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第二章 復讐
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記録十
日付:二〇二二年六月十六日
時刻:午後十一時二十三分
場所:東京都港区西麻生三丁目ホテルロリエ七〇八号室
さすがに初回からはない。何度と回数を重ねるうちにとうとう口にするようになった。
酒が少し入っていた。何度もバックで知名を突いたが飽きてきた。やってみてわかったが、
この女はスタイル的魅力で匂わせるだけで、何も面白くないのだ。
「正夢君、私に飽きちゃった?」
知名は萎びていく下半身に気づいたようだ。
「もっと気持ちよくならない?」
「どうした、満足できないのか?」
ちょっと待ってといって知名は布団から出てDIORの鞄からビニールパッケージとストローを短く切ったものを手に持っていた。
厚化粧で赤い口紅を塗った顔がキュッと歪んだ。アメコミ映画に出てくる悪役のひねくれた笑みに似ていた。
「一緒に吸わない?」
「なんだいそれ?」
きた。
私は心でガッツポーズを取った。
武田知名のコカイン接種疑惑。やはり噂は本当だった。きっかけは一年前の二〇二〇年にさかのぼる。知名は緊急事態でありながら、自宅飲みをやっていた。このときの写真が流出して一時炎上していた。その際にテーブルの上に残っていた白い粉がコカインではないかという噂が流れていた。
私は最高級の恥辱的なシーンを取ってやろう。
「面白そうだ。どうやって吸うんだ?」
千名は黒いテーブルにとんとんとコカインを足すと、縦に三列ほど分ける。手に持った
短いストローを鼻に入れてすっと吸った。
カメラの位置を私は確認した。問題ない。
「どう? 簡単でしょ?」
私も不本意ながらやってみた。粉が鼻腔内に蔓延した。とたんにむせた。そんな様子をみて知名は笑っていた。
「何がおかしい?」
「可愛いなって思って。知っていた? 私、正夢君がずっと好きだったんだよ?」
匂わせ女が。金でIT企業の社長のトロフィーワイフになったくせに他の男と体を結ぶ。
こいつは正真正銘の金の豚だ。
「嬉しいな。ただ僕は」
言葉に迷った。僕も好きだったなんてこんな尻軽に言いたくない。隣に座ってじっとにらんでやる。
私は耳元に近づいて息を吹きかけた。
「誘っているんじゃねえ。このやりマンが」
愛の告白でもされると思ったのか。少しは傷ついたか。
知名は予想外に反して何も示さなかった。やはり、この手の女はそう思われることに慣れている。
「ほら、段々気持ち良くなってきたでしょ。ハイになってきたでしょ?」
確かにそうだ。
「金だろ? 旦那とも金目当てだろ?」
私は行為を中断した。腹立たしかったからだ。
「やろうよ。どうして止めるの? もっと気持ちよくなろう」
「質問に答えろ。金は好きか? 旦那とは何で結婚したんだ?」
「知ってどうするの?」
「言わないと続きはなしだ」
「お金は確かに欲しかったよ」
「愛より金か?」
知名は困っていた。お前の贖いはまだ足りていない。もっとみじめにさせてやる。私は財布から数万ほど出して金を口に咥えさせる。
「お前にやる。それがお前の価値だ。落とすな。落とさなかったらもっとやる。金まみれにさせてやるよ」
金、金、金だ。
金の言葉が頭に鳴り響く。私はピシリと知名の尻をリズムよく叩き続けた。
もはや私も知名も何を言っているのか不明だ。
「あっ、あっ!」
人の理性が弾けた瞬間を私は目撃していた。
知名はカメラを前にして快楽にあふれた表情を見せていた。体を大きく揺らせて口元からよだれを垂らす。SNSで出まわったらアンチどもが驚嘆するだろう。我先にと引用して拡散してインプレッションを伸ばす。新鮮な肉に群がったハイエナのように、アンチは肉を食い散らかす。
口を大きくあけながら波打ち際に打ち上げられた魚のようにピクリピクリと痙攣をしていた。最後まできっちり撮ってやった。
