七宝物語

平野耕一郎

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第3章 諸王の会議

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 希和子は、この日が来ないことをずっと願っていた。胸騒ぎがする。
 聖気と王気が近づいてせめぎ合っている。本来、相反する力だ。人々を聖なる光の下に結集する力は、人々に安らぎを与える。この力を聖気という。光は聖女と共にあり、代々血統により受け継がれてきた。
 一方、王気は人を治める力の源はかつて人であった霊魂による。王は継承の儀式により力を得た。力は王気が備わった者にしか手にすることはできない。
 習得した力は絶大で人々を強制的に跪かせる。
 光による安穏と力による支配。二つの力に相容れる要素はない。
 しかし聖女は人々の統合の象徴として君臨し、聖女に任命された上で諸王は力により人々の統治を担って、この世をうまく収めてきた。
 聖気を持つ希和子は、聖なる腕輪が発する危機を感じていた。近くに穢れをもったものが来ていると
 彼女の傍に、お付きの祥子、聖騎士の流星とともにご休憩所にいて王たちの謁見に備えていた。
「陛下、私共が付いております」
 優しい声。彼女は頼りになる。希和子はすでに彼女を一介のお伽衆から、相談役に地位を上げた。宮廷内には自由に出入りできる権利も与えた。
 希和子には、心から信用できる存在が必要だった。最近の彼女は、情動で動いているようで、宮廷人事も彼女のえり好みによるものが多い。宮廷を歩く人が変わった。長年下得た者、お局的存在が消えた、聖女と同年代や保母のように優しい心の持ち主が代わりに重要な地位を占めていた。
「胸騒ぎがします」
「ええ」
「弟が来ている……」
 弟……その言葉に身が震えている。父母を、果ては多くの侍従、民を悪しき財宝に魅入られ殺した不肖の弟。彼は大勢を弑逆し、王になった。狂気の王――烈王へと。
 希和子は王たちに対しいい印象を思っていない。力で人を押さえつけ、圧倒的な力の前に屈服させるただの独裁者……平和と友愛を望む、争いごとを忌む希和子にとって、王はおぞましい。唯一の例外が、聖女の保護者にして最高位の王である一の王・萌希だ。彼女ほど力におぼれず制御できる王は歴史上でもいない。
 力は、いつかおごり高ぶりを生む。弟が王の宝の一つを手にしたのは十三の歳だ。彼の心にあった欲求不満と力への渇望が宮廷に封印された宝の箱を開くきっかけになった。
 力は人を試し、誘惑する。彼は宝に認められ、絶対者になった。
 聖都から放逐されて十年が経つ。彼の評判は、ろくでもない。
 弟が都にいる。
「ああっ
 希和子は愛すべき人にすがった。つんと整髪料の香りが漂った。彼の胸元は大きく安心感を抱かせる。
「ご心配なく、我が意、我が命に代えましても御守りいたします」
 コンコン、と休憩所の戸を叩く音がする。外から声がした。
 王たちが謁見の間に到着しているのだ。
「さあ」
「この時が来たのね。逃げられないのね」
 泣くのはもうやめにしよう。自分は聖女だ。人の上に立ち、指針となるべき者。その地位に立つ者が揺らぐことはあってならない。
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