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第3章―夢と大切なこと
その夢は誰が為に#3
~ダニエル視点~
それからは、ミハルの体調が許す限りは彼の部屋まで行き、話をするようになった。
彼の調子が良い時は一緒に勉強もした。彼は兄ユリアス程ではないが十分優秀だった。話していて苦ではないのは、そういうところもあったのだろう。
――なにより彼は、僕の夢を馬鹿にしなかった。この国では一般的ではない、科学技術の研究者になるという夢を。
母さん以外の人に話しても、そんなものやるだけ無駄だと言われるばかりだったのに。
「馬鹿になんてしないよ……とても素敵な夢だと思う。僕は、応援するよ」
「……本当ですか」
「うん。それに、僕のお父さまもその研究してるしね。――そうだ。今度、参考書送ってもらうように言ってみるよ」
「え、でも」
「大丈夫だよ、きっとお父さまも喜ぶと思う。……お父さま、僕の為に研究してくれてるから」
聞くと彼の父であるウィリアム=ブラックウェルはマナ不適合症の自分のため、首都へ行ってマナを防ぐためのアイテム開発に勤しんでいるらしい。その一環で、科学技術についても研究をしているようだ。
魔法に頼らない生活基盤を構築して、ミハルが生きやすくなるために。
「良いお父様じゃないですか」
「……うん、でも、僕のために、お父さまに負担を掛けちゃって、それが本当に申し訳なくて……」
――ミハルと話していて常に思うのは、彼は自身が誰かの負担になることを極端に恐れている、ということだった。
身体が弱いからという理由だけではない、彼の心の底に根深くある、自分に対しての劣等感。そんなものを感じる。
そういうところだけは、僕は受け入れられなかった。
「ウィリアム様はミハル様のことが負担だなんて言ったことがあったのですか?」
「……ううん、ないけど」
「ならそれは考えすぎです。ウィリアム様はミハル様を負担だなんてきっと思っていないです。むしろ貴方のためを思ってやっているんです。それを負担だなんて、言わないであげてください」
「ど、どうして?」
僕の言葉に戸惑うミハルに対し、僕はさらに続けた。
「世間じゃ一般的ではない科学技術のことを研究しようなんて、並大抵の思いではできません。……つまり、それだけウィリアム様は貴方に健やかに生きていてほしいと思っているんです。それを負担だなんていうのは……その思いを踏みにじるのと同じですよ」
僕はそう言いながら、過去のことを思い出していた。
――かつて、僕の為に日夜問わず働いていた母さんのことを。
母さんは、僕が将来したいことを聞いて、僕をアカデミーに入れるために、日々の生活も苦しい中、昼夜問わず働いた。
母さんが体調を崩したとき、何故そこまでするのか、母さんの負担になりたくないからもうやめてと縋ったことがあった。
その時に母さんが言ったのだ。
『――負担なんかじゃないわ。私は貴方が本当にしたいことをやれるようにするためなら、なんだってできるの。だから負担だなんて、貴方が言わないで』
――結局、そう言った母さんは、死んでしまったのだけど。
それでも、母さんのその言葉は今も胸に残り続けている。
だからいつか僕は夢を叶えたい。母さんが応援してくれた、研究者になる夢を。
母さんの、最期に僕に向けてくれた笑顔を思い出していると、突如手を握られた。
「ダニエル君……ありがとう」
「……?」
「僕、とても大事なこと、気付かせてもらった」
僕の手を握りながら礼を言ってきたミハルは、先程とは全然違った表情をしていた。
彼の中で何かが、確実に変わったような。そんなことが伺える表情だった。
「ねえ、ダニエル君」
「……なんですか?」
「僕も、科学技術のこと研究したい。もう、自分のこと、諦めたくないから……だからさ、協力してくれないかな」
「協力ですか……?」
「一緒に、科学技術の研究してほしいんだ。僕の将来と――君の夢の為に」
彼は真剣なまなざしで僕を見つめながら、手を差し出してきた。
「――はい」
握手を求められていると気付いたときにはもう、僕はその手を握り返していた。
――僕の夢を馬鹿にしなかった彼と一緒なら、僕は夢を叶えられる。そんな気がしていた。
「それじゃ、今日から僕たちは共同研究者ね!なら……僕らは対等、ってことでいいよね?」
「え?それは何か違うのでは……」
「いいじゃん、今日から対等ってことで、敬語なしね!」
「え、ええ!?いや、それはちょっと……」
「……駄目?」
ミハルに期待を込めたような目で見つめられてしまって、僕は何も言えなくなってしまった。
「……し、仕方ないな。でも、二人きりのときだけだからね」
「えへへ、やった!」
――そう言って笑ったミハルのはじけるような笑顔に、見惚れてしまったのはここだけの話だ。
そんな話をして数週間後。僕の下に科学技術に関する参考書がいくつか送られてきた。以前言っていたとおり、ミハルがウィリアム=ブラックウェルに話をしてくれたようだ。
「ゴホッ……お父さま、から、本、届いた……?」
「うん、届いたよ」
「よか、た……ゲホゲホッ、ゴホッ!」
「……今日は一段と体調が悪そうだね」
「きのう、そと、いってきた、から、かも」
「外に?何で?」
「どうしても、行かなきゃいけない、検査、あって」
どうやら大抵のことは家にある設備で済ませられるようだが、年に数回、どうしても屋敷外の医療施設に行って検査しなければならないことがあるらしく、昨日がその日だったそうだ。その検査は一日がかりだそうで、かなり体に負担がかかるようだ。
「いつも、の、ことだから……だいじょぶ、だよ」
ミハルはそう言って笑っていたが、僕の胸の内には、漠然とした不安が広がっていた。