むずむずした感触が全身に残りながら、私は大江戸線六本木駅から電車に乗り、両国駅まで向かった。外に出ると同じ東京とは思えない下町ならではの静かな風景。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)はいない。
マンションの近くに横網公園があり、私は闇夜に静まり誰もない慰霊堂の前のベンチに座って休んだ。
両国は人も街も私に合っていた。慰霊堂には関東大震災と太平洋戦争の英霊が祀られていた。こんなことを言ってしまうと元も子もない話になる。何十万人を奪った未曽有の出来事に比べたら、私に降りかかった不幸など、他愛もない。
復讐で傷ついた心を癒してくれる。
私はグッと水を飲んだ。
「どうだった? 楽しいことは出来たの?」
「怒るな。たいしたことじゃない。とりあえず証拠の写真は取れた」
「見せてー」
カメラを渡した。人とは下種な生き物だ。誰かが燃えているのを楽しんでいる。本当の業火の責め苦というものを叩いている連中は何も知らない。
優里の目はこれ以上にないほど冷たかった。どうやら女の闘争本能というやつだろう。私は触れないようしていた。
あの卑猥に満ちた動画を優里は無表情のまま見続けていた。
「編集しておく」
「俺も手伝おうか?」
「私がやる」
私たちはチームだからうまく編集してくれると思うが、私自身も晒されはしないかと不安を感じずにはいられなかった。
二、三日して優里は編集後の動画を見せてくれた。私の表情は見られないよう隠され、仕方なく映っていた部分はモザイクがかかっている。よかった。
「じゃあ、ラガソに送ろうか」
私はぼんやりと知名とのセックスを想起していた。
「こら。何にやにやしているのよ」
「イテッ!」
「まさか私よりあんなのに現を抜かすなんて最低」
私は虫の息になっているアルマジロのように飛び跳ねた。指をブスリと爪楊枝で刺されて目が覚めた。血がにじみ出ていた。
フンと鼻を鳴らす優里を見て、たくさん愛を注いでやった。最後に一緒にベンゾジアゼピンをしっかり飲んで夢に落ちた。
記録十
日付:二〇二二年六月十六日
時刻:午後十一時二十三分
場所:東京都港区西麻生三丁目ホテルロリエ七〇八号室
さすがに初回からはない。何度と回数を重ねるうちにとうとう口にするようになった。
酒が少し入っていた。何度もバックで知名を突いたが飽きてきた。やってみてわかったが、
この女はスタイル的魅力で匂わせるだけで、何も面白くないのだ。
「正夢君、私に飽きちゃった?」
知名は萎びていく下半身に気づいたようだ。
「もっと気持ちよくならない?」
「どうした、満足できないのか?」
ちょっと待ってといって知名は布団から出てDIORの鞄からビニールパッケージとストローを短く切ったものを手に持っていた。
厚化粧で赤い口紅を塗った顔がキュッと歪んだ。アメコミ映画に出てくる悪役のひねくれた笑みに似ていた。
「一緒に吸わない?」
「なんだいそれ?」
きた。
私は心でガッツポーズを取った。
武田知名のコカイン接種疑惑。やはり噂は本当だった。きっかけは一年前の二〇二〇年にさかのぼる。知名は緊急事態でありながら、自宅飲みをやっていた。このときの写真が流出して一時炎上していた。その際にテーブルの上に残っていた白い粉がコカインではないかという噂が流れていた。
私は最高級の恥辱的なシーンを取ってやろう。
「面白そうだ。どうやって吸うんだ?」
千名は黒いテーブルにとんとんとコカインを足すと、縦に三列ほど分ける。手に持った
短いストローを鼻に入れてすっと吸った。
カメラの位置を私は確認した。問題ない。
「どう? 簡単でしょ?」
私も不本意ながらやってみた。粉が鼻腔内に蔓延した。とたんにむせた。そんな様子をみて知名は笑っていた。
「何がおかしい?」
「可愛いなって思って。知っていた? 私、正夢君がずっと好きだったんだよ?」
匂わせ女が。金でIT企業の社長のトロフィーワイフになったくせに他の男と体を結ぶ。
こいつは正真正銘の金の豚だ。
