第25区域(セクター・トゥエンティファイブ)

naomikoryo

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第4話:過去の記憶

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「……もう一度、聞くぞ。お前は、あのとき“密告”したのか?」

その声は、自分のものだった。
だが、記憶の中の“自分”は、明らかに他人の目をしていた。

表情のない声。
冷たい瞳。
目の前で、誰かが泣いていた。
その誰かの顔は見えない。
歪んでいて、靄がかかったように霞んでいる。

「やってないって、言ったろうが!」

「……そうか。なら、“彼女”が実験体になったのは、偶然だってわけだな?」

そこで記憶は途切れた。
リオは、独房のベッドから飛び起き、肩で息をした。

「ハァ、ハァ……なんだ、今の……俺……あれ、俺……!」

頭を抱える。
熱い。
思考が、熱で焼けるように滲んでいく。

「誰だよ……誰を、裏切った……!? 俺は……」

扉が開いた。

「おはようさん。今日の目覚めはどうだった?」

ユウマだった。
義体の足音は軽く、独房の床を打つ金属音が、どこか人工的なリズムを刻む。

「……ユウマ……また来たのかよ。勝手に出入りできるようなとこじゃねぇだろ、ここ」

「君を監視してるAIの“視覚プロトコル”にはパターンがあるんだ。ある種の波長を反射する服と、振動の少ない移動手段があれば、理論上“存在を認識させない”ことが可能になる」

「はぁ……つまり、お前がイカれてるってことは分かった」

「ありがとう。最高の褒め言葉だね」

ユウマは、携帯端末をリオに見せた。
映し出されたのは、リオの過去映像。

「な……! これは……俺か……?」

そこにいたのは、今のリオとほとんど同じ姿――だが、明らかに“違う”。
目が、空っぽだった。

監視映像。
音声記録。

「被験体S-12の脱走計画、報告します」
「協力者と思われる職員のIDも提出済みです」
「実験優先のため、対象は“適切に処理”を」

「……やめろ……やめろやめろやめろやめろ……!!」

リオは叫び、端末を叩き落とす。

「これは……嘘だ……俺が……セラの……妹を……!?」

「映像に偽装の痕跡はない。改ざんされてない。これは“事実”だよ」

「なんで……なんでだよ……!!」

リオは頭を抱え、床に崩れ落ちる。

(俺が……裏切った……!?)

(あの子を……密告して……!!)

(俺が……“人間”だったころの俺が――!!)

その夜、再びモニターにメッセージが映る。

《裏切りを恐れるな。恐れるなら、それは“誰か”を想っている証》
《“お前”は変われる。“俺”はそう信じている》

「……誰なんだよ、お前は……!」

涙が頬を伝う。
だが、それが何に対する涙なのか、もう分からなかった。

後悔か。
罪か。
怒りか。
赦しを乞う心か。

ただ、確かなことが一つだけあった。

「……あのときの俺は、俺じゃない。今の俺が……それを断ち切る」

そのとき、独房の壁が小さく音を立てて開いた。

「行くわよ」

セラだった。

彼女の目は、深い夜のように冷たい。

「見たんでしょ。あんたが、私の妹を売ったって証拠」

「……ああ」

「どうするつもり?」

リオはゆっくりと立ち上がる。

「償う。俺は、今の俺で、“過去の俺”にケリをつける。……そして、お前に信じてもらう」

セラは無言だった。
ただ、彼女の目に一瞬だけ、わずかな“揺らぎ”が見えた気がした。

「それができるか、見せて」

「見せるさ。絶対にな」
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