日本列島壊滅の日

安藤 菊次郎

文字の大きさ
2 / 17
第二章

予言

しおりを挟む
    (一)
 「お茶でもご馳走したいんだが、これから会議がある。申し訳ない。」
 榊原は警視庁正面入り口まで送りながらしきりに恐縮して頭を掻いた。石井は先だってご馳走になったお礼のために榊原を訪ねたのだが、ただそれだけというわけでもなかった。心の迷いを榊原に断ち切ってもらいたかったのだ。

  石井は重要参考人の目撃者であることが心の重荷になっていた。もしかしたら目撃した女性が、初恋の人、保科香子かもしれないという不安を拭い去ることが出来ず、だからといって元刑事である自分が目をつむる訳にもいかなかった。
  とはいえ積極的に千葉県警に出かける気にもなれず、目撃情報を、関係ないと思うが、と但し書き付きで榊原との雑談のなかに紛れこませた。榊原はその場で千葉県警に電話を入れ、石井の目撃情報を提供した。刑事としては当然の行為だった。
  電話のやり取りから、石井の証言が、重要参考人の輪郭をさらにくっきりと浮かび上がらせたことは間違いない。榊原は正面玄関の手前で立ち止まると、そのことに触れた。
 「そのホテルの受付の婆さんは、小さな窓から彼女を覗いて見たらしい。だからちらっとしか見ていない。石井君の証言は婆さんのうろ覚えを補強することになった。」
 「ええ、あの特徴のある顔、スタイルは忘れられませんから。」
 「それじゃあ石井君は、女性がたとえ別の格好で街を歩いていたとしてもそれと分かる?と言うことだな。」
 「ええ、分かります。身長が165~6(センチ)、バストはDカップ、外人のような鼻梁と尖った顎が特徴の女が、殺された男の周辺にうじゃうじゃいるとは思えませんからね。」
 「まったくだ。千葉県警も飛び上がって喜んでいた。捜査本部が置かれた直後に情報が飛び込んできたんだからな。いずれ呼び出しがあると思うが協力してやってくれ。」
 「ええ、そのつもりです。」
と答えたものの、自分が肝心なことを喋っていないことに気付いた。その際立った特徴である顎の黒子のことを話していない。あの女性が保科香子かもしれないという恐れがそうさせたのだ。義務を果たした安堵感とともに、その恐れが徐々に心に広がっていった。
 「よし、ここで別れよう。今日は本当にご苦労さん。また一杯やろう、いつでも電話をくれ。でも今度は軽くやろうや。」
 「ええ、僕も賛成です。この間はちょっと重過ぎました。」

  榊原と別れると、石井はひさびさに日比谷公園を散策した。9月半ばだというのにまだ残暑が厳しく、公園は人もまばらで、若いカップルが熱い日差しにもめげず二人だけの恋愛物語に思い出の1ページを加えようと木の回りでじゃれあっている。石井は苦い思いとともに二人の姿を見詰めていた。
  この公園を二人で歩いた3年前の情景が目に浮かぶ。石井の前を艶やかな髪の女性が手を後に組んで歩いている。その目は煌いて自信に満ちていた。石井は陸上で鍛えたというカモシカのようなその脚を眩しげに見ていた。突然、振り向いて言う。
 「最近の君の行動は理解を超えるわ。前の君とは全然別人だもの。」
 石井は押し黙ったままだ。二人が男女の関係になってまだ一月にもなっていなかった。その一月の間に石井の周辺に激震が走ったのだ。勤務する池袋署の副所長の自殺、尊敬する先輩の変節、石井は酒に走るしかなかったのだ。
  彼女は石井を見詰めていた。石井の視界には彼女の赤いウオーキングシューズがぼんやりと映っている。目を合わせるのが面倒だった。ため息をつき、顔を上げた。案の定、彼女の冷たい視線が石井の目を貫いた。
 「あの情報を流したのは、石井君じゃないの?週間話題に意味深な記事が出ていたわ。この頃の貴方を見ていると、そうだとしても不思議じゃない。ねえ、どうなの。もしそうなら、私、貴方を見損なっていたかもしれない。」

  石井が組織を裏切る行為に及んだのは組織そのものに矛盾を孕んでいるとつくづく感じたからで、真実をマスコミに流すしかないという切羽詰った思いからだった。彼女がどこまで自分の側にいてくれるか測りかねていた。しかしこの時、石井は彼女が組織の側に立っているのを、ただ酒に濁った空ろな目で眺めていただけだ。
  彼女は今もあの警視庁のビルの中にいるかもしれない。今日、もしかしたら会えるかもしれないという淡い期待を抱いて来たのだ。榊原に彼女のことを聞きたかったが、とうとう口にだせずに別れてしまった。石井は深い溜息をつくと公園の出口へと向かった。

