唐紅の風 ~平安の女流歌人の一生

naomikoryo

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唐紅詞抄(からくれない ししょう)

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藤原高子 歌抄本

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一、はじまりの詞 ――詠い始めるということ
ことの葉を いろにそめしも さだめならば
あさなゆふなに きよらなるべし
(紅の衣を贈られた夜、院の前で)

まとふ紅 ただに衣と 思はじな
しるしとなして 風をまとはむ
(紅を“旗”として生きる決意)
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二、炎と風の詞 ――火を恐れず詠む
ひとの手に もゆる炎の さだめなら
わが身もことばも あまねく焼かれよ
(御所の火騒ぎ直後に)

たが火種 たが吹く風ぞ さだめなく
わがうたの灯は きえずともあれ
(“狙われた”ことへの応答)
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三、月と影の詞 ――照らされること、照らされぬこと
さやけしや うつろふ影を まとふとも
月はわがこゝ うらより照らす
(月の宴にて、顕仲への返歌)

あらはれぬ 月のひかりを またひとつ
こゝろにともす 夜を知るゆゑ
(自らの影を見つめて)
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四、過ぎし恋の詞 ――忘れえぬ香と記憶
わすれゐて またぞよみがふ 香のなか
おもひでさへも いろをかへけり
(実通の歌に触れて)

よみがへる こゝろの香さへ とゞかねば
わがゆくさきに いろなき風よ
(記憶ではなく未来を詠む)
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五、詞と政 ――言葉が道具になるとき
かへらじと ことの葉にせし たまゆらも
風にまかせて 消ゆるあはれさ
(和議文末に無断引用された一首)

ことの葉を ひとのゆくえに まかすなと
うつろふ風に 筆をおろしぬ
(意味を変えられることへの抗い)
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六、紅と白 ――色と詞の交わり
うつろへば ことばのいろも 紅にそむ
咲きし記憶を きざむは誰か
(紅の象徴として立たされた席にて)

いろといろ まじはるときの ひとしずく
ことばのなかに ふかきやさしさ
(清子との“交わり”の応答)
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七、なみだと記録 ――残る詞、残らぬ者
しろたへの きぬにうつせし ことの葉は
いのちをこえて いまも香を焚く
(清子の死後に)

のこすとは なみだをかたちに せしことか
わが詞しづむ あきのとばりに
(残すことの重さ)
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八、鏡と風 ――己の詞を見つめる
みずかがみ みるたびごとに たずねけり
うつるは誰か わが影ならむ
(自分自身を詠む初めての歌)

まこととは うつろふなかに こそ生きる
とどめぬことば わが身のあかし
(意味の定まらぬ詞を肯定して)
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九、旅と歩みの詞 ――紅の裾が踏む道
ふりそそぐ しものひかりに うたを知る
わすれらるるも みちのいとなみ
(山里にて、誰にも読まれぬ詞を思って)

あゆみなき みちにもおとを しるすごと
わがことの葉は しろきつちふむ
(“誰のためでもない詞”の記録)
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十、別れと昇華 ――詞を置いて、姿を消す
かへるべき ことの葉もまた はじまりと
おもへば雪に たちてうたへり
(都に還った日の一首)

ことの葉の おもかげしるす 風となり
わがみはしづく はるのくれなゐ
(詞の人生を結ぶ歌)

くれなゐの かぜとなりたる ことのはは
こゝろにふれし ときぞまことと
(最終章、全詞の結び)
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編纂後記(詞外注記)
この抄は、藤原高子の詞を記し伝えるものであり、
その生涯のうちに詠まれた三百余首のなかより三十首を選び抜いた。
詞は花のごとく生まれ、風のごとく去る。
されど読む者の胸に灯る限り、それは今も咲き続けるものである。

――唐紅詞抄 編者
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