15 / 25
本編
14 救いの手
しおりを挟む
倒れていた棒部隊の一人が、血で染まった歯を食いしばりながら、斬り折られた細い棒を杖にして、その場でフラフラと立ち上がる。
責任感が強いのか、その美しきダークエルフは必死の形相だった。
蹂躙されつつある仲間達の元へと、足を引きずりつつ歩き出した時、吾郎が黙々と小走りで近づきながら迫って来た事に気がついたようだった。
そのダークエルフは崩れ落ちそうな体を、折れた棒で必死に支えながら、吾郎の姿を驚いた表情で見つめている。
野盗の二人はダークエルフの体をまさぐるのに熱中しているのか、吾郎が近づいている事には全く気がついていないようだった。
吾郎は丁度、野盗達から死角の位置にもなっているということで、その満身創痍な棒部隊のダークエルフに対して更に近づいていく。
皆で体を寄せあって萎縮している他のダークエルフの一部も吾郎の姿を認識したのか、一様に怯えた様子を見せた。
なにせ、皆は人間の男の野盗が「もう一人増えた」のだと思ったからだ。
だが、満身創痍な棒部隊のダークエルフは、近づいてきた吾郎の顔を見るや、ある事に気がついて、途切れ途切れのか細い声を吾郎にかけてくる。
「……と、砦の人間殿?」
金と銀の中間色たるプラチナブロンドの美しくも長い後ろ髪を上げて、くるりと丸くまとめており、落ち着いた雰囲気かつ理知的で端正な顔つきのダークエルフな美女であったが、今や痛々しいほどに全身は切り傷だらけで、その健康的な褐色肌には、今やべったりと赤い血がまとわりついており、更に今もドクドクと傷から溢れ出している。
「……」
吾郎は無言でそのダークエルフ美女の顔を見た。
どうやら、先程、吾郎が窓から覗き込んでいた時に、ふと目があったダークエルフのようであった。
「……先程、俺と目があったのはあんたか」
「……は、はい」
「一つだけ尋ねたい。なぜにあの野盗共に抵抗しない。お前達の火の玉や棒による攻撃があれば容易いだろうに」
「……え?」
吾郎の質問は、この異世界にとっては常識すぎるのか、あまりに当たり前な質問を受けてダークエルフは面食らっているようだった。
「時間が惜しい。いいから、さっさと答えてくれ」
「は、はい。私達は、人間に対して一切の危害を加える事が……できません」
「ん? それは自戒か」
「い、いえ、私達一族のみが受け継ぐ……強制的な種の特徴です」
「つまり、人間に対して危害を加える事が、『本能的』に無理だというのか?」
「……は、はい」
「何とも不思議な。だが、分かった。それならば先程の礼として、今回は俺が助けてやる」
ダークエルフ達が吾郎の迷惑にならないように、慎ましやかに去ろうとした事への礼を、吾郎は果たそうとここまで出張ってきたのだった。
「……礼とは?」
「なに、こちらの話だ」
吾郎はエアガンを引き抜きマガジンを装填すると、スライドを引いてセーフティを解除する。
「え、あの!?」
そのダークエルフが面食らっているのを放っておいて、吾郎は堂々とした歩みで覆い被さったダークエルフに夢中な、野盗二人組みに近づいていく。
死角からとはいえ、さすがに至近距離まで近づかれて気がついたのか、野盗二人組は慌ててその場で跳ね起きた。
「――なななな、なんだお前っ!?」
「い、いつの間に!?」
吾郎は野盗二人に向けて、両手で構えたエアガンの銃口を差し向ける。
「彼女達を置いて、このままここを去るというのならば、特別に命だけは助けてやる」
吾郎の最後通告に対して、野盗二人組は驚きの表情からすぐに本職の顔へと戻ると、鋭い目を向けてきた。
「野郎、驚かせやがって!!」
「こちとら、せっかく放逐されたダークエルフ共を見つけ出したんだ! 同業者にかっさらわれる程、情けないことはねーんだよ!!」
野盗二人組は、吾郎を野盗のライバルと勘違いしているらしかった。
「そもそも、剣も無しに何を凄んでやがるんだこいつは!!」
「さっさと斬り刻んで殺してしまおうぜ!!」
野盗二人組はライバルには絶対に負けられないという感じで、勢い良く腰の剣を引き抜いた。
「……実に残念だ」
