいか?」
「勿論!」
「雑魚はうちに任せて」
ユキは楽器から衝撃波を放ってマミーなどの中型のアンデッドを攻撃して牽制する。ナーリはハルバードでデュラハンの攻撃を受け流しつつ相手をしている。そしてカスミはボーンドラゴンの攻撃を躱して刀で打ち込み続けた。
(よかった、何とかなりそうだ)
僕は近寄るアンデッドを倒しつつ、こちらが優勢な事が確認出来て少し安心していた。
「これでどうだ!」
ボーンドラゴンの毒のブレスを避けたカスミが跳躍し、その頭部を一閃してついにドラゴンは崩れ落ちた。装備の力もあるけど、やっぱりカスミは凄いと実感する。デュラハンも残りが少なくなり、アンデッドの軍勢は残りわずかとなっていた。
「なるほど、この中ではアンタが一番強いみたいね。今日は顔見せだけにしようと思ったけど、やっちゃおうかしら」
空に浮かぶクルニが邪悪な笑みを浮かべる。そして着ていたドレスが破裂して全裸になった。豊満な胸も大きなお尻も性器も丸見えだ。でも透き通るように真っ白な肌は芸術とさえ感じてしまう。
「勇者はロリコンの気があるって聞いたからこっちの姿の方がいいかしら」
クルニの身体が縮んでいって少女のような姿になる。悔しいけどクルニの言う通り大人な姿より少女の姿の方が僕の好みではあった。こぼれるような巨乳も控えめな美乳になっている。
「魔王様に頂いた力と勇者の力、どっちが優れているか見せてあげるわ」
そしてクルニは自分の手を手刀のような形にして長い爪を自らの左胸に突き刺した。そこから真っ赤な鮮血が噴き出す。が、血はクルニの身体に纏わりついていき、真紅の鎧へと変化した。鎧は禍々しくも美しい。手には同じく固まった血で出来た巨大な槍が握られている。僕の創るガルブレの衣装と同じようにゲームやアニメに出てくる敵役の衣装のように感じた。
「さあ、殺し合いを始めましょう」
クルニは急降下してカスミを槍で貫こうとする。カスミはそれをギリギリ避けて、振り向きざまに刀で斬ろうとする。が、クルニは消えるように後退していてそれを躱した。
「速い!?」
「スピード勝負でアタシに勝てると思ってる?」
クルニは左手を前に突き出すとそこから真っ赤な蝙蝠が大量に放たれた。カスミはそれを避けるのと刀で斬って何とか防ぐ。が、完全には防げず身体の一部に切り傷が出来ていた。
「美味しそうな血。すぐに殺しちゃうのは勿体ないわね」
「まだだ!」
カスミは目にも止まらぬ速さでクルニに迫り刀を斜めに振り下ろす。が、その刀は槍で受け止められていた。
(僕の創った武器が止められた?アスミの刀はガルブレでは一番切れ味が高い筈なのに)
「確かに凄い威力ね。アタシじゃなければ倒せたかもね」
クルニは余裕のようで優雅に一回転し、蹴りをカスミに食らわせた。カスミは避けきれず後方へ吹き飛ぶ。ナーリはまだデュラハンと戦っているし、ユキも残りのアンデッドの相手で動けない。ミニもハンマーを振り回すので精一杯だ。
(今までの敵とは何かが違う。このままだとマズイ。僕が何とかしないと)
相手は多分吸血鬼だ。この世界の吸血鬼がどうかは知らないけど、弱点は多い筈。といっても日が射している夕方のこの時間に自由に動いてる時点で普通のアンデッドではない。
(ニンニク?十字架?木の杭?うーん、どれも多分駄目だ)
考えている間にもクルニは槍で攻撃を続け、カスミは追い詰められていく。
(あとはゲームで聖水を使うとかあったな。聖水……そうだ!)
