Murder Mystery VR ~SF電脳空間でミステリー体験? VRの世界へようこそ~

冴季栄瑠

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7.一日目・夕 最初の事件

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 その後、食堂の奥にあるアクティビティ施設(図書室やフィットネス)をぶらりと確認してから、ひとまず部屋に戻って休むことにした。

 気分が悪くなってしまったのは、きっとあのスペシャルドリンクのせい……。
 まぁこれはゲーム内の話で、「具合が悪い」というのも文字通り「気のせい」なのだ。少し休めば楽になるだろう。

 ベッドに横になり、休んでいると……。
 突然の緊急アラームに、飛び起きることになった。

『エマージェンシー、エマージェンシー……船内の安全管理を脅かす重大な異常が認められます……至急、対応してください……エマージェンシー……』

 耳障りなアラームがひとしきり流れたあと、ブツッと放送が途切れた。
 どうやら最初の事件が起こったようだ。

(ついに来たか……!)

 宇宙旅行を満喫させてくれるんじゃなかったのかよ(違う)と思いながら、部屋を飛び出した。

***

 どこかで事件が起き、非常ボタンでも押されたのだろうと目星はつく。だが、事件現場はどこだろう?
 考えもせずに廊下に出て、プシューッと背後で扉が閉まる音を聴いていると、誰かが近づいてくる足音がする。

 薄暗い廊下の奥から姿を現したのは――なびく銀髪に、かちっとした服装。胸元に縫いつけられた勲章のワッペンに、袖口のライン……。軍人っぽい恰好をした美人の女性だ。
 彼女はこちらをみとめると、そばに来て足を止め、固い表情を少しだけ動かして言った。

「放送、そちらの部屋にも流れましたか?」
「ええ。ついに事件が起こったようですね……」

 彼女の部屋は、こちらの部屋の隣に配室されているらしい。エレベーターホールに向かおうとして、通りかかったのだろう。
(この廊下の並びに居室は三部屋。エレベーターホールに一番近い部屋は、俺の部屋になる)

 女性はエレノアと名乗った。
 こちらも「ライです」と名を告げて、軽く挨拶を交わす。

 そうこうしているうちに、奥からもう一人、今度は無駄にキラキラした男が現れた。白スーツの金髪男だ。最奥の部屋から出て、向かってきたのだろう。

 男はヒカルと名乗った。手を差しだしてきたので、握手を求められるのかと思いこちらも手を出したが、やつが握ってきたのはエレノアの手だけだった。
(こいつ、絶対いけすかないやつだ……)

「美しいお嬢さん。困ったことがあれば僕を頼っていただければ……」
 ヒカルは前髪をさらりと払ってかっこつけていたが、エレノアは眉ひとつ動かさずに、行動を促した。

「アラームの原因を急いで確かめましょう。全館放送が流れたということは、コントロールルームで何かあったのではないかと思うのですが」

 素晴らしい推理だ。こちらも真面目にやらねばと表情を引き締める。

「コントロールルームに行ってみましょうか。上の階ですよね」
 エレベーターホールで見た全体マップを思い浮かべながら答えると、

「さっき船内を探索していて、ロビーにあった船内マップを見ましたが、三階は一般乗客は立ち入り禁止とありましたね」
 と、エレノア。彼女も船内の探索は済ませているらしい。

「エレベーターは普通に通じているんじゃないかな。この船はワンマン運転らしいから、警備員もいないでしょう。緊急事態だから、立ち入っても致し方ないはずだ」
 ヒカルはくいっと親指をロビー方面に向け、とにかく現場に行ってみようと提案する。それについては異存はない。

「そうですね。急ぎましょう」

 お互いに頷き、駆けだした。

***

 エレベーターのあるロビーに向かっていると、その手前の廊下で、脇に転がっている大きな障害物が目に入った。

 自動周回式のお掃除ロボット「にゃいぼ」だ。黒のメタリックボディにずん胴の胴体。掃除の途中で転んでしまったのか、起き上がれなくてガーガーピーピーいっている。
 さっき食堂から部屋に戻ってきたときには、なかったのだが……。

「なんだこれ? おい、おまえ、どうした?」
「オソウジ……オソウジ……エラー……ウゴケナイ……」

 正位置にひっくり返してやれば大丈夫そうだが、持ちあげようと試してみるも、金属の塊は思ったより重かった。中身が詰まっているらしい。

「重いな。おまえ、どんな素材でできてるんだ」
「レディニ、オモサ、ダメ……ガガガピピピ」
 性別は女だったのか。ごめんな。だが、ひとりで持ちあげるには、難儀だぞ。

「おい、何してる。そんなの放っておけ」

 ヒカルが言った。手を貸してもらおうと思ったのだが、その気はなさそうだ。

 先を急ぐのは、もちろん理由がある。捜査に影響が出るからだ。犯人の逃亡、そして巧妙な犯行の場合、証拠隠滅の時間を与えてしまうのだから。

「ライさん……手伝いましょうか? でも持ち上がるかしら……」

 エレノアが戸惑った表情で首を傾げている。

 にゃいぼが暴れて、ガチャガチャと音をたてた。

「ちっ、鬱陶しいロボットだな。こんなことをしている場合じゃない。行きましょう、エレノアさん」

 なんとヒカルは、こちらの返事も待たずに、エレノアの腕を引っ張って、走っていってしまった。
 廊下にひとり残されて、妙な焦りが生まれる。

(そうだよな。間違いなく何かが起こっているんだから、急がないと……)

「エラー……エラー……ヘルプ……ヘールプ」

 にゃいぼは電子音を撒き散らしている。

 こいつ、相当重そうだしな。変にぶつけて、壊しても困る。あとで人数を集めて救助してやればいいか、という気になってくる。

「ごめんな。あとで戻ってきたときに、助けてやるから」
「ニャイ!? ボボボ、プシュー!」

 にゃいぼをそのままにして、金髪男とエレノアのあとを追った。

***

 ロビーまで来て、エレベーターの前に立った。
 エレベーターは今三階にある。ヒカルたちが乗っていったのだろう。
 ボタンを押し、エレベーターが二階に戻ってくるのを待った。

(右翼と左翼の乗客たちも見当たらないな。もう皆、先に行ってしまったのか?)

 そう思い、ロビーを見渡そうとして――。

 ――ガツン。

 後頭部に強い衝撃が走った。バラバラと乾いたものが散らばる。土と、陶器の器の破片。
 足もとに落ちた根っこ付きの草を見て、ロビーの隅に飾ってあった観葉植物の鉢だと思った。

 後ろから殴られて眩暈を覚え、膝を折り、倒れ伏す。
 額から生ぬるい液体が流れて、頬を伝った。床を浸し、視界に映るのは、血だ。

 俺は殴られたのか。誰に? なぜ。

 ――ガツッ! ゴッ!

 二撃、三撃目の衝撃がくる。
 不思議と痛みはなかったが、目の前がチカチカとして、そしてだんだんと暗くなっていった。

 真っ暗な視界の中に、「GAME OVER」の赤い文字が浮かぶ。
 嘘だろう、殺されたのか。まだ第一の死体すら発見していないのに……。

 …………。
 ………。
 ……。

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