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年老いた狼Ⅳ 真実の追及
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取調室は空調がないためか底冷えする。板倉と秋山が今回の取り調べを担当した。被疑者を取り調べるのはもう何年前だろうか。久しぶりの臨場感だ。
板倉は大勢の被疑者を見てきたが、タイプは二つある。論理的整合性を重視するインテリタイプ。もう一つは論理なんてお構いなしの場当たり的なタイプだ。
畠山はどちらかといえば斜に構えて様子をうかがうので、インテリタイプだろう。こういうタイプは案外脆い。
「あんた、パチンコに金掛けたせいで闇金から借りているだろ? 一千万だっけ? マンションの管理人が言っていたぞ。ガラの悪いやつがくるって。でも取り立ても九月までで以降はピタッと止まったって」
畠山は視線を逸らした。金周りで困っているのは事実か。
「関係ないでしょ。どうして私がカルテや診断書を捏造する必要あるのでしょうか?」
「尾坂家からは4つの毛髪が出た。尾坂誠、尾坂詩織、風井空。あともう1人。あんたは知っているよな?」
板倉はゆっくりと指を折る。非言語による説得も自白をさせる有効な方法だ。
畠山は自身の主張の不整合さを指摘され言い澱んでいる。おとすのはそう難しくない。
「さあ、知りませんね。搬送された女性は風井空さんです。尾坂さんたちがそうおっしゃっていたのでね。自分の姪の風井空だって」
「おっと、とぼけ続けるつもりかい?」
「なにも事実を申し上げているだけです」
「診断書の偽装は私文書偽装罪、虚偽の証言は偽証罪だぜ。ここで言ってくれればまだ何とかなるけどな」
「偽装だなんてとんでもない。先ほども言う通り……」
板倉は遮った。ここで言い訳を与える必要はない。カウンターはなるべくさせない。そうとも、こいつが事故に遭った沙良を風井空として扱った本人だ。誰から頼まれたのかも知っている。
刑事は何も証拠を持たずに被疑者を取り調べることはしない。
「あんたがいう風井空が寝ていた病室のベッドについていた指紋と空の自宅の指紋は不一致だ。おかしいじゃないか?」
畠山の顔色がにわかに悪くなった。
「引き取った尾坂家にあった指紋と自宅の指紋は一致しないといけないだろ。ところが、DNA検査は違うと出てい
る」
視線を逸らした。嘘がばれそうになると表情に出る。もう一押しだろう。
「要するにだ。金で困ったあんたは頼まれて、搬送されてきた香西沙良を風井空として対処した。カルテや診断書に
その時偽装した。どうだ、違うか!」
久しぶりの取り調べだが、揺さぶるテクニックは忘れていなかった。取り調べ経験も少ない秋山のOJTにもなっていいだろう。
ある程度、力攻めをしたら今度はなだめる。その役割を秋山にやらせた。良い警官・悪い警官戦術である。
「吐きそうか?」
「確固たる証拠を突き付けていますから時間の問題でしょう」
畠山は数日以内に落ちた。お金に困っていたのは事実である。問題は誰が黒幕なのかだ。お金という餌をちらつか
せた奴こそが犯人になる。
実際は事情聴取で嘘を言っても偽証罪にはならないが、この男には効果てきめんだった。
森本千里の取り調べも進んでいた。看護婦の千里の弱みは母親の入院費だった。板倉たちの取り調べを受けた後のため、あっさりと白状をした。
「搬送されたのは香西沙良で間違いですね?」
「沙良さんは先生が診断書では風井空さんとして出すとおっしゃっていました。あと沙良さんは事故前の記憶を失く
していましたから、捏造は可能でした」
「この写真の女性で間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「あなたと沙良さんは退院後も合っていたそうじゃないか?」
別の刑事が強めに言う。
「沙良さんとは年も近いですし、お茶をしたり合コンに誘ったりしただけです。私、別にそんな、診断書やカルテを書き換えたのは先生ですし、私自身はお金をもらっただけです」
千里は何とか取り繕うとしていた。
「あなたに金を払ったのは誰です?」
今まで歯切れよく話していたのが急に沈黙した。
「どうしました?」
「あの、それはちょっと……」
「ちょっと今更言えませんじゃないでしょ?」
ドンと隣にいた刑事は机を叩いた。
「でも言ったら……」
「何?」
刑事はさらに追い詰める。
「お金を誰からもらったかは言うなって……」
「人が死んでいるんだよ。誰に唆されたのか知らないけど。正直に話してくれないかな?」
板倉は笹塚と共に外の部屋から取り調べの様子を見ていた。
どうにもはっきりしないことがある。
畠山と千里に共通しているのは金を与えた人物の名前を言わない。強めに問い詰めても、担当者を変えて優しく言ってもおどおどした態度で言わない。
「何だろうな。どうして金を渡してきた人間のことを言わない?」
「十分でしょう」
板倉からすれば、香西沙良が風井空として入院し、尾坂理佐として尾坂家で住んでいた事実が取れただけでもよい。欲を言えば、金の出所を押さえてから本丸に突っ込みたかった。
「本丸に行きますわ。秋山には言わないでおいてください」