僕は最低なアイデアを思い付いてしまう。だが、今はその可能性にかけるしかない。
「ミニ、この瓶の中に例の排水をしてくれないか」
「あの排水ですの?分かりましたの」
以前マレーヤの薬品を入れる為に創った瓶をミニに手渡すと、ミニはそれをメイド服のスカートの中に入れ、『チョロチョロ』と瓶に液体が入る音がする。背後で怯えていた老人達は僕達の行動を不審な目で見ているが、今は我慢するしかない。
「はい、出したてほかほかですの」
「ありがとう」
色々表現が危ないが、とにかく今は一時を争う。僕はミニが用を足してる間に小型の筒のようなものを創っていた。これはブレイブウォールに追加装備させた液体発射機能部分だ。瓶を筒に装着し、僕は狙いをクルニに定める。外したら終わりだ。
「そこだ!」
クルニがカスミの攻撃を避けた瞬間を狙い、僕は筒から液体を発射した。カスミとの戦いを楽しんでいたクルニは僕の動きには気付いておらず、その液体を顔面にもろに浴びる。
「なんだ、これは。うっ……臭い……」
「それはミニの特殊な排水だよ。モンスターを追い払ったり、洞窟で迷った時に迷子にならないよう特殊な香料を付加してるそうだ。洗っても簡単には落ちないぞ」
「その通りですの。モンスターが苦手な臭いですの」
地下で脱出計画を準備していた時にミニが排水に特殊な臭いを付ける事が出来ると聞いて試しに出して貰った事があった。その時はあまりの臭さに後悔したが。流石に吸血鬼だろうと、この臭いは気になるのではないだろうか。
「駄目だ、臭くてたまらん!まあいい、今日は遊びで来ただけだしな。勇者よ、覚えておれ、次に会った時に後悔する事になるぞ!」
クルニは空に浮かび、文句を言ってから飛び去っていった。残りのアンデッドはすぐに片付き、僕はようやくホッとした。
「リュート殿、助かったでござる。しかし、凄い策略でござったな」
「いや、こちらこそ助かりました。僕が原因で襲われてるのに怪我をさせてしまってすみません」
「怪我はうちが治せるから大丈夫よ。でも、この装備凄いわね。キミは本当に勇者なのね」
「まあ、僕自身はこんな事ぐらいしか出来ませんけど」
「勇者様、ありがとうございます」
老人達も寄ってきて次々と感謝の言葉をくれた。追い払い方は最低だったけど、とりあえず勇者としては認めて貰えたようだった。そのままの流れで集落の人達がご馳走を作ってくれて、簡単な宴が始まった。集落の人達はみな結構な齢なので、酒盛りで残っているのは僕達だけになっていた。
「ナーリも病み上がりなのにありがとう」
「ううん、怪我して迷惑かけてたんだし、戦うのは当たり前だよー」
「ナーリ殿、一つ聞きたい事があるでござる。そなた、カーレ殿の縁者だったりせぬか?」
「え?おししょー様の事知ってるの?」
ナーリと話しているとカスミが話に入ってきた。カーレという人がナーリの師匠なのだろうか。
「やはり、カーレ殿に師事されてござったか。いや、戦い方を見て、カーレ殿の太刀筋と似てると思ってな」
「うん、あたしはおししょー様に武器の使い方を習ったからねー。カスミさんはどこかでおししょー様に会った事があるの?」
「拙者は昔、武者修行に諸国を渡り歩いていた時期があってな、その時カーレ殿の武勇を聞いて手合わせして頂いたのだ。その時は拙者の勝ちとはなったが、あえて武器は剣のみの試合だったので、拙者はカーレ殿の方が腕が上だと思ったでござる」
「確かにおししょー様は色んな武器を使い分けるのが強みだからねー」
こんな所でナーリとカスミに関連があって僕は少し驚いた。だが、こういう縁こそ重要な気もしていた。
「へー、ナーリちゃんはカスミと共通の知り合いが居たんだ。折角おめでたいんだし、今日は歌っちゃおうかな」
「ああ、祝いの席だ、存分に歌ってくれ」
ユキは楽器を取って来て、椅子に腰かけ歌い出した。
『夜空の月に照らされて私はあの人を思い出す~』
ユキはバラードのようなゆったりした歌を歌う。歌詞は旅立った想い人を家で待つ女性の歌のようだ。僕はお酒が回ってきたのもあり、気持ちが乗ってきて、ライブで使うペンライトを創り出してそれを左右に振っていた。
「勇者チャン、それなーに?」
「ああ、これは僕が居た世界で歌手の人を応援するのに振るライトだよ。曲のイメージに合わせて色を変えたりするんだ」
僕はペンライトのボタンを押して色を変えて見せた。
