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第16話
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俺、企画課の佐藤から見ても、今の状況はハッキリ言って異常だ。
商店街のイベントは、前代未聞の大成功。
企画課は市長からも直々にお褒めの言葉をいただくくらいヒーロー扱いだ。
当然、その夜は盛大に打ち上げをやろうって話になる。
なのに。
主役の一人であるはずの黒崎さんが、「所用で欠席します」の一点張り。
「え、なんで!?」って、フロア中がざわついた。
あんなに頑張ってたのに、一番喜んでいいはずの人が来ないなんて。
追い打ちをかけるように、どこから流れてきたのか不穏な噂が俺の耳にも入ってきた。
「黒崎さん、最近転職サイト見てるらしいよ」
マジかよ。
長谷川さんと早乙女さんの、今週末の「両家顔合わせ」の噂。
そして黒崎さんの「退職」の噂。
二つの噂が絶妙に絡み合って、企画課の空気はもはやハラハラドキドキの昼ドラ状態だ。
一番ヤバいのは長谷川さんの様子だ。
イベントが成功したっていうのにちっとも嬉しそうじゃない。
それどころか、ずっと何か考え込んでて、話しかけんなオーラが半端ない。
黒崎さんが打ち上げを欠席するって連絡が入った時のあの人の今まで見たこともないくらい苦しげな顔。
俺は見ちまったんだ。
あんた、本当は、黒崎さんのことが……。
◆◇◆
週明けの月曜日。
俺、長谷川俊は重い体を引きずって市役所の特別会議室にいた。
今日は、市長や副市長も出席する商店街活性化プロジェクトの最終報告会。
その晴れの舞台だというのに、俺の心は鉛のようにどんよりと沈んでいた。
ポケットの中のスマートフォンが、まるで時限爆弾のように感じられる。
昨日の夜から、母親からの念押しの連絡が、何度も何度も入っていた。
『俊ちゃん、土曜日の顔合わせ、絶対に遅れないでちょうだいね。先方にも、もう確定で伝えてあるんだから』
もう、逃げ道はない。
そう宣告されているようだった。
そんな重苦しい気持ちの中で報告会は始まった。
プレゼンターは、美鈴だった。
彼女がこのプロジェクトの「顔」として、発表の大役を担うことになっていた。
壇上に立った彼女は、俺が今まで見た中で一番美しいと思った。
どこか吹っ切れたような凛とした表情。
その瞳には、強い意志の光が宿っている。
そして、彼女のプレゼンが始まった。
◆◇◆
それは、単なる数字やデータを並べた結果報告ではなかった。
彼女は、まずこの商店街が持つ長い歴史について語り始めた。
一軒一軒の店がどんな想いで何代にもわたって、この場所でのれんを守り続けてきたのか。
彼女自身の子供の頃の思い出を交えながら、その言葉は、聞く者の心を、優しくそして力強く掴んでいく。
「このプロジェクトは終わりではありません。始まりです」
彼女の声が、静まり返った会場に凛と響き渡る。
「この街に住む私たち一人一人が、自分の街を愛し育てていく。その、ほんのきっかけに過ぎないのです。大切なのは、この灯火を絶やさないこと。未来の子供たちに、私たちが愛したこの街を、誇りを持って手渡していくことだと、私は信じています」
会場の誰もが彼女の言葉に、息をのんで聞き入っていた。
市長も、副市長も、そして、後ろの席で涙をこらえている源田さんをはじめとした商店街の店主たちも。
俺はただ、壇上で堂々と語る彼女の姿を見つめていた。
これが、黒崎美鈴。
これが俺が十四年間、心のどこかでずっと焦がれ続けていた女だ。
こんなにも強くて美しくて、そして眩しい。
その時、俺は全てを理解した。
彼女はこのプレゼンを、この街での最後の仕事として全てをやり遂げようとしている。
そして、この街から、俺の前からまたいなくなろうとしているのだ。
顔合わせ?
家柄?
親の期待?
