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本編
15 臆病な心
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吾郎によって野盗から救われた100人近いダークエルフの美しい女性達は、そのまま荒野の果てへと消えていったのだった……、というわけには当然ながらいかなかった。
なにせダークエルフの近接戦闘専用の棒部隊がほぼ壊滅したことにより、棒部隊の20名以上が負傷者となってしまい、彼女達はその場で足止めを食っていたのだ。
吾郎は砦の中で一人で頭を抱えていた。
「あー……下手な親切心を出してしまった。もし、居つかれでもしたら面倒な事になる」
ちなみに、吾郎は野盗二人を殺傷したことに関しては、特に気にする様子は無かった。
なにせ、異世界に来た以上は地球上の法律も倫理も基本的には意味が無いわけで、つまるところは敵が魔物だろうが人間だろうが、相手を倒さなければ己が殺されるだけなのである。
そもそも、そのような覚悟など、吾郎は異世界転移が決まった時に既に終わらせていた。
これからは、吾郎本人こそが自分の為の警察であり、裁判官であり、政治家であり、自衛隊なのだ。
だからこそ、自分で決断をしたとはいえ、ダークエルフ達を救ってしまった事には少しばかり後悔しつつも、やはりその責任は自分で取るしかないのであった。
吾郎は突き上げ窓を開けて外を覗いてみた。
ダークエルフの彼女達は吾郎に遠慮しているのか、砦の近くには寄らず、砦の安全圏の真ん中辺りで棒部隊の看病を行っていた。
ただ、大した道具は何も持っていないようで、傷の深い仲間に対しては、自らの手を押し当てて止血をしていた。
「あれじゃ、助かる者も助からないだろうな……」
致命傷に近い者が何人もいるようであった。
だが、吾郎はこれ以上の介入をするつもりはなかった。
そもそも既に残高が1000金貨程度しか無い吾郎には、もはや何かをしようにも大したことはできない状態だったからである。
「……しかし、あんな所に居座られたままだと、狩りをしようにも外に出づらいな」
ダークエルフ達を見つめつつぼんやりと愚痴を呟くと、ふと、あの一番最初に目が合ったダークエルフとまた目があった。
そのダークエルフは棒部隊として野盗と戦い満身創痍であったはずなのに、既に折れた棒を杖代わりにしつつも、何とか動き始めている様子であった。
「……もしかして、ダークエルフは回復力も凄いのか?」
そのダークエルフは今度は吾郎を見て驚く様子は無く、吾郎の顔を確認すると、その場でゆっくりと正座をして、三指を立てつつ額を地面に擦り付けた。
その姿を見た他のダークエルフ達も、吾郎が窓から覗いている事に気がつき、そのダークエルフと同じように正座をして頭を地につけた。
まるで心からの感謝の意を表現するかの如く。
「……」
さすがに吾郎の心にさざ波が立った。
しかし、と吾郎は首を振った。
「(……いやいや、奴隷として虐げられてきた者は、強者に媚びへつらうのが得意かもしれない。もし、油断したところを襲われでもしたら……)」
元の世界における難民問題などの社会情勢を見て、ネガティブ思考が高まっていたせいもあるのだろうが、ぼっちゆえの臆病な心も相まって、やはり大多数のダークエルフ達が相手という状況は、吾郎にとってはどうにも対処ができそうにない現実であった。
そもそも、日本人は真面目だからこそ、相手も真面目であると信じてしまう癖がある。
それは日本人の美徳ではあるが、それが裏切られた際の被害や精神的なショックは尋常では無いのだ。
「あのダークエルフ達が良い者か、悪い者か、どうすれば分かるんだろうな……」
思わず自身の本音を呟いてしまう吾郎。
実は相手を見極めるにはまさに「交流」をしてみるしか無いのだが、完全なコミュ障ではない吾郎とはいえ、かなりのぼっち気質から分かる通り、交流をしようと思えばできる力を持ってはいても、積極性という点においては、ほぼほぼ皆無な状態であった。
