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第2話:人体実験の日々
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時間という概念が狂っていた。
少なくともリオにとっては、朝と夜、眠りと覚醒、空腹と満腹といった人間的な感覚が、どこかで完全に失われていた。
金属製の壁には窓一つなく、光の加減は常に人工的。
“昼”を模した白色照明と、“夜”を模した暗青色の薄光が交互に点灯することで、それらしい時間が演出されてはいたが、体内時計はすでに狂い、精神はじわじわと削り取られていた。
「……今日で何日目だ……?」
独房の床に膝をつき、リオは目を細めて天井を見上げる。
「昨日が“昨日”で、明日が“明日”なら……俺は今、“今日”を生きてるんだよな。あぁ……クソ、こんな哲学みたいなこと言ってる自分が一番怖ぇわ」
ドアが開いた。
ギィィン……という機械音と共に、二足歩行の輸送ドローンが現れる。
胴体部分には薬剤投与用のアームが内蔵されており、両腕は拘束具、脚部には低周波ショック装置を搭載。
その冷たく光る瞳がリオを“選んだ”。
《識別番号:RX-05-13 実験ナンバー:A-BETA-14へ移送》
《適合率:92.1%。再測定》
「おいおい、またかよ……俺、昨日も呼ばれたぞ!? てかさ、92%ってなんだよ、なんの数字だよ!」
叫んでも、返事はない。
ドローンのアームが滑るように伸び、リオの首筋に鎮静剤入りの注射針を突き立てる。
「ッ……ぐ、ううああッ……ちょ、ちょっと……ま、待て……ッ!!」
視界が、震えた。
世界が二重に、三重に重なり、ノイズのような音が耳の奥に響く。
そして次の瞬間――
リオは「白い箱」の中にいた。
ここはA-BETA-14 実験ブロック。
正式には「深層適合試験区画」。
だが、被収容者たちはこう呼ぶ。
「人間解体室」
室内は完全な立方体。壁も天井も床もすべて光沢のある白。
だがその美しさとは裏腹に、そこには無機質な死がいくつも転がっていた。
オペレーションベッド。高周波メス。ナノスキャナ。遺伝子編集機。
そして、壁際に山積みになった――黒い袋。
「……おい……ここ、マジで、死体捨て場じゃねぇか……!」
天井には、円状に広がるナノ粒子照射システムがあり、照射によって細胞レベルでの操作が可能らしい。
リオはその中心にあるベッドに縛り付けられる。
彼の身体には複数のケーブルが接続され、心拍、脳波、代謝、免疫反応など、あらゆるデータがリアルタイムで分析されていく。
《被験体:RX-05-13 適合率、再計測中……》
《ナノ適応性:97.8%》
《神経接続率:正常。投与を開始します》
「お、おい、やめろ、まただろ!? 昨日もやっただろ!! 俺の身体、もう穴だらけなんだよ!!」
だが、音声は命令しか発さない。
注射器型のアームが滑らかに伸び、リオの腕に深紅色の液体を注入する。
瞬間、体内を駆け巡る灼熱感。
血液が沸騰するような感覚に、リオは呻いた。
「ぐぅ……あぁあああああああッ!!」
意識の端で、彼は過去のフラッシュバックを見る。
白い部屋。
誰かの叫び。
そして――自分の手が、赤く染まっていた。
(……誰を……殺した……? 俺は……誰を……)
投与は終わった。
リオは冷却処理を受け、再びドローンによって独房へと戻される。
彼の足元には、震えるような吐息と、微かに焼け焦げた匂いだけが残っていた。
その後も、“日常”は続いた。
毎日、違う薬剤。
毎日、違う処置。
毎日、違う拷問。
視覚拡張。
聴覚異常。
神経切断と再生。
記憶の一部削除と書き換え。
時には他の被収容者たちが一緒に運ばれてくるが、帰ってくる者はほとんどいない。
「また……また今日も誰かが死んだ……」
ベッドに寝転がりながら、リオは天井を見つめる。
「おい、俺の名前は……リオだよな。リオ=アーク。……それだけは、忘れてねぇ」
そう言って、拳を胸に当てる。
「俺が……俺であるために……これは、大事だ。忘れたら、それこそ終わりだ……」
ある夜。
リオの独房のモニターが、また“ノイズ”を発した。
《観察されているのは、お前じゃない。お前の中にある“何か”だ》
《目覚めろ。選ばれし者――》
「はぁ? ……おい、誰だ! ふざけんなよ、こんな中二病みてぇな……!!」
だが、その言葉が意味するものは、リオの中で確かに何かを揺さぶった。
彼はすでに知っていたのかもしれない。
自分は、なにか特別な存在なのだと。
