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第71話:犯猫は、あの子?
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翌月曜日、昼休みの生徒会室。
「……で? また行くの?」と、綾小路 蓮が書類に目を通しながら、そっけなく訊いた。
「行くもなにも、あそこにはまだ真相が眠っているんだ!」と、鼻息荒く主張するマコト。
「いや、ただの財布の小銭減ってた話でしょ? 猫が取ったんじゃない?」
「それがそうとも限らない!」と机をドンッと叩く。
「マコト。猫が財布を開けて中身抜くって、漫画じゃないんだから……」と呆れる早紀。
「逆に言えば、漫画レベルの巧妙な“猫トリック”があっても不思議じゃない!そう思わないか!?探偵としては!」
「その探偵、だいたい妄想と願望が混ざってるのが問題なんだけどね」
「よし!じゃあ本日放課後!再調査だ!」
「はいはい……」
・放課後、再び「にゃんこ茶房」へ
今日も店内は穏やかな空気に包まれていた。座敷でごろりと寝転がる長毛種の猫。キャットタワーの上から高みの見物をする茶トラ。端っこでは若いOL風の女性がスマホを片手に猫を撫でている。
そして――
「おや、また来たのかね」
昨日と同じ席で、同じ姿勢で、静かに編み物をしていた老紳士が声をかけてきた。
「ふふふ……我々は見抜いているぞ……」と怪しい笑みを浮かべつつ席に着くマコト。
「怪しさで言えば、あんたが今いちばん怪しいけどね」と早紀がツッコむ。
「しっ!今、視界に入った猫、昨日と同じ子だ!」
マコトが指差したのは、真っ白な毛並みにオッドアイの子猫。愛らしい見た目だが、なぜか特定のバッグばかりに鼻を突っ込んでいる。
「ほらな、アイツだよ、アイツ!『犯猫(はんびょう)』は!」
「いや、勝手に断定しないでよ」
「観察開始!」
・猫の動きと人の配置
マコトは観察ノート(B5サイズ・表紙に『推理ノート Ver.5.2』と書いてある)を開き、メモを取り始める。
・白猫(仮称:シロ)→OLのバッグ、子どものリュック、老紳士の膝上を頻繁に移動
・バッグのファスナーは開いている
・おやつタイムは14時ちょうど。スタッフが配布→一斉に猫が動く
「つまり、だ」マコトがボソッと呟く。
「この“シロ”がファスナーの開いたバッグを狙っているのは、単なる習性……じゃなく“誘導されている”可能性がある!」
「誘導って、誰が?」
「それを今から見極める!」
・あの人、動いてないのに……
そのとき、マコトの目がぴたりと止まった。
「おい早紀、見ろ。あの老紳士」
「……うん、編み物に集中してるみたいだけど?」
「そう。見た目には動いていない。でも、あの人、猫が動くたびに“首だけ”少し動いてるんだ」
「視線……?」
「そう。視線の先は、猫じゃなく“バッグ”だ」
「……つまり、“シロ”を利用してる?」
マコトが急に低く呟いた。
「バッグの中身が減ったタイミング、“シロ”がいた。“シロ”が移動した方向に、さりげなくあの人の膝の布がめくれていた。偶然か……?」
「いや、たぶん――」と早紀が口を開こうとした、そのとき。
・もうひとつのヒント
「おにーちゃんたち、また来たの?」
昨日会った小学生の姉弟の弟くんが、猫じゃらしを片手に近づいてきた。
「うん。実は“にゃんこ探偵”の調査中でね」
「えー!じゃあさ、あの“白い子”って怪しいの?」
「そうそう。シロ、って呼んでるんだけど――」
「名前なら“タマ”だよ!おじいちゃんがよく呼んでるもん」
「……おじいちゃん?」
「うん、あの編み物してる人!このカフェの常連さんでね、タマのこと“相棒”って呼んでるよ」
マコトと早紀の目が合った。
「相棒……?」
・パズルがハマる音
「つまり、“タマ”は老紳士の手懐けた猫。そして、彼がバッグを覗くきっかけを与えていた?」
「しかも、おやつタイムに乗じて猫が動き回るときだけ、猫を名目に“バッグの中を見ても怪しまれない”ってわけか」
「そして今の“相棒”って言葉……まるで“協力者”扱いだな」
マコトがゆっくりと立ち上がる。
「早紀……明日、決着をつけよう」
