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第3章 諸王の会議
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「血が……」
若い侍女は手に持った鉈を虚ろ気に見る。辺りには幾人のけが人と死人が転がっている。どれも深紅に染まった切り口が、致命傷だ。生きている者からもの悲しいうめき声が聞こえる。
「まあ何てこと!」
「一体何を!」
「違います。私には何が何だか!」
わけがわからない。何が起こっているのだろう?
目の前に、手はべっとりと赤く塗り染められ鼻につくこの臭いは……血だ。
「ああ……」
女はそうつぶやくと目をとろんとさせる。また手に持った鉈を振り上げる。
「ひゃあ」
叫び声がして、周りにいた者は逃げた。同様のことが、宮廷内の至る所で起こる。従者は互いに襲い始め、傷つけあう。まるで何かにとりつかれたように。
彼らはあらゆる道具を手に持つが、今や凶器と化して、身内を攻撃する。誰も彼も目は虚ろ気である。意志を操られているようだ。
なんてことだ……
流星は宮殿の惨状を見てがく然とした。何があった? 自分は聖女が王の宝を管理するため、特別な部屋に入ったのを見届けた。そこまではいい。しかし、何かがおかしい。気づけば、あらゆる部屋、広間で従者の一部が暴徒と化し、仲間を襲っている。
流星は御隠れの間の前で警護をしていた。
剣を取り、部屋に入ったが誰もいない。聖女はいない。そして連れ添いだった祥子もいない。一体どこへ行った?
妙だ。おかしい。体に異変は特にないが……何だろうか、もやもやは?
大事なものが欠けている。足りないのだ。空白の時間がある。
言葉では説明がつかない。
つかつかと足音して、音がする方を見た。
「殿下……」
「あなたは、聖女お付きの騎士の流星ね。ご無事で?」
「はい私は。それよりも!」
「一生を聖女に捧げた身ならば、決してうろたえてはいけません」彼女の峻厳な言葉に、彼は母に叱られているような気分になった。
「しかし」
このありさまは何だというのだ?
「術者がいるはず。みな操られている」
目の前に一人の小太りの従者がよたよたと近寄ってきた。彼は手に棒を持っている。恐らく宮殿の衛兵だろう。しかし棒の先端は、赤く血塗られ服もまた同様である。
「ああ……」声は嘆息なのか、分からない。しかし彼に攻撃の意図があるのは確かだ。あまりにも気力に欠ける行為だった。
流星は身を守るために剣を抜こうとする。だが対応は西王が早かった。彼女は相手の攻撃を避けると、操られた従者の武器を奪い取り、組み伏せる。
彼女は彼の額に手を当て何やらぼそぼそと言う。彼はやがて気を静めて大人しくなった。
「無駄な殺生はやめて。いたずらに仲間を切るのは困ります」
「ですが、どう戦えというのです?」
「まずはその剣、この箱にいれてくださる?」
西王は、流星が腰につけている剣を嫌そうに見るとくるりと指で空をなぞる。するとぽんと木箱が目の前に現れた。何の変哲もない茶色の細長い木箱だ。
「ここに剣を入れて」
「はい?」
聖剣を箱に入れると、彼女は何てことないように、箱を手で回転させる。箱は彼の目の前から消えた。
「私の剣はどちらへ?」
剣は消えた。彼は、王の所業といえ、不可解な魔術に消された剣の居所を聞いた。
「どちらへやってもいずれあなたにお返しします。ただ今は聖なる物は、王の力を削ぐので遠くへ置いておくだけです」
やはり魔術の類だ。
彼女はそう言ったきり、ぶつぶつと唱え始めた。
反対呪文か。知人が悪い魔術にかけられ苦しめられた。町の翁が魔術を使って、知人を救った。あの時の魔法が反対呪文だ。恐らく同じだ。
宮廷に仕掛けられた術を解いているに違いない。術師は、あいつだ。希和子を幻霧の中で惑わせ連れ去ろうとした男。四ノ国の王、聡士。
「やあ、お取込み中悪いね」
