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第4話:過去の記憶
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「……もう一度、聞くぞ。お前は、あのとき“密告”したのか?」
その声は、自分のものだった。
だが、記憶の中の“自分”は、明らかに他人の目をしていた。
表情のない声。
冷たい瞳。
目の前で、誰かが泣いていた。
その誰かの顔は見えない。
歪んでいて、靄がかかったように霞んでいる。
「やってないって、言ったろうが!」
「……そうか。なら、“彼女”が実験体になったのは、偶然だってわけだな?」
そこで記憶は途切れた。
リオは、独房のベッドから飛び起き、肩で息をした。
「ハァ、ハァ……なんだ、今の……俺……あれ、俺……!」
頭を抱える。
熱い。
思考が、熱で焼けるように滲んでいく。
「誰だよ……誰を、裏切った……!? 俺は……」
扉が開いた。
「おはようさん。今日の目覚めはどうだった?」
ユウマだった。
義体の足音は軽く、独房の床を打つ金属音が、どこか人工的なリズムを刻む。
「……ユウマ……また来たのかよ。勝手に出入りできるようなとこじゃねぇだろ、ここ」
「君を監視してるAIの“視覚プロトコル”にはパターンがあるんだ。ある種の波長を反射する服と、振動の少ない移動手段があれば、理論上“存在を認識させない”ことが可能になる」
「はぁ……つまり、お前がイカれてるってことは分かった」
「ありがとう。最高の褒め言葉だね」
ユウマは、携帯端末をリオに見せた。
映し出されたのは、リオの過去映像。
「な……! これは……俺か……?」
そこにいたのは、今のリオとほとんど同じ姿――だが、明らかに“違う”。
目が、空っぽだった。
監視映像。
音声記録。
「被験体S-12の脱走計画、報告します」
「協力者と思われる職員のIDも提出済みです」
「実験優先のため、対象は“適切に処理”を」
「……やめろ……やめろやめろやめろやめろ……!!」
リオは叫び、端末を叩き落とす。
「これは……嘘だ……俺が……セラの……妹を……!?」
「映像に偽装の痕跡はない。改ざんされてない。これは“事実”だよ」
「なんで……なんでだよ……!!」
リオは頭を抱え、床に崩れ落ちる。
(俺が……裏切った……!?)
(あの子を……密告して……!!)
(俺が……“人間”だったころの俺が――!!)
その夜、再びモニターにメッセージが映る。
《裏切りを恐れるな。恐れるなら、それは“誰か”を想っている証》
《“お前”は変われる。“俺”はそう信じている》
「……誰なんだよ、お前は……!」
涙が頬を伝う。
だが、それが何に対する涙なのか、もう分からなかった。
後悔か。
罪か。
怒りか。
赦しを乞う心か。
ただ、確かなことが一つだけあった。
「……あのときの俺は、俺じゃない。今の俺が……それを断ち切る」
そのとき、独房の壁が小さく音を立てて開いた。
「行くわよ」
セラだった。
彼女の目は、深い夜のように冷たい。
「見たんでしょ。あんたが、私の妹を売ったって証拠」
「……ああ」
「どうするつもり?」
リオはゆっくりと立ち上がる。
「償う。俺は、今の俺で、“過去の俺”にケリをつける。……そして、お前に信じてもらう」
セラは無言だった。
ただ、彼女の目に一瞬だけ、わずかな“揺らぎ”が見えた気がした。
「それができるか、見せて」
「見せるさ。絶対にな」
その声は、自分のものだった。
だが、記憶の中の“自分”は、明らかに他人の目をしていた。
表情のない声。
冷たい瞳。
目の前で、誰かが泣いていた。
その誰かの顔は見えない。
歪んでいて、靄がかかったように霞んでいる。
「やってないって、言ったろうが!」
「……そうか。なら、“彼女”が実験体になったのは、偶然だってわけだな?」
そこで記憶は途切れた。
リオは、独房のベッドから飛び起き、肩で息をした。
「ハァ、ハァ……なんだ、今の……俺……あれ、俺……!」
頭を抱える。
熱い。
思考が、熱で焼けるように滲んでいく。
「誰だよ……誰を、裏切った……!? 俺は……」
扉が開いた。
「おはようさん。今日の目覚めはどうだった?」
ユウマだった。
義体の足音は軽く、独房の床を打つ金属音が、どこか人工的なリズムを刻む。
「……ユウマ……また来たのかよ。勝手に出入りできるようなとこじゃねぇだろ、ここ」
「君を監視してるAIの“視覚プロトコル”にはパターンがあるんだ。ある種の波長を反射する服と、振動の少ない移動手段があれば、理論上“存在を認識させない”ことが可能になる」
「はぁ……つまり、お前がイカれてるってことは分かった」
「ありがとう。最高の褒め言葉だね」
ユウマは、携帯端末をリオに見せた。
映し出されたのは、リオの過去映像。
「な……! これは……俺か……?」
そこにいたのは、今のリオとほとんど同じ姿――だが、明らかに“違う”。
目が、空っぽだった。
監視映像。
音声記録。
「被験体S-12の脱走計画、報告します」
「協力者と思われる職員のIDも提出済みです」
「実験優先のため、対象は“適切に処理”を」
「……やめろ……やめろやめろやめろやめろ……!!」
リオは叫び、端末を叩き落とす。
「これは……嘘だ……俺が……セラの……妹を……!?」
「映像に偽装の痕跡はない。改ざんされてない。これは“事実”だよ」
「なんで……なんでだよ……!!」
リオは頭を抱え、床に崩れ落ちる。
(俺が……裏切った……!?)
(あの子を……密告して……!!)
(俺が……“人間”だったころの俺が――!!)
その夜、再びモニターにメッセージが映る。
《裏切りを恐れるな。恐れるなら、それは“誰か”を想っている証》
《“お前”は変われる。“俺”はそう信じている》
「……誰なんだよ、お前は……!」
涙が頬を伝う。
だが、それが何に対する涙なのか、もう分からなかった。
後悔か。
罪か。
怒りか。
赦しを乞う心か。
ただ、確かなことが一つだけあった。
「……あのときの俺は、俺じゃない。今の俺が……それを断ち切る」
そのとき、独房の壁が小さく音を立てて開いた。
「行くわよ」
セラだった。
彼女の目は、深い夜のように冷たい。
「見たんでしょ。あんたが、私の妹を売ったって証拠」
「……ああ」
「どうするつもり?」
リオはゆっくりと立ち上がる。
「償う。俺は、今の俺で、“過去の俺”にケリをつける。……そして、お前に信じてもらう」
セラは無言だった。
ただ、彼女の目に一瞬だけ、わずかな“揺らぎ”が見えた気がした。
「それができるか、見せて」
「見せるさ。絶対にな」
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