オタク生活を始める前はライブに行った事は無かったけど、オタク友達の純也が某人気アイドルゲームのオタクだったので、誘われてライブビューイングに行き、その楽しさを教えてもらったのだ。コールもオタ芸も分からないし、簡単な掛け声やPPPHぐらいしか知らなかったけど、それでも十分楽しめた。それにガルブレにもゲームのイベントの歌があって、声優さんを呼んでのリアルイベントにライブコーナーがあったりして、その為に色が変わるペンライトを買って使っていたのだ。
「ねえ、それ面白そー。あたしにも貸してー」
「創るのに魔力は全然使わないからもう一個作るよ。ほら、こういう明るい曲の時は黄色とかに変えるんだ」
「ありがとー」
「ミィも合わせるですの」
僕とナーリはライトの色を変えて左右に振り、ミニも髪の色をそれに合わせて頭を左右に振った。ユキも僕らのライトが気に入ったのか何曲も歌ってくれた。
(そういえば奨められたアイドルゲームはインストールはしたけど音ゲーが苦手だから碌にプレイしなったなあ。でも、属性で色を変えるってガルブレにも関連するし、なんか使えそうだな)
僕はライトを振りながら頭の中で何かが繋がりそうな気がした。
『パチパチパチ』
ユキの歌は大きな拍手で幕を閉じた。ただでいいものが見れて得した気分だった。
「凄く良かったです、ありがとうございます」
「こちらこそ久しぶりに観客がいる中で歌えてよかったわ」
「リュート殿、ちょっと話したい事があるでござる」
「何でしょうか?」
宴会もこれで終わりかと思ったところでカスミが切り出してきた。
「前に大陸に行く手段が無いと話しましたな。実を言うと大陸へ移動出来るもの自体はあるのでござる」
「ちょっとカスミ、まさかあの話をするつもり?」
今まで笑顔だったユキの表情が険しいものへと一転する。
「拙者はリュート殿と話し、その戦いぶりと勇者としての能力を見て話しても大丈夫と感じたのでござる。そもそも動くか分からぬ代物、見てもらうぐらいは問題無かろう」
「分かったわ。あれを守っていたのはカスミだし、好きにすればいいわ」
「かたじけない。この集落の北にある祠にトリフネと呼ばれる太古の機械が眠っているのでござる。大昔はそれで空を移動したと言われているが、燃料の関係か、今はただの大きな置物として残っているのでござる」
トリフネという響きを考えると、飛行艇のようなものなのだろうか。
「ミニ、何か記録とかない?」
「空を飛ぶ機械はいくつかシンエドにも存在していましたの。実物を見れば何か分かるかもしれませんの」
「カスミさん、その祠まで連れてってくれませんか?」
「お安い御用でござる。明日になったら案内致す」
「ありがとうございます」
本当に空を飛ぶ機械が眠っていて、それが動かせるならみんなの元に帰れる可能性が高い。あとはシンエドの総司令部みたいに壊れて無い事をを祈るばかりだ。
僕達は集落の空いてる小屋を貸してもらい、そこで今夜は眠る事になった。一応ナーリとミニとは別室になったので、久しぶりに一人で眠れる事になる。お酒を飲んだのと久しぶりの安心感で僕はすぐに眠りに落ちた。
(って、また壁になってる。ここはユキさんの家の壁か)
僕はまた無意識に壁になっていた。そこには並んだ布団で眠るカスミとユキの姿があった。2人の声が聞こえ、まだ眠ってはいない事が分かる。
「ねえ、どうしてあの子達の味方をしたの?確かに魔王軍とは戦ってたけどアレサング王国から来たのよ」
「拙者、これでも人を見る目はあるつもりでござる。彼らに悪意は感じられなかったでござる」
とりあえずカスミには信用して貰えているようだ。だけどカスミに裸を見られ、カスミの裸も見てしまったので、その話をユキにされたら更に幻滅されそうだと思った。
「2人はそうかもしれない。でも、もしあの子が大陸に戻ったらうちらの事がアレサング王家に伝わるかもしれないのよ」
「そうかもしれん。だが、このままでは世界全てが終わるかもしれない。だから拙者はリュート殿に賭けてもいいかと思ったのでござる」
何となく感じてたけど、ここにあった国とアレサング国とで過去に何かがあったのだろう。でもこんな遠方の国に対してそんな酷い事をしたのだろうか。
「それにトリフネの事は絶対に部外秘と伝えられて来たんでしょ。まさか、あの子があの伝承の救世主だと思ってるの?」