吾郎はボソリとそう呟くと、迷うことなくトリガーを引いた。
エアガンの銃口から「――ズバンッ!!」という大きな音と共にBB弾が射出される。
次の瞬間、野盗の一人の眉間を見事に撃ち抜いた……などという威力では無かった。
既に対大黒蟻用として更に強化されたエアガンの威力は、たった1発で野盗の首から上の頭部を、一瞬で吹き飛ばしてしまったのだった。
「――ひぇ!?」
相方の頭が軽々と吹き飛んだのを横目で見た野盗は、思わず情けない声を漏らすが、次の瞬間、またもエアガンの銃口から炸裂音が響きわたるや、その野盗の頭も綺麗に吹き飛んだ。
首から上を失った二人の野盗は、しばらくその場でフラフラとしてから、ドサリと膝から崩れ落ちた。
吾郎はセーフティロックをかけてからマガジンを抜いて、右足のホルスターにエアガンを収納する。
「……礼は返したぞ」
吾郎は先程、会話した棒部隊のダークエルフの美女にちらりと顔を向けつつそう言うと、そのまま背中を見せるや、さっさと砦へと向かって歩いて行く。
そんな吾郎の後ろ姿を呆然と見続けるダークエルフの美女集団。
吾郎にとってはこれっきりのつもりでの行動であったが、もちろん、そんな訳にはいかなくなるのは当然である。
吾郎は他人との交流が苦手気味であるぼっち気質な自分に対して、初っ端からなぜにこんな大人数のダークエルフ美女軍団を一気にぶち込んでくるというイベントを、神様っぽい御方はしてくるのだろうか、と首を傾げながら愚痴り続けていたが、実のところそれは全くの逆なのである。
つまるところ『そんな吾郎だからこそ』なのだ。
人一倍、他人に優しくて、優しいからこそ心が敏感で脆く、その結果、他人から距離をとってしまうそんな吾郎だからこそ、かの御方は、吾郎を信じて彼女達の元へと吾郎を送り込んだのである。
やがて、吾郎は彼女達を健気かつ果敢に、そして勇敢に救い続けていくことになるのだが、それがやがて、彼女達との交流のおかげで、むしろ吾郎自身のぼっちな心が救われていく事になるなどとは、露ほども気が付かないのであった。
責任感が強いのか、その美しきダークエルフは必死の形相だった。
蹂躙されつつある仲間達の元へと、足を引きずりつつ歩き出した時、吾郎が黙々と小走りで近づきながら迫って来た事に気がついたようだった。
そのダークエルフは崩れ落ちそうな体を、折れた棒で必死に支えながら、吾郎の姿を驚いた表情で見つめている。
野盗の二人はダークエルフの体をまさぐるのに熱中しているのか、吾郎が近づいている事には全く気がついていないようだった。
吾郎は丁度、野盗達から死角の位置にもなっているということで、その満身創痍な棒部隊のダークエルフに対して更に近づいていく。
皆で体を寄せあって萎縮している他のダークエルフの一部も吾郎の姿を認識したのか、一様に怯えた様子を見せた。
なにせ、皆は人間の男の野盗が「もう一人増えた」のだと思ったからだ。
だが、満身創痍な棒部隊のダークエルフは、近づいてきた吾郎の顔を見るや、ある事に気がついて、途切れ途切れのか細い声を吾郎にかけてくる。
「……と、砦の人間殿?」
金と銀の中間色たるプラチナブロンドの美しくも長い後ろ髪を上げて、くるりと丸くまとめており、落ち着いた雰囲気かつ理知的で端正な顔つきのダークエルフな美女であったが、今や痛々しいほどに全身は切り傷だらけで、その健康的な褐色肌には、今やべったりと赤い血がまとわりついており、更に今もドクドクと傷から溢れ出している。
「……」
吾郎は無言でそのダークエルフ美女の顔を見た。
どうやら、先程、吾郎が窓から覗き込んでいた時に、ふと目があったダークエルフのようであった。
「……先程、俺と目があったのはあんたか」
「……は、はい」
「一つだけ尋ねたい。なぜにあの野盗共に抵抗しない。お前達の火の玉や棒による攻撃があれば容易いだろうに」
「……え?」
吾郎の質問は、この異世界にとっては常識すぎるのか、あまりに当たり前な質問を受けてダークエルフは面食らっているようだった。
「時間が惜しい。いいから、さっさと答えてくれ」