「これも神様っぽい御方が用意した、不思議な縁だと考える事も出来るのだろうが、俺自身がこれだけ過酷で危険な異世界に放り込まれているのを考えると、用心するに越したことはないはずだし……うーん」
吾郎は小さく唸り声をあげながら、気怠そうにため息を吐き捨てるのだった。
なにせダークエルフの近接戦闘専用の棒部隊がほぼ壊滅したことにより、棒部隊の20名以上が負傷者となってしまい、彼女達はその場で足止めを食っていたのだ。
吾郎は砦の中で一人で頭を抱えていた。
「あー……下手な親切心を出してしまった。もし、居つかれでもしたら面倒な事になる」
ちなみに、吾郎は野盗二人を殺傷したことに関しては、特に気にする様子は無かった。
なにせ、異世界に来た以上は地球上の法律も倫理も基本的には意味が無いわけで、つまるところは敵が魔物だろうが人間だろうが、相手を倒さなければ己が殺されるだけなのである。
そもそも、そのような覚悟など、吾郎は異世界転移が決まった時に既に終わらせていた。
これからは、吾郎本人こそが自分の為の警察であり、裁判官であり、政治家であり、自衛隊なのだ。
だからこそ、自分で決断をしたとはいえ、ダークエルフ達を救ってしまった事には少しばかり後悔しつつも、やはりその責任は自分で取るしかないのであった。
吾郎は突き上げ窓を開けて外を覗いてみた。
ダークエルフの彼女達は吾郎に遠慮しているのか、砦の近くには寄らず、砦の安全圏の真ん中辺りで棒部隊の看病を行っていた。
ただ、大した道具は何も持っていないようで、傷の深い仲間に対しては、自らの手を押し当てて止血をしていた。
「あれじゃ、助かる者も助からないだろうな……」
致命傷に近い者が何人もいるようであった。
だが、吾郎はこれ以上の介入をするつもりはなかった。
そもそも既に残高が1000金貨程度しか無い吾郎には、もはや何かをしようにも大したことはできない状態だったからである。
「……しかし、あんな所に居座られたままだと、狩りをしようにも外に出づらいな」
ダークエルフ達を見つめつつぼんやりと愚痴を呟くと、ふと、あの一番最初に目が合ったダークエルフとまた目があった。
そのダークエルフは棒部隊として野盗と戦い満身創痍であったはずなのに、既に折れた棒を杖代わりにしつつも、何とか動き始めている様子であった。
「……もしかして、ダークエルフは回復力も凄いのか?」
そのダークエルフは今度は吾郎を見て驚く様子は無く、吾郎の顔を確認すると、その場でゆっくりと正座をして、三指を立てつつ額を地面に擦り付けた。
その姿を見た他のダークエルフ達も、吾郎が窓から覗いている事に気がつき、そのダークエルフと同じように正座をして頭を地につけた。
まるで心からの感謝の意を表現するかの如く。
「……」
さすがに吾郎の心にさざ波が立った。
しかし、と吾郎は首を振った。
「(……いやいや、奴隷として虐げられてきた者は、強者に媚びへつらうのが得意かもしれない。もし、油断したところを襲われでもしたら……)」
元の世界における難民問題などの社会情勢を見て、ネガティブ思考が高まっていたせいもあるのだろうが、ぼっちゆえの臆病な心も相まって、やはり大多数のダークエルフ達が相手という状況は、吾郎にとってはどうにも対処ができそうにない現実であった。
そもそも、日本人は真面目だからこそ、相手も真面目であると信じてしまう癖がある。
それは日本人の美徳ではあるが、それが裏切られた際の被害や精神的なショックは尋常では無いのだ。
「あのダークエルフ達が良い者か、悪い者か、どうすれば分かるんだろうな……」
思わず自身の本音を呟いてしまう吾郎。
実は相手を見極めるにはまさに「交流」をしてみるしか無いのだが、完全なコミュ障ではない吾郎とはいえ、かなりのぼっち気質から分かる通り、交流をしようと思えばできる力を持ってはいても、積極性という点においては、ほぼほぼ皆無な状態であった。
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