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第二章 宮内恵
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失意のあまりに家に帰る。しばらく会社に出ずっぱりで、帰らずにホテルに泊まってばかりいたから少し後ろめたい。
「ただいまー」
恵は今までにないほどの小声で部屋の扉を開ける。当然、返事はないがどこか変だ。がらんとして人の気配がない。家具もカーペットも置いてあるのに。人の息遣いや動きがあるはずなのに家には何もなかった。
「あなた? 帰ったわよ」
返事はない。恵は学の部屋を開ける。誰もいなかった。学の部屋を見たのは久しぶりだ。エンジニアらしくパソコンやモニターがたくさん置いてあった気がする。
開かれた部屋は空洞だった。一切の生活が抹消されていた。恵は部屋を出て隈なく探す。
そうだ……誉は?
どんな状況でも、誉だけがいれば。何とかなる。恵にとって最後の拠り所なのだ。
すやすやと愛らしい笑顔でベッドに寝ているはず。この形だけの家にある唯一の希望がそこにいる。
「誉!」
ベッドに置いてあった毛布の内側もまた空洞だった。
恵はへなへなとしゃがみ込んでしまった。
ああ、とうとう……
いつかこうなるとは想像がついていた。学は知らぬ間に準備をしていた。恵を捨て、誉とともに巣立つ瞬間をあの根暗男はコツコツと準備をしていた。
悔しいというより切なかった。
清々しいまでに出し抜かれてしまった。弱弱しい足で立ち上がる。
ふと机の上を見ると紙が一枚置いてある。緑色の太い文字で「離婚届」とくっきりと書いてあった。
何もかもが奪われた。恵は空洞の家にいるのがつらくなり、出て行った。
風が吹いていた。手に持っていた傘が飛んで行ってしまった。春先にも関わらず凍てつく雨が槍となって容赦なく貫いた。
何でこうまで……
人生は上手くいかないものだ。特に自分の人生はそう。肝心なところでひっくり返される。自分以上にもっとひどい状況の者いる事実はわかる。大学時代にバックパッカーして訪れたアフリカの最貧国は働けることすらままならず、多くの者が物乞いの目で見てきた。
自分には家があった。形式だけの家庭だが、それでも帰れる場所だ。今は誰もいない。跡継ぎの誉は夫の手引きによりいない。置手紙一つすらない。文字通り恵は路頭に迷っていた。
寒い、誰も今の自分に語り掛けてくれる者はいなかった。
「ただいまー」
恵は今までにないほどの小声で部屋の扉を開ける。当然、返事はないがどこか変だ。がらんとして人の気配がない。家具もカーペットも置いてあるのに。人の息遣いや動きがあるはずなのに家には何もなかった。
「あなた? 帰ったわよ」
返事はない。恵は学の部屋を開ける。誰もいなかった。学の部屋を見たのは久しぶりだ。エンジニアらしくパソコンやモニターがたくさん置いてあった気がする。
開かれた部屋は空洞だった。一切の生活が抹消されていた。恵は部屋を出て隈なく探す。
そうだ……誉は?
どんな状況でも、誉だけがいれば。何とかなる。恵にとって最後の拠り所なのだ。
すやすやと愛らしい笑顔でベッドに寝ているはず。この形だけの家にある唯一の希望がそこにいる。
「誉!」
ベッドに置いてあった毛布の内側もまた空洞だった。
恵はへなへなとしゃがみ込んでしまった。
ああ、とうとう……
いつかこうなるとは想像がついていた。学は知らぬ間に準備をしていた。恵を捨て、誉とともに巣立つ瞬間をあの根暗男はコツコツと準備をしていた。
悔しいというより切なかった。
清々しいまでに出し抜かれてしまった。弱弱しい足で立ち上がる。
ふと机の上を見ると紙が一枚置いてある。緑色の太い文字で「離婚届」とくっきりと書いてあった。
何もかもが奪われた。恵は空洞の家にいるのがつらくなり、出て行った。
風が吹いていた。手に持っていた傘が飛んで行ってしまった。春先にも関わらず凍てつく雨が槍となって容赦なく貫いた。
何でこうまで……
人生は上手くいかないものだ。特に自分の人生はそう。肝心なところでひっくり返される。自分以上にもっとひどい状況の者いる事実はわかる。大学時代にバックパッカーして訪れたアフリカの最貧国は働けることすらままならず、多くの者が物乞いの目で見てきた。
自分には家があった。形式だけの家庭だが、それでも帰れる場所だ。今は誰もいない。跡継ぎの誉は夫の手引きによりいない。置手紙一つすらない。文字通り恵は路頭に迷っていた。
寒い、誰も今の自分に語り掛けてくれる者はいなかった。
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