あくまでも上からの声色で、相手を小ばかにした口調。烈王だった。手には三叉戟が握られている。
「あの申し訳ないけど、反術で術を解かれると困っちゃうのよね」
その言葉は西王に向けられたものだ。しかし彼女は無視した。
「聞いていない。やっぱり――やめてくれって言っているだろ!」
彼は手に持った戟を振り回し斬りかかりに来た。
「流星、剣を!」
え、と彼は叫ぶ。剣は箱に入れ、西王自身がどこかへやってしまった。
しかし木箱はすっと戻ってきて開く。
箱は開いた。そして中から青白い光が目に焼き付いた。聖剣は持ち主の危機が差し迫るとき光を放つ。今だ。
三叉の戟が西王を捉えている。しかし彼女は術を唱え続ける。流星は剣を繰り出し、王を守る。
間一髪だ。
剣と戟がぶつかり合う。
重い……
互いが相手の武器の重みを知った。
「父母の敵、朋輩の敵、ともに取らせてもらうぞ、烈王」
「お前の親父とお袋なんか知らねえなあ。いちいちやっちまった奴の顔なんて覚えているわけねえ?」
王の無情な言葉に流星は怒りと言う感情が怒涛の如く襲い掛かった。だめだ。勝負に冷静さを欠いてはいけない。
「ほーお、ただの人間にしてはやるね」
「ただの人間ではない。聖女直属の騎士・流星だ」
「あーそう」
カンカンという金属が擦れすり減る音。両者、互角の状況がしばらく続いた。
押されていると感じた。
「おい、顔がやばいぞ?」
烈王はすぐに相手の焦りを感知して相手を遊びの道具にした。
「もう、大丈夫です」
「術は解けました」
ち、と烈王は舌打ちをした。
想定より早く術を解かれた。こないだの幻想の術より高度で術を解除するのは難しいと言っていたのに、このありさまだ。出まかせ言いやがって。
「まあいい。戦いはやめだ」
「あんたたちの大事なもの――いや俺の大事な家族は、確かに頂いたぜ」
烈王は、指をパチンと鳴らすと姿を一瞬にしてくらました。
「殿下、追わなければ!」
「東の外れ、ここから少し離れたところ。ああ、もうじき探知できない領域に入るわ」
「どうなさるのです?」
西王は言った。
「今から王命を発令し、軍を招集します」
聖女は都から連れ去られた。
若い侍女は手に持った鉈を虚ろ気に見る。辺りには幾人のけが人と死人が転がっている。どれも深紅に染まった切り口が、致命傷だ。生きている者からもの悲しいうめき声が聞こえる。
「まあ何てこと!」
「一体何を!」
「違います。私には何が何だか!」
わけがわからない。何が起こっているのだろう?
目の前に、手はべっとりと赤く塗り染められ鼻につくこの臭いは……血だ。
「ああ……」
女はそうつぶやくと目をとろんとさせる。また手に持った鉈を振り上げる。
「ひゃあ」
叫び声がして、周りにいた者は逃げた。同様のことが、宮廷内の至る所で起こる。従者は互いに襲い始め、傷つけあう。まるで何かにとりつかれたように。
彼らはあらゆる道具を手に持つが、今や凶器と化して、身内を攻撃する。誰も彼も目は虚ろ気である。意志を操られているようだ。
なんてことだ……
流星は宮殿の惨状を見てがく然とした。何があった? 自分は聖女が王の宝を管理するため、特別な部屋に入ったのを見届けた。そこまではいい。しかし、何かがおかしい。気づけば、あらゆる部屋、広間で従者の一部が暴徒と化し、仲間を襲っている。
流星は御隠れの間の前で警護をしていた。
剣を取り、部屋に入ったが誰もいない。聖女はいない。そして連れ添いだった祥子もいない。一体どこへ行った?
妙だ。おかしい。体に異変は特にないが……何だろうか、もやもやは?
大事なものが欠けている。足りないのだ。空白の時間がある。
言葉では説明がつかない。
つかつかと足音して、音がする方を見た。
「殿下……」
「あなたは、聖女お付きの騎士の流星ね。ご無事で?」
「はい私は。それよりも!」
「一生を聖女に捧げた身ならば、決してうろたえてはいけません」彼女の峻厳な言葉に、彼は母に叱られているような気分になった。
「しかし」
このありさまは何だというのだ?