「嬉しいな。ただ僕は」
言葉に迷った。僕も好きだったなんてこんな尻軽に言いたくない。隣に座ってじっとにらんでやる。
私は耳元に近づいて息を吹きかけた。
「誘っているんじゃねえ。このやりマンが」
愛の告白でもされると思ったのか。少しは傷ついたか。
知名は予想外に反して何も示さなかった。やはり、この手の女はそう思われることに慣れている。
「ほら、段々気持ち良くなってきたでしょ。ハイになってきたでしょ?」
確かにそうだ。
「金だろ? 旦那とも金目当てだろ?」
私は行為を中断した。腹立たしかったからだ。
「やろうよ。どうして止めるの? もっと気持ちよくなろう」
「質問に答えろ。金は好きか? 旦那とは何で結婚したんだ?」
「知ってどうするの?」
「言わないと続きはなしだ」
「お金は確かに欲しかったよ」
「愛より金か?」
知名は困っていた。お前の贖いはまだ足りていない。もっとみじめにさせてやる。私は財布から数万ほど出して金を口に咥えさせる。
「お前にやる。それがお前の価値だ。落とすな。落とさなかったらもっとやる。金まみれにさせてやるよ」
金、金、金だ。
金の言葉が頭に鳴り響く。私はピシリと知名の尻をリズムよく叩き続けた。
もはや私も知名も何を言っているのか不明だ。
「あっ、あっ!」
人の理性が弾けた瞬間を私は目撃していた。
知名はカメラを前にして快楽にあふれた表情を見せていた。体を大きく揺らせて口元からよだれを垂らす。SNSで出まわったらアンチどもが驚嘆するだろう。我先にと引用して拡散してインプレッションを伸ばす。新鮮な肉に群がったハイエナのように、アンチは肉を食い散らかす。
口を大きくあけながら波打ち際に打ち上げられた魚のようにピクリピクリと痙攣をしていた。最後まできっちり撮ってやった。
むずむずした感触が全身に残りながら、私は大江戸線六本木駅から電車に乗り、両国駅まで向かった。外に出ると同じ東京とは思えない下町ならではの静かな風景。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)はいない。
マンションの近くに横網公園があり、私は闇夜に静まり誰もない慰霊堂の前のベンチに座って休んだ。
両国は人も街も私に合っていた。慰霊堂には関東大震災と太平洋戦争の英霊が祀られていた。こんなことを言ってしまうと元も子もない話になる。何十万人を奪った未曽有の出来事に比べたら、私に降りかかった不幸など、他愛もない。
復讐で傷ついた心を癒してくれる。
私はグッと水を飲んだ。
「どうだった? 楽しいことは出来たの?」
「怒るな。たいしたことじゃない。とりあえず証拠の写真は取れた」
「見せてー」
カメラを渡した。人とは下種な生き物だ。誰かが燃えているのを楽しんでいる。本当の業火の責め苦というものを叩いている連中は何も知らない。
優里の目はこれ以上にないほど冷たかった。どうやら女の闘争本能というやつだろう。私は触れないようしていた。
あの卑猥に満ちた動画を優里は無表情のまま見続けていた。
「編集しておく」
「俺も手伝おうか?」
「私がやる」
私たちはチームだからうまく編集してくれると思うが、私自身も晒されはしないかと不安を感じずにはいられなかった。
二、三日して優里は編集後の動画を見せてくれた。私の表情は見られないよう隠され、仕方なく映っていた部分はモザイクがかかっている。よかった。
「じゃあ、ラガソに送ろうか」
私はぼんやりと知名とのセックスを想起していた。
「こら。何にやにやしているのよ」
「イテッ!」
「まさか私よりあんなのに現を抜かすなんて最低」
私は虫の息になっているアルマジロのように飛び跳ねた。指をブスリと爪楊枝で刺されて目が覚めた。血がにじみ出ていた。
フンと鼻を鳴らす優里を見て、たくさん愛を注いでやった。最後に一緒にベンゾジアゼピンをしっかり飲んで夢に落ちた。
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