異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす

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本編

14 救いの手

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 倒れていた棒部隊の一人が、血で染まった歯を食いしばりながら、斬り折られた細い棒を杖にして、その場でフラフラと立ち上がる。

 責任感が強いのか、その美しきダークエルフは必死の形相だった。

 蹂躙されつつある仲間達の元へと、足を引きずりつつ歩き出した時、吾郎が黙々と小走りで近づきながら迫って来た事に気がついたようだった。

 そのダークエルフは崩れ落ちそうな体を、折れた棒で必死に支えながら、吾郎の姿を驚いた表情で見つめている。

 野盗の二人はダークエルフの体をまさぐるのに熱中しているのか、吾郎が近づいている事には全く気がついていないようだった。

 吾郎は丁度、野盗達から死角の位置にもなっているということで、その満身創痍な棒部隊のダークエルフに対して更に近づいていく。

 皆で体を寄せあって萎縮している他のダークエルフの一部も吾郎の姿を認識したのか、一様に怯えた様子を見せた。

 なにせ、皆は人間の男の野盗が「もう一人増えた」のだと思ったからだ。

 だが、満身創痍な棒部隊のダークエルフは、近づいてきた吾郎の顔を見るや、ある事に気がついて、途切れ途切れのか細い声を吾郎にかけてくる。

「……と、砦の人間殿?」

 金と銀の中間色たるプラチナブロンドの美しくも長い後ろ髪を上げて、くるりと丸くまとめており、落ち着いた雰囲気かつ理知的で端正な顔つきのダークエルフな美女であったが、今や痛々しいほどに全身は切り傷だらけで、その健康的な褐色肌には、今やべったりと赤い血がまとわりついており、更に今もドクドクと傷から溢れ出している。

「……」

 吾郎は無言でそのダークエルフ美女の顔を見た。

 どうやら、先程、吾郎が窓から覗き込んでいた時に、ふと目があったダークエルフのようであった。

「……先程、俺と目があったのはあんたか」

「……は、はい」

「一つだけ尋ねたい。なぜにあの野盗共に抵抗しない。お前達の火の玉や棒による攻撃があれば容易いだろうに」

「……え?」

 吾郎の質問は、この異世界にとっては常識すぎるのか、あまりに当たり前な質問を受けてダークエルフは面食らっているようだった。

「時間が惜しい。いいから、さっさと答えてくれ」

「は、はい。私達は、人間に対して一切の危害を加える事が……できません」

「ん? それは自戒か」

「い、いえ、私達一族のみが受け継ぐ……強制的な種の特徴です」

「つまり、人間に対して危害を加える事が、『本能的』に無理だというのか?」

「……は、はい」

「何とも不思議な。だが、分かった。それならば先程の礼として、今回は俺が助けてやる」

 ダークエルフ達が吾郎の迷惑にならないように、慎ましやかに去ろうとした事への礼を、吾郎は果たそうとここまで出張ってきたのだった。

「……礼とは?」

「なに、こちらの話だ」

 吾郎はエアガンを引き抜きマガジンを装填すると、スライドを引いてセーフティを解除する。

「え、あの!?」

 そのダークエルフが面食らっているのを放っておいて、吾郎は堂々とした歩みで覆い被さったダークエルフに夢中な、野盗二人組みに近づいていく。

 死角からとはいえ、さすがに至近距離まで近づかれて気がついたのか、野盗二人組は慌ててその場で跳ね起きた。

「――なななな、なんだお前っ!?」

「い、いつの間に!?」

 吾郎は野盗二人に向けて、両手で構えたエアガンの銃口を差し向ける。

「彼女達を置いて、このままここを去るというのならば、特別に命だけは助けてやる」

 吾郎の最後通告に対して、野盗二人組は驚きの表情からすぐに本職の顔へと戻ると、鋭い目を向けてきた。

「野郎、驚かせやがって!!」

「こちとら、せっかく放逐されたダークエルフ共を見つけ出したんだ! 同業者にかっさらわれる程、情けないことはねーんだよ!!」

 野盗二人組は、吾郎を野盗のライバルと勘違いしているらしかった。

「そもそも、剣も無しに何を凄んでやがるんだこいつは!!」

「さっさと斬り刻んで殺してしまおうぜ!!」

 野盗二人組はライバルには絶対に負けられないという感じで、勢い良く腰の剣を引き抜いた。

「……実に残念だ」

 吾郎はボソリとそう呟くと、迷うことなくトリガーを引いた。

 エアガンの銃口から「――ズバンッ!!」という大きな音と共にBB弾が射出される。

 次の瞬間、野盗の一人の眉間を見事に撃ち抜いた……などという威力では無かった。

 既に対大黒蟻用として更に強化されたエアガンの威力は、たった1発で野盗の首から上の頭部を、一瞬で吹き飛ばしてしまったのだった。

「――ひぇ!?」

 相方の頭が軽々と吹き飛んだのを横目で見た野盗は、思わず情けない声を漏らすが、次の瞬間、またもエアガンの銃口から炸裂音が響きわたるや、その野盗の頭も綺麗に吹き飛んだ。

 首から上を失った二人の野盗は、しばらくその場でフラフラとしてから、ドサリと膝から崩れ落ちた。

 吾郎はセーフティロックをかけてからマガジンを抜いて、右足のホルスターにエアガンを収納する。

「……礼は返したぞ」

 吾郎は先程、会話した棒部隊のダークエルフの美女にちらりと顔を向けつつそう言うと、そのまま背中を見せるや、さっさと砦へと向かって歩いて行く。

 そんな吾郎の後ろ姿を呆然と見続けるダークエルフの美女集団。

 吾郎にとってはこれっきりのつもりでの行動であったが、もちろん、そんな訳にはいかなくなるのは当然である。

 吾郎は他人との交流が苦手気味であるぼっち気質な自分に対して、初っ端からなぜにこんな大人数のダークエルフ美女軍団を一気にぶち込んでくるというイベントを、神様っぽい御方はしてくるのだろうか、と首を傾げながら愚痴り続けていたが、実のところそれは全くの逆なのである。

 つまるところ『そんな吾郎だからこそ』なのだ。

 人一倍、他人に優しくて、優しいからこそ心が敏感で脆く、その結果、他人から距離をとってしまうそんな吾郎だからこそ、かの御方は、吾郎を信じて彼女達の元へと吾郎を送り込んだのである。

 やがて、吾郎は彼女達を健気かつ果敢に、そして勇敢に救い続けていくことになるのだが、それがやがて、彼女達との交流のおかげで、むしろ吾郎自身のぼっちな心が救われていく事になるなどとは、露ほども気が付かないのであった。
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