「術者がいるはず。みな操られている」
目の前に一人の小太りの従者がよたよたと近寄ってきた。彼は手に棒を持っている。恐らく宮殿の衛兵だろう。しかし棒の先端は、赤く血塗られ服もまた同様である。
「ああ……」声は嘆息なのか、分からない。しかし彼に攻撃の意図があるのは確かだ。あまりにも気力に欠ける行為だった。
流星は身を守るために剣を抜こうとする。だが対応は西王が早かった。彼女は相手の攻撃を避けると、操られた従者の武器を奪い取り、組み伏せる。
彼女は彼の額に手を当て何やらぼそぼそと言う。彼はやがて気を静めて大人しくなった。
「無駄な殺生はやめて。いたずらに仲間を切るのは困ります」
「ですが、どう戦えというのです?」
「まずはその剣、この箱にいれてくださる?」
西王は、流星が腰につけている剣を嫌そうに見るとくるりと指で空をなぞる。するとぽんと木箱が目の前に現れた。何の変哲もない茶色の細長い木箱だ。
「ここに剣を入れて」
「はい?」
聖剣を箱に入れると、彼女は何てことないように、箱を手で回転させる。箱は彼の目の前から消えた。
「私の剣はどちらへ?」
剣は消えた。彼は、王の所業といえ、不可解な魔術に消された剣の居所を聞いた。
「どちらへやってもいずれあなたにお返しします。ただ今は聖なる物は、王の力を削ぐので遠くへ置いておくだけです」
やはり魔術の類だ。
彼女はそう言ったきり、ぶつぶつと唱え始めた。
反対呪文か。知人が悪い魔術にかけられ苦しめられた。町の翁が魔術を使って、知人を救った。あの時の魔法が反対呪文だ。恐らく同じだ。
宮廷に仕掛けられた術を解いているに違いない。術師は、あいつだ。希和子を幻霧の中で惑わせ連れ去ろうとした男。四ノ国の王、聡士。
「やあ、お取込み中悪いね」
あくまでも上からの声色で、相手を小ばかにした口調。烈王だった。手には三叉戟が握られている。
「あの申し訳ないけど、反術で術を解かれると困っちゃうのよね」
その言葉は西王に向けられたものだ。しかし彼女は無視した。
「聞いていない。やっぱり――やめてくれって言っているだろ!」
彼は手に持った戟を振り回し斬りかかりに来た。
「流星、剣を!」
え、と彼は叫ぶ。剣は箱に入れ、西王自身がどこかへやってしまった。
しかし木箱はすっと戻ってきて開く。
箱は開いた。そして中から青白い光が目に焼き付いた。聖剣は持ち主の危機が差し迫るとき光を放つ。今だ。
三叉の戟が西王を捉えている。しかし彼女は術を唱え続ける。流星は剣を繰り出し、王を守る。
間一髪だ。
剣と戟がぶつかり合う。
重い……
互いが相手の武器の重みを知った。
「父母の敵、朋輩の敵、ともに取らせてもらうぞ、烈王」
「お前の親父とお袋なんか知らねえなあ。いちいちやっちまった奴の顔なんて覚えているわけねえ?」
王の無情な言葉に流星は怒りと言う感情が怒涛の如く襲い掛かった。だめだ。勝負に冷静さを欠いてはいけない。
「ほーお、ただの人間にしてはやるね」
「ただの人間ではない。聖女直属の騎士・流星だ」
「あーそう」
カンカンという金属が擦れすり減る音。両者、互角の状況がしばらく続いた。
押されていると感じた。
「おい、顔がやばいぞ?」
烈王はすぐに相手の焦りを感知して相手を遊びの道具にした。
「もう、大丈夫です」
「術は解けました」
ち、と烈王は舌打ちをした。
想定より早く術を解かれた。こないだの幻想の術より高度で術を解除するのは難しいと言っていたのに、このありさまだ。出まかせ言いやがって。
「まあいい。戦いはやめだ」
「あんたたちの大事なもの――いや俺の大事な家族は、確かに頂いたぜ」
烈王は、指をパチンと鳴らすと姿を一瞬にしてくらました。
「殿下、追わなければ!」
「東の外れ、ここから少し離れたところ。ああ、もうじき探知できない領域に入るわ」
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