「『やがて光の少女を携えた救世主が現れ、ヤマトの民を導くだろう』。リュート殿が勇者だと聞いた時、伝承の一文を思い出したのは確かでござる。だが、拙者はそれよりも魔王軍と戦い、その強さを感じた故にリュート殿の力になりたいと思ったのだ」
「勇者の味方をしたのだからまた魔王軍が攻めて来る可能性は高いわ。ねえ、やっぱり北に逃げない?カスミと2人なら何とかなるわ」
「その話は以前にも断ったではないか。確かに北にはひっそり暮らしているヤマトの生き残りの民がいると聞いている。だが、拙者はこの地を離れるわけにはいかないのでござる」
カスミはどうしてそこまでこんな辺境に拘るのだろうか。僕は生きる為に逃げる事は悪い事だとは思わない。もちろんカスミとユキが仲間になってくれればとは思っていたけど。
「ほんと頑固なのは昔からよね。でも、うちはそんなカスミが好きなのよ」
「本当にすまない」
2人の関係は分からないけど、百合とは少し違った何かしらの強い結び付きを感じる。2人の会話が途切れたので僕は再び部屋で眠る自分に戻るのだった。
「この先でござる」
翌日、僕とミニはカスミの案内で集落の北の山を登っていた。ナーリは怪我の療養と再び魔王軍が来る可能性に備えて集落に残ってもらっている。
「これが祠?」
「見た目はただの洞窟の入り口にしか見えないようになってるでござる」
山の中腹に人がやっと通れるぐらいの洞窟の入り口があり、カスミがたいまつに火を点けて先頭で入っていく。僕も携帯ライトをつけて続き、その後ろをミニが付いてきた。
「え?」
最初は岩肌の洞窟だったのが途中からシンエドの地下と同じような金属の壁に変わって僕は驚く。
「本来は明りが点くそうだが、今は点かないのでござる」
「確かにシンエドと同じ技術の地下ですの。電源は落ちてるようですの」
そのまま通路を階段を上り下りして進むと広い空間に出た。
「あれがトリフネでござる」
「大きい……」
手に持ったライトを広間の中央に当てるとそこには30メートルぐらいありそうな大作ファンタジーゲームで見る飛行艇のような物が置いてあった。上部はラグビーボールみたいな形の気球と思われる形状で、その下に箱型の船室が付いているようだ。ただ、全体が金属で出来ていて、どういう動力で動くものなのかは分からない。
「ミニ、あれが何か分かる?」
「はい、シンエドにあった遊覧用のエアマシンと同型と思われますの。内部が壊れていなければ動く筈ですの」
「昔色々調べてみた者がいたが、入り口さえ分からなかったそうでござる」
「こっちですの」
今度はミニに僕達は付いて行く事になる。下の船室部分と思われる場所には扉のようなものは見当たらず、どこから入ればいいか見当がつかない。ミニは船室の何も無い壁に近付き、手を当てる。
「やっぱり電源は止まっているようですの。手動で開けますの」
ミニがトリフネの壁に手を当てると『コンッコンッ』と二回軽く叩く。すると壁がスライドし、赤いレバーが現れた。下に引く形状のようだ。
「今のミィのボディの腕力だと難しいですの。マスター、お願いしますの」
「分かった」
僕は力を込めてレバーを引くが、びくともしない。自分の力の無さが少し恥ずかしかった。
「リュート殿、手を貸すでござる」
横にカスミが並んで一緒に引っ張ると、『ギギギッ』と鈍い音がしてようやくレバーが下に下がった。すると横の壁部分が上に開き、トリフネの内部への入り口が現れた。けれど、まだ中は真っ暗だ。
「こっちですの」
ミニは目から光を出し、その中へと入っていく。僕とカスミもその後に続いた。中は綺麗な状態で、雰囲気的に新幹線の中に入ったような感覚だった。ミニはトリフネの船首と思われる方向へと進んで行く。
「中はこのようになっていたのでござるな」
「見た感じは劣化して無いですね」
「この先がブリッジですの。起動するか試してみますの」
ミニが扉を手動で開くと複数の座席とよく分からない機械が並ぶ広い部屋に出た。前面にはモニターと思われるパネルがあるが、前の総司令部と同じくどこも光っていない。ミニは中央にある座席に座り、その前のパネルやボタンをパチパチと触っていた。
「うーん、動きませんの。壊れて無さそうなので電源が落ちているみたいですの」
「ちょっと見せて」
僕が見て何とかなるとは思わないけど、とりあえずミニが座っている付近を調べてみる。SFアニメの戦艦のブリッジみたいに見えるけど、何のボタンやスイッチなのかは分からない。と、そこに僕は見覚えのある端子を見つけた。
(USB端子?本当にそうなのか?)
