SKM ~そんな求婚お断りっ! 魔王にされた少女

モノリノヒト

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第3章 戦争編

そんな35話 「急転する運命」

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 早い。
 いくらなんでも早すぎる。

 先生が帰宅したのは、ほんの数時間前だ。
 たったこれだけの間に、隣国の教会へ連絡を取ったというのか。

 元々隣国の士気はさほど高くなかったようだし、それが原因で戦線後退が早まった…?
 はたまた姉さまの作った長城が原因か。
 それともやはり先生がやってくれたのだろうか。

 早すぎると、いぶかしんでいるボクだが、先生ならやりかねない、と思うところもある。

 しかし、何にせよ、これでクーデターは遅れるはず。
 戦争の正面衝突も先送りだ。

 このまま萎えて戦争自体が終わってくれれば良いが、そこまでは望めないだろう。
 巨額の金が動いてしまっているからだ。
 これは国という組織が、国家を運営する上で、看過できない事項である。

 それにしても、隣国もずいぶん無茶な戦争に加担したものだ。
 クーデターが成功すると本当に思っているのだろうか。
 それとも、本当に勝てる要素を隠している…?

 まあ、何にせよ、今は朗報として受け取っておこう。
 明日姉さまに教えてあげないとな。きっと喜ぶ。

 ボクは緩んだ頬をそのままに、窓から天空を見上げた。
 月の光すらない夜の闇。

 目を凝らせば曇天どんてん模様の夜空がうっすらと見える。
 明日は雨が降るかもしれない。

 明日からまた忙しくなるだろう…。

 * * *

 翌日。

 私の下にもたらされたエグザスからの報告は、とても喜ばしいものだった。
 戦争後退による、延期。

 エグザスの話では、戦争自体を止めさせるのは大変難しい事であるらしい。
 試しに方法がないか聞いてみたが、大金を用意するとか、国を亡ぼすとか、とても使える手段ではなかった。
 心なしか、ローウェルも苦い顔をしているように見えた。

 ローウェルは私の顔を見ると「ヘッ」と言いたそうな顔をするのだが、当時の鋭さはまったくない間の抜けた顔に変わる。
 その様が、まるで笑わそうとしているかのようで、笑いをこらえるのが大変だ。

 だって本人はこれで大真面目なつもりなわけだから、笑っちゃいけないと思うんだ。
 ……うん。だからやめて、その顔…ふふ…。

「姉さま、アイエアイについてですが、ボクの考察を述べます」
「頼むわ」
「ウェイ」

 ……本当に真面目なのかしら。

「アイエアイの症状は、どの医学書にも載っていません。
 情報伝達を著しく阻害する病気。
 自然現象では考えにくいものです」

 自然現象で考えにくい…。
 とすれば、私にも覚えがある。

「呪い?」
「…凄いですね。姉さまから、そんなアンダーグラウンドな言葉が出てくるとは。
 呪いに近いものはあると思います。つまり…」

「魔力、ね」
「…驚きました。その通りです」

 本当に驚いた顔をしているエグザス。
 ふふふ、一本取ったわ。

「なので、魔力の流れを阻害・切断・相殺などができれば一定の効果は見込めるのではないかと思っています」
「なるほど。魔力弾でもぶつけてみたらいいかしら?」

 エグザスの顔が急に白けた。
 あら、調子に乗りすぎたかな。

「その辺りの粗雑さは、変わってないんですね。
 見直した分の好感度を返してください」
「好感度って…十分あるでしょ?」

「本当にそう思っていますか? 本当に?」
「えぇ…? ないの…?」
「ハハハ!」

 私達、姉弟のやり取りを見てローウェルが笑う。
 笑う時は、普通なんだなぁ…。

「なるほど、笑う事はできるんですね。
 やはり何かを伝えようとした時にほうける呪いのようです」
「なんでローウェルにそんな事を…」

「単純に考えて、口封じでしょう。
 それならば命を奪った方が早いのかもしれませんが、こうして生かされているという事は、何らかの意図が必ずあります」

 何らかの意図…。

「例えば?」

「…この状態のアイエアイを見せる事で、見せた関係者に何らかの反応を起こさせる事が目的とか」
「何らかの反応」
「はい、何らかの反応です」

 二人同時にローウェルを見る。

「ウォ…ウォエェェ!?」

 ローウェルが一瞬真面目な顔になり、すぐに呆けた顔になる。
 この変化のギャップはヒドイ…。笑っちゃダメなのに、ダメなのに…。

「ねえエグザス。これ、笑っちゃダメよね?」
「ダメです。彼は真面目です」
「でもだって、ウォ・エェェって…」
「でもも、だっても、ありません。失礼だと思わないんですか」
「う…」

