名探偵マコトの事件簿3

naomikoryo

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第28話:推薦の影と、“優等生”の仮面(3/4)

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~誰が未来を盗もうとしたのか~
「……“本当に私がやった”って、証拠……あるんですか?」

そう言った江藤 梨花の声は小さく、震えていた。

だが、どこかで何かを必死にこらえている――そんな気配をまとっていた。

それに対して、生徒会メンバーがどう動くのかを試すような、
そんな“静かな挑戦”のようにも思えた。

一方で、教室の空気を割ったもうひとりの当事者――宮地 璃子。
彼女は、動じない声で続けた。

「推薦って、もらう人間にも“ふさわしさ”が求められるの。
 自分を大きく見せようと“リストに紛れ込む”なんて、
 その時点で“ふさわしくない”と思うけど」

「そう言ってる時点であんたも十分イヤな奴だなぁ……」
と美穂がぽつり。

「で、宮地さん」
マコトが静かに前に出た。

「じゃあ質問。
 江藤さんがそのリストを偽造したという“直接の証拠”、あなたは持ってる?」

宮地の眉がわずかに動いた。

「……ない。でも、この件を“江藤さんがやった”と考えるのがいちばん自然でしょ?」

「“自然”ってのは“正しい”とは限らない」
蓮が補足する。

「それは、“物語として納得しやすいだけ”の構図だ」

■探偵は疑う、目に見える構図を
マコトはホワイトボードに向かい、マーカーでこう書いた。

【仮説A】江藤梨花が犯人。自作自演でリストに自分を入れた。
【仮説B】第三者が犯人。江藤をリストに入れ、彼女を“落とすため”に仕組んだ。

「ここで大事なのは、“どちらが推薦争いにおいて得をするか”」

「え?」と宮地。

「だって、江藤さんは推薦されてない側。
 “自分を推薦内定者に見せかける”ことで、誰が推薦者から落ちる?」

「それってつまり……」
早紀が気づいて言った。

「推薦予定者の中に、“江藤さんの存在を邪魔に思ってる人物”がいるってこと?」

宮地はほんの少し、唇を噛んだ。

その一瞬を、綾小路が見逃さなかった。

「……やっぱり、君だよね」

「なにが?」

「推薦枠って、学内では複数候補がいても、大学に送れるのはひとりだけ。
 君と江藤さん、“似た系統の文系志望者”として、推薦を競っていたんじゃないか?」

■優等生の仮面
しばらくの沈黙ののち――
宮地璃子は笑った。笑顔は綺麗に整えられた、“いつもの仮面”だった。

「ふふっ……やっぱり、ばれるんだね。
 やっぱり“名探偵”って伊達じゃないな」

「……やったのか?」

早紀が低く問う。

「“やった”って言うなら、“仕込んだだけ”よ。
 だって……推薦がかかってたんだもん。
 あたしが落ちたら、江藤さんが繰り上げ候補になるって言われてた。
 だったら、江藤さんが“問題児”として噂になってくれた方が都合いいじゃない?」

「お前なぁ……!」

「私のは、“将来”がかかってたの。
 “高校生活の最後の勝負”に賭けた、ちょっとした演出よ」

マコトは、穏やかに、だが決して曖昧にせず言った。

「君がしたことは、“演出”なんかじゃない。
 他人の未来に泥を塗る、れっきとした“妨害”だよ」

宮地はその言葉に一瞬だけ息を詰めたが、すぐに笑みを崩した。

「それを決めるのは、生徒会? 名探偵? 教師?」

だがそのとき、江藤 梨花が口を開いた。

「……“私の名前が邪魔だった”って言ってくれて、ありがとう」

「え?」

「私、自分が誰の記憶にも残ってないと思ってた。
 だから、こんな風に誰かの将来を脅かす存在になれただけでも、ちょっと――嬉しい」

「……江藤さん……」

「でも、やっぱりそれって、おかしいよね」
江藤は、静かに宮地の目を見て言った。

「推薦で進んだとしても、そんなやり方で得た未来は、ずっと自分に嘘をつき続けることになるよ」

宮地は何も返せず、そのまま教室を出て行った。

■その後の処理
数日後――

宮地璃子には「推薦選考の一時停止処分」と、「校内評価再審査」が入る

江藤梨花には正式に「今後の推薦候補としての打診」が届く

学校側が推薦制度の“透明性向上”に取り組む方針を発表

生徒会が“推薦に関する不正通報システム”の草案作成へ

■事件記録・ファイル抜粋(要約)
項目 内容
事件名 書庫室に眠る“推薦取り消し”通知
発端 書庫室で見つかった文書(推薦取消リスト)
被害者 江藤梨花(名前を勝手に使われた)
加害者 宮地璃子(競争相手を陥れるため偽装)
解決 生徒会による事実確認と証拠整理/学校による処分と再選考

🎬事件タイトル(綾小路命名)
『推薦された嘘 ― 名を奪い、未来を盗む者』
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