獣の楽園

平野耕一郎

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第三章 鮫島綾

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 ザーッと激しい雨音がして車のフロントガラスに叩きつけていた。パラパラと降っていた雨は次第に激しくなる。

「ずらした日に台風が来るなんて最悪」

 綾はフンと鼻を鳴らして爪を噛んだ。

「いいじゃない。私たちのサプライズにはぴったり。ほら爪なんて噛まない」

 耀はどこか嬉しそうだ。

「悪くはないわ。本当に誰か死んだら面白いわ」

 それぐらいのサプライズが本当にあった方が面白いだろう。十一月十三日は綾の誕生日だった。綾は毎年のように誕生日会を行っていた。毎年のサプライズで集まる招待客を驚かせていた。招待客は学生時代の友人や後輩などだ。

 今年行うのは最大級のサプライズを綾は耀と協力して仕組んだ。

 鮫島綾殺人事件。

 二人が組んだ案は綾がグラスに入った乾杯用のシャンパンを飲むと倒れて死ぬという筋書きだ。犯人は招待客が推理して突き止めさせるという流れである。綾は生き返り、サプライズだったというのが最終的な筋書きだ。

 毒を入れるトリックはこうだ。シャンパンには毒は入っておらず

 テーブルの置いてあるナプキンに毒を付ける。綾は毒が付いたナプキンに触れた手でシャンパンが入ったグラスを飲んで毒死する。

 当日、綾は今日の招待客にシャンパンを注いでいく。綾は倒れた後にスクリーン越しで自分を殺す人間がいると述べた動画を流す。さて、ここで推理ゲームが始まるが真の目的は単なる謎解きではない。綾の命を狙う真犯人を暴き出すことにある。

「今日呼んだ十二人、あの子たちの誰が裏切り者なのかしら」

「犯人はきっと今日の推理ゲームの話を聞いて、あなたを殺しに来るはずよ。わざわざ盗聴器をオフィス、自宅に付けているもの。あなたと仲が親しい十二人しかいない」

 綾は笑っていなかった。これは挑戦だ。

「許せないわ。私から太陽を奪おうとするなんて」

「どんなお仕置きを考えているつもり?」

「ふふ、大胆不敵な人に、ピッタリにお仕置きをしてあげるわ」

 今日暴かれる犯人の姿に心が震えた。一体どんな顔をしているのだろう。綾は悪魔というものに会ってみたかった。

 大事なのは計画を完遂させること。下手人を白日の下に晒す。

 死んだ自分に代わりに犯人を捜すよう仕組ませる。綾は死体として徹しないといけなかった。

 綾を殺そうとする犯人は毒を使うとにらんでいた。誕生日会では食べ物、飲み物が出る。そこに毒を仕込むだろう。誕生日会で行うサプライズをわざわざ盗聴させたのには相手の殺害方法を指定させる意味がある。

 それだけではなく犯人はサプライズの内容を聞き、自殺を演じる綾を本気で自殺に見せかけて殺すよう誘導する意図もあった。

 あと問題は証拠だった。これは簡単で別荘に監視カメラを密かに付けることにした。この映像で怪しい行動をした者が現れると綾と耀は考えていた。

 でも綾は自身の命を危険に晒す恐れがあると知っていた。目論見は外れたらどうなる。恐怖があった。

「ずいぶん手が込んだことをしたわ。遺書なんて」

 推理は事実、誰が殺したのかといえば最後に綾の部屋から遺書が発見される。

『もう誰も信じられない……私の人生は家族の意思に支配されてしまった。何もできない人生で、唯一自分ができること。それは自らの命を終わらせ大空にはばたくことなのだ』

 衝撃を与えるような動機でなくてはならない。誰もが悲しみに打ちひしがれたとき、綾は立ち上がる。驚きにあふれる友人たちの顔。暴き出される犯人の素顔。これほどのサプライズがあるだろうか。

 綾は窓目に移る自分の姿を見て笑う。計画の実行まで5時間。
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