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終章 惜別の時
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数多の生命が生まれる一方で、死にゆく生命もある。今がそうだ。
聖女の出産は、半日の時を要した。皆に見守られての出産である。艱難辛苦が伴ったが、終わりをむかえる。時が来た。御子は女であった。出産後、大勢が次の報を待った。鐘が一回なれば、女子だった。二回なら男子だ。鳴ったのは前者だった。
おおと歓声がどよめいた。女子なれば、新たな聖女が立つ。
しかしこのとき人々は知らない。聖女の命が絶えつつあることを……
聖女の役目は、人々を希望と平和を持たせること。人々に敵対する者がいれば、王を任じ打ち払わせること。また顕著な働きを見せれば、恩賞を与える――その他等々。全てを総括して聖業という。最大にして最後の役目は、聖業を次の世代に引き継ぐことだ。
希和子はどの役割も果たした。
今まさに散りゆかんとする花が一輪あった。
「もう――わかります」
希和子は全てを悟ったように言う。
「我が命が逝こうとしていること」
「ええ」
「これでいいのでしょう?」希和子は分かっているように言った。
「陛下、どうかお許しを」西王は、聖女に詫びた。
「もし戦いが終わりをむかえ、永久に平和が訪れるのであれば、私は……」
「何をおっしゃいます?」
流星はふらふらと病床の身を起き上がらせベッドに横たわる希和子に寄り添う。
「まだです、死に急ぐなど……」
「それぞれに与えられた定めがあるのです」
そんな、と流星は言った。こんなに早く散るべき定めなどあるだろうか?
「あなた方の顔……」
「陛下」
「もう見えないわ。ぼやけてきた……ついに来たのね」
うっすらと開かれた瞳の間から、きらりと光る一筋の涙があった。
「まだっ」
違う、おかしい。彼女はここで死にゆく者では決してない。
あ、と周りにいた誰かが言った。
持ち上げていた腕がぱたりと落ちてこと切れた。
野に咲く一輪の花であろうとした聖女の一生は、ここに散った。
開いている窓から、ふうと暖かい東の風が吹く。まるで、聖女という足枷から解放され、春の息吹に乗せられて旅に出るかのようだ。
聖女の出産は、半日の時を要した。皆に見守られての出産である。艱難辛苦が伴ったが、終わりをむかえる。時が来た。御子は女であった。出産後、大勢が次の報を待った。鐘が一回なれば、女子だった。二回なら男子だ。鳴ったのは前者だった。
おおと歓声がどよめいた。女子なれば、新たな聖女が立つ。
しかしこのとき人々は知らない。聖女の命が絶えつつあることを……
聖女の役目は、人々を希望と平和を持たせること。人々に敵対する者がいれば、王を任じ打ち払わせること。また顕著な働きを見せれば、恩賞を与える――その他等々。全てを総括して聖業という。最大にして最後の役目は、聖業を次の世代に引き継ぐことだ。
希和子はどの役割も果たした。
今まさに散りゆかんとする花が一輪あった。
「もう――わかります」
希和子は全てを悟ったように言う。
「我が命が逝こうとしていること」
「ええ」
「これでいいのでしょう?」希和子は分かっているように言った。
「陛下、どうかお許しを」西王は、聖女に詫びた。
「もし戦いが終わりをむかえ、永久に平和が訪れるのであれば、私は……」
「何をおっしゃいます?」
流星はふらふらと病床の身を起き上がらせベッドに横たわる希和子に寄り添う。
「まだです、死に急ぐなど……」
「それぞれに与えられた定めがあるのです」
そんな、と流星は言った。こんなに早く散るべき定めなどあるだろうか?
「あなた方の顔……」
「陛下」
「もう見えないわ。ぼやけてきた……ついに来たのね」
うっすらと開かれた瞳の間から、きらりと光る一筋の涙があった。
「まだっ」
違う、おかしい。彼女はここで死にゆく者では決してない。
あ、と周りにいた誰かが言った。
持ち上げていた腕がぱたりと落ちてこと切れた。
野に咲く一輪の花であろうとした聖女の一生は、ここに散った。
開いている窓から、ふうと暖かい東の風が吹く。まるで、聖女という足枷から解放され、春の息吹に乗せられて旅に出るかのようだ。
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