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3.ライの事情
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説明が長くて申し訳ないが、なぜ自分がこうしているか、そして舞台の説明を少々――。
ここは宇宙船「ヘリオポリス」艦内。今の自分は、バーチャル・リアリティ技術を活用したゲーム『マーダーミステリーVR』(以後、MMVR)の中で行動する「アバター」だ。
MMVRは、勤め先であるIT企業、ホルアクティ・テクノロジーズが開発した夢想体験型推理ゲーム。
今は、実際の年号は2222年で――昔の人々が期待したほどには文明は進化しなかったが、それなりに便利な世の中にはなっている。
ゲーム業界では、映像の美しさからリアルさを求めて、開発が進んだ。
病気の治療にも使われる、脳波や神経系の操作技術を応用し、夢の中で起こる仮想現実として、ある事象を実体験する――究極の「体験型ゲーム」が実現可能となった。
本当の自分の体はスリープ・マシンの中で、電極とヘッドセットに繋がれて、眠りについている。
ゲームオーバーになるか、クリアするか、リタイアを選択するまで、夢を見続ける――もとい、アバターとして、この仮想世界で行動することになる。
視覚からの映像は実写映像さながら、四肢を自由に動かし、ある程度の自由行動をすることが可能。触感、空腹感や味覚、嗅覚、痛覚などもリアルに再現。この世界で生きているかのような錯覚を覚えるほど、クオリティは高い。
そんなゲームの中での、目的はひとつ。
星間を漂うフライト中に起こる殺人事件。プレイヤーは登場人物のひとりとなって、事件の行く末を見届けなければならない――。
キャラクターには、探偵役か、犯人役がランダムで割り振られる。
「探偵役」に配置されたら、犯人の襲撃を防ぎ、制限時間までにその正体を暴くこと。
「犯人役」に配置されたなら、探偵の疑惑をそらし、その正体を最後まで隠し通すこと。
(楽しみだな。でもまさか、自分が開発に関わったゲームのあら捜しを、自分ですることになるとはなぁ……)
ホルアクティの末端として、ゲーム開発に携わって五年。正式公開前だが、評判は高かった。
システムはすでに完成に近づいており、現在は最終段階のチェックとして、抽選で選ばれたテストプレイヤーに体験してもらい、データを取っている状況。
誤動作も見受けられないし、正式公開も間近だと皆が安心しきっていたが……一抹の不安を覚えたのは、β版を配信した矢先のこと。
たまたま目にした書き込みには、こう記してあった。
「テストプレイヤーとして参加した息子の様子がおかしい」と。
曖昧だが切実な様子で、何度も、何度も……。
『ゲームを終えて戻ってきてから、人が変わったように感じるのです。
昔のことを尋ねても、正しい答えは返ってくる。けれど、何かがおかしい。
まるで性格が変わってしまったかのようで――。
脳に刺激を与えるなんて、本当は危険なのではないですか。
もう一度、調べていただけませんか』
たった一件の根拠のない意見に、本部は取り合おうとしなかった。
だが、どうにも自分は、それが気になってしまい――。
試験運用中の今なら、開発関係者の権限を振りかざし、テストプレイヤーとして紛れ込むことができる。(本当はダメなのだが、営業部門の友人に頼みこんだ)
「何もなければ、それでいいんだが……」
親心といったら気取りすぎかもしれないが、自分が関わった超大型の最新型ゲームだ。胸を張って、世に送り出したかった。
ともあれ、何をどうするというわけでもない。普通に、一般の人と同じように体験してみるだけのこと。
自分はモデリングやシステムの方のメンバーだったから、シナリオは未読。デバッグ作業も腰痛の悪化で断固拒否していたため、ほとんどすべてが初体験なのだ。
シナリオは初級・中級・上級と数種類が用意されており、それもプレイヤーの行動次第でさまざまに物語が分岐していくから、展開はまさに無限。
素直な心で参加して、ゲームを遊んで――クリアして現実に戻る。
それで何事も起こらなければ、安心できる。
密室と化した船内で、どんな事件が起きるのか、楽しみではあった。