僕は試しにUSBケーブルを創り、携帯ライトとトリフネの端子を繋いでみた。トリフネの端子は本当にUSBと同じ形状で、ケーブルがきちんと嵌った。携帯ライトはソーラーと手回し充電が出来る仕組みで、USB端子も付いていて、それで携帯の充電が出来る機能も付いていたのだ。
「マスター、それは?」
「容量は小さいけどこのライトはモバイルバッテリーとしても使えるんだ。規格が同じみたいだし、何か起こるかなって。
って、本当に動いた!」
今まで真っ暗だったミニの座っている前のパネルが光り、その周囲のボタンなども光り出す。
「マスター凄いですの!
あ、消えちゃいましたの……」
「容量不足って事かな」
すぐにパネルの光は消え、携帯ライトをライトとして点けてみたらちょっと光ってすぐに消えてしまった。ライトの電気が使われたのは確かだろう。良く考えなくてもモバイルバッテリー程度の容量でこんな大きな機械が動くわけが無い。
「ミニ、この船の動力源ってミニとかメカニマルと一緒なの?」
「はいですの。外部の魔力と太陽光を集めて動く仕組みですの。ただ、この大きさですと魔力を集める為の機能も動かすのにエネルギーが必要で、それが足りてないと思われますの」
「それって今みたいにケーブルで外から取り込めば動くようになるかな?」
「ブリッジが少し稼働した事を考えれば出来ると思いますの」
それから僕とミニはトリフネの動力室を調べ、そこにUSBケーブルである程度の電力を送れば動くかもしれないという結論に至った。
「リュート殿、動きそうでござるか?」
「すぐには無理かもしれないけど、僕がソーラーモバイルバッテリーを複数作って、それを繰り返し供給すればうまく行くかもしれない」
「多少の破損はトリフネの自己修復機能が回復すれば大丈夫だと思いますの」
「よく分からないけど、可能性があるのならばよかったでござる」
カスミは黙って付いて来てくれたが、トリフネが使えそうなことを喜んでいた。僕はソーラーパネルの付いたモバイルバッテリーを複数作り、それをトリフネの動力部に繋いでみた。動力部の一部がそれで動き出し、ミニがそれを見て必要な電力量を割り出してくれた。
「ミィが24時間充電したバッテリーを供給し続ければ5日間で復旧出来る見込みですの」
「5日か。でもミニにそれを任せるのは大変じゃない?」
「ミィは戦闘では殆ど役立たずですの。マスターのお役に立てるなら嬉しいですの」
「分かった、頼むよ。今度お礼もするから」
「それは楽しみですの!」
どうやってミニに栄養補給するかを考えないとと僕は思いながら、ミニを置いてカスミと一旦集落へ帰るのだった。
「勇者チャン、どうだった?」
「うん、本当に空飛ぶ機械はあったよ。動く可能性もあって、今はミニに補給してもらってる」
「そっかー、それは良かったー」
「魔王軍は来てないでござるか?」
「今のところそういう動きは無いわね。トリフネの事を知らなければここから逃げ場は無いわけだし急いで無いのかもね」
ユキは複雑な表情で答える。昨日壁になって聞いた会話を考えると、僕達はユキにとっては部外者で厄介な存在ではあるのだろう。
午後になり、僕はある決意をして外を見回っているカスミに話しかけた。
「カスミさん、お願いがあります」
「なんでござるか?」
「僕に剣を教えて下さい」
僕は東に飛ばされてから自分の身体で戦えない事がずっと頭の片隅にあって、それを解決するのは今しかないと思っていた。トリフネが直るまで時間がかかるし、魔力はモバイルバッテリーを創るのに必要で他の物は作れない。ブレイブウォールが無くなった今、僕が出来るのは己を鍛える事だ。
「それは構わないが、短期間で覚えられるようなものでもないでござるよ?」
「今の僕は本当に素人なので、少しでも覚えられれば何かの役に立つ筈です」
「分かったでござる。ただし、拙者の剣術は特殊なもの、リュート殿の役に立つとは限りませんぞ。それこそナーリ殿に習った方がいいのではござらぬか?」
「直感でしかないんですが、僕はカスミさんの技の方が役に立つ気がするんです」