「おい、揉め事はそろそろよした方がいいぞ。俺も抑えきれない状況だ。定年後のことを考えたほうがいいぞ」
「お気遣いどうも」
香西沙良が社長を務めている香西ホールディングスに板倉は単身突っ込むことにした。
板倉は大勢の被疑者を見てきたが、タイプは二つある。論理的整合性を重視するインテリタイプ。もう一つは論理なんてお構いなしの場当たり的なタイプだ。
畠山はどちらかといえば斜に構えて様子をうかがうので、インテリタイプだろう。こういうタイプは案外脆い。
「あんた、パチンコに金掛けたせいで闇金から借りているだろ? 一千万だっけ? マンションの管理人が言っていたぞ。ガラの悪いやつがくるって。でも取り立ても九月までで以降はピタッと止まったって」
畠山は視線を逸らした。金周りで困っているのは事実か。
「関係ないでしょ。どうして私がカルテや診断書を捏造する必要あるのでしょうか?」
「尾坂家からは4つの毛髪が出た。尾坂誠、尾坂詩織、風井空。あともう1人。あんたは知っているよな?」
板倉はゆっくりと指を折る。非言語による説得も自白をさせる有効な方法だ。
畠山は自身の主張の不整合さを指摘され言い澱んでいる。おとすのはそう難しくない。
「さあ、知りませんね。搬送された女性は風井空さんです。尾坂さんたちがそうおっしゃっていたのでね。自分の姪の風井空だって」
「おっと、とぼけ続けるつもりかい?」
「なにも事実を申し上げているだけです」
「診断書の偽装は私文書偽装罪、虚偽の証言は偽証罪だぜ。ここで言ってくれればまだ何とかなるけどな」
「偽装だなんてとんでもない。先ほども言う通り……」
板倉は遮った。ここで言い訳を与える必要はない。カウンターはなるべくさせない。そうとも、こいつが事故に遭った沙良を風井空として扱った本人だ。誰から頼まれたのかも知っている。
刑事は何も証拠を持たずに被疑者を取り調べることはしない。
「あんたがいう風井空が寝ていた病室のベッドについていた指紋と空の自宅の指紋は不一致だ。おかしいじゃないか?」
畠山の顔色がにわかに悪くなった。
「引き取った尾坂家にあった指紋と自宅の指紋は一致しないといけないだろ。ところが、DNA検査は違うと出てい
る」
視線を逸らした。嘘がばれそうになると表情に出る。もう一押しだろう。
「要するにだ。金で困ったあんたは頼まれて、搬送されてきた香西沙良を風井空として対処した。カルテや診断書に
その時偽装した。どうだ、違うか!」
久しぶりの取り調べだが、揺さぶるテクニックは忘れていなかった。取り調べ経験も少ない秋山のOJTにもなっていいだろう。
ある程度、力攻めをしたら今度はなだめる。その役割を秋山にやらせた。良い警官・悪い警官戦術である。
「吐きそうか?」
「確固たる証拠を突き付けていますから時間の問題でしょう」
畠山は数日以内に落ちた。お金に困っていたのは事実である。問題は誰が黒幕なのかだ。お金という餌をちらつか
せた奴こそが犯人になる。
実際は事情聴取で嘘を言っても偽証罪にはならないが、この男には効果てきめんだった。
森本千里の取り調べも進んでいた。看護婦の千里の弱みは母親の入院費だった。板倉たちの取り調べを受けた後のため、あっさりと白状をした。
「搬送されたのは香西沙良で間違いですね?」
「沙良さんは先生が診断書では風井空さんとして出すとおっしゃっていました。あと沙良さんは事故前の記憶を失く
していましたから、捏造は可能でした」
「この写真の女性で間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「あなたと沙良さんは退院後も合っていたそうじゃないか?」
別の刑事が強めに言う。
「沙良さんとは年も近いですし、お茶をしたり合コンに誘ったりしただけです。私、別にそんな、診断書やカルテを書き換えたのは先生ですし、私自身はお金をもらっただけです」
千里は何とか取り繕うとしていた。
「あなたに金を払ったのは誰です?」
今まで歯切れよく話していたのが急に沈黙した。
「どうしました?」
「あの、それはちょっと……」
「ちょっと今更言えませんじゃないでしょ?」
ドンと隣にいた刑事は机を叩いた。
「でも言ったら……」
「何?」
刑事はさらに追い詰める。
「お金を誰からもらったかは言うなって……」
「人が死んでいるんだよ。誰に唆されたのか知らないけど。正直に話してくれないかな?」
板倉は笹塚と共に外の部屋から取り調べの様子を見ていた。
どうにもはっきりしないことがある。
畠山と千里に共通しているのは金を与えた人物の名前を言わない。強めに問い詰めても、担当者を変えて優しく言ってもおどおどした態度で言わない。
「何だろうな。どうして金を渡してきた人間のことを言わない?」
「十分でしょう」
板倉からすれば、香西沙良が風井空として入院し、尾坂理佐として尾坂家で住んでいた事実が取れただけでもよい。欲を言えば、金の出所を押さえてから本丸に突っ込みたかった。
「本丸に行きますわ。秋山には言わないでおいてください」
「おい、揉め事はそろそろよした方がいいぞ。俺も抑えきれない状況だ。定年後のことを考えたほうがいいぞ」
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