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第7章―友愛
深思#1
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~ジル視点~
首都の中心街を散策したその次の日。
俺はとある人物から連絡を受け、首都から馬車で二日ほどの距離にある村へと向かった。
馬車を乗り継ぎ二日かけ着いた村の入り口で、俺を呼びだした人物に迎えられた。
「突然お呼び立てしてしまって申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。――それで、彼は何処に?」
「あちらの宿にいらっしゃいます」
彼の後に着いて、俺は「彼」の待つ宿へと向かった。
「――イツキ様、ジルベール様がいらっしゃいました」
「……」
彼――イツキ=ゴールドバーク皇子は部屋に唯一あるベッドに腰かけていたが、俺を見るなり顔を顰めた。
「……ジル。お前、何で来た?」
「貴方が怪我をして、魔法で治してほしいと言われたからですよ」
「……余計なことを」
俺の返答に対し、イツキ皇子は俺をここまで連れてきた彼の従者を睨み付けながら恨めしそうに呟いた。
「こんな怪我、大したもんじゃないのにわざわざ呼ぶな。ジルにはミハルを任せてるんだぞ」
「大したもんじゃないなんてよく言えますね!お腹ざっくりいかれてたじゃないですか!」
「内臓までいってないから平気だ」
「内臓までいってなくても肉が見えてたらそれは大怪我なんですよ!!」
イツキ皇子と彼の従者が言い争うのを、俺は内心呆れながら見ていた。
「……また暗殺者ですか」
「そうなんですよ!公務先からこの宿に戻る途中に……」
イツキ皇子はとにかく様々なところで命を狙われている。行く先々で暗殺者が現れるのは最早日常茶飯事だった。
しかし、彼もいつまでもしてやられているような人ではない。
狙われれば狙われるほど、彼の暗殺者への対処のレベルも上がった。だからここ最近は怪我もしていなかったはずだ。
彼としては嫌な慣れではあると思うが。
「今回はどうしてまた、こんなことに」
「あろうことか私を庇ったんですよ、この方は!」
イツキ皇子の代わりに応えたのは彼の従者だった。
「一介の従者である私を庇うなんて!貴方は皇子だという事をもっと自覚してください!私はケツの青い子供に庇われるほどまだ耄碌していませんから!!」
「そのケツの青い子供に庇われた時点でお前も年食ったということだろ」
「相変わらず口が減らない方ですね貴方は!!守るべき主人に庇われた私の身にもなってください!!」
どうやら彼が怪我を負った原因は従者を庇ったからだったようだ。
イツキ皇子の従者は、彼の母親であるエリザベス=リリーホワイト様に元々仕えていた従者だ。若い頃は冒険者として名を轟かせており、イツキ皇子が幼い頃は皇子を狙う暗殺諸々から体を張って守ってきたようだが、彼もエリザベス様に仕えたのちその子供であるイツキ皇子に仕えてもう長く、流石の彼でも歳には勝てなくなってきたということだろうか。
「大体まだ毒の影響も抜けてなかったでしょう!だから今日の予定は後日にしましょうと言ったんですよ!なのに貴方は……」
「そんなことで予定を伸ばすわけにはいかない。先方の都合もあるんだから」
「毒って……もしかしてまたですか?」
俺が訊くと、彼の従者が頷いた。
「ここへ来る前に一度皇宮に戻った際、第一皇妃のお茶会に呼ばれたんですよ。今回は割とキツめのものを入れられていたようでして」
「……あの方も懲りませんね」
「ええ、本当に」
イツキ皇子の命を執拗に狙う第一皇妃は、彼をお茶会に呼んでは毒を仕込む。しかし皇宮の立場では彼女より下であるイツキ皇子はお茶会への参加を断ることは出来ず、毎回毒が仕込まれていることを承知で参加をせざるを得ないようだった。幼い頃はそれで何回も死にかけたそうだが、図らずもそれが彼の毒への耐性を上げることになった。
今や彼女も毒で今更イツキ皇子を殺せるとは思っていないだろうが、あの女は趣味が悪いので、皇子が毒を口に入れる際の反応で愉しんでいる節があった。――本当に、夫婦揃って性質の悪い人たちである。
とにかく、今回のイツキ皇子の怪我は、毒の影響と暗殺者襲来が重なったために負ってしまい、そして俺が治療の為に呼ばれたということのようだ。
かつてはよくこうして彼の怪我の治療の為に呼ばれたが、最近は怪我をすることもなくなっていたので、今回のことは彼としても不満なのだろう。
先程から不機嫌さを隠そうともしていないことがその証拠だ。
俺は不貞腐れたようにベッドに腰かけているイツキ皇子の下へと近づくと、彼の上衣を捲り上げた。
「おい、やめろ」
「貴方、これでよく大したもんじゃないなんて言えましたね」
捲り上げたことで露わになった彼のお腹には白い包帯が巻かれていたが、その包帯には赤い染みが広がっていた。
「どうですか、ジルベール様」
「傷の深さは確かにまだ浅い方ですが、斬られた刃物に何か仕込まれていたようですね。毒というよりは呪いに近いものが」
「呪いですか?」
「生にしがみつく思いが強ければ強いほど、傷が治りづらくなる呪いです」
「なんてものを……」
俺の言葉に、彼の従者は顔を青ざめさせた。
俺の目には、傷に対してマナが渦巻いているのがはっきりと見えた。このマナこそが仕込まれた呪いだ。それはぐるぐると渦巻いて、傷の治りを阻害していた。
だから今も相当痛みはあるはずだが、彼はそんな素振りは一つも見せていなかった。
――彼は、そうせざるを得ないのだ。
