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第10話『恋のはじまりは、いつだって今』
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月曜日の夜が、こんなにも愛おしくなるなんて思わなかった。
いつの間にか週の始まりは、ただの“仕事再起動の日”じゃなくなった。
今は、“あなたと会う日”だ。
セミナーが終わってから、私と瀬戸くんは月曜デートを続けている。
「月曜の夜にだけ会う」なんて少し不思議な習慣は、最初は軽いジョークだった。
でも、お互いの忙しさを尊重しつつ、ちょっとずつ距離を縮めるにはちょうどよかったのだ。
◆◇◆
今日で、3か月目の月曜デート。
秋が深まり、夜の空気は少しだけ肌に冷たい。
「わ、すごいですね……」
瀬戸くんが立ち止まって、街路樹を見上げた。
銀座の並木道には、真っ白なイルミネーションが等間隔に巻き付けられていて、
木々の隙間からこぼれる光が、まるで空から降ってくるみたいだった。
「ね。冬が近づくと、街の色が変わるの、ちょっと好き」
私がそう言うと、彼は笑いながら言った。
「僕は、今が一番好きです」
「今?」
「はい。季節じゃなくて、“今”。
……美園さんと、こうやって歩いてるこの瞬間が、って意味です」
(……ほんと、さらっとこういうこと言うのよね)
私は何も言わずに彼の手をぎゅっと握った。
コート越しでも指先がぬくもりを探し合うように絡む。
人混みの中、自然と歩調が揃う。
これが、私たちのリズム。
そして、イルミネーションに照らされた並木道の終わりあたりで、
私はふと、言葉をこぼした。
「ねえ、瀬戸くん」
「はい?」
「……今週末、うちに泊まりに来ない?」
彼は一瞬目を見開いて、すぐに、照れくさそうに笑った。
「え? あ、はい。喜んで」
「別に、そんなに構えなくていいのよ。普通の週末」
「はい。でも、特別な気はしてます」
その返しに、私も思わず吹き出してしまう。
「じゃあ、何かビデオ借りていきましょうか? 映画、観る用に」
「私、ホラーが好きなの」
「え~~、僕は、ちょっと……」
彼の顔が一瞬引きつる。
「苦手?」
「正直言って、かなり」
「ふふ。じゃあ、観なくていいって言ってもらえるのを期待してるの?」
「……ちょっとだけ」
私は立ち止まり、彼の手を両手で包んだ。
「料理、作って待ってるから。
瀬戸くんの好きなやつ、教えて」
その言葉に、彼は嬉しそうに目を細めて、
まるで子供のような声で言った。
「じゃあ……ホラーは一本だけで、あとはロマンスものにしましょう」
「はいはい」
私は小さく笑って、うなずいた。
彼とこうして歩いていると、不思議な気持ちになる。
どんなに先のことを不安に思っても、
“この今”にだけは、ちゃんと自分の気持ちを置いておける。
過去を恐れず、未来に縛られず、
“今この人と、こうしている”ことを、心から大切に思えるようになった。
恋のはじまりに、期限なんてない。
始まりは、いつだって“今”でいい。
月曜の夜に出会った私たちは、
これからも“今”を更新しながら、歩いていくんだと思う。
いつの間にか週の始まりは、ただの“仕事再起動の日”じゃなくなった。
今は、“あなたと会う日”だ。
セミナーが終わってから、私と瀬戸くんは月曜デートを続けている。
「月曜の夜にだけ会う」なんて少し不思議な習慣は、最初は軽いジョークだった。
でも、お互いの忙しさを尊重しつつ、ちょっとずつ距離を縮めるにはちょうどよかったのだ。
◆◇◆
今日で、3か月目の月曜デート。
秋が深まり、夜の空気は少しだけ肌に冷たい。
「わ、すごいですね……」
瀬戸くんが立ち止まって、街路樹を見上げた。
銀座の並木道には、真っ白なイルミネーションが等間隔に巻き付けられていて、
木々の隙間からこぼれる光が、まるで空から降ってくるみたいだった。
「ね。冬が近づくと、街の色が変わるの、ちょっと好き」
私がそう言うと、彼は笑いながら言った。
「僕は、今が一番好きです」
「今?」
「はい。季節じゃなくて、“今”。
……美園さんと、こうやって歩いてるこの瞬間が、って意味です」
(……ほんと、さらっとこういうこと言うのよね)
私は何も言わずに彼の手をぎゅっと握った。
コート越しでも指先がぬくもりを探し合うように絡む。
人混みの中、自然と歩調が揃う。
これが、私たちのリズム。
そして、イルミネーションに照らされた並木道の終わりあたりで、
私はふと、言葉をこぼした。
「ねえ、瀬戸くん」
「はい?」
「……今週末、うちに泊まりに来ない?」
彼は一瞬目を見開いて、すぐに、照れくさそうに笑った。
「え? あ、はい。喜んで」
「別に、そんなに構えなくていいのよ。普通の週末」
「はい。でも、特別な気はしてます」
その返しに、私も思わず吹き出してしまう。
「じゃあ、何かビデオ借りていきましょうか? 映画、観る用に」
「私、ホラーが好きなの」
「え~~、僕は、ちょっと……」
彼の顔が一瞬引きつる。
「苦手?」
「正直言って、かなり」
「ふふ。じゃあ、観なくていいって言ってもらえるのを期待してるの?」
「……ちょっとだけ」
私は立ち止まり、彼の手を両手で包んだ。
「料理、作って待ってるから。
瀬戸くんの好きなやつ、教えて」
その言葉に、彼は嬉しそうに目を細めて、
まるで子供のような声で言った。
「じゃあ……ホラーは一本だけで、あとはロマンスものにしましょう」
「はいはい」
私は小さく笑って、うなずいた。
彼とこうして歩いていると、不思議な気持ちになる。
どんなに先のことを不安に思っても、
“この今”にだけは、ちゃんと自分の気持ちを置いておける。
過去を恐れず、未来に縛られず、
“今この人と、こうしている”ことを、心から大切に思えるようになった。
恋のはじまりに、期限なんてない。
始まりは、いつだって“今”でいい。
月曜の夜に出会った私たちは、
これからも“今”を更新しながら、歩いていくんだと思う。
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