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29.終演

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 ヒカルを拘束し、デバッグモードでNPCの緊急停止を行った。

 非常通報用のメールフォームから現実世界の窓口へ、コンピュータウイルス汚染についての報告を送信。あーちゃんのケアも含め、後始末は会社の同僚が、あちら側からなんとかしてくれるだろう。

 ゲームとしての犯人は黒須だから、解答としてはそちらの名前を書いて……
 やがて、定められたエンドロールを迎えるのを待つばかりとなった。

 接続が切れるまでの数秒の間、横に来たエレノアと言葉を交わす。

「ライさん」

「エレノアさん……さっきは、助かったよ。ありがとう」

「お力になれてよかったです。調子が悪かった体を治していただいた借り、これで返せましたね。機械の整体師さん」

「ははは……」

 冗談とも嫌味ともつかないセリフに苦笑で答えながら。

(そういえば、彼女もNPCなんだよな……)

 深夜に展望ラウンジで顔を合わせ、短いひとときを過ごしたことは、いい思い出だ。

 あの時からわかっていたことだが、彼女の硬い表情は別として(多分もともとの性格)、こうして自然に会話している上では、有人プレイヤーとなんら変わらない。
 彼らのフィールドであるこの世界でのスムーズな動きは、本当に現実にも存在する同じ人間なのではないかと信じたくもなる。

「本当に傷はないかい? 他に具合の悪いところとかは?」

 エレノアは消え入りそうな笑顔で薄く笑って、首を横に振った。

「私はNPCなのに、心配してくださるんですね」

 初対面のときより、いくぶん和らいだ表情は、人間くさかった。

 自分はやっぱり、AIにも「情」があるのだと信じたい。彼らの進化の道も閉ざしたくはない。
 技術の向上の先に、道に迷うことがあるとしたら――それを正すのも、また技術者の役割だ。 

「――時間のようです。できれば、もっと……また会……」

 エレノアの言葉の続きを聞こうとして、叶わなかった。
 強制的に視界が暗転して、そのあと、眩しいばかりの真っ白な光に包まれる。

 スタッフロールに続き、結果表示がゆっくりとスクロールしていく。

     ◇◇◇

【参加プレイヤー・解答結果】
 あーちゃん……死亡により脱落
 宇佐美……生存・正解
 エレノア(NPC)……生存・正解
 黒須(犯人)……生存・敗北
 ヒカル(NPC)……非常停止
 夢人……生存・正解
 ライ……生存・正解

≪正答率が過半数を超えたため、探偵側の勝利となります。おめでとうございます!≫

アナウンサー:「――宇宙船ヘリオポリス号内で起きた殺人事件の続報です。
 『黒須』容疑者は、闇サイトでダオラ船長の元部下を名乗る者から殺害を請け負ったと供述しており、犯行を認めています。容疑者は殺しを生業としているとの情報もあり、他にも余罪があると見て、警察は調査を進めています。また殺害を依頼した者についても調べを進めており、元クルーで現在無職の人物に任意で事情を聞いています――。」

     ◇◇◇

 エンディングテキストと一緒に、いつのまに撮影されていたのだろう、さまざまな場面のスクリーンショットが白黒で映し出されていった。

(ああ、お別れの時間か――)

 酷い目に遭ったはずなのに、どこか寂しさも感じている。
 現実との狭間をたゆたいながら、自分の生きる世界へと、意識が引き戻されていく。

 長い会議、検証に修正。戻ったら、やるべきことはきっと山積みだ。
 その前に勝手にテストプレイに紛れ込んだことを詰められるだろうか。まぁ首にはならない……よな?

 意識が最上層まで浮上し、ゆっくりと目を開いて――凝り固まった体を、うんと伸ばした。

 さぁ、これからしばらくは大変な日々が続くぞと、
 ぐうたらな自分には珍しく、前向きな気持ちを抱きながら――。

(おわり)
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