     (二)
  三枝節子と待ち合わせたのは新宿プラザホテルのレストランで、ここで会うのは二人にとって二度目のことである。三枝は、二ヶ月ほど前ふらりと事務所を訪れ仕事を依頼した。仕事の内容はストーカー行為の証拠を揃え、相手と交渉することだった。
  そのストーカーの社会的地位を考えれば当然交渉に乗ってくると思えた。石井は相手に証拠を突きつけ、社会的制裁を匂わせつつストーカー行為を止めることに同意させたのだが、その後しばらくして、三枝は差出人不明の手紙を受け取った。
  三枝は、電話でその手紙が例のストーカーからではないかと不安を滲ませ、石井に話を聞いてほしいと言ってきたのだ。それが一月前のことだ。食事をしながら手紙を読ませてもらったが、そこには8月中旬にミラノで列車事故が起こり、死者は100名を越えるとたった一行書かれているだけだった。
  本人は深刻な顔で悩んでいる風を装っていたが、手紙の内容が自分に関わりがなく、その日はたわいないお喋りに終始し、最後に石井はプライベートの携帯の番号を教えるはめになったのだが、今日、事務所に戻ろうとした矢先、その携帯が鳴ったのだ。
  二通目の手紙が舞い込んだと言う。石井はため息をつき新宿に向かった。三枝は独身の勤務医で、歳は石井より一つ年上だ。美人で魅力的な女性だが、石井にとって、彼女のあまりにあっけらかんとした性格とその積極性にペースが乱されということもあり、苦手のタイプだった。

  レストランに入って三枝の名前を言うと窓側の席に案内された。少し遅れると伝言があった。石井は生ビールを飲みながら新宿の街を見下ろしていた。9月下旬というのに秋の気配はまったくない。今日も観測史上最多の夏日を更新したという。
  三枝は小一時間遅れて席についた。
 「ごめんなさい。腎臓に食い込んでいる癌を摘出するのに手間取っちゃって。全部取っちゃえば簡単だったんだけれど……あら、興味ないわよね、こんな話。ほんと、ごめんなさい、遅れちゃって。本当は迷惑だったんじゃありません、お金にならないお相手で。」
 「いえいえ、迷惑なんて思っていません。大切な客さんですから。」
 「相変わらずガードが固いわね。このあいだはお友達になってくれると言ったじゃない。もう忘れたの。」
 「いえ、覚えています。僕はどうも照れ症で、一度食事した程度ではなかなか打ち解けられない性質で。」
 「じゃあ、今日はベッドインする。」
 石井はどぎまぎし、顔がかっと火照るのが分かった。三枝は石井のそんな様子を、にやにやしながら眺めていたが、すぐに言葉を続けた。
 「冗談よ、冗談。安心して。私もそこまで軽薄じゃないわ。でも、がっかりしたな。てっきり貴方のほうからお誘いがくると思っていたのに一月待っても来ないんですもの。そしたら今日二通目の手紙が舞い込んでチャンス到来って思ったの。」
 三枝はしきりにワインを薦めたが、石井は生ビールを追加した。前菜がテーブルに運ばれると、三枝は例の手紙をバックから取り出しテーブルに置いた。
 「絶対あの男だと思う。だって出だしの言葉、愛しの君にってあるもの。なんとも陳腐じゃない、愛しの君だなんて。」
その手紙は前回と同じ紙に印刷されていて、箇条書きにされた三つの文章よりなっている。一つ目はイタリア、ミラノでの列車事故が実際に起こったことを誇るような文章だ。その予言が的中して石井も驚いたのだが、ただし時期がすこしずれた。
  二つ目は国際航空事故の予言だが、その犠牲者の中に日本人旅行客57人が含まれると具体的な人数と日付をあげている。三つめは、近い将来、世界的な未曾有の大災害が発生するという文章だ。そして最後に「君を救いたい」とあった。
 「これどう思う。地面が脈打って1メートルも持ち上げられて、落とされて、それが何度も何度も繰り返す、ですって。」
 「まったく不気味な予言だ。それ程の地震に耐えうる建築物などないと思う。」
 「だから怪しいのよ。そんな地震なんか起こる訳ないもの。」
 「全くだ。ところで、その手紙を書いたのは、恐らく、あの男だと思う。しかし、証拠はない。消印は渋谷、彼の会社も渋谷だ。一致するのはこれだけ。指紋で調べられなくはないけど、我々素人には手に負えない。」
 「でも何が目的なの。」
 「勿論、君を救うことさ。」
 「馬鹿馬鹿しい。救いが必要なのはあの男よ。」
 「その通りだ。しかし、最初の予言は当たった。場所もミラノ。僕の記憶では実際に死者の数も100名を超えた。正に当たっている。」
 「たまたまよ。それにこの巨大地震が眉唾よ。どうかしているわ。あれで何の会社だか分からないけど、二部上場の社長だなんて笑っちゃうわ。」
 「それなりの会社だ。コンピューターのソフト開発をやっている。社員は220名、資本金は一億。もしかしたら、社長は新興宗教かなにかに凝っているんじゃないか。彼にそんな話を聞かなかった?」
 「そんな素振りも見せなかったわ。でもビップクラスのお見合いパーティなんてロクな奴がいないわ。もうたくさん。」

