七宝物語

平野耕一郎

文字の大きさ
67 / 156
終章 惜別の時

3

しおりを挟む
 数多の生命が生まれる一方で、死にゆく生命もある。今がそうだ。

 聖女の出産は、半日の時を要した。皆に見守られての出産である。艱難辛苦が伴ったが、終わりをむかえる。時が来た。御子は女であった。出産後、大勢が次の報を待った。鐘が一回なれば、女子だった。二回なら男子だ。鳴ったのは前者だった。

 おおと歓声がどよめいた。女子なれば、新たな聖女が立つ。

 しかしこのとき人々は知らない。聖女の命が絶えつつあることを……

 聖女の役目は、人々を希望と平和を持たせること。人々に敵対する者がいれば、王を任じ打ち払わせること。また顕著な働きを見せれば、恩賞を与える――その他等々。全てを総括して聖業という。最大にして最後の役目は、聖業を次の世代に引き継ぐことだ。

 希和子はどの役割も果たした。
 
 今まさに散りゆかんとする花が一輪あった。

「もう――わかります」

 希和子は全てを悟ったように言う。

「我が命が逝こうとしていること」

「ええ」

「これでいいのでしょう?」希和子は分かっているように言った。

「陛下、どうかお許しを」西王は、聖女に詫びた。

「もし戦いが終わりをむかえ、永久に平和が訪れるのであれば、私は……」

「何をおっしゃいます?」

 流星はふらふらと病床の身を起き上がらせベッドに横たわる希和子に寄り添う。

「まだです、死に急ぐなど……」

「それぞれに与えられた定めがあるのです」

 そんな、と流星は言った。こんなに早く散るべき定めなどあるだろうか?

「あなた方の顔……」

「陛下」

「もう見えないわ。ぼやけてきた……ついに来たのね」

 うっすらと開かれた瞳の間から、きらりと光る一筋の涙があった。

「まだっ」

 違う、おかしい。彼女はここで死にゆく者では決してない。

 あ、と周りにいた誰かが言った。

 持ち上げていた腕がぱたりと落ちてこと切れた。

 野に咲く一輪の花であろうとした聖女の一生は、ここに散った。

 開いている窓から、ふうと暖かい東の風が吹く。まるで、聖女という足枷から解放され、春の息吹に乗せられて旅に出るかのようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

処理中です...