異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす

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 吾郎が救出した最後のダークエルフを背負いながら戻ってくると、砦の後ろに隠れて様子を伺っていた美しいダークエルフ達が何人も駆け寄ってきた。

「彼女をケガ人達を看病している場所へ」

 ダークエルフ達は力強く頷くと、吾郎の背中から意識がもうろうとしているダークエルフを受け取って運んでいくのだが、彼女の体からはボタボタと地面に落ち始めた血液の量が少しずつ増え始めていく。

 彼女を運ぶダークエルフ達の表情が焦り始めた。

 どうやら、盗賊にやられた傷が、決死隊としての戦闘により更に悪化してしまったようだった。

「(何だかヤバそうだぞ)」

 運搬役のダークエルフ達の焦りが吾郎にも伝染したのか、吾郎も少しばかり焦り始めてしまう。

 吾郎は運搬中のダークエルフ達に早足で近づいた。

「彼女は助かりそうか?」

 吾郎の問いかけに運搬係の一人が不安そうに首を振った。

「ダメ……かもしれません」

「あんたら魔法が使えるのだろ。何か回復魔法のようなものは無いのか?」

「回復魔法? 確か古の魔法には存在したと聞いたことがありますが、残念ながら現代には残ってはいないようです」

「なら、回復薬とかは無いのか」

「それならばポーションという物が存在しますが、ただ私達は着の身着のままで放逐された身なので、手持ちの物は何一つ無いんです」

「つまり、自然回復に頼るしかないというわけか」

 吾郎の問いかけに答えてくれていた美しいダークエルフは、悲しそうな表情を見せた。

「はい、自然回復に頼るしか方法がありません」

「まいったな……」

 吾郎は厳しい現実を前にして眉間にシワを寄せた。

「(元の世界のネット通販ではポーションなど売っていないぞ。それに、俺の『強化鍛冶師(インフレスト)』の力は元々、その物が持っている力を伸ばすのが基本だから、どれだけ微量でも回復能力そのものを持っていてくれないと強化が出来ない。ポーションが微量でもあれば強化と巨大化で大量増産できるんだが……)」

 吾郎は悔しそうに小さく舌打ちをする。

「くそ、これほどの大ケガが自然回復で治るわけが無い……」

「い、いえ、そんなことはありません」

 吾郎の愚痴に似た独り言に対して、答えてくれていた美しいダークエルフが食い気味に返答してきた。

「どういう意味だ?」

「私達、ダークエルフは屈強な体力と回復力を備えております。本来ならばこの程度の傷ぐらいは寝ていれば治るのです」

「寝ていれば? これほどの傷でもか?」

「はい。ですが、その本来の力を引き出す為には、体内で効率的に魔力を生成して循環させなければなりません」

「……?」

 吾郎はどこかで聞いた話だな。と小さく首を傾げたが、その予想は当たりのようであった。

「つまり、いくら屈強な体とはいっても、それを支える燃料が無くてはどうしようもないのです」

「ようするに、食料が必要というわけなのか?」

「は、はい。水と食料があれば、私達ダークエルフは他種族よりも栄養を上手に効率良く吸収し、それを魔力に変換して、更にそれを体力や回復力などに回す事が可能なのです」

「(……俺の中にある魔力変換回路のようなものか)」

 吾郎は自身の魔力変換回路の力を知っているので、ダークエルフの説明を素直に納得できた。

 吾郎と重症のダークエルフを運搬するダークエルフ達は、多くのケガ人達が看病されている場所へと慌ただしく到着した。

 運搬係のダークエルフ達は重症のダークエルフを荒野に下ろすと、体にあるいくつもの大きな傷口に手を当てて止血を始める。

 吾郎はその場で佇んで辺りを見渡した。

「……」

 そこは野戦病院さながらの状況であり騒々しさであった。

 盗賊と戦った棒部隊が約20名近く、吾郎を救う為の決死隊は約8名程、ケガ人である彼女達は皆、苦しそうに横たわっていた。

 砦の中から他人事の様に見つめていた時とは違う、現場のリアルさと緊迫感、そして血の匂いが充満しており、重傷者達の呻き声が吾郎の両耳に押し寄せてきた。

 しかし、看病とは名ばかりで、ケガ人はただ荒野の上に無造作に寝転ばされているだけであり、仲間のダークエルフ達が大きい傷口に対しては、手を当てて失血を和らげているだけである。

 そこで吾郎は、はたと気がついた。

 そもそも、ダークエルフ達はこれだけ自身の仲間達が大変な状況下であるというのに、彼女達は吾郎に恩を返す為に、即座に決死隊を編成して向かわせてくれたわけである。

 ダークエルフ達が下した迅速な決断の意味と、その価値をより深く理解した吾郎は、その眩しいほどの凄みに対して、腕に鳥肌がポツポツと浮かび上がるのを感じるのだった。
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