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最終章 真実編
そんな50話「弟」
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「こんな夜更けに、何の御用ですかな?エグザス様」
姉さまとは別行動をとっていたボクとローウェルは、ウスシィが潰さなければならないと言っていたプラムの教会へと潜入していた。
「リー先生…」
ボクが考える限り完璧な潜入計画を立てた。
しかし、目の前にいる人物は悠然とその場に立っている。
明かりのない教会内では、その表情を伺うことはできず、藍色の神父服だけが不気味な存在感を醸し出す。
会うはずのない存在。
後ろに控えているローウェルの緊張が伝わってくる。
───やるか?と。
Noの意思を込め、一歩前に踏み出す。
誰にも気づかれず地下施設に潜入する計画は練り直しだ。
仮想敵として先生も含んではいたが、いきなり荒事に移行するわけにもいかない。
できれば先生は除外したいからだ。
恩義を感じている事もあるが、ボクの手本であり目標となっている存在。
それがリー先生。
彼は、何事も知りすぎている。
ボクの考え方、マキアート家に関する情報。
彼のもつ多くの人脈。
そして何より、このボクに師事できるほどの器を持った人物…。
敵に回せばこれほど恐ろしい人もいないだろう。
「エグザス様」
何を言おうか迷っていると、リー先生はいつもの微笑みを見せ、諭すように語りだした。
「昨今は何かと危険が漂っておりますゆえ、このような深夜のご来訪はお断りしたいところでございます」
先生はちらりとボクの後ろに目線を送ると、すぐにボクへと目線を戻す。
「ですが、せっかく参られたのです。お茶でもお出しいたしましょう」
「いえ、結構です」
にべもなく断る。
「…そうですか」
「リー先生、以前お会いした時のお言葉を覚えておいででしょうか」
先生の目が少しだけ開かれる。
「…ええ、もちろんです。何でもおっしゃってください」
…よし。
先生との約束は守られる、必ずだ。
それがボクと先生との絆であり、師弟の証でもあるからだ。
「単刀直入にお尋ねします」
意を決して申し出る。
「この教会に地下施設があることをご存知ですか?」
先生の目をじっと見つめる。
目の奥に動揺は見られない。
たたずまいにも大きな変化は見られない。
これでごまかしているのなら、とてつもなく巧妙だが…。
「地下施設…ですか」
先生はおもむろに手を持ち上げ、自分の髪をくしゃくしゃと触る。
三人の間に緊張が走る。
ローウェルはいつでも襲い来る危険に対して、ボクは先生への期待を込めて。
柔らかな微笑みのまま、先生は何を思うのか。
ややあって、先生が口を開いた。
「存じ上げません」
それは、否定の言葉だった。
存じ上げない。
それは否定の言葉だ。
地下施設の存在など知らないという、この問題からの実質撤退宣言に他ならない。
「そうでしたか」
安心した。
人の発する言葉を鵜呑みにしてはならない、裏打ちされていない言葉を信じてはいけない…。
そう何度も先生に教わっていたはずのボクは、先生の一言で安心してしまったのだ。
そんなボクの様子を見た先生は、一段と柔らかな微笑みを浮かべ、またおもむろに自身の頭頂部に手を当てた。
「エグザス様ほどの方が、何の証拠もなしにそのような事を述べられるとは考えにくいものです。
しかし、私は長くここに勤めておりますが、地下に施設があるなど、聞いたこともありません」
そうだろう。
「よろしければ明日、またお越しください。
その時は、子供達も動員して、地下施設探しといきましょう」
確かに人手も多く、明るい時間に気兼ねなく探索できるのであれば、確実な結果が得られるだろう。
だが、それでいいのか?
ボクは大切なことを見落としていないだろうか。
姉の娘を名乗る、ウスシィというよくわからない存在にそそのかされ、先生を敵に回すような事をしてしまった。
この時点ですでにボクらしくない。
さらに先生が『地下施設を知らない』と答えたことで、ひどく安心してしまっている。
弛緩。
緩んだ緊張を取り戻すことはとても難しい。
故に、一大事には決して緊張を緩めてはならない、そう教わったはずだ。
他にも先生に教わった大切なことが…
「さあ、エグザス様」
大切なことを思い出そうとしていたボクは、先生の呼びかけに思考を中断させられる。
「……はい、わかりました。
それでは、また明日、ご協力を伺いに参ります」
ローウェルが「いいのか?」と言わんばかりの表情でこちらを見る。
───いいんだ、これで。
『にてんしっぱい、きぼうあたわず』
秘密の暗号文を知る、謎の女、ウスシィ。
あいつがそもそも怪しいんだ。
あんな女の言う事を信じる方がおかしい。
信頼できる要素など、何ひとつ…。
………。
信じられるか、ボクの願いがどちらも叶わない未来など。
そんな未来が来るなどボクは認めない。
ウスシィの言うことなど、信じるに値しない。
ボクの道は、ボクが切り開く。
──翌日。
能天気にも仮面の紳士とやらを追いかけて出かけていく姉さまに、得も言われぬ憤りを感じながらも、ローウェルと共に教会へと向かう。
リー先生はもちろん、教会の子供達にも手伝ってもらうが、地下施設など見当たらない。
