真夜中の出会い

naomikoryo

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第10話:再び、幸せのために

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季節は、ゆっくりと流れていった。

 春が過ぎ、夏がきて、また秋が訪れた。
 結城怜司は変わらず、ドレスを作り続けていた。

 毎日、たくさんの花嫁たちと向き合い、
 その人だけの特別な一着を形にする。

 忙しく、目まぐるしい日々だった。
 けれど怜司の心は、決して荒れることはなかった。

 ──ミサが教えてくれたから。

 誰かの幸せを願う心を忘れずに。
 ドレスに、その想いを込め続けること。

 それが、怜司にとって、何より大切なことになっていた。

 ***

 ある日、怜司は久しぶりに休みを取った。

 ぽっかり空いた時間に、ふと足が向いたのは、
 アトリエ近くの小さなカフェだった。

 ガラス張りの外観、ウッディな内装。
 陽射しがふわりと差し込む、優しい空間。

 コーヒーの香りに包まれながら、怜司は窓際の席に座った。

 (……昔、ミサとこんなふうに話したかったな)

 ふと、そんなことを思った。

 昼間のカフェで、普通にコーヒーを飲みながら、
 たわいもない話をして、笑い合う。

 そんな、ありふれた時間を。

 でも、もうミサに会うことはない。
 彼女は、夜だけの奇跡だった。

 怜司は、苦笑しながらカップを傾けた。

 ──そのときだった。

 「すみません、ここ、隣いいですか?」

 不意に、声がした。

 顔を上げると、そこに立っていたのは──

 長い黒髪に、淡いブルーのカーディガン。
 白いワンピースをまとった、見覚えのある女性。

 怜司は、息を呑んだ。

 (……嘘だろ)

 目の前の彼女は、微笑んでいた。

 まるで、初めて出会うように。
 でも、どこか懐かしい光を湛えて。

 怜司は、何も言えずに頷いた。

 彼女は嬉しそうに席に座った。

 「ありがとうございます」

 カップを持つ指先も、笑ったときの頬のえくぼも、
 すべてが、ミサだった。

 けれど、彼女は、ミサだと名乗らなかった。

 怜司も、あえて問いただすことはしなかった。

 ──今度は、ゼロから始めればいい。

 名前も、思い出も、すべてがなくても。

 この胸が覚えている。

 この手が、もう二度と離したくないと叫んでいる。

 だから、怜司は自然に微笑んだ。

 「俺、結城怜司って言います。……君は?」

 彼女は、少しだけ驚いたように目を丸くして、そして笑った。

 「私は──未来(みく)って言います」

 未来。
 その名を聞いた瞬間、怜司の胸が熱くなった。

 未来。
 まるで、ミサがくれた"これから"を象徴するような名前だった。

 (きっと、君は──)

 怜司は、心の中で静かに呟いた。

 (また、俺のもとに戻ってきてくれたんだな)

 確証なんてない。
 証拠もない。

 それでも、怜司は信じられた。

 彼女の中に宿る、変わらない温もりを。

 ***


 ふたりは、コーヒーを飲みながら他愛もない話を始めた。

 仕事のこと。
 好きな季節のこと。
 最近見た映画のこと。

 話しているうちに、怜司は何度も心が震えた。

 仕草の一つ一つ。
 笑い声の響き。
 さりげない気遣い。

 すべてが、懐かしく、そして新しかった。

 まるで、過去と未来がひとつになっていくような、不思議な感覚。

 そして、ふたりは自然と笑い合った。

 まるで、ずっと前から、こうしていたかのように。

 ***

 カフェを出る頃、太陽は傾き始めていた。

 春の風が、ふたりの間を優しく吹き抜ける。

 未来──いや、ミサが言った。

 「また、会ってくれますか?」

 怜司は、迷いなく答えた。

 「もちろんだよ」

 この手を、今度こそ絶対に離さない。

 過去の奇跡を胸に抱きながら、
 これからの未来を、君と一緒に歩いていく。

 怜司は、そっと手を差し出した。

 未来は、少しだけ戸惑ったあと、柔らかく手を重ねた。

 あの日、触れられなかった温もりが、
 今、確かにここにあった。

 ふたりは、並んで歩き出した。

 春の街を、
 これから始まる、無限の未来へ向かって。
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