今まで見てきて、ナーリの戦い方はナーリ自身のパワーを活かした技術だと思った。転生して筋力は増したけど、僕自身は別にそこまで力は無い。筋トレで鍛えても一気には増えないだろう。一方カスミの戦い方はガルブレのアスミと同じなら敵の弱点を狙って鋭い一撃で決めるものだ。力は無くても武器さえ強力な物を使えば似たような事が出来るかもと思ったのだ。
「そうでござるか。では、基礎とリュート殿が出来そうな技をお教えしよう」
「ありがとうございます!」
そうしてしばらくは毎日一度ミニにモバイルバッテリーを持って見に行く他はカスミに剣を習う事になった。集落の裏の広場で僕は木刀を持って素振りや打ち込みを何度も行う。カスミの教え方は厳しかったが、無理を言ってくる会社の先輩とは違って、ちゃんと理屈の通ったもので、僕は耐える事が出来た。少しずつだけど剣の扱いが上達している実感もあった。
「戦場で重要なのは全体を一つの空間として捉える事、行動する選択肢を少なくする事、そして一度決めたら迷わず突き進む事でござる。速度と気合は時としてどんな困難も突き通すでござる」
「分かりました」
剣術を習い始めて4日目の午後、休憩を取りながらカスミが剣術とは別の事を教えてくれた。確かに僕はどうしようかと悩んでその間に味方が傷を負う事が多かった。自分も直接戦闘するなら、もっと素早く決断出来ないといけない。銃や爆弾で戦う現代の戦争とは違い、この世界が剣と魔法で戦う独自やり方に発展している事が肌で感じられた。
「まあ、拙者の剣術も戦い方も師の教えをそのまま伝えてるだけでござるが」
「でもそれが実践出来て、強いカスミさんは凄いと思います。師匠はどんな方だったんですか?」
「拙者の師は父でござる。厳しい人だったが、サムライとしての腕は今の拙者よりずっと上でござった……」
カスミが寂しそうな顔をしたので、これ以上聞いてはいけない気がした。本当に今のカスミより強いなら名のある剣豪だったのかもしれない。
「さて、休憩はここまでにして続きと行こうでござる」
「はい!」
僕は気合を入れて限られた時間で何とか剣を使えるものにしようと木刀を振るのだった。
「どう?」
「これで起動する筈ですの」
ミニがトリフネの補給を始めて5日目になり、ようやく必要なエネルギーが補給出来た。ミニが動力室の主電源起動のボタンを動かす。すると動力室に明りが灯り、周囲のパネルにも文字が浮かび上がった。最初赤く点灯したランプが緑色に変わり、機械の駆動音が部屋中に響く。
「成功ですの!後は自動修復が完成すれば浮上出来る筈ですの」
「ありがとう、ミニ!」
僕はミニの頭を撫でてあげる。
「うまく行ったのでござるか?」
「多分。まだ本当に飛べるかは分からないけど」
「そうでござるか。
リュート殿、折り入って話があるでござる」
「何でしょうか?」
カスミにはトリフネを教えてもらったし、剣も習っているので何か恩返しがしたいとは思っていた。また裸を見せてくれと言われたら少し困るけど。
「もしトリフネが本当に空を飛べたなら、拙者も連れて行ってくれぬか?」
「それは構いません、というかむしろ付いて来て貰えたら嬉しいですが、カスミさんはここから離れるつもりが無いんじゃなかったでしたっけ?」
「拙者もそのつもりでござった。だが、リュート殿がトリフネを操れる勇者であるなら話は別なのでござる。魔王軍と戦い、その強大さも思い知った。いつまでの過去のしがらみに縛られてはいられないのでござる」
「じゃあ、一緒に魔王軍と戦ってくれるんですか?」
カスミは本当に強いので、仲間になってくれるのならかなり助かる。
「拙者のような者で良ければ。それに、リュート殿の剣の指導もここで別れたら不満が残るでござる。せめて、模擬戦で一本取れるぐらいになって貰えねば」
「それは一生無理な気もしますが……」
「まあ、それは半分冗談でござるよ」
カスミが笑って答える。正直自分でもまだまだだと思っていて、引き続き剣の指導をしてくれるならそれも大分助かると思った。
