自称25歳の女子高生

naomikoryo

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第十一話「25歳的・ビューティ革命」

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朝の教室。
いつものように、登校して席に着いた小森紬の耳に、女子たちの会話が飛び込んできた。

「ね、眉毛ってやっぱり並行よりアーチがいいかな?」

「いや、顔型によるらしいよ。丸顔ならアーチ、面長はストレート気味って聞いた」

「え、それ誰情報?」

「紬ちゃんが言ってた」

「マジ? 紬ちゃん最近ガチで美容師か何かじゃん……!」

ふと視線を感じて顔を上げると、2列ほど前の席から3人ほどの女子が、ちらちらとこちらを見ている。

(……また、広がってる)

紬は、苦笑混じりにそっと目線を戻した。

最初は、沙月と放課後に行っていた“メイク練習会”だった。
それがいつの間にか、彼女の机に「おすすめの下地は?」「リップの色味、これどう?」と聞きに来る女子が増え……
今では“紬ビューティサロン”の異名を持つまでになっていた。

(別に、そんなつもりはなかったのに)

けれど、聞かれればきちんと答える。
教えるときは、相手の顔立ちや肌色を見て、本当に似合うものを勧める。

そこに誇張や媚びはない。
ただ、「その人の一番綺麗な形を引き出す方法」を、落ち着いた口調で語るだけ。

それが、かえって“本物”として信頼を呼んでいた。

「……ねえ、紬」

背後から声をかけられて振り向くと、沙月がスマホ片手にやってきた。

「見てよ、この昨日の写真。
 夜、自撮りしたんだけど、照明失敗してゾンビみたいになったんだけど」

「……確かに、夜光反射しちゃってるね。ブルーライトも入ってる。
 メイクもだけど、照明の当て方で印象だいぶ変わるから。今度、撮影の構図も教える?」

「ほんと!? やば、それも講座入れて!」

「これ、学校……だよね?」

「気にしない! 今やあんた、校内最強ビューティマスター!」

「その称号、いらない……」

と、そこにまた別の女子がやってきた。

「小森さん、あの、すみません……」

「はい?」

「もし、時間あったらなんですけど、アイラインの引き方、教えてもらえませんか?
 わたし、いつもガタガタになっちゃって……」

「いいですよ。授業前に少しだけなら」

「ほ、ほんとに!? よ、よかった……!」

(……まるで、職業体験授業みたい)

内心で苦笑しながら、筆箱から自前のリキッドアイライナーと綿棒、ポケットミラーを取り出す。

「アイラインは、テクニックというより、“目の構造”を知るほうが早いです。
 あなたの場合、目尻にわずかに下がりがあるから、跳ね上げより“やや水平気味”にするとナチュラルになります」

「へぇ……!」

「あと、失敗するのは“手首が浮いてる”から。
 こうやって、頬に指を添えると安定します」

「わっ、引きやすい……!」

一瞬で空気が変わった。

メイクの話題は、学校では時に“派手すぎ”と敬遠されがちだった。
でも今の紬は、“必要以上にキラキラしない美容”を“自然体のまま教える”ことで、クラスの空気を変えていた。

◆◇◆

昼休み。

「ねえ紬。これからメイクじゃなくて、“生き方”も教えてよ」

そう言ったのは、まさかの佐伯柚季だった。

教室の後ろで、給食を片付け終えたあと。
柚季が、珍しくひとりで近づいてきた。

「……急にどうしたの?」

「別に。ちょっと思っただけ。
 アンタ、すごいよ。教え方とか、わかりやすいし、押し付けがましくないし」

「意外な言葉が返ってきた」

「ふん、今さら嫌味言ってもしょうがないでしょ。
 ……ていうか、自分がいちばん怖かったの。
 誰かが自分より綺麗になるのが、じゃなくて、
 自分より“自然体で輝いてる人”が現れることが」

紬は、ゆっくりとその言葉を噛みしめてから言った。

「……私も、ずっと怖かったよ。
 注目されることが、責められることみたいで。
 でも、“見てもらう”ことって、悪いことじゃないんだって、やっと気づいた」

「……だから、教えてよ。
 私にも、“見られることが怖くなくなる方法”」

紬は少しだけ考えてから、頷いた。

「じゃあ、まずはクレンジングの話から始めようか」

「は? クレンジング? それ関係ある?」

「クレンジングは、“自分の顔をきちんと見る”時間。
 自分を責めずに、今日の顔を“そのまま見てあげる”ことが、いちばん最初の美容法なの」

柚季は目を丸くしたまま、しばらく黙っていた。
それから、ぽつりと一言。

「……なんかずるいな、あんた。
 全部ちゃんと、“理由”があるんだね。
 今までの綺麗って、“誰かの真似”だったから、私」

「真似するのも、最初の一歩。
 でも、“そこから何を選ぶか”は、自分で決められる」

「……はぁ、わかった。
 じゃあ私にも、“自称25歳講座”お願い」

「自称25歳講座って、なに……」

沙月が近くで笑いながらツッコむ。

「そろそろ、本格的に看板作ろうか。“小森ビューティラボ”」

「職員室から怒られそう」

「でも、確実に“需要”はあるよ」

そう言って笑った沙月と柚季の顔に、
“女の子たちが、自分を好きになる”兆しが見えた気がした。

◆◇◆

放課後。
帰り道のコンビニ前で、沙月が言った。

「……ねえ、紬」

「なに?」

「今日さ。アンタ見てて思ったんだけど……
 “美しさ”って、マジで“伝染する”んだね」

「伝染?」

「うん。誰かがちゃんと自分を大事にしてるとさ、
 周りも“私もそうしたい”ってなる。
 今日の柚季見てて、そう思った」

「……それ、私が言いたかったやつだな」

「先に言ってやったぜ、ふっふっふ」

「それ、いまどき誰も言わないよ……」

笑いながらも、紬は心の中で小さく頷いていた。

(“伝染する美しさ”。それが、私の今の武器なんだ)

夢は、まだ遠い。
でも、“自分で自分を信じる方法”は、もう見つけた。

そしてそれは、誰かの“勇気”になるかもしれない。
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