そして、それは恐らく――この地獄の中でも最も忌まわしい“選別”の一部だということを。
少なくともリオにとっては、朝と夜、眠りと覚醒、空腹と満腹といった人間的な感覚が、どこかで完全に失われていた。
金属製の壁には窓一つなく、光の加減は常に人工的。
“昼”を模した白色照明と、“夜”を模した暗青色の薄光が交互に点灯することで、それらしい時間が演出されてはいたが、体内時計はすでに狂い、精神はじわじわと削り取られていた。
「……今日で何日目だ……?」
独房の床に膝をつき、リオは目を細めて天井を見上げる。
「昨日が“昨日”で、明日が“明日”なら……俺は今、“今日”を生きてるんだよな。あぁ……クソ、こんな哲学みたいなこと言ってる自分が一番怖ぇわ」
ドアが開いた。
ギィィン……という機械音と共に、二足歩行の輸送ドローンが現れる。
胴体部分には薬剤投与用のアームが内蔵されており、両腕は拘束具、脚部には低周波ショック装置を搭載。
その冷たく光る瞳がリオを“選んだ”。
《識別番号:RX-05-13 実験ナンバー:A-BETA-14へ移送》
《適合率:92.1%。再測定》
「おいおい、またかよ……俺、昨日も呼ばれたぞ!? てかさ、92%ってなんだよ、なんの数字だよ!」
叫んでも、返事はない。
ドローンのアームが滑るように伸び、リオの首筋に鎮静剤入りの注射針を突き立てる。
「ッ……ぐ、ううああッ……ちょ、ちょっと……ま、待て……ッ!!」
視界が、震えた。
世界が二重に、三重に重なり、ノイズのような音が耳の奥に響く。
そして次の瞬間――
リオは「白い箱」の中にいた。
ここはA-BETA-14 実験ブロック。
正式には「深層適合試験区画」。
だが、被収容者たちはこう呼ぶ。
「人間解体室」
室内は完全な立方体。壁も天井も床もすべて光沢のある白。
だがその美しさとは裏腹に、そこには無機質な死がいくつも転がっていた。
オペレーションベッド。高周波メス。ナノスキャナ。遺伝子編集機。
そして、壁際に山積みになった――黒い袋。
「……おい……ここ、マジで、死体捨て場じゃねぇか……!」
天井には、円状に広がるナノ粒子照射システムがあり、照射によって細胞レベルでの操作が可能らしい。
リオはその中心にあるベッドに縛り付けられる。
彼の身体には複数のケーブルが接続され、心拍、脳波、代謝、免疫反応など、あらゆるデータがリアルタイムで分析されていく。
《被験体:RX-05-13 適合率、再計測中……》
《ナノ適応性:97.8%》
《神経接続率:正常。投与を開始します》
「お、おい、やめろ、まただろ!? 昨日もやっただろ!! 俺の身体、もう穴だらけなんだよ!!」
だが、音声は命令しか発さない。
注射器型のアームが滑らかに伸び、リオの腕に深紅色の液体を注入する。
瞬間、体内を駆け巡る灼熱感。
血液が沸騰するような感覚に、リオは呻いた。
「ぐぅ……あぁあああああああッ!!」
意識の端で、彼は過去のフラッシュバックを見る。
白い部屋。
誰かの叫び。
そして――自分の手が、赤く染まっていた。
(……誰を……殺した……? 俺は……誰を……)
投与は終わった。
リオは冷却処理を受け、再びドローンによって独房へと戻される。
彼の足元には、震えるような吐息と、微かに焼け焦げた匂いだけが残っていた。
その後も、“日常”は続いた。
毎日、違う薬剤。
毎日、違う処置。
毎日、違う拷問。
視覚拡張。
聴覚異常。
神経切断と再生。
記憶の一部削除と書き換え。
時には他の被収容者たちが一緒に運ばれてくるが、帰ってくる者はほとんどいない。
「また……また今日も誰かが死んだ……」
ベッドに寝転がりながら、リオは天井を見つめる。
「おい、俺の名前は……リオだよな。リオ=アーク。……それだけは、忘れてねぇ」
そう言って、拳を胸に当てる。
「俺が……俺であるために……これは、大事だ。忘れたら、それこそ終わりだ……」
ある夜。
リオの独房のモニターが、また“ノイズ”を発した。
《観察されているのは、お前じゃない。お前の中にある“何か”だ》
《目覚めろ。選ばれし者――》
「はぁ? ……おい、誰だ! ふざけんなよ、こんな中二病みてぇな……!!」
だが、その言葉が意味するものは、リオの中で確かに何かを揺さぶった。
彼はすでに知っていたのかもしれない。
自分は、なにか特別な存在なのだと。
そして、それは恐らく――この地獄の中でも最も忌まわしい“選別”の一部だということを。
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