ブリッジに移動し、ミニが色々と調整してくれる。僕ではどうにも出来なかったところなのでミニが居てくれて本当に助かった。ポンコツアンドロイドと思ったのは撤回しなければならない。
「自動修復も完了しましたの。これで飛行出来る筈ですの」
「分かった、じゃあ、お願い」
「トリフネ、起動ですの」
ブリッジのモニター全てに電源が入り、トリフネが格納されていた祠内部の景色がガラス窓のように周囲のモニターに浮かび上がる。天井もまるでガラスのように真上が見え、祠の上壁が左右に割れて空からの光が入ってきた。
「上昇開始ですの」
「「おお」」
軽い浮遊感を感じ、トリフネが上昇していくのが分かる。僕とカスミは急いで近くにある席に座った。気球に乗った事は無いけど、気球で浮かぶとこんな感じなんだろうなと思った。
「凄いでござるな。本当に宙に浮いてるでござる」
「こんな技術が昔にあったんだ」
「あくまで娯楽用の機械ですの。武装は積んで無いですし、攻撃に対する防御も弱いですの」
「それでも十分だよ」
魔王軍に制空権を取られているとは聞いたけど、大陸へ向かう手段が他に無いならこれで何とかするしかない。モニター越しに眼下に小さくなった祠の穴が見え、かなりの高度まで上がったことが分かる。
「集落まで移動しますの」
「これを見たらユキも驚くでござるよ」
「本当に動いてよかった」
数十分かかった山道もトリフネで移動するとあっというまに着いてしまった。集落の広場にギリギリトリフネは着陸出来て、集落の人達が出てきてそれを見て驚いていた。ユキとナーリも外に出てきて集まってくる。
「凄いわね、本当にトリフネを動かせたのね」
「全部ミニのおかげです」
「いえ、マスターがバッテリーを創ってくれたおかげですの」
「これで大陸まで行けるんだよねー」
トリフネを降りるとみんなそれを見上げる。外で改めて見ると青と白の流線形のボディは美しく壮大さが感じられた。こんな巨大なものが空を飛ぶのだから凄いなと再度実感する。
「ユキ、拙者はリュート殿に付いて行く事に決めたでござる」
「まあ、そんな事になるんじゃないかと思ってたわよ」
「勝手に決めてしまってすみません。水と食料とかを準備したらすぐに旅立とうと思ってます」
「食料でしたら好きなだけ持って行って下され」
集落の老人達が食料を持って来てくれて、出発の準備はすぐに終わりそうだった。
「ねえ、旅立つのはいいけど、どっちに行けばいいか分かってるの?」
「ミィもトリフネも大陸の位置情報は持っていませんの」
「ナーリは分かる?」
「東の国だから西に行けばいいって事ぐらいしか分からないかもー」
「すまん、拙者も旅していた時は街道を進んだだけで、正確な地理は分からんでござる」
ユキに問われて移動手段は確保したが、正確な行き先が分かっていなかった事が判明する。トリフネの速度はあるし上空から見れば大陸のある方向は分かるが、目的地であるアレサング国に遠回りで向かう事になる可能性が高い。
「しょうがないわね、うちが付いていってあげるわ。これでも吟遊詩人で旅していた分、地図は頭に入ってるのよ。それに、こんな可愛い子達を見つけたのにすぐに別れるのは勿体ないからね」
「本当ですか?それは助かります。でも、2人ともいなくなったら集落は……」
「わしらの事は気にしないでくだせい。老い先短い身、もともとカスミもユキも居ないところで暮らしておったのじゃから」
「すみません。なるべく早く魔王を倒して平和にしますから」
僕はすまないと思いつつ、そんな言葉しか言えなかった。ここに魔王軍が再び現れない事を祈るばかりだ。トリフネに荷物を詰め込み、出発の準備が整う。ブリッジの席にみんな座っているのを確認する。
「みんな準備出来た?」
「リュート殿、合図をお願いするでござる」
「僕でいいんですか?」
「この中のリーダーはリュート君でしょ」
ナーリもミニも僕を見て頷く。
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