元カレは隣の席のエース

naomikoryo

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第15話

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駅前商店街のイベントは、私たちの予想をはるかに超える大成功のうちに幕を閉じた。

後片付けをしながら私と俊、そして商店街の人々は、達成感と喜びを分かち合う。
彼との間にはもはや気まずさはなく、確かな信頼とそれ以上の温かい感情が流れている。
私は、この幸せがずっと続けばいいと願う。

しかし、イベントの喧騒の中で俊の表情が一瞬険しくなったことに、私は気づいていなかった。

◆◇◆

週明けの月曜日。
市役所は、商店街イベントの成功の話題で持ちきりだった。
企画課は、他部署からも賞賛されお祝いムード。
私も、自分の仕事が認められたことに素直な喜びを感じる。

しかし、その明るい雰囲気は一つの噂によって一変する。

給湯室や、昼休みの食堂。
どこからともなくひそひそと囁かれる声。

「聞いた? 長谷川さんと、広報課の早乙女さん」
「今週末、両家で顔合わせするんですって」
「やっぱり、結婚、決まったのね」

その噂を私は同僚の女性職員たちの会話で偶然耳にしてしまう。

頭をガツンと殴られたような衝撃。
血の気が引き、手足が冷たくなっていく。

嘘だと思いたい。
でも、噂は具体的な料亭の名前まで挙がっており、妙に信憑性があった。

そういえばイベントの日、俊の様子が少しおかしかった。
あの電話が、それだったのだろうか。

居酒屋で聞いた「おかえり」という言葉。
触れた指先の熱。
それは全て、自分の都合のいい勘違いだったのだろうか。

彼には昔から決められた道があったのだ。
自分という過去の亡霊が現れたことで、少しだけ道に迷っただけ。
そして、彼はまた正しい道に戻ろうとしている。

◆◇◆

廊下で、京華とすれ違う。

京華は私に気づくと、にこりと完璧な笑顔を向ける。
その笑顔は、以前のような牽制の色はなく、むしろ全てを手に入れた勝者の余裕に満ち溢れていた。

「黒崎さん、イベント大成功だったんですってね。すごいじゃない」
「……ありがとうございます」
「これからも、湊市のために頑張ってね」

その言葉は、「もう、あなたと俊くんは関わることはないのだから」という、無言の宣告のように私の胸に突き刺さった。

デスクに戻っても仕事が全く手につかない。

隣に座る俊の横顔を見ることができない。

彼は何も言わない。
顔合わせのことも、結婚のことも。
それは、彼なりの最後の優しさなのかもしれない。
私を、これ以上傷つけないための。

だったら私も、彼の幸せを願うべきだ。

彼を困らせてはいけない。
彼の人生の邪魔をしてはいけない。

私は彼の前から、静かに消えるべきなのだ。

イベントの成功を祝う企画課の打ち上げがその週末に予定されていた。

しかし、私はその打ち上げを欠席する旨を鈴木課長に伝える。

そして一人、誰もいないオフィスでパソコンに向かいある文書を作成し始める。

「退職願」


*****
彼の幸せのために。
そう自分に言い聞かせ、美鈴は自らの恋心に静かに蓋をした。
*****
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