そんなもの知ったことか。
俺は一度、彼女を失っている。
失ってからその存在の大きさに気づく、あのどうしようもない絶望感。
それを骨の髄まで知っている。
もう二度と、後悔だけはしたくない。
◆◇◆
プレゼンが終わり会場が割れんばかりの万雷の拍手に包まれる。
その拍手の中、美鈴は誰にも気づかれないようにそっと壇上から降り、会場の出口へと向かおうとしていた。
その小さな背中を認めた瞬間、俺は椅子を蹴るように立ち上がっていた。
「お、おい、長谷川!? 会議中だぞ!」
隣に座っていた鈴木課長の焦った声が聞こえる。
だがもう、俺の耳には何も入らない。
俺はただ、彼女の元へ。
たった一人、俺の太陽の元へ。
*****
もう二度と後悔だけはしたくない。
俊は、長年縛られてきたしがらみを振り払い、たった一つの真実の愛を掴むために走り出した。
*****
商店街のイベントは、前代未聞の大成功。
企画課は市長からも直々にお褒めの言葉をいただくくらいヒーロー扱いだ。
当然、その夜は盛大に打ち上げをやろうって話になる。
なのに。
主役の一人であるはずの黒崎さんが、「所用で欠席します」の一点張り。
「え、なんで!?」って、フロア中がざわついた。
あんなに頑張ってたのに、一番喜んでいいはずの人が来ないなんて。
追い打ちをかけるように、どこから流れてきたのか不穏な噂が俺の耳にも入ってきた。
「黒崎さん、最近転職サイト見てるらしいよ」
マジかよ。
長谷川さんと早乙女さんの、今週末の「両家顔合わせ」の噂。
そして黒崎さんの「退職」の噂。
二つの噂が絶妙に絡み合って、企画課の空気はもはやハラハラドキドキの昼ドラ状態だ。
一番ヤバいのは長谷川さんの様子だ。
イベントが成功したっていうのにちっとも嬉しそうじゃない。
それどころか、ずっと何か考え込んでて、話しかけんなオーラが半端ない。
黒崎さんが打ち上げを欠席するって連絡が入った時のあの人の今まで見たこともないくらい苦しげな顔。
俺は見ちまったんだ。
あんた、本当は、黒崎さんのことが……。
◆◇◆
週明けの月曜日。
俺、長谷川俊は重い体を引きずって市役所の特別会議室にいた。
今日は、市長や副市長も出席する商店街活性化プロジェクトの最終報告会。
その晴れの舞台だというのに、俺の心は鉛のようにどんよりと沈んでいた。
ポケットの中のスマートフォンが、まるで時限爆弾のように感じられる。
昨日の夜から、母親からの念押しの連絡が、何度も何度も入っていた。
『俊ちゃん、土曜日の顔合わせ、絶対に遅れないでちょうだいね。先方にも、もう確定で伝えてあるんだから』
もう、逃げ道はない。
そう宣告されているようだった。
そんな重苦しい気持ちの中で報告会は始まった。
プレゼンターは、美鈴だった。
彼女がこのプロジェクトの「顔」として、発表の大役を担うことになっていた。
壇上に立った彼女は、俺が今まで見た中で一番美しいと思った。
どこか吹っ切れたような凛とした表情。
その瞳には、強い意志の光が宿っている。
そして、彼女のプレゼンが始まった。
◆◇◆
それは、単なる数字やデータを並べた結果報告ではなかった。
彼女は、まずこの商店街が持つ長い歴史について語り始めた。
一軒一軒の店がどんな想いで何代にもわたって、この場所でのれんを守り続けてきたのか。
彼女自身の子供の頃の思い出を交えながら、その言葉は、聞く者の心を、優しくそして力強く掴んでいく。
「このプロジェクトは終わりではありません。始まりです」
彼女の声が、静まり返った会場に凛と響き渡る。
「この街に住む私たち一人一人が、自分の街を愛し育てていく。その、ほんのきっかけに過ぎないのです。大切なのは、この灯火を絶やさないこと。未来の子供たちに、私たちが愛したこの街を、誇りを持って手渡していくことだと、私は信じています」
会場の誰もが彼女の言葉に、息をのんで聞き入っていた。
市長も、副市長も、そして、後ろの席で涙をこらえている源田さんをはじめとした商店街の店主たちも。
俺はただ、壇上で堂々と語る彼女の姿を見つめていた。
これが、黒崎美鈴。
これが俺が十四年間、心のどこかでずっと焦がれ続けていた女だ。
こんなにも強くて美しくて、そして眩しい。
その時、俺は全てを理解した。
彼女はこのプレゼンを、この街での最後の仕事として全てをやり遂げようとしている。
そして、この街から、俺の前からまたいなくなろうとしているのだ。
顔合わせ?
家柄?
親の期待?
そんなもの知ったことか。
俺は一度、彼女を失っている。
失ってからその存在の大きさに気づく、あのどうしようもない絶望感。
それを骨の髄まで知っている。
もう二度と、後悔だけはしたくない。
◆◇◆
プレゼンが終わり会場が割れんばかりの万雷の拍手に包まれる。
その拍手の中、美鈴は誰にも気づかれないようにそっと壇上から降り、会場の出口へと向かおうとしていた。
その小さな背中を認めた瞬間、俺は椅子を蹴るように立ち上がっていた。
「お、おい、長谷川!? 会議中だぞ!」
隣に座っていた鈴木課長の焦った声が聞こえる。
だがもう、俺の耳には何も入らない。
俺はただ、彼女の元へ。
たった一人、俺の太陽の元へ。
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もう二度と後悔だけはしたくない。
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