元カレは隣の席のエース

naomikoryo

文字の大きさ
16 / 21

第16話

しおりを挟む
俺、企画課の佐藤から見ても、今の状況はハッキリ言って異常だ。

商店街のイベントは、前代未聞の大成功。
企画課は市長からも直々にお褒めの言葉をいただくくらいヒーロー扱いだ。
当然、その夜は盛大に打ち上げをやろうって話になる。

なのに。
主役の一人であるはずの黒崎さんが、「所用で欠席します」の一点張り。
「え、なんで!?」って、フロア中がざわついた。
あんなに頑張ってたのに、一番喜んでいいはずの人が来ないなんて。

追い打ちをかけるように、どこから流れてきたのか不穏な噂が俺の耳にも入ってきた。
「黒崎さん、最近転職サイト見てるらしいよ」

マジかよ。
長谷川さんと早乙女さんの、今週末の「両家顔合わせ」の噂。
そして黒崎さんの「退職」の噂。
二つの噂が絶妙に絡み合って、企画課の空気はもはやハラハラドキドキの昼ドラ状態だ。

一番ヤバいのは長谷川さんの様子だ。
イベントが成功したっていうのにちっとも嬉しそうじゃない。
それどころか、ずっと何か考え込んでて、話しかけんなオーラが半端ない。
黒崎さんが打ち上げを欠席するって連絡が入った時のあの人の今まで見たこともないくらい苦しげな顔。
俺は見ちまったんだ。

あんた、本当は、黒崎さんのことが……。

◆◇◆

週明けの月曜日。
俺、長谷川俊は重い体を引きずって市役所の特別会議室にいた。
今日は、市長や副市長も出席する商店街活性化プロジェクトの最終報告会。
その晴れの舞台だというのに、俺の心は鉛のようにどんよりと沈んでいた。

ポケットの中のスマートフォンが、まるで時限爆弾のように感じられる。
昨日の夜から、母親からの念押しの連絡が、何度も何度も入っていた。
『俊ちゃん、土曜日の顔合わせ、絶対に遅れないでちょうだいね。先方にも、もう確定で伝えてあるんだから』

もう、逃げ道はない。
そう宣告されているようだった。

そんな重苦しい気持ちの中で報告会は始まった。
プレゼンターは、美鈴だった。
彼女がこのプロジェクトの「顔」として、発表の大役を担うことになっていた。

壇上に立った彼女は、俺が今まで見た中で一番美しいと思った。
どこか吹っ切れたような凛とした表情。
その瞳には、強い意志の光が宿っている。

そして、彼女のプレゼンが始まった。

◆◇◆

それは、単なる数字やデータを並べた結果報告ではなかった。
彼女は、まずこの商店街が持つ長い歴史について語り始めた。
一軒一軒の店がどんな想いで何代にもわたって、この場所でのれんを守り続けてきたのか。
彼女自身の子供の頃の思い出を交えながら、その言葉は、聞く者の心を、優しくそして力強く掴んでいく。

「このプロジェクトは終わりではありません。始まりです」

彼女の声が、静まり返った会場に凛と響き渡る。

「この街に住む私たち一人一人が、自分の街を愛し育てていく。その、ほんのきっかけに過ぎないのです。大切なのは、この灯火を絶やさないこと。未来の子供たちに、私たちが愛したこの街を、誇りを持って手渡していくことだと、私は信じています」

会場の誰もが彼女の言葉に、息をのんで聞き入っていた。
市長も、副市長も、そして、後ろの席で涙をこらえている源田さんをはじめとした商店街の店主たちも。

俺はただ、壇上で堂々と語る彼女の姿を見つめていた。
これが、黒崎美鈴。
これが俺が十四年間、心のどこかでずっと焦がれ続けていた女だ。
こんなにも強くて美しくて、そして眩しい。

その時、俺は全てを理解した。

彼女はこのプレゼンを、この街での最後の仕事として全てをやり遂げようとしている。
そして、この街から、俺の前からまたいなくなろうとしているのだ。

顔合わせ? 
家柄? 
親の期待?
そんなもの知ったことか。

俺は一度、彼女を失っている。
失ってからその存在の大きさに気づく、あのどうしようもない絶望感。
それを骨の髄まで知っている。

もう二度と、後悔だけはしたくない。

◆◇◆

プレゼンが終わり会場が割れんばかりの万雷の拍手に包まれる。
その拍手の中、美鈴は誰にも気づかれないようにそっと壇上から降り、会場の出口へと向かおうとしていた。

その小さな背中を認めた瞬間、俺は椅子を蹴るように立ち上がっていた。

「お、おい、長谷川!? 会議中だぞ!」

隣に座っていた鈴木課長の焦った声が聞こえる。
だがもう、俺の耳には何も入らない。

俺はただ、彼女の元へ。
たった一人、俺の太陽の元へ。


*****
もう二度と後悔だけはしたくない。
俊は、長年縛られてきたしがらみを振り払い、たった一つの真実の愛を掴むために走り出した。
*****
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

熱のない部屋で

中道舞夜
ライト文芸
合鍵預かってくれない?から始まる同期との恋。もどかしい純愛ラブストーリー

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

処理中です...