異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第3章―夢と大切なこと

その夢は誰が為に#2

~ダニエル視点~

ミハル=ブラックウェルの部屋は屋敷の奥の奥、厳重に守られた先にあった。

「この先、あまり灯りが置かれておりませんので、足元ご注意ください」
「何故ですか?」
「灯りは魔法具ですので、少しでもミハル様の体調に影響がないようにです」
「ああ、成程」

マナ不適合症か。この世界に当たり前にあるものが合わないのは、苦労するな。

「ミハル様、失礼します。お加減はいかかですか?ダニエル様をお連れしましたよ」

ミハルの侍女だという使用人がドア越しにそう言うと、ややあって中から小さく「どうぞ」と声が聞こえた。

ドアが開けられ中に入ると、かなり殺風景な光景が目についた。
貴族の部屋らしく内装は煌びやかに施されているものの、置いてあるものは最小限。机と椅子、数個の棚に本棚のみ。
一番目につくのは、何重にも天蓋の掛けられたキングサイズのベッドだった。

「ミハル様、お加減はどうですか?」
「ケホッ……、きょうは、調子、いいですよ」

ベッドの上に積まれたクッションに背を預けながら、途切れ途切れに話す子供。
調子がいい、といいつつも、彼の顔は青ざめており、冷や汗をかいているのか、透き通るような金の髪が頬に少し貼り付いていた。

「はじめまして。ミハルです。なかなか、顔を、合わせられなくて、ごめんなさい」

ベッドの上のミハル=ブラックウェルは少し辛そうに眉を歪めつつも笑って言った。
その痛々しさに思わず目を背けたくなったが、何とか笑顔を作って答えた。

「はじめまして。ダニエル=ネロです。僕の話は聞いていると思いますけど……結構前から、この屋敷にお世話になってます。よろしくお願いします」
「えへへ、よろしくね。同い年、なんだよね?敬語じゃ、なくても、いいかな」
「僕はブラックウェルにお世話になってる身ですから、ブラックウェルの貴方が僕に対して敬語を使う必要はありません」
「……え、うん、まあ、そうなんだけど……」

僕の返答が気に召さなかったのか、ミハルは笑いつつも微妙な顔をした。

「そういうのじゃなくてさ、ほら、同い年なんだし、君も……敬語じゃなくて、いいんだよ?」
「いえ、そういうのはきちんとしないと」
「そ、そう……」

どうやら彼はほとんど人と接しないからか、下の者に対する貴族の態度がわかっていないようだ。さっきも使用人に対して敬語を使っていたし。
僕の素性は彼と対等かもしれないが、対外的には僕の立場はこの屋敷では彼の下だ。下である以上、僕はそういう態度でいる必要がある。――彼の体面を守る為にも。

「そ、それじゃ今までダニエル君はどんな風に暮らしてたの?僕、あまり外に行ったことないから、外の生活がどんな感じか興味あって……」

気まずいのか、ミハルは苦笑いで話題を変えた。
聞いていたとおり、彼はほとんど外に出たことがないようだ。僕と顔を合わせられたのも僕が来て一か月も経ってからだったから、それも無理はないと思った。

「別に大した生活はしてません。母と店に行って買い物をしたり、学校に行ったりとか、そんなものです」
「へー、学校あるんだ!学校楽しかった?」
「……まあ、それなりです」

最初は聞かれたことにただ応えるだけだった。
でも彼は、自分の知らないことを、好奇心のままに次々と僕に聞いてくる。僕が答えれば、それを正しく理解し、また新たな話題を振りかけてくる。
こんな楽しい、と思える会話は初めてかもしれなかった。

透き通って消えてしまいそうなほどの儚げな容姿に、人を疑うことを知らなそうな、素直な性格。彼の周りは俗世のものが少ないのも相まって、見れば見るほど、この世に存在する者とは思えなくなってきた。
そんな彼としばらく会話を楽しんでいたが、段々彼が小さく咳き込み始めた。

「僕が前居たところは港町だったので、魚市場が盛んでした。いつも新鮮な魚介類が食べられるのが街の売りでしたね」
「へ~、市場かあ。きっと……ケホッ、賑やか、なんだろうなぁ。いって、みたい、な……ケホ、ケホッ」
「……ミハル様、そろそろ」
「ん……、でも……ケホッ、まだ、話した……ゲホッゴホッ!」
「無理はいけませんよ」

呼吸器が弱いと言うのは本当らしく、長時間話をするのは難しいようでミハルは身を折って咳き込み始めてしまった。そんな彼を侍女は慣れた手つきで宥めた。

「ダニエル様、申し訳ありません。今日はここまでで……」
「……はい。すみませんミハル様、つい話が長くなってしまいました」
「ゲホッ……、僕、こそ、ごめん、ね……もっと、ながく……けほっ、……話、できれば、いいんだけど……」
「いえ、無理はなさらないでください。……また、来ますから」

そう言うと、ミハルは苦し気な顔をしながらも笑顔で見送ってくれた。


「ミハル様があんなに楽しそうにお話されているところは久々に見ました」

ミハルの部屋を出て、自室へ戻る道すがら、ミハルの侍女がそのようなことを言った。

「ミハル様には、お体のこともあってご友人がいらっしゃらないので……ダニエル様とのお話がとても楽しかったようです。よければこれからも、時折ミハル様にお会いいただけませんでしょうか?」

そう言われて、僕は断ることができなかった。――いや、したくなかった。
ミハルとはただ顔を合わせるだけのつもりだったのだけど。彼との会話が思った以上に楽しかったから。

「友人がいないというのは……僕も一緒です。また、会えそうなとき呼んでください。行きますから」
「……!ダニエル様、ありがとうございます!」

僕が応えると、ミハルの侍女は嬉しそうに笑って頭を下げ去っていった。


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