弱っているところを少しでも見せたならば最後、彼はその立場から引き摺り降ろされる。
それが彼の生きている皇宮という場所だった。
***
首都の中心街を散策したその次の日。
俺はとある人物から連絡を受け、首都から馬車で二日ほどの距離にある村へと向かった。
馬車を乗り継ぎ二日かけ着いた村の入り口で、俺を呼びだした人物に迎えられた。
「突然お呼び立てしてしまって申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。――それで、彼は何処に?」
「あちらの宿にいらっしゃいます」
彼の後に着いて、俺は「彼」の待つ宿へと向かった。
「――イツキ様、ジルベール様がいらっしゃいました」
「……」
彼――イツキ=ゴールドバーク皇子は部屋に唯一あるベッドに腰かけていたが、俺を見るなり顔を顰めた。
「……ジル。お前、何で来た?」
「貴方が怪我をして、魔法で治してほしいと言われたからですよ」
「……余計なことを」
俺の返答に対し、イツキ皇子は俺をここまで連れてきた彼の従者を睨み付けながら恨めしそうに呟いた。
「こんな怪我、大したもんじゃないのにわざわざ呼ぶな。ジルにはミハルを任せてるんだぞ」
「大したもんじゃないなんてよく言えますね!お腹ざっくりいかれてたじゃないですか!」
「内臓までいってないから平気だ」
「内臓までいってなくても肉が見えてたらそれは大怪我なんですよ!!」
イツキ皇子と彼の従者が言い争うのを、俺は内心呆れながら見ていた。
「……また暗殺者ですか」
「そうなんですよ!公務先からこの宿に戻る途中に……」
イツキ皇子はとにかく様々なところで命を狙われている。行く先々で暗殺者が現れるのは最早日常茶飯事だった。
しかし、彼もいつまでもしてやられているような人ではない。
狙われれば狙われるほど、彼の暗殺者への対処のレベルも上がった。だからここ最近は怪我もしていなかったはずだ。
彼としては嫌な慣れではあると思うが。
「今回はどうしてまた、こんなことに」
「あろうことか私を庇ったんですよ、この方は!」
イツキ皇子の代わりに応えたのは彼の従者だった。
「一介の従者である私を庇うなんて!貴方は皇子だという事をもっと自覚してください!私はケツの青い子供に庇われるほどまだ耄碌していませんから!!」
「そのケツの青い子供に庇われた時点でお前も年食ったということだろ」
「相変わらず口が減らない方ですね貴方は!!守るべき主人に庇われた私の身にもなってください!!」
どうやら彼が怪我を負った原因は従者を庇ったからだったようだ。
イツキ皇子の従者は、彼の母親であるエリザベス=リリーホワイト様に元々仕えていた従者だ。若い頃は冒険者として名を轟かせており、イツキ皇子が幼い頃は皇子を狙う暗殺諸々から体を張って守ってきたようだが、彼もエリザベス様に仕えたのちその子供であるイツキ皇子に仕えてもう長く、流石の彼でも歳には勝てなくなってきたということだろうか。
「大体まだ毒の影響も抜けてなかったでしょう!だから今日の予定は後日にしましょうと言ったんですよ!なのに貴方は……」
「そんなことで予定を伸ばすわけにはいかない。先方の都合もあるんだから」
「毒って……もしかしてまたですか?」
俺が訊くと、彼の従者が頷いた。
「ここへ来る前に一度皇宮に戻った際、第一皇妃のお茶会に呼ばれたんですよ。今回は割とキツめのものを入れられていたようでして」
「……あの方も懲りませんね」
「ええ、本当に」
イツキ皇子の命を執拗に狙う第一皇妃は、彼をお茶会に呼んでは毒を仕込む。しかし皇宮の立場では彼女より下であるイツキ皇子はお茶会への参加を断ることは出来ず、毎回毒が仕込まれていることを承知で参加をせざるを得ないようだった。幼い頃はそれで何回も死にかけたそうだが、図らずもそれが彼の毒への耐性を上げることになった。
今や彼女も毒で今更イツキ皇子を殺せるとは思っていないだろうが、あの女は趣味が悪いので、皇子が毒を口に入れる際の反応で愉しんでいる節があった。――本当に、夫婦揃って性質の悪い人たちである。
とにかく、今回のイツキ皇子の怪我は、毒の影響と暗殺者襲来が重なったために負ってしまい、そして俺が治療の為に呼ばれたということのようだ。
かつてはよくこうして彼の怪我の治療の為に呼ばれたが、最近は怪我をすることもなくなっていたので、今回のことは彼としても不満なのだろう。
先程から不機嫌さを隠そうともしていないことがその証拠だ。
俺は不貞腐れたようにベッドに腰かけているイツキ皇子の下へと近づくと、彼の上衣を捲り上げた。
「おい、やめろ」
「貴方、これでよく大したもんじゃないなんて言えましたね」
捲り上げたことで露わになった彼のお腹には白い包帯が巻かれていたが、その包帯には赤い染みが広がっていた。
「どうですか、ジルベール様」
「傷の深さは確かにまだ浅い方ですが、斬られた刃物に何か仕込まれていたようですね。毒というよりは呪いに近いものが」
「呪いですか?」
「生にしがみつく思いが強ければ強いほど、傷が治りづらくなる呪いです」
「なんてものを……」
俺の言葉に、彼の従者は顔を青ざめさせた。
俺の目には、傷に対してマナが渦巻いているのがはっきりと見えた。このマナこそが仕込まれた呪いだ。それはぐるぐると渦巻いて、傷の治りを阻害していた。
だから今も相当痛みはあるはずだが、彼はそんな素振りは一つも見せていなかった。
――彼は、そうせざるを得ないのだ。
弱っているところを少しでも見せたならば最後、彼はその立場から引き摺り降ろされる。
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