異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす

文字の大きさ
3 / 25
プロローグ

2 巨大な黒蟻との初戦闘

しおりを挟む
 吾郎があてもなく荒廃した大地をフラフラとさまよっていると、ふと小さな地揺れと共に目の前の大地に穴が開き、そこから自転車程度の大きさはありそうな巨大な黒蟻がゾロゾロと這い出てきた。

「おいおい……マジかよ」

 十数匹の黒蟻達は、吾郎の足音を獲物として察知したのか、迷うこと無く一斉に向かってくる。

 吾郎は予め用意していた強化石ころをズボンのポケットから取り出すと、左手で数個を握りしめ、そこから右手でひとつ取っては黒蟻に向かってぶん投げていく。

 まるで弾丸の様に凄まじい勢いで飛んでいく強化石ころではあったが、ノーコン気味と初戦への焦りもあってか、数発を外した後、だいぶ近づいてきた先頭を来る黒蟻の頭にやっとこさ命中した瞬間、強化石ころは黒蟻の頭部をやすやすと貫通してみせた。

 先頭の巨大な黒蟻が、前のめりで地面に突っ伏しながら絶命する。

 この瞬間、強化石ころが敵である巨大な黒蟻に致命傷を与える程の威力を有していることが証明された。

「――よし、威力は申し分無さそうだな! というか、少しオーバーキル気味か? どんな魔物が出てくるか分からないからある程度は強めにしておいたんだが、後で微調整だな」

 吾郎は跳ねる心臓を深呼吸で抑えながら、強化石ころを無駄に外さない為に丁寧に丁寧に目標の的に向かって、軽い動作で放り投げる。

「(強化石ころに必要なのは俺の腕力ではない。俺の投てきはあくまで石が飛ぶというきっかけを与えるに過ぎない。銃のトリガーを引いたら勝手に凄まじい弾丸が射出されるように、強化石が空中に飛んだ瞬間、後は強化された速度、威力などが発揮される。だから、俺が気をつけるのは的に命中する為の正確性のみ)」

 吾郎の石投げの殲滅力は圧倒的であり、巨大な黒蟻達は吾郎に近づくことも出来ずにバタバタと倒れていく。

 しかし、いきなり十数匹の黒蟻に一斉に襲われたせいか弾切れをおこしてしまった。

「やばいやばい」

 吾郎はその場で何個か石を拾い上げると、少しでも時間稼ぎをする為に迫り来る黒蟻を睨みながら後退しつつ、石を強化しては放り投げる。

 石の発射間隔はかなり落ちてしまったが、確実に一体ずつ黒蟻を仕留めていく。

「(一応、この平凡な冒険者服や赤マントの防御性能は高めてはあるが、あんなでかい枝切りバサミの様な顎で直に噛まれるのは御免被りたい)」

 巨大な黒蟻はその強靭そうな牙の顎をカッションカッションさせながら、吾郎を噛み切り殺そうと大地をシャカシャカと走ってくる。

 しかし、吾郎の強化石ころによる遠距離攻撃の前では、その自慢の顎も意味を成さず、とうとう最後の一匹が地面に突っ伏した。

「……はぁ、やっと終わった」

 目の前で死屍累々となっている黒蟻達を呆然と見ながら、吾郎はため息を吐き捨てた。

「しかし、虫はチート気味な奴が多いから巨大化は色々と反則だよな。あとキモいし。まーでも、一応は映画やゲームでそれなりには慣れてはいるけれども」

 吾郎が気怠そうに独り言を呟いていると、黒蟻の死体が塵となって消え去り始めた。

「ん、そういう感じなのか?」

 黒蟻の死体がまるで幻だったかのように消え去ると、軽快なチャイムが鳴り報酬ウインドウが表示された。

「ほうほう、勝者に報酬を置いていくとは殊勝な心がけではないですか。どれどれ」

 吾郎は報酬を確認する。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

黒蟻(100金貨)×15=1500金貨

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「へー、こいつらを倒すとお金が手に入るのか、これは倒しがいがあるな。あといちいちお金を拾い集めなくても、電子マネーぽく手に入るというのが楽で助かる」

 吾郎は早速「ネット通販」のチートを使って通販ウインドウを立ち上げると、右上にある残高表記が0金貨から1500金貨へと変化していた。

「なるほど、こういう仕組みか」

 ふいに吾郎のお腹が小さく鳴った。

「ふむ、これがチートの使用に際して魔力消費という名のカロリーが消費されたわけか。というか、朝から何も食べていないせいかもしれないが」

 吾郎は早速、ネット通販でコンビニのデリバリーサービス系を選択して「国産つぶあんパン」販売価格100金貨を注文してみたところ、目の前に注文した商品が、淡い金色に輝く光の粒子に包まれながら現れた。

「何という速さ。というか、世界を超えて届くのに送料無しとかマジチート」

 吾郎は地面にちょこんと置かれている見慣れた袋入りあんパンを手に取ると、無造作に開けてかぶりつく。

「うん、甘くて、んまい」

 吾郎はあんぱんをほおばりながら、荒野をあてもなく歩くのを再開するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...