自称25歳の女子高生

naomikoryo

文字の大きさ
4 / 52

第三話「ギャル、戸惑う」

しおりを挟む
週明けの月曜日。
教室に入った瞬間、宮原沙月は立ち止まった。

(……あ、今日もやばいな、コレ)

小森紬が、すでに席に着いていた。

机に肘をつきながら、片手で文庫本を持ち、もう片方の手にはフタの開いたボトルタイプのリップクリーム。
それを器用に塗りながら、ページをめくっている。

その姿が、完全に“大人の女性”だった。

「……なんでそんなにサマになるん?」

沙月は思わず呟いてしまい、我ながら変な嫉妬を覚えた。

この数日、彼女はまるで“磨かれた宝石”のように変わってきている。
週末に一緒に買い物へ行き、服やアクセサリー、軽いメイク道具を買ったのは自分の提案だった。
そしてそのとき、紬が見せた“25歳の美意識”は、本物だった。

たとえば眉毛の描き方。
たとえばリップの色味に合わせたチークの入れ方。
たとえば、ポージングと目線の角度。

沙月は、ずっと“見た目のギャル”をやってきた。
けれど、本当の意味での「魅せ方」を、初めて紬に教わった。

(なのに……)

悔しいくらい、完璧に“仕上がってる”。

前髪は、サイドに軽く流され、眉が自然に見える程度に整えられている。
ピアスもしていないのに、耳元には艶があり、清潔感すらある。
制服の着崩し方ひとつとっても、“わざとらしくない抜け感”がある。

「やっぱ、元モデルってこうなん?」

「なに? 沙月、なんかぶつぶつ言ってるし」

友人の一人が肩を叩いてきたが、沙月は無意識にため息を吐いた。

「いや、なんでもない……ただ、あの地味子、もう“地味”じゃなくね?」

「ほんとそれ」

「ていうか……可愛い、よね?」

「男子の一部、目線バリバリ向けてるよ。……佐伯とか、めっちゃ気にしてない?」

その言葉に、沙月の視線が自然と教室の前方へ向いた。

佐伯柚季――クラスでもひときわ目立つ美少女で、モデル志望。
これまで“学校一のビジュアル”として誰にも脅かされなかった彼女は、明らかに動揺していた。

唇を噛みしめ、ノートを乱雑にめくっているその横顔には、いつもの余裕がない。

(……ヤバいね、これは)

美に対する競争心は、女子の間では絶対的な“空気”だ。
誰も口にしなくても、明確に存在している。

そして今、それが小森紬という“黒船”によって破られようとしている。

◆◇◆

昼休み。

「というわけで、今日は私が沙月さんにレッスンする番です」

紬はおにぎりを食べながら、サラッと言った。

「……う、うん。いいけど、何すんの?」

「“第一印象で7割が決まる”って言われてるの、ご存じですか?」

「なんか聞いたことある」

「人の第一印象は、見た目と声、話し方。内容は実はほとんど評価されないんです」

「……マジ?」

「はい。だからこそ“所作”が大事。たとえば、座るときの足の置き方」

そう言って、紬は自分の椅子に腰を掛け、膝をそろえて足首を軽く斜めにした。

それだけで、“上品”という言葉が似合ってしまう。

「なにそれ……宝塚の人?」

「いえ、25歳ですから」

「出たよ、またそれ!」

沙月は笑いながらも、紬の真似をして同じように足を組んでみた。

「……ちょっと難しい」

「慣れです。でも、沙月さんは姿勢がいいから、飲み込みが早いですね」

「うっわ、褒められて伸びるタイプです私!」

周囲の女子たちが、自然と紬たちの輪に近寄ってきた。

「小森さんって、なんか今日もすごく大人っぽいですね」

「ていうか、どこで勉強したの? モデルとか……してた?」

「まさか。自称25歳ですから」

「だからそれ何!」

女子たちは笑い声を上げながらも、興味津々で彼女の言葉に耳を傾けていた。

◆◇◆

放課後。
校門前。

「……やっぱさ、小森って別人だよね」

「うん。でも、私好きかも、今の小森さん」

「わかる。あの落ち着き、憧れる」

そんな言葉があちこちで聞こえ始めた頃、佐伯柚季は鏡を見ていた。

スマホのインカメを起動し、自分の顔を確かめる。

(私の方が可愛い。スタイルもいい。自撮りも上手いし、フォロワーだって多い)

けれど、胸の奥にずしんと居座る違和感は消えない。

(だけど……何、この焦り)

地味で話題にもならなかった小森紬が、わずか数日で視線を集め始めている。

それも“作った可愛さ”ではなく、自然体で。

(あの子……なにか、持ってる)

焦り。嫉妬。危機感。

佐伯柚季の中で、確かなライバル意識が芽生え始めていた。

◆◇◆

その夜。

紬は、自室の鏡の前に座っていた。

鏡に映るのは、見慣れたはずの“高校生の自分”。
けれど、今の自分には前世の香坂結としての感覚が混じっている。

「“魅せる”ってことは、自分をどう扱うかを知ってるってこと」

ぽつりと呟く。
それは、モデル時代に現場で何度も聞いた言葉。

姿勢、目線、呼吸、声のトーン。
すべてが「セルフプロデュース」だった。

「……ねえ、結」

彼女は鏡に向かって話しかけた。

「私、どうしたらいいと思う? 本当に、またやっていいのかな。あの世界に」

鏡は何も答えない。
けれど、その瞳の奥で、たしかに“香坂結”が微笑んでいるような気がした。

(この身体で、今度こそ……)

夢を、叶えたい。

その気持ちは、日に日に強くなっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい
ミステリー
※完結いたしました。初めてのコンテストで、完結まで辿り着けたこと。全ては読者の皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございました! 東山 花乃(ひがしやま かの)24歳。 花乃は、病気に侵され、小さい頃から目がほとんど見えていない。身体も一部麻痺している。 そんな彼女には異性の親友がいた。 手越 千春(てごし ちはる)29歳。 5歳の頃、院内で出会った男の子。成長して医師になり、今では花乃の担当医をしてくれている。 千春の祖父は、花乃の入院する大きな病院の医院長。千春は将来この病院を継ぐ跡取りだ。 花乃と出会った頃の千春は、妙に大人びた冷めた子供。人を信用しない性格。 交流を続けるなかで、花乃とは友人関係を築いていくが、まだどこか薄暗い部分を抱えたまま。 「ずっと友達ね」 無邪気に笑う花乃に、千春は言った。 「ずっと友達、なんてありえない」 「...じゃぁ、25年後、答え合わせをしましょう?」 「25年後?」 「そう。25年後、あなたと私がまだ友達か。答え合わせするの」 「いいけど...どうして25年後なの?」 「...それは秘密。25年後のお楽しみだよ」 そんな会話を出会った頃したことを、千春は覚えているだろうか。花乃は、過保護な千春や両親、友人たちに支えられながら、病気と向き合っていく。 しかしーー。 ある日、花乃は千春に関する不穏な噂を耳にする。 それをきっかけに、花乃は千春にまつわるある事実を知ることになっていくーー。 25年後、花乃と千春が出した答えとは? 🌱この物語はフィクションです。登場人物、建物、題材にされているもの、全て作者の考えた架空のものです。実際とは異なります。 🌱医療行為として、チグハグな部分があるかもしれません。ご了承頂けると幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...