 ごめんローウェル。
 そんなだらしない顔してても、真面目なんだもんね。
 早く元に戻してあげなくちゃ。

「さて、アイエアイ。ここに座ってください」

 エグザスが広間の中央にイスを召喚し、ローウェルをそこに座るよううながす。
 ローウェルは不思議そうな顔をしながらも、素直に従う。

「これから魔力の流れを見ます。
 姉さまも手伝ってください」

 えっ、魔力の流れを見るって、何? どうやるの?

 言われるがまま、ローウェルの肩に手を置く。
 私はローウェルの左肩、エグザスは右肩だ。

「行きます!」

 エグザスがそう言うと、ほどなくして肩に置いている手がジンジンとシビレのようなものを感じてきた。
 これが流れている魔力なのかな。

 意識を集中してみると、確かに自分の中を流れている魔力と同じような感じがする。
 と、突然魔力が途絶えた。

「ダメですね。ボクではさっぱりわかりません」

 さっきのはエグザスが通していた魔力だったのか。
 じゃあ私が同じように流せば…。
 …流して、どうするの?

「ねえ、エグザス。魔力の流れっぽいものは感じたんだけど、何をしてたの?」

「………姉さま」

 私の質問に、落胆を見せるエグザス。
 うわー、これ怒られるやつだ。

「…好感度だだ下がりです。株価急落」
「だから好感度って」

「いいですか姉さま。魔力を流し、その流れに集中してください。
 何かに引っ掛かったり、怪しい魔力が混ざったら、その場所に注意してください。
 ああでも、姉さまの魔力を流し込みすぎてはいけませんよ。
 一般人に姉さまの魔力は高すぎてオーバーフローを起こし、最悪アイエアイが破裂します」
「は、破裂!?」
「はい。四肢が爆散します」

 さらっととんでもない事を言う。
 ほらー、このローウェルの嫌そうな顔!

 完全にひきつった顔で、冷や汗をたらしているローウェル。

「私に任せなさい、ローウェル!」

 ここは魔王らしく、ビシッと決めないと。
 って、あれ…?

 私の思惑と裏腹に、さっきより嫌そうにしているローウェル。
 ちょっとは安心して欲しいんだけど。

「まあ、呪いかどうかはともかく、魔力関連である可能性は極めて高いと見ています。
 アイエアイ、あなたを救うには姉さまに任せるしかないんですよ。
 例え、四肢が爆散するとしても」

 おどしてる…。

 さすがのローウェルも遠い目をしはじめた。
 ああ、これはアイエアイモードじゃないな、普通に呆けてる時の顔だ。

「じゃあ、行くわよ」
「…ウィ」

 さっきの流れを意識して、魔力を少しずつ送る。
 反対側の肩に手を置いているエグザスが適宜アドバイスをくれている。

「そう、そうです。少しずつ送る量を増やしてください。
 アイエアイ、辛くないですか?」
「アイエェ…」
「大丈夫そうですね。姉さま、もっと魔力を送りましょう」
「ウェエアァ!?」