首をかしげるローウェルだが、これでボクは確信した。
ウスシィ、あの女はボク達をだますペテン師だと。
姉さまとは別行動をとっていたボクとローウェルは、ウスシィが潰さなければならないと言っていたプラムの教会へと潜入していた。
「リー先生…」
ボクが考える限り完璧な潜入計画を立てた。
しかし、目の前にいる人物は悠然とその場に立っている。
明かりのない教会内では、その表情を伺うことはできず、藍色の神父服だけが不気味な存在感を醸し出す。
会うはずのない存在。
後ろに控えているローウェルの緊張が伝わってくる。
───やるか?と。
Noの意思を込め、一歩前に踏み出す。
誰にも気づかれず地下施設に潜入する計画は練り直しだ。
仮想敵として先生も含んではいたが、いきなり荒事に移行するわけにもいかない。
できれば先生は除外したいからだ。
恩義を感じている事もあるが、ボクの手本であり目標となっている存在。
それがリー先生。
彼は、何事も知りすぎている。
ボクの考え方、マキアート家に関する情報。
彼のもつ多くの人脈。
そして何より、このボクに師事できるほどの器を持った人物…。
敵に回せばこれほど恐ろしい人もいないだろう。
「エグザス様」
何を言おうか迷っていると、リー先生はいつもの微笑みを見せ、諭すように語りだした。
「昨今は何かと危険が漂っておりますゆえ、このような深夜のご来訪はお断りしたいところでございます」
先生はちらりとボクの後ろに目線を送ると、すぐにボクへと目線を戻す。
「ですが、せっかく参られたのです。お茶でもお出しいたしましょう」
「いえ、結構です」
にべもなく断る。
「…そうですか」
「リー先生、以前お会いした時のお言葉を覚えておいででしょうか」
先生の目が少しだけ開かれる。
「…ええ、もちろんです。何でもおっしゃってください」
…よし。
先生との約束は守られる、必ずだ。
それがボクと先生との絆であり、師弟の証でもあるからだ。
「単刀直入にお尋ねします」
意を決して申し出る。
「この教会に地下施設があることをご存知ですか?」
先生の目をじっと見つめる。
目の奥に動揺は見られない。
たたずまいにも大きな変化は見られない。
これでごまかしているのなら、とてつもなく巧妙だが…。
「地下施設…ですか」
先生はおもむろに手を持ち上げ、自分の髪をくしゃくしゃと触る。
三人の間に緊張が走る。
ローウェルはいつでも襲い来る危険に対して、ボクは先生への期待を込めて。
柔らかな微笑みのまま、先生は何を思うのか。
ややあって、先生が口を開いた。
「存じ上げません」
それは、否定の言葉だった。
存じ上げない。
それは否定の言葉だ。
地下施設の存在など知らないという、この問題からの実質撤退宣言に他ならない。
「そうでしたか」
安心した。
人の発する言葉を鵜呑みにしてはならない、裏打ちされていない言葉を信じてはいけない…。
そう何度も先生に教わっていたはずのボクは、先生の一言で安心してしまったのだ。
そんなボクの様子を見た先生は、一段と柔らかな微笑みを浮かべ、またおもむろに自身の頭頂部に手を当てた。
「エグザス様ほどの方が、何の証拠もなしにそのような事を述べられるとは考えにくいものです。
しかし、私は長くここに勤めておりますが、地下に施設があるなど、聞いたこともありません」
そうだろう。
「よろしければ明日、またお越しください。
その時は、子供達も動員して、地下施設探しといきましょう」
確かに人手も多く、明るい時間に気兼ねなく探索できるのであれば、確実な結果が得られるだろう。
だが、それでいいのか?
ボクは大切なことを見落としていないだろうか。
姉の娘を名乗る、ウスシィというよくわからない存在にそそのかされ、先生を敵に回すような事をしてしまった。
この時点ですでにボクらしくない。
さらに先生が『地下施設を知らない』と答えたことで、ひどく安心してしまっている。
弛緩。
緩んだ緊張を取り戻すことはとても難しい。
故に、一大事には決して緊張を緩めてはならない、そう教わったはずだ。
他にも先生に教わった大切なことが…
「さあ、エグザス様」
大切なことを思い出そうとしていたボクは、先生の呼びかけに思考を中断させられる。
「……はい、わかりました。
それでは、また明日、ご協力を伺いに参ります」
ローウェルが「いいのか?」と言わんばかりの表情でこちらを見る。
───いいんだ、これで。
『にてんしっぱい、きぼうあたわず』
秘密の暗号文を知る、謎の女、ウスシィ。
あいつがそもそも怪しいんだ。
あんな女の言う事を信じる方がおかしい。
信頼できる要素など、何ひとつ…。
………。
信じられるか、ボクの願いがどちらも叶わない未来など。
そんな未来が来るなどボクは認めない。
ウスシィの言うことなど、信じるに値しない。
ボクの道は、ボクが切り開く。
──翌日。
能天気にも仮面の紳士とやらを追いかけて出かけていく姉さまに、得も言われぬ憤りを感じながらも、ローウェルと共に教会へと向かう。
リー先生はもちろん、教会の子供達にも手伝ってもらうが、地下施設など見当たらない。
首をかしげるローウェルだが、これでボクは確信した。
ウスシィ、あの女はボク達をだますペテン師だと。
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