  既に手紙に興味を失っている様子だ。さかんに料理にお喋りに興じようと話を向ける。石井はお喋りに相槌をうちながらも、予言のことが気になった。時期が若干ずれたとはいえイタリア、ミラノでの列車事故は起こり、犠牲者の数も一致している。たまたまの一言で片付けられない思いが石井にはある。
  と言うのは、石井の母親は石井が中学の時に癌で亡くなったが、特殊な能力の持ち主だったからだ。その能力の一つは未来を予言する能力だ。未来を夢で見る。
 「昨日、こんな夢を見たの。」
と話し、その後、実際にそれが起こる。世界で起こる大地震やその他の大災害に関して何度も言い当てたのである。
  ただその災害が起こる時期についてはかなり幅があり、はっきりとは分からないようだった。母の予言の中で特に印象に残っているものが二つある。一つは、大きな空港で二つのジェット旅客機が噴煙を上げて燃えているという夢だった。
  夢を語った翌日、その夢と寸分違わぬ写真が新聞の第一面を飾った。降下する旅客機と離陸する旅客機が接触した。その二機が炎上している写真だ。航空官制史上ありうべからざる事故として記録されたのだが、まるでその新聞を事前に見ていたような予言であった。
  二つ目は、未だ成就されていないが、近々の中国北朝鮮情勢からして、もしかしたら起こり得ると思うようになった。その日の朝、母は青ざめた顔で語った。「北海道に原爆が落ちた夢を見たの。キノコ雲が大きく傘を広げて、・・・本当に恐ろしかったわ。」
  この二つ目の夢予言は、その禍々しい情景が瞼に焼きつき、鮮明な映像ととして少年の脳に記憶された。原爆の話は未だに成就していないが、いつかそのような事態が出現するのではないかという恐れが心のどこかにある。この予言は母が死ぬ一年前のことだった。

    (三)
  結局、強引な三枝の誘いに乗って、なるようになった翌日、ふかふかしたベッドで目覚めると、すでに隣はもぬけの殻だった。昨夜、彼女は一人でワインのボトルを空けたはずだ。タフな女だと感嘆する間もなく、大変な遅刻だと気付いた。水曜の定例ミーティング、9時始まりで既に9時。

  あたふたと事務所に駆け込むと、磯田の冷たい視線にぶちあたった。ミーティングといっても抱える仕事の進捗を雑談まじりに語るだけだ。経理の佐々木など他人の私生活を覗き見る好奇心を神妙な顔の下に隠している。佐々木がメモをとる手を休め振り返る。
 「真治さん、大事なミーティングですよ。寝坊なんて言うんじゃないでしょうね。」
 「すまん、その寝坊だ。このとおり、鬚も剃ってない。」
 「まあ。」
 佐々木の取澄ました呆れ顔を、ちらりと見て苦笑いしながら龍二が言った。
 「例の野暮用だな。結局、最後までつきあったのか。」
 叔父の龍二は、昨夜、石井が三枝と会うことも、また三枝が石井に夢中であることも知っていた。石井は一瞬躊躇したが、隠してもしかたがないと諦めて答えた。
 「まあ、そういうことです。」
  磯田は二人の顔を覗いながら、何が起こったか推し量ろうとしている。以前龍二から聞いた「三枝さんは真治に夢中みたいだ。」という言葉をふと思いだした。まさか相手は三枝ではないかと、緊張気味に石井の様子を覗う。と、思わず、探りを入れるどころか、そのまんまの言葉が吐いて出た。
 「まさか、三枝さんと会っていたんじゃないでしょうね。」
 佐々木が好奇心丸出しで石井の顔を覗き込む。石井は言葉に詰まったが、龍二が助け船を出した。
 「三枝さんならいいが、例の渋谷のご令嬢だ。あの婆さんは朝まで飲んでいてもけろってしている。」
 磯田の顔が安堵に緩み、佐々木の好奇心が一挙に萎んだ。渋谷のご令嬢は、やはり石井のファンなのだが、常にストーカー被害を訴えてくる多少ボケの入った老女だ。石井も龍二も何度か朝まで付き合わされたことがある。
  
  それから二週間後のことだ。尾行を終え、満足の行く結果にほくそえみながら帰路についた。その時携帯が鳴った。夜の9時を過ぎている。珍しく磯田からの電話だ。
 「ちょっと、東陽町に来てもらえませんか。」
 石井は、磯田の妙にご機嫌な声を、いぶかしく思いながら「えっ、東陽町ですか、うーん・・」と生返事を返した。すると磯田が続けた。
 「石井さんに見てもらいたい人がいます。もしかしたら、石井さんの初恋の人に似ていたという、例の行徳のホテルから出てきた女かもしれませんよ。」
いっひっひ、と言う磯田のひそやかな笑いに、かっとしたが、石井は溜息をついて怒りを静めると聞いた。
 「東陽町の何処ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...