 本当に、大丈夫なのかな…。
 これ、結構辛い。

 他人に魔力を流すのって、こんなに繊細なコントロールが必要になるなんて、知らなかった。
 ともすれば、大量の魔力が流れそうになるのを、意識を集中する事で防ぐ。

 送り込んだ魔力を、その場に溜めてはいけないので、魔力を流すように勢いをつける。
 留まっている魔力を押し出すようにして循環させるのだろうが、これが難しい。

 送るだけで精一杯で、魔力の流れなんて見極められない。
 エグザスが見つけてくれるのを期待するしかない。

「エグザス…これ、きつい…」
「そうでしょうね。粗野な性格の姉さまには辛い作業でしょう」
「ひ、ひどい…」

 会話に集中する事はできない。
 魔力を流し過ぎたら、ローウェルは爆散してしまうかもしれない。
 いつものおどし文句なのかもしれないけど、万が一本当だったら…。

「いいですね。ちゃんと流れてきています。もう少し量を増やしてみましょうか」

 ローウェルの体温がじんわりと上がってきているのを感じる。
 魔力が体内を循環している証拠だ。

「…おかしいですね。アイエアイは魔力がないのでしょうか。
 どんな人間にも、わずかでも魔力はあるはずなのですが」
「アェェ…」
「どういう、こと…?」

「…憶測がすぎるので、今はこのまま続けてください」

 エグザスの真剣な顔に気おされ、微妙なコントロールで魔力を送り続ける。
 長い時間をかけて、ようやく最初の魔力が戻ってきたのを感じた。

「あれ、これ…」
「何か気付きましたか?」

「うん、多分だけど。
 私の魔力と一緒に、別の魔力がひっついてきてる、気が、する」
「なるほど」

 感じたままを言ったけど、これがどんな魔力なのかは、私にはわからない。

「マオウ!」

 その時、真剣な目をしたローウェルの顔がこちらを振り向いた。
 しっかりと聞き取れる発声。
 しかし。

「マオゥエエェェ」

 真面目な顔からの、急な破顔。
 そしてだらしのない声。
 これは、無理。耐えきれない。

「あはははは!!」

 我を忘れ、思いっきり大笑いしてしまった。

「姉さま、コントロール!」

 エグザスの声で我に返った時は既に遅く。

 大量の魔力がローウェルの身体に浸透してしまっていた。

「ローウェル! ごめん、ローウェル!!」
「ア…ア…ア…」

 ローウェルの身体が光に包まれる。

「くっ! オーバーフローバーストしてしまったか!?」

 強い光が広間中を包み、目を閉じていても光が目に突き刺さる。

「エグザス、目が、目が!」
「目は開けるな! 手を使って目をおさえろ!」

 ローウェルの肩から手を離し、両手でまぶたを押さえる。
 それでも肌を貫通する光の痛み。

 しばらく痛みに耐えていると、次第に痛みは引いていった。
 恐る恐る手をまぶたから離すと、光が収束していく感覚を覚えた。

「エグザス…」
「光は大丈夫そうだ。 あとは、アイエア…イ…」

 絶句するエグザス。
 言葉は常に言い切っている彼が、二の句を忘れるとは珍しい。

 ゆっくり目を開けてみると、世界が真っ白に染まっていた。
 まぶたの上がチカチカと痛む。

 次第に世界は色を取り戻し、驚くエグザスを視界にとらえた。

「……?」

 エグザスの視線の先は、ローウェル。

 ま、まさか、ローウェルが爆散しちゃったとか…。

 見たいような見たくないような、でもやっぱり見ないといけないような気分が心を支配する。

 そうだ、もし爆散してしまったのであれば、これは私がやってしまった事。
 その責任を負っていく為にも、目をそらしてはいけない。
 現実を、見なければ…。

 覚悟を決めた私は、薄目でローウェルの方に視線を向ける。
 身体は、ある。
 だが…。

「………どちらさま?」

 女の子。
 身長は130センチぐらいだろうか。
 ドレスのような服だと思ったが、よく見ればジャケットにフレアスカートという珍しい格好をしている。

 小さな見た目とは裏腹に、芯の通った強い光を宿す目に、目を奪われた。

「姉さまが…二人?」

 どういうこと?
 エグザスの言っている意味がわからない。
 私は私。ここにいるよ?

 女の子から視線を外すと、見た感じは五体満足なローウェルがいた。

 良かった、爆散してない。

 一安心すると、女の子が動いた。
 視界で動く姿に、思わず視線を向けてしまう。

 腰に差した剣は刺突用の細剣だろうか。
 小さな子用なのか、短剣よりは長いものの、一般的な細剣よりはかなり短い。

 女の子は礼儀正しい仕草で、うやうやしく一礼をすると、とんでもない事を口走った。

「初めまして、お母様。
 わたしはウスシィ。未来から来ました」

 
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