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第1話:区域への投獄
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視界がゆっくりと明滅を繰り返す。
光。闇。光。闇。
まるで電子回路のように明滅する世界の中で、意識が静かに浮上していく。
「……どこだ、ここは」
喉が焼けつくように乾いていた。
リオは、反射的にそう呟いたあと、口元を歪めるように笑った。
「おいおい、誰もいないのに独り言か? ……いや、俺しかいないのか。冗談じゃねぇぞ、マジで」
身体が思うように動かない。感覚が鈍い。
リオはようやく自分が銀灰色の冷却カプセルに横たわっていることに気づいた。
カプセルの内壁には、無数のコードや生体モニターが張り巡らされており、人工皮膚のような何かが腕に密着している。
「クソ、これ……医療用の監視装置か。つーか俺、なんでこんなもんに繋がれてんだ?」
意識が戻ると同時に、鼓膜を突き破るような機械音声がカプセルの内部スピーカーから響き渡った。
《識別番号:RX-05-13 状態:覚醒確認》
《再生処理完了。脳波正常。記憶領域:一部制限中》
《施設内移送を開始します》
「記憶領域? 制限? ちょっと待て、それ俺の頭ん中の話か?」
瞬間、カプセルの扉がゆっくりとスライドして開いた。
解放された冷気が部屋全体に広がる。
薄闇の中に、青白く発光する床材と、幾何学的に配置された六角形のパネル壁が浮かび上がる。
そこは、かつてどこかで見たような、“未来の牢獄”だった。
「第25区域」
それがこの施設の名称だった。
無限に広がる地下空間。
高くそびえるチタン合金の天井。
空中には、無数の浮遊監視ドローンが無音で移動しており、赤外線カメラとレーザー照準を備えた球体の監視眼があらゆる角度から被収容者たちを見下ろしている。
リオはフラつく足取りで、廊下の先の強制移送ラインに乗せられた。
他にも、何十人もの“被収容者”たちが、まるで部品のように並べられている。
彼らは皆、無表情だった。
灰色の服。機械的な行進。無言。
「おい……これ、冗談じゃねぇよな。夢オチじゃねぇよな……? なぁ、誰か……なんか言えよ」
誰も答えない。
答えられるような精神状態ではないのか。
もしくは、もう声すら出せないのか。
「クソ……なんなんだよ、ここは……」
天井から吊るされたホログラムスクリーンが、彼らの行き先を表示する。
《第25区域・B層・適合者監視区画》
「B層……監視区画……あー、これ、マジで“収容所”ってやつじゃねぇか……未来の。笑えねぇな」
施設の構造はリング状になっていた。
中心部には巨大な円筒状の中枢塔がそびえており、その周囲を放射状に伸びる“階層型監視ブロック”が囲んでいる。
全体はAIによって管理された自律型施設で、人間の看守らしき存在は見当たらない。
「つまり、俺たちはAIに管理されてるってわけか。人間のくせに、AIに囚われてるとか。なんだよこれ、ギャグかよ」
移送ラインが止まり、リオは一つの独房の前で下ろされた。
扉には、彼の識別番号「RX-05-13」がレーザー刻印されている。
カチャリ、という音とともに重厚な扉が開き、無言のドローンが彼の背中を押す。
「うわっ、ちょ、待て……」
部屋の中は8平方メートルの小部屋。壁には光沢のあるナノセラミック素材が使われており、家具と呼べるものは、ベッドと洗面台、そして壁面に埋め込まれた1枚のモニターのみ。
《収容完了。生体監視開始》
《再教育プログラムは48時間後に開始されます》
「再教育? 俺に何を教えるってんだよ。……いや、そもそも俺、なんかしたのか? 犯罪とか、反乱とか……?」
記憶は曖昧だった。
自分の名前すら、うっすらとしか思い出せない。
だが、それでも、何か“とても悪いこと”をした感覚だけが、心の奥底で疼いている。
(なんでだ……なんでこんなに胸が痛む……)
モニターに、施設内のルールが表示された。
《1. 私語厳禁》
《2. 無許可での行動は禁止》
《3. 管理システムへの反抗行為は即座に処理対象となります》
「ふざけんな……こんなとこ、誰が黙って従うかよ……!」
怒鳴りながらリオは壁を殴った。
拳に痛みが走る。
壁は揺らぎもしない。
その瞬間、モニターに「警告:攻撃行動」と表示され、微弱な電流が床から流れてリオの足元を痺れさせた。
「ッ、あ゛あ゛ッ……! くっそ……この野郎……!」
倒れ込みながら、彼は天井を見上げて息を荒げた。
(ちくしょう……ここから出なきゃ……こんなとこに、いたら……)
だが、どうやって?
誰も話せず、誰も信じられず、そして記憶もない。
そのとき、壁面モニターの光が一瞬だけ揺らぎ、音もなく画面が切り替わった。
画面の中央に、一言だけ表示される。
《君は覚えているか? "門"の向こうのことを――》
リオは目を見開いた。
「おい……今の、なんだ? 誰だ? ……おい!! 答えろよ!!」
だがモニターはすぐに元の「ルール一覧」に戻る。
まるで幻のようだった。
だが確かに、それはリオに語りかけていた。
“門の向こう”――その言葉は、心のどこかに、深く刺さっていた。
「……覚えてるか? だと……? 俺は、何を……?」
拳を握る。
(思い出さなきゃ……俺が誰で、なぜここにいるのか。絶対に……)
リオの独り言は、深く冷えた独房の中にいつまでも響いていた。
光。闇。光。闇。
まるで電子回路のように明滅する世界の中で、意識が静かに浮上していく。
「……どこだ、ここは」
喉が焼けつくように乾いていた。
リオは、反射的にそう呟いたあと、口元を歪めるように笑った。
「おいおい、誰もいないのに独り言か? ……いや、俺しかいないのか。冗談じゃねぇぞ、マジで」
身体が思うように動かない。感覚が鈍い。
リオはようやく自分が銀灰色の冷却カプセルに横たわっていることに気づいた。
カプセルの内壁には、無数のコードや生体モニターが張り巡らされており、人工皮膚のような何かが腕に密着している。
「クソ、これ……医療用の監視装置か。つーか俺、なんでこんなもんに繋がれてんだ?」
意識が戻ると同時に、鼓膜を突き破るような機械音声がカプセルの内部スピーカーから響き渡った。
《識別番号:RX-05-13 状態:覚醒確認》
《再生処理完了。脳波正常。記憶領域:一部制限中》
《施設内移送を開始します》
「記憶領域? 制限? ちょっと待て、それ俺の頭ん中の話か?」
瞬間、カプセルの扉がゆっくりとスライドして開いた。
解放された冷気が部屋全体に広がる。
薄闇の中に、青白く発光する床材と、幾何学的に配置された六角形のパネル壁が浮かび上がる。
そこは、かつてどこかで見たような、“未来の牢獄”だった。
「第25区域」
それがこの施設の名称だった。
無限に広がる地下空間。
高くそびえるチタン合金の天井。
空中には、無数の浮遊監視ドローンが無音で移動しており、赤外線カメラとレーザー照準を備えた球体の監視眼があらゆる角度から被収容者たちを見下ろしている。
リオはフラつく足取りで、廊下の先の強制移送ラインに乗せられた。
他にも、何十人もの“被収容者”たちが、まるで部品のように並べられている。
彼らは皆、無表情だった。
灰色の服。機械的な行進。無言。
「おい……これ、冗談じゃねぇよな。夢オチじゃねぇよな……? なぁ、誰か……なんか言えよ」
誰も答えない。
答えられるような精神状態ではないのか。
もしくは、もう声すら出せないのか。
「クソ……なんなんだよ、ここは……」
天井から吊るされたホログラムスクリーンが、彼らの行き先を表示する。
《第25区域・B層・適合者監視区画》
「B層……監視区画……あー、これ、マジで“収容所”ってやつじゃねぇか……未来の。笑えねぇな」
施設の構造はリング状になっていた。
中心部には巨大な円筒状の中枢塔がそびえており、その周囲を放射状に伸びる“階層型監視ブロック”が囲んでいる。
全体はAIによって管理された自律型施設で、人間の看守らしき存在は見当たらない。
「つまり、俺たちはAIに管理されてるってわけか。人間のくせに、AIに囚われてるとか。なんだよこれ、ギャグかよ」
移送ラインが止まり、リオは一つの独房の前で下ろされた。
扉には、彼の識別番号「RX-05-13」がレーザー刻印されている。
カチャリ、という音とともに重厚な扉が開き、無言のドローンが彼の背中を押す。
「うわっ、ちょ、待て……」
部屋の中は8平方メートルの小部屋。壁には光沢のあるナノセラミック素材が使われており、家具と呼べるものは、ベッドと洗面台、そして壁面に埋め込まれた1枚のモニターのみ。
《収容完了。生体監視開始》
《再教育プログラムは48時間後に開始されます》
「再教育? 俺に何を教えるってんだよ。……いや、そもそも俺、なんかしたのか? 犯罪とか、反乱とか……?」
記憶は曖昧だった。
自分の名前すら、うっすらとしか思い出せない。
だが、それでも、何か“とても悪いこと”をした感覚だけが、心の奥底で疼いている。
(なんでだ……なんでこんなに胸が痛む……)
モニターに、施設内のルールが表示された。
《1. 私語厳禁》
《2. 無許可での行動は禁止》
《3. 管理システムへの反抗行為は即座に処理対象となります》
「ふざけんな……こんなとこ、誰が黙って従うかよ……!」
怒鳴りながらリオは壁を殴った。
拳に痛みが走る。
壁は揺らぎもしない。
その瞬間、モニターに「警告:攻撃行動」と表示され、微弱な電流が床から流れてリオの足元を痺れさせた。
「ッ、あ゛あ゛ッ……! くっそ……この野郎……!」
倒れ込みながら、彼は天井を見上げて息を荒げた。
(ちくしょう……ここから出なきゃ……こんなとこに、いたら……)
だが、どうやって?
誰も話せず、誰も信じられず、そして記憶もない。
そのとき、壁面モニターの光が一瞬だけ揺らぎ、音もなく画面が切り替わった。
画面の中央に、一言だけ表示される。
《君は覚えているか? "門"の向こうのことを――》
リオは目を見開いた。
「おい……今の、なんだ? 誰だ? ……おい!! 答えろよ!!」
だがモニターはすぐに元の「ルール一覧」に戻る。
まるで幻のようだった。
だが確かに、それはリオに語りかけていた。
“門の向こう”――その言葉は、心のどこかに、深く刺さっていた。
「……覚えてるか? だと……? 俺は、何を……?」
拳を握る。
(思い出さなきゃ……俺が誰で、なぜここにいるのか。絶対に……)
リオの独り言は、深く冷えた独房の中にいつまでも響いていた。
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