「うん。“猫の手を借りて”真相を掴もう」
「……で? また行くの?」と、綾小路 蓮が書類に目を通しながら、そっけなく訊いた。
「行くもなにも、あそこにはまだ真相が眠っているんだ!」と、鼻息荒く主張するマコト。
「いや、ただの財布の小銭減ってた話でしょ? 猫が取ったんじゃない?」
「それがそうとも限らない!」と机をドンッと叩く。
「マコト。猫が財布を開けて中身抜くって、漫画じゃないんだから……」と呆れる早紀。
「逆に言えば、漫画レベルの巧妙な“猫トリック”があっても不思議じゃない!そう思わないか!?探偵としては!」
「その探偵、だいたい妄想と願望が混ざってるのが問題なんだけどね」
「よし!じゃあ本日放課後!再調査だ!」
「はいはい……」
・放課後、再び「にゃんこ茶房」へ
今日も店内は穏やかな空気に包まれていた。座敷でごろりと寝転がる長毛種の猫。キャットタワーの上から高みの見物をする茶トラ。端っこでは若いOL風の女性がスマホを片手に猫を撫でている。
そして――
「おや、また来たのかね」
昨日と同じ席で、同じ姿勢で、静かに編み物をしていた老紳士が声をかけてきた。
「ふふふ……我々は見抜いているぞ……」と怪しい笑みを浮かべつつ席に着くマコト。
「怪しさで言えば、あんたが今いちばん怪しいけどね」と早紀がツッコむ。
「しっ!今、視界に入った猫、昨日と同じ子だ!」
マコトが指差したのは、真っ白な毛並みにオッドアイの子猫。愛らしい見た目だが、なぜか特定のバッグばかりに鼻を突っ込んでいる。
「ほらな、アイツだよ、アイツ!『犯猫(はんびょう)』は!」
「いや、勝手に断定しないでよ」
「観察開始!」
・猫の動きと人の配置
マコトは観察ノート(B5サイズ・表紙に『推理ノート Ver.5.2』と書いてある)を開き、メモを取り始める。
・白猫(仮称:シロ)→OLのバッグ、子どものリュック、老紳士の膝上を頻繁に移動
・バッグのファスナーは開いている
・おやつタイムは14時ちょうど。スタッフが配布→一斉に猫が動く
「つまり、だ」マコトがボソッと呟く。
「この“シロ”がファスナーの開いたバッグを狙っているのは、単なる習性……じゃなく“誘導されている”可能性がある!」
「誘導って、誰が?」
「それを今から見極める!」
・あの人、動いてないのに……
そのとき、マコトの目がぴたりと止まった。
「おい早紀、見ろ。あの老紳士」
「……うん、編み物に集中してるみたいだけど?」
「そう。見た目には動いていない。でも、あの人、猫が動くたびに“首だけ”少し動いてるんだ」
「視線……?」
「そう。視線の先は、猫じゃなく“バッグ”だ」
「……つまり、“シロ”を利用してる?」
マコトが急に低く呟いた。
「バッグの中身が減ったタイミング、“シロ”がいた。“シロ”が移動した方向に、さりげなくあの人の膝の布がめくれていた。偶然か……?」
「いや、たぶん――」と早紀が口を開こうとした、そのとき。
・もうひとつのヒント
「おにーちゃんたち、また来たの?」
昨日会った小学生の姉弟の弟くんが、猫じゃらしを片手に近づいてきた。
「うん。実は“にゃんこ探偵”の調査中でね」
「えー!じゃあさ、あの“白い子”って怪しいの?」
「そうそう。シロ、って呼んでるんだけど――」
「名前なら“タマ”だよ!おじいちゃんがよく呼んでるもん」
「……おじいちゃん?」
「うん、あの編み物してる人!このカフェの常連さんでね、タマのこと“相棒”って呼んでるよ」
マコトと早紀の目が合った。
「相棒……?」
・パズルがハマる音
「つまり、“タマ”は老紳士の手懐けた猫。そして、彼がバッグを覗くきっかけを与えていた?」
「しかも、おやつタイムに乗じて猫が動き回るときだけ、猫を名目に“バッグの中を見ても怪しまれない”ってわけか」
「そして今の“相棒”って言葉……まるで“協力者”扱いだな」
マコトがゆっくりと立ち上がる。
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「うん。“猫の手を借りて”真相を掴もう」
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