58 / 79
第58話:ラブレター、来ちゃった
しおりを挟む
12月に入ると、学校の空気がにわかに騒がしくなる。
期末テストが終わった安堵もつかの間、生徒たちは口々に言い始めるのだ。
「今年のクリスマス、誰と過ごす~?」
「付き合うなら今がラストチャンスだよ!」
「告白するならイブ前が吉って、占い師の動画で言ってた!」
そうして校内は、浮ついた“告白ブーム”に突入していた。
マコトがその雰囲気に苦笑いしていたちょうどその頃、
早紀はひとり、教室で異変に気づいていた。
登校後、自分の席についた早紀が、机の中から何かをそっと取り出す。
――薄いピンク色の封筒。ほんのりと甘い香りがする気がした。
彼女は一瞬だけ目を細めると、中身を確認し、静かに頷いた。
「……ふーん。ラブレター、ね」
そのまま封筒をノートの下に隠そうとしたとき、
真横からずいっと顔を覗き込んできたのが――美穂である。
「ちょちょちょ! 今の、何!? 隠したよね!? 早紀、それ隠したよね!? ピンクだったよね!?!?」
「はぁ……見てたならもう仕方ないけど、誰にも言わないでよ?」
「いやちょっと待って? ラブレター!? これ!? ガチ!? 誰から!? どんな内容!? 読んでいい!?」
「落ち着いて、美穂」
早紀は、ノートの下にしまった封筒をそのままに、小声で言った。
「他クラスの男子。……内容は、わりと誠実だった。けど、返事は断るつもり」
「えー!? もったいないー! 早紀ならどんな相手でも釣り合うのに~」
「そういう問題じゃないの」
「……でも、すごいなぁ。ついに来たか~、“副会長に告白される時代”が!」
その日の放課後。生徒会室では静かな作業の時間が流れていた。
マコトは窓際で書類を整理し、蓮は湯気を立てる紅茶を手に、虎太郎はプリンターと格闘中。
詩織はいつものようにノートPCとにらめっこしていたが、不意に顔を上げると、ぽつりとつぶやいた。
「そういえば、早紀先輩。ラブレター貰ったんですか~?」
その瞬間、空気が止まった。
「……は?」
誰よりも先に、早紀の声が低く響いた。
「……詩織、それ誰に聞いたの?」
「え? 美穂先輩ですけど」
「美穂!!」
「ギャアアアアア!! ごごごごめん! 口止めするの忘れてたああ!!」
生徒会室が一気に騒がしくなる中、マコトは硬直していた。
彼の頭の中で、「ラブレター」「早紀」「告白」「相手は誰だ」「いつのまに」「知らなかった」「なにそれ」……そんな言葉がグルグル回り、
冷静を装おうとした結果、口から出たのは――
「へ、へぇ~……」という中途半端な吐息だった。
周囲が彼を見た。詩織が言う。「会長、いいんですか?」
蓮もちらりと目を向けてくる。「……意外に落ち着いてるな」
虎太郎は両拳を握りしめて言った。「兄貴!今が男を見せるときッスよ!」
美穂まで口を押さえて、マコトの顔をうかがっている。
マコトはつい――つい、言ってしまった。
「も、物好きもいたんだな……」
空気が、凍る。
早紀は数秒沈黙したあと、無言で立ち上がった。
椅子の脚が床を引きずる音だけが、やけに大きく響く。
「……帰る」
「えっ、ちょっ、待って早紀!違うんだって、今のは――!」
バタンッ!