初級を選んだけれど、推理ゲームをクリアできるのかどうか――。
年甲斐もなくワクワクと、胸が高鳴っていた。
ここは宇宙船「ヘリオポリス」艦内。今の自分は、バーチャル・リアリティ技術を活用したゲーム『マーダーミステリーVR』(以後、MMVR)の中で行動する「アバター」だ。
MMVRは、勤め先であるIT企業、ホルアクティ・テクノロジーズが開発した夢想体験型推理ゲーム。
今は、実際の年号は2222年で――昔の人々が期待したほどには文明は進化しなかったが、それなりに便利な世の中にはなっている。
ゲーム業界では、映像の美しさからリアルさを求めて、開発が進んだ。
病気の治療にも使われる、脳波や神経系の操作技術を応用し、夢の中で起こる仮想現実として、ある事象を実体験する――究極の「体験型ゲーム」が実現可能となった。
本当の自分の体はスリープ・マシンの中で、電極とヘッドセットに繋がれて、眠りについている。
ゲームオーバーになるか、クリアするか、リタイアを選択するまで、夢を見続ける――もとい、アバターとして、この仮想世界で行動することになる。
視覚からの映像は実写映像さながら、四肢を自由に動かし、ある程度の自由行動をすることが可能。触感、空腹感や味覚、嗅覚、痛覚などもリアルに再現。この世界で生きているかのような錯覚を覚えるほど、クオリティは高い。
そんなゲームの中での、目的はひとつ。
星間を漂うフライト中に起こる殺人事件。プレイヤーは登場人物のひとりとなって、事件の行く末を見届けなければならない――。
キャラクターには、探偵役か、犯人役がランダムで割り振られる。
「探偵役」に配置されたら、犯人の襲撃を防ぎ、制限時間までにその正体を暴くこと。
「犯人役」に配置されたなら、探偵の疑惑をそらし、その正体を最後まで隠し通すこと。
(楽しみだな。でもまさか、自分が開発に関わったゲームのあら捜しを、自分ですることになるとはなぁ……)
ホルアクティの末端として、ゲーム開発に携わって五年。正式公開前だが、評判は高かった。
システムはすでに完成に近づいており、現在は最終段階のチェックとして、抽選で選ばれたテストプレイヤーに体験してもらい、データを取っている状況。
誤動作も見受けられないし、正式公開も間近だと皆が安心しきっていたが……一抹の不安を覚えたのは、β版を配信した矢先のこと。
たまたま目にした書き込みには、こう記してあった。
「テストプレイヤーとして参加した息子の様子がおかしい」と。
曖昧だが切実な様子で、何度も、何度も……。
『ゲームを終えて戻ってきてから、人が変わったように感じるのです。
昔のことを尋ねても、正しい答えは返ってくる。けれど、何かがおかしい。
まるで性格が変わってしまったかのようで――。
脳に刺激を与えるなんて、本当は危険なのではないですか。
もう一度、調べていただけませんか』
たった一件の根拠のない意見に、本部は取り合おうとしなかった。
だが、どうにも自分は、それが気になってしまい――。
試験運用中の今なら、開発関係者の権限を振りかざし、テストプレイヤーとして紛れ込むことができる。(本当はダメなのだが、営業部門の友人に頼みこんだ)
「何もなければ、それでいいんだが……」
親心といったら気取りすぎかもしれないが、自分が関わった超大型の最新型ゲームだ。胸を張って、世に送り出したかった。
ともあれ、何をどうするというわけでもない。普通に、一般の人と同じように体験してみるだけのこと。
自分はモデリングやシステムの方のメンバーだったから、シナリオは未読。デバッグ作業も腰痛の悪化で断固拒否していたため、ほとんどすべてが初体験なのだ。
シナリオは初級・中級・上級と数種類が用意されており、それもプレイヤーの行動次第でさまざまに物語が分岐していくから、展開はまさに無限。
素直な心で参加して、ゲームを遊んで――クリアして現実に戻る。
それで何事も起こらなければ、安心できる。
密室と化した船内で、どんな事件が起きるのか、楽しみではあった。
初級を選んだけれど、推理ゲームをクリアできるのかどうか――。
年甲斐もなくワクワクと、胸が高鳴っていた。
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