「は、はい。私達は、人間に対して一切の危害を加える事が……できません」
「ん? それは自戒か」
「い、いえ、私達一族のみが受け継ぐ……強制的な種の特徴です」
「つまり、人間に対して危害を加える事が、『本能的』に無理だというのか?」
「……は、はい」
「何とも不思議な。だが、分かった。それならば先程の礼として、今回は俺が助けてやる」
ダークエルフ達が吾郎の迷惑にならないように、慎ましやかに去ろうとした事への礼を、吾郎は果たそうとここまで出張ってきたのだった。
「……礼とは?」
「なに、こちらの話だ」
吾郎はエアガンを引き抜きマガジンを装填すると、スライドを引いてセーフティを解除する。
「え、あの!?」
そのダークエルフが面食らっているのを放っておいて、吾郎は堂々とした歩みで覆い被さったダークエルフに夢中な、野盗二人組みに近づいていく。
死角からとはいえ、さすがに至近距離まで近づかれて気がついたのか、野盗二人組は慌ててその場で跳ね起きた。
「――なななな、なんだお前っ!?」
「い、いつの間に!?」
吾郎は野盗二人に向けて、両手で構えたエアガンの銃口を差し向ける。
「彼女達を置いて、このままここを去るというのならば、特別に命だけは助けてやる」
吾郎の最後通告に対して、野盗二人組は驚きの表情からすぐに本職の顔へと戻ると、鋭い目を向けてきた。
「野郎、驚かせやがって!!」
「こちとら、せっかく放逐されたダークエルフ共を見つけ出したんだ! 同業者にかっさらわれる程、情けないことはねーんだよ!!」
野盗二人組は、吾郎を野盗のライバルと勘違いしているらしかった。
「そもそも、剣も無しに何を凄んでやがるんだこいつは!!」
「さっさと斬り刻んで殺してしまおうぜ!!」
野盗二人組はライバルには絶対に負けられないという感じで、勢い良く腰の剣を引き抜いた。
「……実に残念だ」
吾郎はボソリとそう呟くと、迷うことなくトリガーを引いた。
エアガンの銃口から「――ズバンッ!!」という大きな音と共にBB弾が射出される。
次の瞬間、野盗の一人の眉間を見事に撃ち抜いた……などという威力では無かった。
既に対大黒蟻用として更に強化されたエアガンの威力は、たった1発で野盗の首から上の頭部を、一瞬で吹き飛ばしてしまったのだった。
「――ひぇ!?」
相方の頭が軽々と吹き飛んだのを横目で見た野盗は、思わず情けない声を漏らすが、次の瞬間、またもエアガンの銃口から炸裂音が響きわたるや、その野盗の頭も綺麗に吹き飛んだ。
首から上を失った二人の野盗は、しばらくその場でフラフラとしてから、ドサリと膝から崩れ落ちた。
吾郎はセーフティロックをかけてからマガジンを抜いて、右足のホルスターにエアガンを収納する。
「……礼は返したぞ」
吾郎は先程、会話した棒部隊のダークエルフの美女にちらりと顔を向けつつそう言うと、そのまま背中を見せるや、さっさと砦へと向かって歩いて行く。
そんな吾郎の後ろ姿を呆然と見続けるダークエルフの美女集団。
吾郎にとってはこれっきりのつもりでの行動であったが、もちろん、そんな訳にはいかなくなるのは当然である。
吾郎は他人との交流が苦手気味であるぼっち気質な自分に対して、初っ端からなぜにこんな大人数のダークエルフ美女軍団を一気にぶち込んでくるというイベントを、神様っぽい御方はしてくるのだろうか、と首を傾げながら愚痴り続けていたが、実のところそれは全くの逆なのである。
つまるところ『そんな吾郎だからこそ』なのだ。
人一倍、他人に優しくて、優しいからこそ心が敏感で脆く、その結果、他人から距離をとってしまうそんな吾郎だからこそ、かの御方は、吾郎を信じて彼女達の元へと吾郎を送り込んだのである。
やがて、吾郎は彼女達を健気かつ果敢に、そして勇敢に救い続けていくことになるのだが、それがやがて、彼女達との交流のおかげで、むしろ吾郎自身のぼっちな心が救われていく事になるなどとは、露ほども気が付かないのであった。
0
あなたにおすすめの小説
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる