怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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52)赤く染まる信号機(高知県)

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高知県某所に、決して見てはいけない信号機があるという。
 それは、古い国道沿いにぽつんと立つ、小さな交差点の信号機。

 「その信号機の下で事故が起きた夜、赤信号が異常に長くなる」
 「その場で車を停めると、奇妙なものが見える」

 そして、見てしまった者は——

 必ず事故に遭う。

***********************************

 この話を聞いたのは、高知県でタクシー運転手をしている知人のHさんからだった。

 Hさんは、長年この地域でタクシーを運転しているが、ある交差点を避けるようにしているという。

 「夜になると、あの信号機はおかしくなるんだ」

 私は興味を持ち、Hさんに詳しく話を聞いた。

 Hさんがその異変に気づいたのは、数年前のことだった。

 その日は深夜2時過ぎ、乗客を送り届けた帰り道。

 誰もいない国道を走りながら、問題の交差点に差し掛かった。

 「この時間なら、青信号のまま通過できるな……」

 そう思った瞬間——

 信号が、突然「赤」に変わった。

 「え?」

 不審に思いながらも、Hさんはブレーキを踏んだ。

 だが——

 信号が赤のまま、まったく変わらない。

 2分経ち、3分経ち——

 5分経っても、青にならなかった。

 Hさんは、苛立ちと不安を覚えた。

 「おかしいな……こんなに長い赤信号なんてあるか?」

 そう思いながら、なんとなくバックミラーを覗いた。

 そして、息が止まった。

 後部座席に、誰かが座っていた。

 長い髪の女——

 黒い服を着た女が、じっと前を見つめていた。

 「うわっ!」

 Hさんは慌てて振り向いた。

 だが、後部座席には誰もいなかった。

 「……気のせいか?」

 そう思った瞬間——

 車の窓が「コン、コン」と叩かれた。

 Hさんは、凍りついた。

 助手席の窓を見ると——

 外に、さっきの女が立っていた。

 しかし——

 その顔が、真っ黒に染まっていた。

 「うわああああ!!」

 Hさんは、恐怖のあまり目を閉じた。

 だが、次の瞬間——

 「カチャ……」

 助手席のドアが、勝手に開いた。

 「乗っていい?」

 耳元で、囁く声がした。

 Hさんは、必死でドアを閉め、アクセルを踏んだ。

 信号無視をするしかなかった。

 だが、その瞬間——

 赤信号が消え、青になった。

 「……?」

 Hさんは、訳がわからずその場を走り去った。

 しかし、翌日。

 Hさんはニュースを見て、血の気が引いた。

 「昨夜、あの交差点で死亡事故が発生」

 「運転手の証言:赤信号が異常に長かった」

 Hさんは、思い出した。

 あの時、信号が青になったのは女を乗せなかったからではないか?

 もし、あの時ドアを開けていたら——

 自分が、事故に遭っていたのではないか?

 後日、Hさんは地元の年配者にこの話をした。

 すると、老人は静かに言った。

 「あの交差点では、昔から“呼ばれる”んだよ」

 「赤信号が長くなったら、誰かが待ってるってことだ」

 Hさんは、ゾッとした。

 「あの女は、何なんです?」

 老人は、淡々と答えた。

 「昔、あの交差点で轢き逃げされた女がいたんだ」

 「事故の犯人は捕まらず、そのまま時効になった」

 「じゃあ……」

 老人は、重々しく頷いた。

 「だから今でも、彼女は“乗せてくれる車”を待っているのさ」

 それ以来、Hさんは深夜にあの信号機で止まることはなくなった。

 だが、今でも夜遅くになると、ドライバーたちの間で噂されている。

 「あの交差点の信号、異常に長くなる時があるんだよな」
 「車を停めたら、誰もいないのに窓を叩かれた」

 そして、ある時——

 深夜のドライブレコーダーに、決定的な映像が映った。

 あるタクシーが交差点で停車し、赤信号を待っていた。

 すると、誰もいないはずの助手席のドアが、ゆっくりと開いた。

 そして、映像の最後に、こう囁く声が入っていた。

 「乗っていい?」

***********************************

 もし、あなたが高知県の古い国道を走るなら——

 深夜、異常に長い赤信号に気をつけろ。

 そして、もし——

 「乗っていい?」と聞かれたら。

 絶対に答えてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 あなたは、次の“乗せてくれる車”になるのだから。
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