ドアが閉まり、その姿は見えなくなった。
「……やっべぇ」
マコトは頭を抱えた。
誰よりも冷静に見せようとしたのに、誰よりも感情的な言葉を吐いてしまった。
「俺、何言ってんだよ……」
その日の夜、布団の中。
マコトは枕をぎゅっと抱えながら叫ぶ。
「バカバカバカバカバカァァァァァァ!!」
翌日――早紀は学校を休んだ。
恋愛ブームのただ中で、ひとつだけ、
“最も重要な恋の謎”が、拗れてしまった。
期末テストが終わった安堵もつかの間、生徒たちは口々に言い始めるのだ。
「今年のクリスマス、誰と過ごす~?」
「付き合うなら今がラストチャンスだよ!」
「告白するならイブ前が吉って、占い師の動画で言ってた!」
そうして校内は、浮ついた“告白ブーム”に突入していた。
マコトがその雰囲気に苦笑いしていたちょうどその頃、
早紀はひとり、教室で異変に気づいていた。
登校後、自分の席についた早紀が、机の中から何かをそっと取り出す。
――薄いピンク色の封筒。ほんのりと甘い香りがする気がした。
彼女は一瞬だけ目を細めると、中身を確認し、静かに頷いた。
「……ふーん。ラブレター、ね」
そのまま封筒をノートの下に隠そうとしたとき、
真横からずいっと顔を覗き込んできたのが――美穂である。
「ちょちょちょ! 今の、何!? 隠したよね!? 早紀、それ隠したよね!? ピンクだったよね!?!?」
「はぁ……見てたならもう仕方ないけど、誰にも言わないでよ?」
「いやちょっと待って? ラブレター!? これ!? ガチ!? 誰から!? どんな内容!? 読んでいい!?」
「落ち着いて、美穂」
早紀は、ノートの下にしまった封筒をそのままに、小声で言った。
「他クラスの男子。……内容は、わりと誠実だった。けど、返事は断るつもり」
「えー!? もったいないー! 早紀ならどんな相手でも釣り合うのに~」
「そういう問題じゃないの」
「……でも、すごいなぁ。ついに来たか~、“副会長に告白される時代”が!」
その日の放課後。生徒会室では静かな作業の時間が流れていた。
マコトは窓際で書類を整理し、蓮は湯気を立てる紅茶を手に、虎太郎はプリンターと格闘中。
詩織はいつものようにノートPCとにらめっこしていたが、不意に顔を上げると、ぽつりとつぶやいた。
「そういえば、早紀先輩。ラブレター貰ったんですか~?」
その瞬間、空気が止まった。
「……は?」
誰よりも先に、早紀の声が低く響いた。
「……詩織、それ誰に聞いたの?」
「え? 美穂先輩ですけど」
「美穂!!」
「ギャアアアアア!! ごごごごめん! 口止めするの忘れてたああ!!」
生徒会室が一気に騒がしくなる中、マコトは硬直していた。
彼の頭の中で、「ラブレター」「早紀」「告白」「相手は誰だ」「いつのまに」「知らなかった」「なにそれ」……そんな言葉がグルグル回り、
冷静を装おうとした結果、口から出たのは――
「へ、へぇ~……」という中途半端な吐息だった。
周囲が彼を見た。詩織が言う。「会長、いいんですか?」
蓮もちらりと目を向けてくる。「……意外に落ち着いてるな」
虎太郎は両拳を握りしめて言った。「兄貴!今が男を見せるときッスよ!」
美穂まで口を押さえて、マコトの顔をうかがっている。
マコトはつい――つい、言ってしまった。
「も、物好きもいたんだな……」
空気が、凍る。
早紀は数秒沈黙したあと、無言で立ち上がった。
椅子の脚が床を引きずる音だけが、やけに大きく響く。
「……帰る」
「えっ、ちょっ、待って早紀!違うんだって、今のは――!」
バタンッ!
ドアが閉まり、その姿は見えなくなった。
「……やっべぇ」
マコトは頭を抱えた。
誰よりも冷静に見せようとしたのに、誰よりも感情的な言葉を吐いてしまった。
「俺、何言ってんだよ……」
その日の夜、布団の中。
マコトは枕をぎゅっと抱えながら叫ぶ。
「バカバカバカバカバカァァァァァァ!!」
翌日――早紀は学校を休んだ。
恋愛ブームのただ中で、ひとつだけ、
“最も重要な恋の謎”が、拗れてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる