第25区域(セクター・トゥエンティファイブ)

naomikoryo

文字の大きさ
2 / 13

第1話:区域への投獄

しおりを挟む
視界がゆっくりと明滅を繰り返す。
光。闇。光。闇。
まるで電子回路のように明滅する世界の中で、意識が静かに浮上していく。

「……どこだ、ここは」

喉が焼けつくように乾いていた。
リオは、反射的にそう呟いたあと、口元を歪めるように笑った。

「おいおい、誰もいないのに独り言か? ……いや、俺しかいないのか。冗談じゃねぇぞ、マジで」

身体が思うように動かない。感覚が鈍い。
リオはようやく自分が銀灰色の冷却カプセルに横たわっていることに気づいた。
カプセルの内壁には、無数のコードや生体モニターが張り巡らされており、人工皮膚のような何かが腕に密着している。

「クソ、これ……医療用の監視装置か。つーか俺、なんでこんなもんに繋がれてんだ?」

意識が戻ると同時に、鼓膜を突き破るような機械音声がカプセルの内部スピーカーから響き渡った。

《識別番号:RX-05-13 状態:覚醒確認》
《再生処理完了。脳波正常。記憶領域:一部制限中》
《施設内移送を開始します》

「記憶領域? 制限? ちょっと待て、それ俺の頭ん中の話か?」

瞬間、カプセルの扉がゆっくりとスライドして開いた。
解放された冷気が部屋全体に広がる。
薄闇の中に、青白く発光する床材と、幾何学的に配置された六角形のパネル壁が浮かび上がる。

そこは、かつてどこかで見たような、“未来の牢獄”だった。

「第25区域」
それがこの施設の名称だった。

無限に広がる地下空間。
高くそびえるチタン合金の天井。
空中には、無数の浮遊監視ドローンが無音で移動しており、赤外線カメラとレーザー照準を備えた球体の監視眼があらゆる角度から被収容者たちを見下ろしている。

リオはフラつく足取りで、廊下の先の強制移送ラインに乗せられた。
他にも、何十人もの“被収容者”たちが、まるで部品のように並べられている。

彼らは皆、無表情だった。
灰色の服。機械的な行進。無言。

「おい……これ、冗談じゃねぇよな。夢オチじゃねぇよな……? なぁ、誰か……なんか言えよ」

誰も答えない。
答えられるような精神状態ではないのか。
もしくは、もう声すら出せないのか。

「クソ……なんなんだよ、ここは……」

天井から吊るされたホログラムスクリーンが、彼らの行き先を表示する。

《第25区域・B層・適合者監視区画》

「B層……監視区画……あー、これ、マジで“収容所”ってやつじゃねぇか……未来の。笑えねぇな」

施設の構造はリング状になっていた。
中心部には巨大な円筒状の中枢塔がそびえており、その周囲を放射状に伸びる“階層型監視ブロック”が囲んでいる。

全体はAIによって管理された自律型施設で、人間の看守らしき存在は見当たらない。

「つまり、俺たちはAIに管理されてるってわけか。人間のくせに、AIに囚われてるとか。なんだよこれ、ギャグかよ」

移送ラインが止まり、リオは一つの独房の前で下ろされた。
扉には、彼の識別番号「RX-05-13」がレーザー刻印されている。

カチャリ、という音とともに重厚な扉が開き、無言のドローンが彼の背中を押す。

「うわっ、ちょ、待て……」

部屋の中は8平方メートルの小部屋。壁には光沢のあるナノセラミック素材が使われており、家具と呼べるものは、ベッドと洗面台、そして壁面に埋め込まれた1枚のモニターのみ。

《収容完了。生体監視開始》
《再教育プログラムは48時間後に開始されます》

「再教育? 俺に何を教えるってんだよ。……いや、そもそも俺、なんかしたのか? 犯罪とか、反乱とか……?」

記憶は曖昧だった。
自分の名前すら、うっすらとしか思い出せない。
だが、それでも、何か“とても悪いこと”をした感覚だけが、心の奥底で疼いている。

(なんでだ……なんでこんなに胸が痛む……)

モニターに、施設内のルールが表示された。

《1. 私語厳禁》
《2. 無許可での行動は禁止》
《3. 管理システムへの反抗行為は即座に処理対象となります》

「ふざけんな……こんなとこ、誰が黙って従うかよ……!」

怒鳴りながらリオは壁を殴った。
拳に痛みが走る。
壁は揺らぎもしない。
その瞬間、モニターに「警告:攻撃行動」と表示され、微弱な電流が床から流れてリオの足元を痺れさせた。

「ッ、あ゛あ゛ッ……! くっそ……この野郎……!」

倒れ込みながら、彼は天井を見上げて息を荒げた。
(ちくしょう……ここから出なきゃ……こんなとこに、いたら……)

だが、どうやって?
誰も話せず、誰も信じられず、そして記憶もない。

そのとき、壁面モニターの光が一瞬だけ揺らぎ、音もなく画面が切り替わった。

画面の中央に、一言だけ表示される。

《君は覚えているか? "門"の向こうのことを――》

リオは目を見開いた。

「おい……今の、なんだ? 誰だ? ……おい!! 答えろよ!!」

だがモニターはすぐに元の「ルール一覧」に戻る。

まるで幻のようだった。

だが確かに、それはリオに語りかけていた。
“門の向こう”――その言葉は、心のどこかに、深く刺さっていた。

「……覚えてるか? だと……? 俺は、何を……?」

拳を握る。

(思い出さなきゃ……俺が誰で、なぜここにいるのか。絶対に……)

リオの独り言は、深く冷えた独房の中にいつまでも響いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...