それからは、ミハルの体調が許す限りは彼の部屋まで行き、話をするようになった。
彼の調子が良い時は一緒に勉強もした。彼は兄ユリアス程ではないが十分優秀だった。話していて苦ではないのは、そういうところもあったのだろう。
――なにより彼は、僕の夢を馬鹿にしなかった。この国では一般的ではない、科学技術の研究者になるという夢を。
母さん以外の人に話しても、そんなものやるだけ無駄だと言われるばかりだったのに。
「馬鹿になんてしないよ……とても素敵な夢だと思う。僕は、応援するよ」
「……本当ですか」
「うん。それに、僕のお父さまもその研究してるしね。――そうだ。今度、参考書送ってもらうように言ってみるよ」
「え、でも」
「大丈夫だよ、きっとお父さまも喜ぶと思う。……お父さま、僕の為に研究してくれてるから」
聞くと彼の父であるウィリアム=ブラックウェルはマナ不適合症の自分のため、首都へ行ってマナを防ぐためのアイテム開発に勤しんでいるらしい。その一環で、科学技術についても研究をしているようだ。
魔法に頼らない生活基盤を構築して、ミハルが生きやすくなるために。
「良いお父様じゃないですか」
「……うん、でも、僕のために、お父さまに負担を掛けちゃって、それが本当に申し訳なくて……」
――ミハルと話していて常に思うのは、彼は自身が誰かの負担になることを極端に恐れている、ということだった。
身体が弱いからという理由だけではない、彼の心の底に根深くある、自分に対しての劣等感。そんなものを感じる。
そういうところだけは、僕は受け入れられなかった。
「ウィリアム様はミハル様のことが負担だなんて言ったことがあったのですか?」
「……ううん、ないけど」
「ならそれは考えすぎです。ウィリアム様はミハル様を負担だなんてきっと思っていないです。むしろ貴方のためを思ってやっているんです。それを負担だなんて、言わないであげてください」
「ど、どうして?」
僕の言葉に戸惑うミハルに対し、僕はさらに続けた。
「世間じゃ一般的ではない科学技術のことを研究しようなんて、並大抵の思いではできません。……つまり、それだけウィリアム様は貴方に健やかに生きていてほしいと思っているんです。それを負担だなんていうのは……その思いを踏みにじるのと同じですよ」
僕はそう言いながら、過去のことを思い出していた。
――かつて、僕の為に日夜問わず働いていた母さんのことを。
母さんは、僕が将来したいことを聞いて、僕をアカデミーに入れるために、日々の生活も苦しい中、昼夜問わず働いた。
母さんが体調を崩したとき、何故そこまでするのか、母さんの負担になりたくないからもうやめてと縋ったことがあった。
その時に母さんが言ったのだ。
『――負担なんかじゃないわ。私は貴方が本当にしたいことをやれるようにするためなら、なんだってできるの。だから負担だなんて、貴方が言わないで』
――結局、そう言った母さんは、死んでしまったのだけど。
それでも、母さんのその言葉は今も胸に残り続けている。
だからいつか僕は夢を叶えたい。母さんが応援してくれた、研究者になる夢を。
母さんの、最期に僕に向けてくれた笑顔を思い出していると、突如手を握られた。
「ダニエル君……ありがとう」
「……?」
「僕、とても大事なこと、気付かせてもらった」
僕の手を握りながら礼を言ってきたミハルは、先程とは全然違った表情をしていた。
彼の中で何かが、確実に変わったような。そんなことが伺える表情だった。
「ねえ、ダニエル君」
「……なんですか?」
「僕も、科学技術のこと研究したい。もう、自分のこと、諦めたくないから……だからさ、協力してくれないかな」
「協力ですか……?」
「一緒に、科学技術の研究してほしいんだ。僕の将来と――君の夢の為に」
彼は真剣なまなざしで僕を見つめながら、手を差し出してきた。
「――はい」
握手を求められていると気付いたときにはもう、僕はその手を握り返していた。
――僕の夢を馬鹿にしなかった彼と一緒なら、僕は夢を叶えられる。そんな気がしていた。
「それじゃ、今日から僕たちは共同研究者ね!なら……僕らは対等、ってことでいいよね?」
「え?それは何か違うのでは……」
「いいじゃん、今日から対等ってことで、敬語なしね!」
「え、ええ!?いや、それはちょっと……」
「……駄目?」
ミハルに期待を込めたような目で見つめられてしまって、僕は何も言えなくなってしまった。
「……し、仕方ないな。でも、二人きりのときだけだからね」
「えへへ、やった!」
――そう言って笑ったミハルのはじけるような笑顔に、見惚れてしまったのはここだけの話だ。
そんな話をして数週間後。僕の下に科学技術に関する参考書がいくつか送られてきた。以前言っていたとおり、ミハルがウィリアム=ブラックウェルに話をしてくれたようだ。
「ゴホッ……お父さま、から、本、届いた……?」
「うん、届いたよ」
「よか、た……ゲホゲホッ、ゴホッ!」
「……今日は一段と体調が悪そうだね」
「きのう、そと、いってきた、から、かも」
「外に?何で?」
「どうしても、行かなきゃいけない、検査、あって」
どうやら大抵のことは家にある設備で済ませられるようだが、年に数回、どうしても屋敷外の医療施設に行って検査しなければならないことがあるらしく、昨日がその日だったそうだ。その検査は一日がかりだそうで、かなり体に負担がかかるようだ。
「いつも、の、ことだから……だいじょぶ、だよ」
ミハルはそう言って笑っていたが、僕の胸の内には、漠然とした不安が広がっていた。
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